P.007 混乱の舞踏会(1)
またまた時は流れ、翌日の夕刻……城内は舞踏会の準備で慌ただしくも賑やかだ。そして日が完全に落ちた頃には、城内は別の賑わいに変わっていた。
城の南には3階分を吹き抜けにした大広間がある。広さもサッカーコートが1面…いや2面は入るのではないか?っという程だ。天井は全て半球体のガラス張りで、その梁から無数に伸びたチェーンに繋がる巨大シャンデリア。それを囲う小ぶりなシャンデリア達は、見上げると灯る光りと星空とが交わりとても綺麗だ。
大広間の一角には、見事な音楽を奏でるオーケストラの面々。その音楽に合わせて、広間中央では人々が男女ペアとなり踊っている。
「これが舞踏会…素敵…」
大広間の2階の壁にある室内バルコニーから、舞踏会の様子を見渡すアヤメ。もちろんあの白ドレスに着替えている。それにしっかりとメイクをし、頭にはシルバーに輝くティアラまで。
普段はメイクなどはしないせいか、顔に少々違和感を覚えつつも目を輝かせるアヤメ。
「アルシェン、そろそろ下の広間に行こう。もう少しすればファラン王子もいらっしゃるだろう」
「あ、はい」
返事をしつつ振り返るも、近くにミネアの姿は無い。会場で振る舞われている料理の給仕が間に合わず、その手伝いに行ったからだ。その代わりに護衛の兵士が2人ついて来ている。
国王に連れられ広間に降り立ったアヤメ。するとそのアヤメと国王を、会場が盛大な拍手と歓声で迎えた。
「おぉ、アルシェン姫だ」
「まぁなんて綺麗なの!」
「美しい…」
「姫君!アルシェン姫!」
周囲の賛美の声に、赤い顔で俯くアヤメ。
(お世辞だろうけど嬉しいものね…)
すると突然外からラッパの軽快なリズムが鳴り出した。
「お?どうやら王子が着いたようだな」
アヤメを見て笑う国王。王子様に期待はしているが、やはりちょっと身構えてしまう。
ラッパ音の鳴り響く中、正面の大きな鉄の扉がゆっくりと開いていく。すると「わぁ~っ」という歓声と共に、アヤメから扉までにいた人々が分かれて道を作る。
すると正面には数名の兵隊を従えた1人の青年が立っていた。緑の丸いハットを深く被り、髪は金色で後ろで1つに束ねている。ほどけば胸を越えるくらいだろうか。そして身丈程の緑のコートをまとい、中にはハイカットの丸首シャツ。足元は赤いタイトなズボン。身長は170cm半ばといったぐらいのスリム体型な男であった。
「あれが王子様なのね…」
アヤメご期待の王子様でもあるファランは、手を後ろに組みながらゆっくりと足を進めはじめた。
そして歩いてきたファランは国王の前に着くなり片膝をつき、ハットを脱いで胸に当てる。
「これは国王様。お久しぶりでございます」
声は低くいい声をしている。顔は…俯いている為によく見えない。いや、まだ見ない方がいいだろう。楽しみはまだとっておくんだ…アヤメはそう自分に言いきかせる。
「うむ。こうしてまた王子に会え、私も嬉しく思うぞ」
「ありがとうございます、国王様。僕自身も同じお気持ちにございます」
応えるように数回頷く国王は、ゆっくりとアヤメの後ろに回り、軽く背中を押してきた。思わず王子に向かい1歩前に出るアヤメ。その時を待っていたかのようにファランはゆっくりと立ち上がる。
ついに"王子様"との御対面の瞬間が来た……がっ、アヤメは咄嗟に下を向いてしまう。
(いやーっ!ちょっと緊張するよぉ~っ!)
すると突然ファランは俯くアヤメの手を握った。
「っ…!」
「アルシェン姫…」
優しく囁く声に誘われ、ゆっくりと視線を上げるアヤメ。
「………」
続く言葉が出せない――…
(えぇ……えェェェェッ!?)
アヤメの頭はパニック――…いや、今度は全身ビッグバンが巻き起こった。
そう王子様ファランは、"超"を付けるに相応しいブちゃイク(←オブラートなつもりです)であった。くっきり一重の細い目に加え、妙にデカい鼻。ぶ厚い下唇に出っ歯ときての、とどめにそばかすときたものだ。
えっ!?これが王子!?王子なんですか!?
キツい…いや本当にキツい!夢見た分、何度も言っちゃう程にキツい!もうこのビッグバンは何も創り出せないただの大爆発。
アヤメの淡い妄想は砕け散った……
「あぁアルシェン姫。なんとお美しいのだ…貴女に出逢ったあの日から、貴女を想わぬ日などありませんでした…このファラン貴女を一生守り、生涯愛し続けます!」
「………」
何も言えない……
何も感じられない……
目の前が…暗い…
初めて異性に告白されたがノーサンキュー。これはカウントしたくない。
マザーランドに来て、この時が1番帰りたくなった瞬間かもしれない。〔後日談〕
◆◆◆――…
舞踏会は盛り上がりは最高潮といえる所まできていた……1人を除いては。
ファランはアヤメを強引に踊りの輪に誘った。習いはしたが踊りなんて全然覚えていない為、その体は引かれるがまま。たまに体同士がぶつかる度、荒い鼻息がアヤメの顔や髪に当たる。最も嫌なのが腰に回った手だ。たまにいやらしい感じで撫でてくる上に、顔や少し開き気味の胸元ばかりを見てくる。
泣くに泣けないこの状況。
(あぁ!!もう隕石でも落ちてくればいいのにぃ~!!)
っと、その次の瞬間。
ドッガァァァァァァンッ!!!!