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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.07 ミネアの旅路
68/122

P.068 戻らぬ時間(1)

『おめでとうございます!ラッスル様』


『え…何がだい?』


『一等兵士への昇進です。わたし…自分の事のように嬉しいです』


『え、あ…ありがとう。でもまだまだ下っ端だよ…だけど…その…ミネアの為にも頑張るよ』


『わ、わたしの…ですか?』


『え?あっ…あ、いや、その~…な、何でもない!忘れてくれ…』


『…は、はい…?』








………………………………








『な、なぁ…ミネア…』


『はい、何ですか?』


『僕と……その~僕とぉ~…だな…』


『何ですか?もったいぶって』


『けっ!けけけけ結婚してくれないか!?』


『え!?けっ、結婚!?』


『い、嫌ならいいんだ!ただ、ずっと…君が(ここ)に来た時から…その…妹のように思っていたのだが…な。その~何だ…えっと~…』


『…い…嫌では…ないです…』


『へっ!?』


『嫌なんかじゃありません…わたしも…わたしも、ラッスル様の事…』


『ミネア…』


『ラッスル様…』


『"様"なんか要らないって…いつも言ってるだろ、ミネア…』


『…はい…ラッスル…』


『僕と、結婚…してくれるかい?』


『…はい。喜んで』


『ほっ、本当に!?』


『はい』


『ハハ…やった…やったぁぁ!!』


『ふふふっ、そんな大袈裟ですよ』


『嬉しい事なんだ!大袈裟でもなんでもない。あっ…指輪…もう少し待ってくれ。僕の安い給料じゃまだ…』


『そんな、指輪なんて要りません』


『え?』


『お傍に貴方がいてくれれば、わたしはそれだけで幸せです』


『ミネア…』


『絶対に、わたしを1人にしないで下さいね?』


『あぁ…約束するよ』


『はい。約束ですよ』







……………………………………







『ミネア!!大変よ!!』


『どうしました?メイド長』


『舞踏会にワーグの軍勢が襲ってきて…!』


『えっ!?アルシェン様は!?国王様は!?』


『2人共無事よ。流れの傭兵が助けてくれたみたいで……でも…』


『でも?…どうしたんですか…?』


『ラッスル様が…』


『ラッスル?…彼が…どうかしたんですか…?』


『ラッスル様が……亡くなったそうよ…』


『えっ……ラッスル…が…?』


『えぇ…残念だけど…でもアルシェン様を守っ――…』


『いや…』


『ミネア…』


『いやぁ…ラッスル…ラッスルゥゥッ!!!!』







………………………………………








……………………………








「ラッスル…」



未だ谷底のラッスルの元に向かおうと動くミネアと、それを支えるアラーケ。この2人を辛うじてキリが2人の体を掴み止めている。



「くっ……くぅ…」



種族的には、モルハス族がヒューマ族よりも体力、腕力などでは勝っているとはいえ、キリも体力をかなり消耗している状況。これでは2人を持ち上げる事など…ましてや抵抗するように動くミネアがいれば、まず不可能な事。


もちろんアラーケに至ってもそう。逆さまで踏ん張りのきかぬ体勢では、ミネアの腕を掴んでいるだけで精一杯。



「ミネアちゃん、頼むよ…大人しくしてくれ…じゃないと…」

「いや!アラーケお願い離して!」

「そんなお願い聞けるかよっ…ぐぐぐぅ~…!!」



絶えず動くミネアに、掴むアラーケの手が徐々に滑り始める。



「ダメだミネアちゃん!!」

「暴れるなっつぅの…!おいミネア!正気に戻れ!!」




 ミシッ…!!




石刀の突き刺さった崖が軋む音。



「ッ!?…マズい…」

「ラッスルが呼んでるの…だからお願い離して!」

「何バカ言ってんだ!!行ったらヤツらの"仲間"に引き込まれるぞ!!」

「それでもわたしは…!」



更なる力を込め、ラッスルに向かい手を伸ばすミネア。すると僅かだがアラーケの腕がミネアを引き寄せる。



「ふっ…ざけんなァァァァッ!!」



叫ぶ声と共に、ミネアの体は少しずつアラーケに引き寄せられていく。その負荷はキリにのしかかるが、好機とばかりにキリも引き寄せるように力を込めた。



「何言ってんだってよミネアちゃん!そんなんミネアちゃんじゃねぇよ!!アヤメちゃんとナック助けんじゃねぇのかよ!?シャクル達の為に頑張んじゃねぇのかよ!?…おれ達こんな所で止まってる場合じゃねぇだろォ!!」



ミネアはハっとしたようにアラーケに向き、伸ばした手を引いた。涙混じりの見開く目で見つめ、再び下を見下ろす。



「ミネ…ア…」

「………」



暗く不気味な眼でミネアを見上げ、手を伸ばすラッスル。ミネアは応えるようにラッスルに向かい、ゆっくりと手を伸ばす。



「…ラッス――…」

「帰ってこいよバカ姉貴!!」

「ッ…!!」



再びハッとしたように目を見開き、伸ばす手を引きアラーケを見上げるミネア。



「そうだ…その"眼"でこっち見なよ…姉ちゃん」

「アラーケ……キリさん…」



するとキリも表情を引きつらせながらも口元を緩ます。



「ったく、ようやくお帰りか…え?ミネア…」

「…ごめんなさい…」



涙を流し俯くミネア。



「顔上げろってミネアちゃん…前見なよ」

「前…?」



ゆっくりと顔を上げ、アラーケを見るミネア。



「じゃなきゃまた迷っちまうだろ?」

「……うん…」


「ミ…ネア…」



再び聞こえるラッスルの声に、ミネアが振り向こうとした瞬間……



「うるせェェェッ!!」



大きな怒鳴り声が響き渡る。



「お前はもうこの世にはいねぇんだ!!ミネアちゃんを大事に想うなら呼ぶんじゃねぇ!!見守ってやれよ!!」

「…アラーケ…」

「それに…あれだあれ!結婚も何も、弟ぽいおれの許可とったのかァ!?師匠に代わって『アラーケ is 審査会』通ったのか!?」

「それ…文法の使い方合ってんのか?お前…」

「ここで潔く身を引くのが男じゃねぇのかよ!!逝くなら、遺された者の幸せ願ってやれよォ!!」


「………」



するとラッスル手がゆっくり下がる。



「つ、通じたのかよ!?」

「ウソぉん!?」

「ラッスル…」



ミネアが見下ろす中、伸ばしていた手を、肩かけのケープの留め具として使用している碧水晶のブローチに置き、グっと握り締める。







………………………………………







………………………………







『おーいミネア』


『あれ?ラッスル様?休暇でご実家に戻られてたのではなかったんですか?』


『あぁ、それで今日帰った所なんだ』


『そうだったんですか。ゆっくりできましたか?』


『うん。それと…はい、コレ』


『え?何ですか?この箱』


『確か今日で17歳だったろ?だから、誕生日プレゼント』


『えっ!?わ、わたしにですか!?そんな……っ、それにこれ…碧水晶のブローチ…こんな高価な物もらえませんよ!』


『あ、いや…実は、僕の実家が碧水晶の採掘地でね。僕が採ったやつなんだ……だから…ただの手作りだけど、もらってくれないか?』


『え…本当にいいんですか?』


『う、うん!1番いい水晶なんだ!だから君にもらってほしくて……あ、いや!変な意味は無いよ!ただそのっ…あのあの…』


『ふふふっ、ありがとうございます。最高のプレゼントです…大切にしますね!ラッスル様』








………………………………………







………………………………








「…貴方の事……忘れないから…」



目を閉じ、小さく呟くミネア。そして気のせいかもしれないが……ラッスルが小さく頷き、"人"の眼でミネアを見つめているようだった。





…――が、次の瞬間………






 ミシッ! ガラッ!!




突如キリ達の体が軽く弾んだかと思えば、谷底に向かい大きく傾いた。



「マっ、マズいッ!!」



焦るキリが見上げる崖が、石刀を刺した箇所から崩れ始めていた。



「嘘だろ…!!」

「何だよ!?何が起きたんだキリ!!」



逆さまのアラーケは何が起きたかわからず、徐々に傾く身に焦り声を上げる。だが「カラカラ」と音を発て、アラーケの視界で転がり落ちていく小さな石に全てを察した。



「おいキリ…マジかよ…」

「マジっぽいぞ~こりゃ…限界かよ…くそッ!!」



何とか2人だけでも…!っとキリは力を込めるが、2人の体は微動だにしない。



「くぉぉっ…!!」

「キリ無茶すんな!!」



その姿を見つめるミネアが急に表情を和らげる。



「?…どうしたんだよ…ミネアちゃん…」

「こうなってしまったのも…全てわたしのせいです…」



そう言うと腰からトンファーを1つ取り握り締めた。



「お…おい…まさかお前…!」

「ヤメろってミネアちゃん…」

「ごめんなさい…アヤメを…ナックを……アルシェン様を、お願いします……ッ!!」



腕を掴むアラーケの手を目掛け、渾身の力でトンファーを振り切った。



「ヤメろォォォォッ!!」




 …―――ゴッ!!




鈍い音が響いた洞窟内……

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