P.073 水陸空の奇襲(3)
武器同士がブツかり合う、金属音が鳴り響く大聖堂ザーバス正門前。足場は海より伸びた砂浜から、風によって流れてきた砂が散らばる石畳に変わっていた。
先陣を切るのはリグル。正門内部から応戦してくる、緋色の衣類を身にまとう武装した信者達を次々に斬り倒してくい。すると後方から帝国兵の声が響く。
「リグル副隊長!!援軍です!援軍が来ました!!」
「本当か!?」
撃ち合う信者を斬り捨て振り返ると、二隻の帝国軍艦がリグルの視界に映る。
「き、来てくれたのか…」
救援書状の応えに、素直に喜びの表情を浮かべるリグルだが……
「隙だらけだぁ!!」
その背後から鋭く槍を構えて突進してくる1人の武装信者。
迫る気配にすぐさま振り向くリグル。しかし目の前には首から上の無い緋色のコートの身1つ。そして噴き上がる真っ赤な鮮血だけ。
「ここはは戦場だ。余所見は禁物だ、帝国兵よ」
崩れる信者の後ろから姿を見せたのはブレゴ。
「ありがとうございます…助かりました」
「礼の暇があるのなら剣を突き立てよ」
再び呟くブレゴは正門に向かい走り出す。
「はい!」
頷きブレゴに続くリグル。
◆◆◆――…
約10分後には繰り返す戦闘を切り抜けたリグルとブレゴ、その他兵士とモルハス族、ラーグ族達が正門を突破し、大聖堂内に突入を果たす。
正門からの内装は、外観のような煉瓦ではなく、綺麗に調え舗装された石造りであった。広々としたホールになっており、4階分は吹き抜けとなっていた。2階と3階には壁に沿った渡り廊下があり、そこからも信者達が弓矢などで狙ってくる。正門内部にも信者が集結し始めている。
放たれる矢を、火のマザーで作り出した盾で弾きながら周囲の信者を斬り捨てていくリグル。
「くそっ!数が多過ぎる!」
密集する信者達に、突入は果たしたが全く前に前進しない。これにはブレゴも苛立った表情を浮かべている。
「小賢しい…ヒューマ族共が…!!」
ビキッ……ビキビキッ!!
撃ち合う武器の音に紛れ、何かがヒビ割れる音がホールに響く。「何事か!?」っとリグルが天井を見上げた瞬間、バリバリバリバリッ!!っと音を発て、天井の一部が大きく割れて崩れ落ちてきた。
落ちてくる瓦礫に紛れ、ひと塊の黒い影も落下してくる。その影を見たリグルとブレゴの表情が一瞬ハっ、っとする。
「あれは…!」
「…!?」
落下してきた影はシャクルとリーシェを抱えたウラルだった。
ホールの人々も驚き、一瞬動きが止まる。しかし落ちてくる瓦礫に、落下地点から人が慌てるように散っていく。そして逃げる信者達を巻き込み降り注ぐ瓦礫と共に、ウラルの体がホールの床に落下する。
「うわッ!」
「きゃッ!」
ウラルの体から伝わる落下の衝撃で、シャクルとリーシェがバウンドするように床に投げ出された。転がる体をすぐさま起こし、リーシェはウラルに駆け寄った。
「ウラル!!」
突然の事にホール内の戦闘が一旦静まる。腰を擦りながら起き上がるシャクルに駆け寄るリグルは天井を見上げた。
「シャクル…君は何て所から落ちてくるんだ…」
「何て所って、上からだ…くそっ!」
「上からだと?」
向き合うシャクルとリグルの背後から、剣を構えた信者が斬りかかる…が、2人同時に向き合うままに斬撃を受け止め、弾くと同時に斬りすてる。
「上とは最上階か?」
「あぁ、たぶんな。あの時計台んトコだ」
「アルシェン姫はいたのか?」
「いた。だから早く行かなきゃなんねぇ、最上階に」
するとブレゴがシャクルに歩み寄る。
「シャクルよ。上に源珠はあったか?」
「源珠自体を俺は知らねぇが、何か関係はありそうな予感はある」
「そうか」
そう呟き、ウラルに寄り添ったリーシェを見るブレゴ。リーシェは傷だらけのウラルに寄り添い、ウラルの名を呼びかける。するとウラルは弱々しい声と共に、ゆっくりとその身を起こした。
「ウラル大丈夫?…ごめんなさいね、ワタシ達を庇って…」
「ク…クワァ~…」
「飛べる?」
答えるように小さく頷くウラル。
「その傷じゃ誰も乗せれないわね…あなたはここからから逃げなさい」
「…クワァ…」
リーシェはウラルの体を優しく撫でる。ウラルも再び小さく頷き、ゆっくりと飛び上がる。
「この…化け物がァァッ!!」
3階渡り廊下の武装信者がウラルに向かい弓矢を構える。
「ッ…お父さん!!」
それに気づいたリーシェがブレゴに駆け寄り、ふわりと宙に舞う。するとブレゴはリーシェを見上げ、小さなため息を1つ。そして手にした剣を下段の引き構えにし、大きく後ろに振りかぶる。リーシェがブレゴの横に舞い降りる瞬間……
「ウオォォォォォッ!!!!」
渾身の力を込めたブレゴの剣がリーシェめがけ振り抜かれる。
ガギィィィィッ!!!!
ブレゴの剣の峰にリーシェの装甲ブーツが合わさる。
「オオオォォォォォッ!!!!」
再び叫ぶブレゴは、槍を手にしたリーシェを剣で弾丸の如く打ち放つ。
まさに一瞬!リーシェは3階渡り廊下の壁に槍を突き立て、速度を体で殺すかのように槍を手にしたまま倒立状態。そしてその真下には首の無い信者の体が1つ。弾丸の如く突っ込んだリーシェの槍が、信者の頭を粉砕していたのだ。飛び散る肉塊と鮮血の中、倒立体勢のままのリーシェが周囲を睨む。
「ウラルには手は出させないわよ…ッ!!」
一瞬の出来事に驚き固まる両脇の信者を、壁に突き立てた槍を鉄棒に見立て、大車輪のような回転蹴りで吹き飛ばす。そして再び倒立状態になった瞬間、その身を捻り推進力を絶つ。
「さぁ死にたい子から来なさい。遊んであげるわよ」
空中で停止するまま壁から槍を引き抜き、柄を掴むと片手でグルグルと振り回す。
「うっ、うわぁッ!!」
「ぐあぁぁッ!!」
鋭いランスの刃が巨大な円を描いて、周囲の信者に襲いかかる。その威力は壁をも削り穴を空ける程。
見上げたシャクルは呆然とリーシェを見つめる。
「強ぇな、おい…」
「我が娘だ。当然の事よ」
「おっかねぇ親子だな、お――…いッ!?どわぁっ!!」
突然シャクルの体がジャケットごと引き上げられていく。驚き見上げる視線には、ウラルがシャクルのジャケットを口で喰わえ飛び上がる姿が映る。
「ウラル、お前…」
「ク~ワァァァ~!」
力を振り絞るように必死に羽ばたくウラル。そしてリーシェのいる3階渡り廊下に向かい、シャクルを放り投げた。しかし着地点には信者が数人。
「おわぁ!…ってこのォッ!!」
ドゴッ!!
落下のままの蹴りで信者の顔面を壁にめり込ませ、後ろ宙返りで着地。
「きっ、貴様ァッ!!」
降り立つシャクルに向かい剣を構える信者。シャクルもすぐさま剣を握り締め、一手早く斬り伏せた。しかし周囲を囲む信者は一斉にシャクルに向かい斬りかかってくる。
だがそこにはリーシェもいる。薙ぎ払われる槍が一気に数人の信者を吹き飛ばし、シャクルの剣と鞘とで信者達を次々に撃ち払っていく。その勢いに信者達が一瞬尻込みを見せると、シャクルとリーシェが互いに視線を会わせる。
「もう1度上に行くんでしょ?あの子助ける為に」
「あぁ。サンキュな、ウラル…行くぜ、リーシェ」
「えぇ」
飛び去るウラルの背中を見送り、小さくひと息吐く。そして互いに頷き合い、手にした剣と槍を構え走り出すシャクルとリーシェ。
「ハァァァッ!!」
「どけェェッ!!」




