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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.07 ミネアの旅路
70/122

P.070 初めから全て

 十数分の休憩後、ミネアとキリは暗く狭い通路に進んでいた。その道はやはりサカンドラより入った道同様に、狭く明かりの無い暗いの道。休んだお陰で、2人の足取りは少しではあるが軽く感じられた。暗闇の道を2時間程歩き進んでいくと、視線の先に小さな明かりが見えてきた。



「ん?おい、ミネア。あの光り…もしかして出口じゃないか?」

「え?…本当…外の光りでしょうか?」

「たぶんな」



暗闇の中であまり速くは歩けないものの、外に出られる気持ちで自然と足は速まった。


外の世界からの眩しい光りが近づくにつれ、徐々に暗闇に慣れた目に刺さり始める。



「出たか…」

「うっ…!」



近づく光りに2人は目を手で覆い進む。一瞬目が眩む程に感じた眩しさも、案外すぐに慣れてきた。


朧火の黄泉路と暗闇の洞窟も抜けて、ようやく肌に感じられる外の空気。しかしそれは清々しいものではなく、薄暗い霧に包まれ、ジメっとまとわりつくような湿気の漂う土地であった。周囲は3~4メートル程先までは見渡せるが、あとは霧で見る事が出来ない。



「ついに来たか、カナン湿原…」

「ここが…ですか?」



【カナン湿原】…先の章にて説明はあったが改めて。大聖堂ザーバスのある、アスフェド大陸に広がる世界最大級の湿地帯。周囲を高い山脈に囲まれ、決して晴れる事のない薄暗い霧に覆われた土地。深い霧で磁場を揺るがし、方向感覚を失いやすく生きて帰った者はいない事から、大聖堂ザーバスの罪人の放つ『天然の処刑場』とも呼ばれている。



「この霧では、ザーバス本山の位置が掴めませんね…」

「予想以上に霧が深いな…くそっ…!」



目を凝らし辺りを見回す2人。するとミネアの視界に、ぼんやりと黒い影が1つ映り込む。



「あれは…?」



深い霧だというのに、なぜかその影は徐々に近づいてくるのがわかった。しかもその後ろに浮かぶ、大きな黒い球体のような影の存在も。



「あれは、まさか…!!」



影はそのまま近づいてくると、周囲10メートル程だろうか、突然霧が晴れていき、ミネアとキリの視界にはっきりと映る位置にまできた。その影の主に、2人は目を丸くさせつつも身構える。



「あのガキ…」

「何故…ここに…」


「ハハハ、そろそろ来ると思ってたよ、君達」



霧の中から現れた人影……それは冥王リュカだった。その背後には黒い球体に包まれ、立ったままにぐったりとしたアヤメの姿がある。



「アヤメ!」

「大丈夫、母さんは無事さ。何も傷つけちゃいないよ。ただ、ちょっとばかり…力は貰ったけどね」

「…貴様!」




 ヒュッ!!




踏み込もうとしたミネアの足元に黄金に輝く矢が刺さる。



「っ!」

「ミネア!?」

「だ、大丈夫です!…この矢は…」



ゆっくりと上がる視線。その先には……



「ナック…!」



悲しそうな表情でミネアに向かい、弓を構えるナックの姿がそこにあった。



「………」

「ナック…?どうして…」



味方であるはずのナックの弓矢が、なぜか己に向けられた状況に呆然とするミネア。キリは状況が読めないのか、ミネアとナックを交互に見ている。その光景にリュカは1人、クスクスと笑いミネアを見た。



「君達は本当に面白いよ。全てあの時、お前の言った通りに動いてくれてるからねぇ」



そう言ってリュカはナックに視線を向ける。



「『お前』…?」



ミネアは視線を追ってナックを見る。するとナックは、弓を構えたままに視線を反らした。



「…っ!まさか…!?」

「ハハっ!本当にバカみたいで面白いよ」

「ナック、貴方…」

「そうさ。ナックは初めから…僕の精霊なんだよ」

「ッ!?」

「まんまと騙されてココまで来たんだね?お姉さん」

「う…嘘…でしょ?ナック…」



リュカの言葉…ナックの行動…頭の整理が追いつかぬミネア。驚きと衝撃に視線を泳がせ、軽いパニック状態といった表情。



「マスター……エルセナ=ミリアードとの契約は、彼女の死によって切られた。つまり1000年経った今、ボクはリュカに継承されたんだよ」

「う…嘘よ……だってアヤメと一緒に戦ってたじゃない…」

「そうだね」

「『そうだね』って…」

「萱島アヤメは確かに霊召士の血筋を受け継いでいる……だが『継承の儀』を済ませてはいない。つまり、萱島アヤメは正式な霊召士ではないんだよ」



未だ理解出来ない表情のミネアに、リュカは再びクスクス笑い視線を向ける。



「…だが血筋さえあれば"融合"は出来る…属性が違うと負担は大きいけどね」

「でもあなたには闇の精霊が…」

「闇の精霊は僕自身だ」

「えっ…!?」

「今やもう、闇の精霊と僕は同じ存在となった…つまり僕は闇の精霊にして、本物の霊召士なんだよ」



誇らしげな表情で両手を広げ、霧で見えぬ空を見上げるリュカ。



「でも苦労したんだよ。対の属性の継承には………その『時間稼ぎ』と『母さんの目覚め』を待つ為、ナックを君達の元へ送り込んだ訳さ」

「そんな……じゃあ今までの事は…」

「全部ウソさ!ハッハァ~!久しぶりにナックに会った時は笑ったよ!…本当にお前は演技が上手いよ」

「くっ…!!」



ミネアはナックを鋭く睨む。



「アヤメやシャクルは、貴方を信じてここまで戦って来たのよ!…わたしだって…」



すると冷めた視線でミネアを見下ろすナック。



「ボクも信じてたよ…君らが最高の『餌』になってくれる事をね」

「…ナック…!貴方は本当に…」

「うん。もちろん"敵"だよ」

「そんな…」

「状況がよく見えてこねぇが、どうも胸クソ悪ぃ話しだな…」



明らかに苛立った表情のキリが、両手に石刀を出現させ、今にも斬りかかる雰囲気をかもし出す。



「そう怒るなよ、モルハス族」

「世間知らずのガキには、このおっさんがいろいろ教えてやるよ…」

「やだなぁ。怖い事言わないでよ。せっかく"招待状"持って来たんだからさ」

「"招待状"ですって…?」

「まぁ紙は無いけどね」



そう言ってリュカは右方向を指差した。



「ここからまっすぐ。2時間もあれば大聖堂ザーバスに着くよ」

「何だと!?」

「嘘じゃないよ。なんなら一緒に行ってもいいんだよ?だって…攻め入る合図、花火打ち上げるんだろ?」

「なぜそれを!?」

「ハハハ、安心しなよ。誰にも言ってなんかいないよ。僕だって遊びたいからさ。それに、いろいろ試したいしね…」



そう言ってアヤメに向かい手をかざす。



「ッ……うっ…うぅ…うあぁ…」



すると苦しそうに小さく呻くアヤメ。



「ヤメなさい!!」

「うるさいよ…」




 ヒュッ!!




ナックは光の矢を放ち、ミネアの肩を掠めさせた。



「うぐっ…」



小さく斬れるミネアの肩。



「"本当の母さん"が完成するまで、あと4時間くらいかな?」

「本当、の…?」

「いったい何なんだそれは!?」

「知りたいのかい?……じゃあ待ってるから、大聖堂ザーバスでさ」

「まっ、待て!!」



駆け出す2人。だが一瞬にしてリュカとナックの姿は視界から消えた。


その後誰もいない霧を見つめ、呆然と立ち尽くすミネア。



「…ナックが……敵…」

「あれが聞いてた精霊って奴か…」

「………」

「チッ…あと4時間なんだろ?時間が無い、パニくってる場合でもねぇ。突っ走るぞ」



そう言って未だ呆然するミネアの背中を叩き、リュカの指差した方角に走り出すキリ。ハっと我に返り、「は、はい!」と返事をしてキリに続き駆け出すミネア。




◆◆◆――…




「うりるぁぁぁッ!!」

「やぁッ!!」



どれ程の時間が経っただろう…ミネアとキリはボロボロの緋色のコートを羽織り、白骨化の動く亡霊達を薙ぎ倒しながら、霧深いカナン湿原を駆け抜けていた。


もはや疲れを通り越し、ゴール寸前のランナーズハイのような感覚で『走る』と『戦闘』を繰り広げる2人。湿った大地に足を取られながらも亡霊達を薙ぎ倒し走る。



「何なんだよコイツら!?」

「『無事に着ければ』とは、こういう事だったんですね!!」



次々に群がる亡霊達。



「コイツらが噂の罪人達ってかぁ?…えぇッ!!」

「なぜ動き回れるのよ!!」

「これもあのガキの仕業なのかぁ!?」

「おそらく……ハァッ!!」



ミネアが近くの亡霊の頭蓋骨を蹴り砕いた瞬間、ぼんやりと巨大な影が浮かんで見えた。



「?…キリさん!!あれ!」



その声にキリも前方を見る。



「あれは…ドグマ山脈か!?なら大聖堂ザーバスの本山だ!」

「ついに着いたのね…」

「よし、とばして行くぞ!!」



駆ける足により力を込める2人。



「そういえば、だいぶ今更ですけど…突撃の合図の花火はお持ちなんですか?」

「おう、ここにな…」



亡霊を斬り捨てながら、懐からダイナマイトの束を取り出すキリ。



「いつの間にっ…!?その以前の問題ですが、かなり危険な持ち方ですね…?」



亡霊を薙ぎ倒しながら、表情を引きつらせるミネア。当のキリは「そうか?」的軽い反応。


そうこうしている内、徐々にドグマ山脈に近づく2人。幾人もの亡霊を倒し、ようやく辿り着くまるで壁のようにそびえ立つドグマ山脈。全く見えない登り口。走りながら麓を見渡すミネア。



「キリさん!道がありませんよ!」

「んな登れる道があったら処刑場でも何でも無いだろ!」



そう言うとキリは両手の石刀を逆手に構えた。



「ミネア!早くオレの背中に乗れ!」

「え?」

「んでコレ持て」



そして先程のダイナマイトをミネアに投げ渡す。



「うわっ!!…ば、爆発したらどうするんですか!?」

「火ぃ点いてないから大丈夫だ。いいから早く乗れ!モタモタすんな!」

「わ、わかりましたよ…!」



ミネアは走るままにキリの背中に飛び乗った。人1人が乗っかった状態でも落ちないキリのスピード。ぐんぐん迫る壁のような山脈に、ミネアはキリの背中で身を強張らせる。



「ブっ、ブツかりますよ!?キリさん!」

「あぁ~叫ぶな叫ぶな…こんな時の為の…」



スピードを緩める事なく、キリは山脈目掛けて大ジャンプ。



「二刀流だァァッ!!」

「きゃあァァァ~っ!!」




 ガギィィィィィンッ!!!!




2本の石刀を山脈に突き立て、急な斜面に立つキリ。その背中では振り落とされまいと必死にしがみつくミネア。



「な…何て荒技…」

「しっかり掴まってろよォッ!!」



キリは石刀を交互に抜き刺しをし、山脈を駆け上がる。キリの首元に腕を回し、しがみつくミネアが見下ろす視界には、数体の亡霊が2人を見上げている。



「おいミネア!ヨソ見してる場合じゃねぇぞ!!」

「は、はい!?」

「左方向を見ろ!」



言われるままに左を見たミネアの目に、山脈の断面とはあきらかに違う白い煉瓦造りの一部が入ってきた。



「あれはまさか!?」

「だぶんだが、あそこは大聖堂ザーバスの一部だ!だからあそこに花火の爆弾をブン投げろ!!」

「あそこに!?」

「早く投げろ!!じゃなきゃ爆発にオレらも巻き込まれんぞ!?」

「着火の火は!?」

「右ポケットにマッチが入ってる!」

「いつの間にぃ~…」



背中から手を伸ばしマッチを取り出す。そして口にくわえながらマッチを点火させた。その火を風圧で消さぬようダイナマイトの束に点火させる!



「よしっ……いっけェェェッ!!」



渾身の力を込めダイナマイトを白煉瓦目掛け投げつけた!




 …――ッ

    ドッガァァァァァァァァンッ!!!!!



巨大な爆音と衝撃と共に、見事な花火の合図が鳴らされた。

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