P.076 コンティニュー(1)
幾折にも重なった怒声と金属音の中、キリとリーシェが己の武器を手にし振り回す。
背中合わせに回転しながら戦い続ける2人。斬れども斬れども次々に襲いかかる信者達の数に、全く先が見えない。
「うじゃうじゃと…ウザってぇ!!」
「思った以上にやりにくいわね…分かれて行く?」
「分かれちまったら背中がガラ空きになっちまうだろうがよッ!!」
「それもそうね」
キリが石刀を振り切ると、武器ごと斬り裂く一撃に舞う血飛沫。周囲の信者が倒れ視界がひらけた瞬間――…
「イイ腕だ…」
「ッ!?」
突如姿を現すネイサー。その手がキリの頭を掴み、顔面めがけ膝蹴りを打ち放つ。
「ッ…ぐあぁ…!!」
鈍い音と共にキリの体が僅かに浮いた。首からハネ上げられるも、握る石刀を力強く振り切った。しかしその石刀をヒラリと側宙にて躱すネイサー。
「チっ…!」
「力だけじゃ無理よ、おじ様」
着地を待つネイサーに向かい、キリを跳び越したリーシェの捻りを加えた突きが、ネイサーの心臓めがけ一直線。
ッ…キィィィィンッ!!
しかし響いたのは金属音。しかも突かれた槍は完全に停止状態。リーシェの槍の先端を追って見ると、ネイサーの剣の切っ先が止めていた。
「最悪な敵ね…」
その槍の先、表情を引きつらせたリーシェ。槍と剣、ミリ単位の細い僅かな一点を一線に止め、微動だにしない武器同士。
「スピードはあるが、パワーが足りない…しかし女性という点を合わせれば……まぁ総合55点くらいですかね。非常に惜しい女性ですね」
鼻で笑うように首を左右に振るネイサー。
「へっ…隙だらけになって言うセリフじゃねぇぜ!!」
動かぬネイサーに、キリが石刀を構え走り出そうとした瞬間!
ズバァッ!!
「っ!?…ぐあぁぁッ!!」
キリの背中を信者の剣が斬りつける。
「隙だらけはどっちかな?…敵は1人ではないんですよ?」
すぐさま応戦に振り返るリーシェだが…
「…君も、ね?」
ゴッ!!
剣を突きつけたままに放つ回し蹴りが、リーシェの側頭部に刺さり、その身を床に崩す。
「おい嬢ちゃん!…ぐあっ!!」
崩れたリーシェに向いた瞬間、左腕を鋭い槍が背後から貫通し、瞬間的に噴き出す鮮血。
「ッ…ぐぅ…!」
キリは握る石刀を振り切り、槍を突く信者を斬りつけた――…がっ、
ズバァッ!! ズブッ!!
次々に襲う剣と槍が、キリを襲う。
「1度崩れたモノは容易く墜ちる…」
「…っく…!」
グラつく視界にも立ち上がるリーシェに歩み寄るネイサー。
「君も容易いモノの1つです……ゲームオーバー…」
◆◆◆――…
人の群れがひしめく轟音と、鉄同士が打ち合う金属音が響き渡る大聖堂ザーバス正門ホール内。その一角では幾度と撃ち合うブレゴとヤナの姿がある。
ガギィィィィィンッ!!!!
激突の衝撃に競り合う中、ヤナの斧がブレゴの剣を僅かに圧す。
「ぐっ…!」
一瞬ヤナが顔を後ろに反り、雄叫びと共に顔面をブレゴに振り降ろす。
ドゴォォォッ!!!!
重く鈍い音が辺りに響く。
「ぐはぁっ!!」
頭を跳ね、のけ反るブレゴの体にヤナの斧の柄が刺さる。
「ぐッ!!」
同時に襲う炎の熱と衝撃に、腹の底から込み上げる血液がブレゴの口から一気に噴き出す。
その血がヤナの頬に数滴かかると、
「血ィ…血だァ…」
っと呟き、狂気に満ちた笑顔をみせた。
「もっと…もっとくれよ……血をくれよォォォォッ!!」
叫ぶヤナはブレゴに向かい、再び大口を開けて牙を突き立る。狙うはブレゴの首。しかしブレゴはヤナの大口めがけ、自ら左腕を突き出した。皮膚に鋭利な牙の刺さる生々しい音が鳴り、両者の足が止まる。
一拍おき、競り合いでヒビ割れる地面にポタ…ポタ…っとブレゴの腕から赤い鮮血が滴り落ちはじめた。すると……
「…どうした…終わりか?」
ヤナに噛みつかれた腕から覗くブレゴの鋭い眼光。返答を待たずして、剣を握る右手に力が込められ、
「ぬえぇいッ!!」
ズバァァァッ!!!!
一気に振り抜き、ヤナ体を肩口から斬りつけた。
「ぐはッ!!」
牙が左腕から離れ、グラつく巨体。牙の抜けた腕からは血が大量に流れ出すが、ブレゴは気にする素振りも見せずに剣を構え身を引かせる。
「勝機を見出だす為なら腕の1本や2本…でぇぇぇぇいッ!!!!」
渾身の力を込めて剣を突きつけた。
「うぐ…ぁあッ!!」
剣はヤナの腹部に突き刺さり、一気に背中までを貫いた。
「グォォォォッ!!」
貫く剣を両手に掴み、ヤナの巨体を圧し進む。岩を砕くような轟音を響かせながら、床を割り圧し進むブレゴは、ヤナの巨体を壁に剣ごと打ちつける。再びの轟音と共に壁に減り込むヤナの巨体。
「ぐあァァァッ!!」
「冥界という名の安息の地へ…我が連れて行ってやろうぞ!!」
「がっ……がぁ…ぐがァァァァッ!!」
傷口より噴き出す血飛沫の中、ヤナが叫び吠える。減り込ませた壁を崩し振り上げる頭。ヤナは再び吠えると共に、ブレゴの頭部目がけて己の頭を振り下ろす。
ガゴォォォォンッ!!
巨大な岩同士を激突させたような衝撃と音が響き、強烈な打撃にグラつくブレゴの体。ブツかった互いの頭部からは血が噴き出している。
「ぐっ!……お、おのれ…」
「がぁ…がぅぁ…」
白目を剥き、荒い息遣いでブレゴを見下ろすヤナ。両腕を振り上げ、減り込んだ壁を砕き抜け出る。
「ふ…不死身か主は…」
「ぐ……ぐあぁぁぁぁぁッ!!」
再び吠えるヤナの拳が横なぶりに振り抜かれ、鈍い音を発てブレゴの顔面を打ち抜いた。弾かれたブレゴの体は側転のように回転し、床に叩きつけられる。
「うぐぁぁぁぁぁ!!」
ヤナは奇声を上げ、理性を失った野獣のようブレゴに向かい足を振り上げた。そして倒れるブレゴを何度も踏みつける。
ドゴォンッ!! ドゴォンッ!!
その度にブレゴの体が床の中に埋まっていく。
「ふっ…ふぐあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
一段と大きく吠えるヤナは地を蹴り跳び上がる。身を屈め、自らの体重と重力を合わせ埋まるブレゴめがけて急降下。
「…所詮は獣の浅知恵よ…」
埋まる床からブレゴの呟く声。突然床からブレゴの太い尻尾が飛び出した。その尻尾はまるでゴムの如くに伸び、ヤナの腹部を貫通する剣に巻きつく。
「ッ!?…」
そして尻尾に力を込め、一気に引き抜いた。
「ぐぅッ…!!ぐあぁぁっ!!」
ヤナの腹、背中からは大量の血液が噴水のように噴き出した。
そして抜き出した剣を尻尾に巻きつけたまま、ヤナの落下してくる位置。まさに顔面の位置に突き出すと……
「主の体重も、使えるモノだのう」
ッ……ズンッ…!!
ヤナの体は地に着く事は無く……強靭な竜の尾と刃によって、力無くぶら下がるだけであった。
「死の中でよく考えよ。最強とは何ぞ…理性無くして戦いに勝機は無い。力だけでは、竜には勝てぬぞ。野獣よ…」




