P.072 水陸空の奇襲(2)
爆撃を受け大騒ぎとなる大聖堂ザーバス内では、花火で破壊した壁から内部に侵入したミネアとキリが、驚き戸惑う信者達に奇襲攻撃を仕掛けていた。
「なっ、何だ貴様ら!?」
「アヤメとナックはどこにいるの!?早く出しなさい!!」
「おい!!早く首領達に報告し――…ぐわぁッ!!」
「ウルァッ!!…ったく、もっと骨のある奴はいねぇのかよ!!」
煉瓦造りの廊下で乱闘を繰り広げるミネアとキリ。そこに慌て武装して駆けつける信者達。ミネアとキリの奇襲が騒動の中心になりはじめた頃には……
「おい!正面から帝国の船が来たらしいぞ!!」
「何だと!?は、早く迎撃装置を準備しろ!!」
その声はミネアとキリの耳にも入る。
「大成功じゃねぇか!?えぇ?」
「侵入はですけどね…!!…本番はこれからです!」
「そうだったな…オラァッ!!」
◆◆◆――…
「大砲の準備だ!!先手を撃てェ!!」
海路側では帝国の兵による掛け声と共に、軍艦に設置された幾つかの大砲が大聖堂ザーバスに向く。
「発射ァッ!!」
ドッゴォォォン!!!!
ドッゴォォォン!!!!
連続に放たれる砲撃は、まるで威嚇のように大聖堂ザーバスの入口付近を吹き飛ばす。砂浜上陸まで僅かとなり、リグルは手にした剣を天にかざす。
「帝国の名の元に、正義の刃を悪に突き立てよ!!行くぞォォ!!」
「オォッ!!」
大聖堂ザーバス側も慌てて大砲などの迎撃装置を準備するも、既に軍艦は砂浜へと上らんとしている。そして砲弾をセットした頃には、帝国軍艦、そしてラーグ族達の船が砂浜に上陸を果たしていた。
「突撃だァァァッ!!」
「行けぇ!!誇り高き竜騎士達よ!!」
「オオォォォォッ!!!!」
◆◆◆――…
空撃を試みるのシャクル達。大聖堂ザーバスの最上階といえる時計台に向かい急降下するウラル。そして大きく息を吸い、一瞬口を膨らませた。
「ッ!グルァッ!!」
大きな声と共にウラルの口から身の丈程の火の玉が吐き出された。
「火吐けんのかよ!?」
「竜ですもの」
「あ…常識な訳…」
火の玉は弾丸の如く時計台の当たり、爆発と共に時計部分の下に大穴を空ける。
「じゃあ行くわよ、ウラル」
リーシェの言葉に鳴き声で反応するウラルは、更にその身を加速させる。呼吸すら満足にいかぬ速度の中でも、リーシェは勇ましくその手に槍を構えた……が、シャクルは振り落とされまいと、ウラルの背中に手足でしがみつくので精一杯。
「いっ…息が…っ!」
「さぁ、突っ込むわよ」
「クワァッ!!」
時計台の大穴めがけウラルが突っ込む。未だに立ち込める爆煙に飛び込むように建物内に猛スピードで突入した。爆煙を抜けると、そこは巨大なホールのような広間。辺りに誰もいない。リーシェはウラルに停止を求め、その場に旋回するように停止するウラル。
ようやく緩まった速度に、シャクルは「ぶはっ」っと息を吐き、荒い息遣いを繰り返す。
「大丈夫?煙でも吸ったのかしら?」
「違ぇよ……しっかし、ここには誰もいねぇか」
「ハズレだったかしら、最上階は」
「さぁな……ん?」
息切れする中、シャクルが回した視線に広間の奥にある巨大な両開きの扉が映る。見た瞬間、扉に感じる違和感。空から見た大きさと、この広間大きさは同じくらい……外への扉にしては場違いに感じる。あの先に部屋があるとも思えない。
「いや。案外ハズレでもないかもしれないな」
「あの扉の事?」
「あぁ。何か怪しいよな?」
「そうね。ウラル」
「クワァ!」
頷き発進するウラルの体。扉に向かい速度を上げ、巨大な扉に向かい再びの火炎攻撃。放たれた火の玉はまっすぐ扉に向かい、スッ…!っと音もなくすり抜けていく。
「クァ!?」
「は!?」
「あら?」
驚きの事態に急停止を試みるウラルだが、加速した体は急には止まれず、扉に激突…はせずに、体ごと扉をすり抜ける。
すり抜けたシャクル達は、外に出た訳ではなかった。周囲は淡い赤のもやに似た、ぼやけた光りを持つものが漂う空間にいた。その前方には、円盤状に広がる黄金の広場がその空間に浮いている。
「何かしら?ここは」
「さぁな…っ!?」
辺りを見回す2人。するとシャクルの視界に、広場の中央に立つ黒い人影が映る。
黒い人影……それはあの冥王リュカの後ろ姿。両手を広げ、何やら呪文のような言葉を呟いている。そしてその正面には、薄い黒の球体の中でぐったりとうなだれたアヤメの姿があり、その周囲を不思議な文字の綴られた魔法陣が取り囲んでいた。
その姿を視界に捉えた瞬間、思わずシャクルが叫ぶ。
「アヤメッ!!」
しかし声に振り向くのはリュカの方で、アヤメはピクりとも動かない。リュカはシャクル達を見るなり、にこやかな表情を浮かべ、小さくゆっくりと手を振った。
ウラル自身が本能的に近づく事を危険と察したのか、少しずつ遠ざかるようにアヤメとリュカの周りをゆっくりと旋回する。
「おいウラル!あそこまで飛んで俺を降ろしてくれ!」
「待ってシャクル!あの子!」
ウラルに呼びかけるシャクルの膝を叩き、アヤメを指差すリーシェ。指先を追って見ると、アヤメの目がゆっくりと開いていく。
「アヤメェ!!」
再びシャクルが叫ぶと、アヤメは虚ろな目をゆっくりと上げシャクルを見た。かなりやつれて活力の感じられぬ顔つきだったが、シャクルを見た瞬間にアヤメの表情が少し緩み、その瞳を潤ませた。
「…シャ…シャクル…」
絞り出すような声は届かぬとも、その口の動きはシャクルにも確認は出来た。
「アヤメ!今助けてやるからな!!…おい冥王!!テメぇ、ナックはどこにいる!?」
「ナック?あ~ナックかい?アイツはねぇ、今父さんには会いたくないらしいよ」
「はぁ?何意味わかんねぇ事言ってんだ!!ナックは無事なんだろうな!?」
「うん。それはもう元気にしてるよ?…ハハハ、ハッハッハァ~!」
高笑いをするリュカに舌打ちを1つ返すシャクルは、リーシェの肩に手を置きウラルの背中で立ち上がる。
「あなた跳ぶ気!?」
「悪いなウラル。ちょっと背中を踏み台にさしてもらうぜ!!」
そう言ってウラルの背中を蹴りシャクルが空中に飛び出した。
「ちょっとシャクル!?」
「無事なら無事らしく、とっとと2人共返しやがれェェッ!!」
飛び出すシャクルは放物線を描きながらアヤメに向かう。片手はいつでも抜刀出来るように剣にかけ、余す手をアヤメに伸ばす。
応えるアヤメも辛そうに震える体に精一杯の力を込め、シャクルに向かって手を伸ばす。
「アヤメェ!!」
「シャク…ル…」
2人の距離が縮まり、手と手が触れ合いそうになった瞬間……リュカの口角が怪しく上がる。
「ククっ…」
その口からもれる笑い声に反応し、アヤメの周りを囲む魔法陣が勢いよく回転しはじめる。するとアヤメの体を、黒く視界に捉えられる電流が襲う。
「うっ…うあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アヤメの悲鳴に反応し、魔法陣が青白い光りを一瞬放った瞬間…ドンッ!!っという音を発て、アヤメの体を中心に激しい衝撃波が巻き起こる。その衝撃波の直撃を受け、シャクルの体は風に吹かれた紙切れのように軽々と空中に弾き飛ばされてしまう。
「うわァァァッ!!」
「ウラル!!」
「クワァ!」
宙を舞ったシャクルの体をウラルと共にリーシェの腕が抱き止める。
「ハハ、ダメだって父さん。あと少しなんだ…邪魔しないでくれないかい?」
突然リュカの目が見開き、黒いオーラを身にまとう。それに反応してか、アヤメを包む魔法陣が再び勢いよく回転し出す。
「い…いやぁぁぁ!!!!」
苦しそうに悲鳴を上げるアヤメ。
「ヤメろォッ!!」
「いやぁぁぁッ!!助けてシャクルーッ!!」
「アヤメ!!今助ける!!」
「だからまだ助けちゃダメなんだって、今言ったろ?父さん」
すると突然リュカとアヤメの立つ黄金の広場が揺れ始め、辺りの赤い光の中に星のような光が幾つも現れた。そして空間が激しく揺れはじめる。
「うっ…あぁぁぁぁッ!!」
「アヤメ!!」
「あぁッ!!…い…いやぁ…助けて…シャクル……うわあぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
悲鳴から一拍置き、1度溜め込んだものを放出するように再び巻き起こる衝撃波。
「ぐわぁぁッ!!」
「キャアッ!!」
「クワァッ!!」
突風が如く襲う激しい衝撃波は、躱す隙すら与えずシャクル達を弾き飛ばす。
「アヤメェェェェ………!!」
「もう少し待っててよ…父さん……もうすぐ母さんに会えるから…」




