P.074 開戦と合流(1)
シャクルとリーシェ、この2人が3階渡り廊下の弓矢部隊を次々と撃破していく中、もちろん1階ホールではリグル達の戦闘も続いている。弓矢部隊の数が少し減っただけでも幾分戦いやすくなり、徐々にリグル達はザーバスの信者達を圧しはじめていた。
そこへ後衛より加わる帝国兵の弓矢隊により、形勢は逆転し始めた頃…突如ホール奥の扉が「ドカァン!!」っと音を発て吹き飛んだ。
驚き振り返ると、吹き飛んだ扉の向こうには、巨体を持つ三大神官の1人、あのヤナが立っていた。既に両手に握るのは燃えさかる巨大な斧。
「クク…クククク…グアァァッ、ハッハッハァァァッ!!」
辺りを見回し雄叫びのような笑い声を上げるヤナは、斧を振り回しながらホールに駆け出す。
「ヤナ様!?…ぐあッ!!」
ヤナは斧を振り回し、入り乱れる敵味方を関係無しに吹き飛ばしながらリグルとブレゴに向かい突進してくる。そのヤナの姿は3階渡り廊下のシャクルにも見えた。
「出やがったぜ、あの戦闘狂…」
「ガッハッハァッ!!いいぞ!ここの臭い…血の臭いだ!もっとだ…もっと血を見せろォォッ!!」
味方の信者を幾人も炎の斧で撒き散らし、狂気に満ちた表情で迫るヤナに、リグルが剣を構え踏み込もうとした瞬間…
「奴は我が相手をしよう」
ブレゴがリグルの横を駆け抜ける。
「主は進路の確保を頼むぞ」
「は、はい!」
リグル頷き、ブレゴとは反対に向かい走り出す。
「さぁ来い、ヒューマ族」
「お前が相手かァ!!始めるぞ!!殺し合いだァァァッ!!」
ガギィィィンッ!!!!
走る速度そのままに、轟音を響かせブツかる剣と斧。一拍置き、辺りに衝撃波にも似た風の圧が広がりを見せる。
「グッ…!!」
「ぬぅん!!」
軋む剣と斧に、ブレゴとヤナの足元が一気にヒビ割れた。相殺する形で競り合う様に、ブレゴの表情が強張る。
「この怪力…主よ、本当にヒューマ族か…?」
「…知りたいか?」
そう尋ね、掴む斧でブレゴの剣を弾いて少しの間合いを空ける。そしてニヤりとさせた口元に、被るフードをゆっくりと外した。
「っ!…これは…」
フードを外したヤナの頭……短い栗毛の坊主頭から覗く、動物のように毛の生えた三角の耳。笑う口元……よく見れば異様に伸びた犬歯が見える。
「ヒューマとモルハスのハーフという訳か…」
「そうだ……グルァァァッ!!」
奇声にも似た雄叫びを上げるヤナは、間合いに踏み込むと共に大口を開けてブレゴの肩口に噛みついた。
「ぅぐッ…!!」
噛みつくヤナの口元から「ブシュッ!!」っと音を発て、勢いよく噴き出すブレゴの血の噴水。
一瞬ブレゴの表情が歪みを見せるも、すぐさま冷静な声が呟かれる。
「…ふっ、この程度か…」
「む…?」
「"噛みつく"と言うのは…こういう事だァァッ!!」
ヤナを振り払う動きを見せず、首を伸ばして肩口に噛みつき返す。
「ッ!!…ぐあぁぁッ!!」
竜の強靭な顎と鋭い牙がヤナの肩に突き刺さり、ブレゴの肩からヤナの牙が離れた。
「天地最強の竜の力、甘くみるな…!!」
牙を突き立てたままに呟き、ヤナの肩の骨を軋ませる。
「ぐぅ…ぐあぁ…!!」
呻く声と共にヤナの余す拳が振り上がり、ブレゴの腹部めがけ打ち出された。鈍い音を響かせ、背中に届く勢いで減り込む拳に、ブレゴの牙がその身ごとヤナから離なされる。
突き刺さる拳にブレゴの体は『く』の字に折れ曲がり、吹き飛ばされそうになった…瞬間。ヤナはブレゴの頭を掴み、地面に向かい叩きつけた。
ドゴォッ!!
石畳の床を突き破り、完全に頭部を埋め込まれるブレゴ。しかし間髪入れずに己の太い尾をヤナの顔面に向かい鞭の如く打ち放つ。
バシィィィンッ!!!!
「ぐはっ……!!」
その衝撃に思わず手を離し、グラっと体勢をよろめかせるヤナ。対するブレゴもすぐさま顔を床から抜き立ち上がる。
ブレゴの上げた表情は僅かに額を切った程度。首を横にコキっと鳴らしヤナを見据える。
「まるで本当の獣だな」
「ハハ…お前、強いな…楽しいな…お前との戦いは楽しくなりそうだ」
「楽しむつもりは無いが、獣と竜……本当に強いのはどちらか教えてやろう」
そう言って剣を構えるブレゴ。向き合うヤナも炎の斧を担ぎ上げ、不気味に笑う。
◆◆◆――…
ザーバス内部に突き進むミネアとキリ。今何階で今どの位置にいるかもわからないが、2人の姿は横幅7~8メートルはあろう大きな階段のある、ホールとも思える広い通路までやって来ていた。だが状況は変わった訳でもなく、休む間もなく襲い来る信者を次々に薙ぎ倒している状況。
「くそォ!!どんどん来やがるな…!」
「そうですね…!でも今はとにかく倒していくだけです!」
信者の攻撃を躱し、カウンターのトンファーで顔面を殴り飛ばすミネア。壁に向かい吹き飛ばされた信者は、木製の扉を破り室内に飛ぶ。
すると……
「全く…実に騒がしいね…」
突然男の声が室内からもれる。しかし外は激しい戦闘中。もちろん誰1人その声には気づかない。
すると突然、戦闘を繰り広げるミネアとキリの間に斬撃がはしり、石造りの床に刀傷を残す。
「ッ!?」
「何だ!?」
驚きで一瞬動きが止まるミネアとキリ。つられるように信者達の動きも止まる。
斬撃の方角へと振り向くと、そこは信者が吹き飛んだ扉の位置。その部屋の入口に立つのは、コートのフードから金髪を覗かせ、白銀の仮面をつけた男…三大神官首領のネイサーだった。その手には水の凝固した細い刀身を持つ剣がある。
「全く…騒がし過ぎて、傍観しているだけではいかなくなってしまいましたよ…」
そう言って通路へとゆっくりと足を進めてきた。そして信者達を見回す。
「君達も君達だ。この人数で、たった2人の足止めも出来ないとは…」
「…もっ、申し訳ございません!!」
「いや別にいいよ。怒って言った訳じゃないよ。だって…」
見回す視線をミネア達に向ける。
「ここで潰せば結果は勝利になるからね」
そう呟くネイサーが突如、瞬間移動でもしたかの如くミネアの目の前に現れる。
「ッ!!」
「強い女性も嫌いではありませんが…」
そうネイサーの口元が不気味な笑みに変わった途端、ミネアの腹部を襲う衝撃。
「ぐっ…!」
それはネイサーの拳がミネアのみぞおちに刺さる衝撃。揺らぐ視界に込み上げてくる嘔吐感…その場に膝から崩れるミネア。
「ミネア!!」
「うっ…ぐぅっ…」
「どちらかと言えば、か弱き女性の方が好みですね…そうは思いませんか?ララグド王」
口元は笑みのままだが、仮面越しに刺さる冷たい視線。
「テ…テメぇ…」
手にした石刀握り構えるキリだが、周囲の信者達もキリに向かって武器を向ける。
「王がこちらに向かえば、彼らが襲いくる…まぁ実質、わたしもですけどね」
「………」
「戦力をよく考えてみて下さい…ララグド王」
不敵に笑い、剣の切っ先をキリに向けるネイサー。
「あら、ならアナタもよく考えてみたら?」
「ッ!?」
ッ…ガギィィィィィンッ!!
突然耳に響く女性の声と金属音。キリの前で巻き起きるは、空中を舞う1人のカナフィーリン族の女性が、手にした黒の槍をネイサーに向かい降り下ろしている姿。その一撃を全く動じる素振りもなく、軽々と受け止めているネイサー。
「…何者だい?」
「強いからって女性に手を上げる男は好みじゃないわ、ワタシ」
滞空のままに答えるのは、青いポニーテールの髪をなびかせたリーシェ。言い終え笑いかけると間髪入れず、空中からの渾身の蹴りでネイサーの顔面を捉え飛ばす。
蹴り上げた体をくるりと一回転させ着地を決めるリーシェ。その姿を呆然と見るキリ。
「お、お前は…誰だ?」
「そっち(ザーバス側)と戦ってるなら…貴方の"お仲間"よ」
そう言って微笑むリーシェ。その後方では信者達が騒ぎ立て、武器や血飛沫が舞い、悲鳴が聞こえてくる。
「あら?…やっと来たのかしら」
ため息混じりにリーシェが振り返る先に、次々に信者を斬り倒してくるシャクルの姿が見えた。
「『やっと来た』じゃねぇ!1人で壁蹴ってポンポンポンポン行くんじゃねぇよ!」
「身軽そうなのにね?」
「俺は超人じゃねぇっつうの…」
表情を引きつらせながらも周囲の信者を斬り倒し、シャクルがキリ達の元に合流。
「シャクル!無事だったか」
「あぁ、そっちこそ…ありがとよ、協力してくれて」
「へっ、礼は終わってからだ」
「あぁ。たっぷりしてやるよ」
そう言って床に蹲るミネアを見た。ミネアも蹲る中、顔をシャクルに向け笑って見せる。シャクルも頷きを返し、ミネアに手を差し伸べる。
「……ふぅ…とんだ援軍が来ちゃいましたねぇ」




