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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.08 奪還
75/122

P.075 開戦と合流(2)

 身を起こしたネイサーを横目にシャクルが呟く。



「なぁミネア。アラーケの姿が見えないが…」

「………」



この問いには、ミネアは無言で表情を曇らせるだけ。



「……そっか…」

「全てはわたしの責任です…でも悲しむのも悔やむのも、終わってからと決めましたから…」

「あぁ…まずはこの山越えからか?」

「…あともう1つ、伝える事があります」

「何だよ?」

「実はですが――…」

「おっと。お話し中失礼…こちらとしても、そろそろ始めたいんですが」



2人の会話を切るように、剣の切っ先を向けてくるネイサー。それに合わせて信者達も一斉に武器を向ける。


シャクルはネイサーに視線を向けたままに続けた。



「それは今必要な内容か?」

「はい…今後の為に…」

「今後?」



キリもシャクルの元へと、周囲を警戒しつつゆっくりと寄り、リーシェを含めた4人それぞれが背中合わせになり武器を構えた。するとネイサーが突然切っ先を下げる。



「ここは1つ、選択ゲームといこうか?」



その急な提案に、思わずキョトンとなる4人。



「簡単な選択ですよ。解答者は…シャクル君。君だ」

「俺?この期に及んで選択ゲームだとは、お遊びにも程があるんじゃねぇか?」

「かもしれないですね。でも、どうせこの戦いもリュカ様の仕組んだ遊び…つまりゲームでしょう?」

「戦いが遊びだと…?」



苛立った表情をネイサーに向けるシャクルを、再びキョトンとした表情で見るリーシェ。



「あら、違うの?」

「リーシェ…お前は黙っててくれ」



リーシェは「違ったかしら?」っと言うように首を傾げて、今度はミネアを見る。対するミネアは苦笑いを返すだけ。



「サカンドラで君達を潰す事など容易い事だった。だがそれをせずに、リュカ様の"母"を拐う形にした。君達がこちらに来るようにね」

「………」

「そしておそらく、誰かリュカ様に会ったんじゃないか?この中の誰かが…違いますか?」



そう言ってネイサーがシャクル達を見渡すと、シャクルも視線をミネアとキリに向けた。



「ミネア…お前、会ったのか?」

「はい…」

「オレもだ」

「やっぱりだね。だったらもう決まりじゃないか。リュカ様はこの状況…ゲームを作り上げ遊んでいらっしゃるんだ」

「遊びだと…その為にアヤメとナックを…」



眉を寄せ、1歩前に出るシャクル。すると囲む信者の構える武器がピクっと動く。その動きに、キリがシャクルの肩を掴み止め、ネイサーが手を上げ信者を制止させる。



「遊びの為などではないさ。彼女は元々必要な存在なのだ…それにナック君かい?まだ仲間でいる気のようだね…実におめでたい人達だ…」

「何…?」

「シャクル、その事なんですが――…」

「おっと、この先は黙って頂きたい」



ミネアの言葉を切り、再び切っ先を向けるネイサー。



「今からルールの説明に入りたいが、よろしいかな?」

「ルールだと…ったく、さっさと言えよ。くだらなかったらテメェらまとめてブっ潰すからよ…」

「怖い事を言いますね」

「おちょくるつもりなら、オレからでもおっぱじめてやるんだがな?こっちも時間がねぇんだ」

「ララグド王…少しはわたしにも遊ばせて頂きたいんですが?」

「だから早く言えって言ってんだろッ!」

「ハハハ、怒鳴らないでくれないかい。これでも小心者でね…じゃあ説明するよ。そうだなぁ……シャクル君?君は先に進んでもらって構わないよ。この階段の上にね」

「な、何だと…?」



するとネイサーは、シャクル達に向けていた切っ先を自分の後ろに伸びる大階段に向けた。その動きに反応して、階段前にいた信者達が横に避けて階段までの道を作る。



「そしてだ。この中の3人の内、誰かを連れて行ってもいい事にしよう。1人でもいいし。2人でもいい。全員は無しだ」

「は…?」

「もちろんシャクル君1人でも可能だ。1人を連れて行く場合はシャクル君単独と同様、シャクル君とその1人には追っ手はつけない。1人、もしくは2人で先に楽々と進める。ただし残った2人や3人は、ここにいる信者全員とわたしを1度に相手してもらおう」

「………」

「2人を連れて行くと言うなら、残った1人とこの私が1対1で戦うよ。邪魔はさせない。だって信者全員、シャクル君達を追わせるからね」

「全員…」



辺りを見渡す。しばらく止まっていたからか、見ただけでは数え切れない人数が集まっている。この人数に追われて、戦いになれば相当な時間がかかる。だからと言って同時にネイサーをも相手になど…



「さぁ、どうするんだい?」



ネイサーは口元に楽しそうな笑みを浮かべ剣をシャクルに向けた。シャクルは何度も辺りを見渡し表情を引きつらせる。



「悩むかい?なら相談するといい。ただし1人とね?そうだなぁ……男同士って事で、ララグド王。ご助言を…」

「オレかよ…」

「一緒に悩んで上げて下さい。他は他言禁止ですが」



キリは横目にシャクルを見る。



「迷うな。答えは決まってんだろ」

「はぁ?…決まってなんかいねぇよ。どれ選んでも胸クソ悪ぃ選択ばっかだぜ」

「バカ。テメェの胸クソなんかどうでもいい。今必要なモノは何だ?それを選べ」

「必要な…モノだと?」

「時間だろ」

「…?」



するとキリは顎で隣を指す。視線を向けると、そこにはリーシェ。何かを待っているかのような笑みを浮かべてシャクルを見ている。



「遊びてぇって顔してんぜ、あのお嬢ちゃん。それにオレも何かよォ…この金髪にぃさん、いけ好かねぇんだわ…」



シャクルは振り向き、ミネアと視線を合わせた。するとミネアは静かに頷く。おそらく『自分も残る』と言う頷きだろう。しかしキリは肘でシャクルを小突き、再び自分に向かせる。



「この先に何があるかわからん。1人で行く事もハズレだからな」

「…そうかい、わかったよ…」



ゆっくりと剣を鞘に納めたシャクルは、「ふぅ…」っとひと息吐き、再びミネアを見た。



「行くぞ、ミネア」

「え?…あ、はい!」



ミネアの肩を叩き、駆け出すシャクル。慌てて追うミネアと共に、動かぬネイサーの横を抜け大階段を駆け上がっていくシャクル。


走り抜けたシャクル達を見ず、口元に笑みを作るネイサーは小さく息を吐く。



「…決まりだね」



そう言って手にした剣を構えた瞬間、信者達が一斉に地を蹴った。



「生きて帰ったら肉でもオゴれよシャクル!!」

「さぁて遊びましょうかしら」

「さぁ、ゲームスタートだ」

「オオォォォォッ!!」




◆◆◆――…




 信者達の唸り声の響く中、つづら折りの大階段を駆け上がるシャクルとミネア。



「シャクル…今話しても大丈夫ですか?」

「さっき言いかけた事か?」

「はい…」

「手短に頼むぜ」

「でしたら言います。ナックは敵です」

「ッ!?」



思わぬ言葉にシャクルの足が止まる。続くミネアも足を止めた。



「は、はぁ?…お前何言ってんだよ…ナックが敵な訳ないだろ…」

「いいえ。敵です」

「…冗談に付き合ってる暇はねぇんだ。行くぞ」



再び足を進めようとするシャクルの腕を掴み止めるミネア。



「待って下さい!確かに今は時間が無いかもしれません。でもこれだけは知っておかないとこの先――…」

「この先何だよ!?『ナックを斬れねぇ』とでも言いたいのか?ふざけんな」



シャクルはミネアの腕を振り払う。



「ふざけてなどいません!ナックは最初から冥王の精霊だったんですよ」

「最初から?そんな訳はねぇ…アイツはエルセナの…アヤメの精霊だろ」

「でしたら聞きますが、そのエルセナ様はもう亡くなられてますよね?アヤメは『継承の儀』と言われる儀式は行ったのですか?」

「っ…そ、それは…」

「これは冥王とナックの口から直接聞いた事。その『継承の儀』と言うモノがどんなモノなのかは全くわかりません。ですがそれを行わないと精霊は受け継ぐ事は出来ないのでは…?」



少し俯いたシャクルの顔を見つめるミネア。



「冥王はアヤメの覚醒を待っていた。そして自らに継いだ精霊をその身とさせ、新たに継承したナックを精霊とした…」

「だったら何か?…ナックを俺達の仲間として送り込み、俺達を混乱させて楽しんでるって訳か?…初めっから…全部が冥王のお遊びってかぁ…ふっざけんなぁ!!」



怒鳴りながら壁を殴るシャクル。



「落ち着いて下さいシャクル」

「これが落ち着いてられるかよ!!信じれる訳ないだろうが!!ナックは仲間だ!俺達は…俺達は家族同然なんだよ…!!」

「わたしだって信じられません!でも、実際にわたしはこの目で…この耳で聞いた事実!疑いたくてもこれが真実なんです!!」

「………」

「確かにわたしがシャクルの立場にいるのなら、絶対にその事実を信じようとはしないでしょう。わたしなんかより、ナックとの信頼性の方が遥かに強いんですから…」



一時の沈黙が訪れ、互いに静かに見つめ合う…



「…別に…お前を疑ってる訳でもない。だからと言っても信じたくもない…」

「いいんです。ただ今は止まってる場合ではないはずです…」

「あぁ…悪いな、熱くなっちまった」

「いえ。行きましょう」



お互い頷き合い、再び階段を駆け上がる。


空気が変わった。迷いが漂う。シャクルの横顔が曇って見えた……



「…シャクル…」

「ん?」

「この先何があろうとも…わたしは貴方の味方です」

「………」

「仲間ですから…もちろんアヤメも…」

「あぁ…サンキュ…」



無理した微かな笑みを見せるシャクルが、不思議と悲しく見えた。

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