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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.07 ミネアの旅路
67/122

P.067 朧火の黄泉路(2)

「わたしですか?」

「体力面でも、ここまで来ただけで相当消耗しただろ。それにこれからの道を見てみろ」



キリが指差す道は、先の方は全く見えなく果てしない一直線の道が続いている。当然のようにその道は細く、左右は死者のうごめく谷底。



「この先、体を休める場所なんて期待も出来そうもない…」



そう言ってからアラーケをチラっと見るキリ。



「男女間の体力うんぬん越えて、ヒューマ族として限界ギリギリだろう…だが、それ以上にミネア…お前は優し過ぎる」



再びミネアに視線を戻す。



「死者を見ても哀れむな。決して手を差しのべるな。耳を貸すような真似もするな…消耗した体力、精神力ではすぐに弱みにつけ込まれる」

「………」



キリの言葉に俯くミネアは、無言で1度頷いた。



「倒れそうになったらすぐに言え。アラーケ、お前もだ。そしたらオレはお前達を担いででも行ってやる。心配すんな」

「キリ…あんたって、ホントいいやつだよな」

「何バカ言ってんだ。んなヒマは無いぞ…」

「へへっ。だって…宮殿の王っていうから、我がの強いヤツで、高見の見物ばっかっていうか…もっと貴族風吹かせてると思ってたのに、何か普通の頼れる兄貴って感じでさ。ホントいいやつだな」

「ちょっとアラーケ!王に変わりはないのよ?失礼でしょ…」

「失礼もなにも、オレは王の立場に立ったつもりはない。だがそう呼ばれるなら、その責務は果たさねばならない…」



深いため息と共に、細い道の先を見据えるキリ。



「モルハス族にとっての"種族"は"家族"…種族は違えど、志が同じ"仲間"も"家族"だ。それを守る事が王と呼ばれる者の責務。上っ面から着るもんじゃねぇよ、"王"の名はよ」

「キリさん…」

「くぅ~、かっけぇ~…」



称賛の眼差しに振り返るキリは、ちょっと恥ずかしそうに頭を掻き、再び道の先を見据えた。



「あ~何言っちまってんだ…ほ、ほら何をしてんだ。さっさとこの気味の悪い所を抜けるぞ、グズグズすんな」



照れ隠しなのか?細い道を全く警戒する様子もなく、スタスタと歩いて行くキリ。



「あ~キリさん、ちょっと…!」



焦るミネアに振り返る事なくキリは早い足取りで進んで行く。するとアラーケがミネアの身を前に出す。



「え?」

「おれ後ろ行くよ。それならミネアちゃんヤバい時に支えたり、助けられるだろ?」

「アラーケ…ありがとう」

「たまには弟らしく姉ちゃん守んなきゃいけないからさ~」

「そう…じゃ、お言葉に甘えちゃおうかしら」



互いに笑みを交わし、キリの後をミネアとアラーケが順に歩き出した。




◆◆◆――…




 どこまで続くかわからない細く長い道は、景色を全く変える事なく伸びていた。周囲に反響する「オォ…オォォ…」っと死者達の呻き。その呻き…誘う声が響く中を歩き続けて2日目。暗闇の道を合わせれば、サカンドラを発ち3日が経過した事となる。


キリ、ミネア、アラーケの順に歩く中、ミネアの体だけが目に見えてグラついていた。



「大丈夫か?ミネアちゃん…」



もう何度目だろうか…心配そうなアラーケの声がかけられるのは。その度に少し振り返り、「えぇ…」っと言って笑って見せる。表情は笑っているものの、疲れは隠せていない。緑色の光りの反射で、顔色こそ確認出来ないが、かなり悪いとも思える。再び前を向くも…「オォ…オォォ…」っと絶え間なく聞こえる死者達の声に、ミネアは表情を強張らせ、時折耳を押さえる。


キリは視線だけを少しミネアに向けた。



(限界か…)



ひと声「止まるぞ」とかけて立ち止まる先頭のキリ。続きミネアとアラーケも足を止めた。



「どうした?キリ」

「…ミネア。オレが運んでやるから無理するな」

「い…いえ……わたしは大丈夫です、まだ行けます…」



そう言ってやつれた笑みを見せるミネアだが、少し大きく響いた死者の呻き声に、グっと身を強張らせ耳を塞ぐ。するとミネアの強張る体がバランスを失い、グラりと傾く。



「っ!マズい!!」

「ミネアちゃん!!」



傾くミネアに手を伸ばすキリ。しかしその手は届かずミネアの体が手から遠退いていく……が、間一髪。落ちる寸前のミネアの腕をアラーケが掴み止めた。



「あ…あっぶねぇ~…」



自分でもびっくりの表情のアラーケ。当のミネアも未だ我に返れず、呆然とアラーケを見つめている。双方の無事に、キリは安堵のため息をついてしゃがみ込む。



「…ったくビビらせやがって…ナイスだ、アラーケ」

「さ…さすが、おれ…イケメン…」

「ハハ、確かにイケメンだ」

「ありがとうアラーケ…助かったわ…」

「全く…だから無理すんなって言ったろ?これから戦わなきゃいけないんだ。だから無理すんな」

「はい…すみません…」



ミネアの体はかなり傾いた状態で、ちょっとバランスを崩せばアラーケごと、谷底へ転落してしまう程。それをわかっているからこそ、「イケメン」と言いつつ不格好なへっぴり腰で、プルプルと震えるアラーケ。その姿に思わず鼻で笑うキリは、ゆっくりとアラーケに歩み寄る。



「アラーケ、今手伝うからそのままでいろよ」

「お、おう…頼む…」

「ミネアも動くなよ」

「は…はい…」



そう言ってアラーケの腕と胴体に腕を回すキリは、引き寄せるように力を込めた…次の瞬間。



「…ミネ…ア…」



微かにではあるが3人の耳に聞こえた声。



「え…?」



不思議な声に呼ばれたミネアは、アラーケとキリを交互に見る。2人も聞こえていた声。互いに見合い、ミネアを向いて「自分じゃない」っと首を横に振った。



「ミネ…ア…」

「っ!」



再び聞こえた声。その声が聞こえてきたのは……



「し…下…ですか?」



恐る恐る向く谷底。3人に向かい手を伸ばす死者達の中に1人…ミネアにとっては見覚えのある甲冑姿の兵士が目に入る。



「あ、あれは…」

「ミネ…ア……ミ…ネア…」



甲冑の兵士は、右半分の皮膚が剥がれ落ちた顔を向け、ミネアの名を連呼しながら手を伸ばしている。


その谷底の兵士に向き続けるミネアに、キリとアラーケは疑問の眼差しを送っている。



「知り合いか?おい、アラーケ」

「いやおれに聞かれても…なぁ?ミネアちゃん…?」



アラーケとキリの言葉にも反応を示さないミネアは、谷底を向いたままゆっくりと首を横に振った。そして徐々に過呼吸にも似た荒い息遣いへと変わっていく。



「はぁ…はぁ、はぁ…っ…い…いや…」

「お、おい…ミネア?どうした?」

「オバケでも見たの?」

「いやオレらも今見てるだろ」



そんなボケにも一切答えず、ミネアはその身を震わせる。



「はぁ…はぁ…嘘…嘘よ……ラッ…ラッ…」



すると突如、ミネアは谷底に向かい身を投げ出すように手を伸ばした。



「…ラッスルゥゥッ!!」

「いッ!?」



そのミネアの動きは、何とか保っていた体勢を急激に崩し、ガクっと波打つようにアラーケもろとも谷底に向かう。驚くキリは、一瞬アラーケの胴体から手を離してしまい、ミネアとアラーケの体は完全に谷底へと飛び出した。



「しまっ…!」



しかし落下寸前、辛うじてキリの右手がアラーケのベルトを掴んだ。残る左手で細い道の端を掴み、何とか落下を免れる。



「ナっ、ナイスキリ!」

「お前も離すなよ!今こっちに戻す…っ!おいミネア!動くなバカ!」



キリの言葉通り、ミネアは2人を見る事なく、谷底の兵士に向かい手を伸ばして体重をかける。その度にアラーケとキリの体も揺らされ、引き戻す体勢に入れない。



「ラッスル…ラッスル…!」



手を伸ばし、ミネアが連呼する名…それは死んだミネアの婚約者の名。兜から覗く左半分だけとなった顔は、ミネアにとっては慣れ親しんだラッスルのものだった。



「ラッスル…ラッスルゥー!!」



叫ぶミネアは、アラーケが掴む腕を振り払おうと暴れ出す。



「ミっ、ミネアちゃんちょっと!!ダメだってちょっとォ~!!」

「おいバカ!!暴れるなミネア!!…ぐっ!」

「ラッスル!!ラッスル!!」

「ミネ…ア…」

「いやぁぁッ!!離して!…ラッスルが…ラッスルがいるの!!ラッスルが!」

「くっそ…!!ミネア…暴れんな!」

「離して!!ラッスル!!ラッスル!!」


挿絵(By みてみん)


キリは必死にアラーケごとミネアの体を引くも、重心を傾け暴れるミネアの体はなかなか引き戻せない。



「ラッスル…」

「…ミネア……おいで……ミネ…ア…」



暴れ動くミネアの目からは大粒の涙が零れ落ちる。



「ラッスルーッ!!」



叫ぶと同時にミネアが激しく身を揺らした瞬間、



「うおっ!!」

「しまっ…!!」



アラーケの手がミネアの腕から離れてしまう。



「っ!…ミネアちゃん!!」



道から足を完全に離し、投げ出された状態のミネアに向かいアラーケが飛び、再びその腕を掴む。…が、アラーケには踏み留まれる足場は無い。そのアラーケに手を伸ばしたのはキリ。瞬間的に空中のアラーケの片足を掴み止める。



「ぐっ…!」



しかし飛び出した2人の体重に負け、キリの体も谷底に向かい引かれるように落下していく。



「くっそ…!!」



空中でキリは片手にマザーの石刀を出現させ、道の壁…つまり谷底への垂直の崖に突き立てた。ガガガァッ!!っと石が石を削る音を発て、キリとアラーケ、ミネアの体は宙ぶらりんに止まる。


キリの片腕に2人の体重と重力が一気にかかり、崖に刺さる石刀も軋んだ。



「うぐっ!!……く、く…」

「キリ!?だ、大丈夫か!?」

「な…何とかな…」



見上げれば、石刀の刺さるすぐ上は歩いてきた細い道がある。キリとどちらか1人くらいならば、何とか片腕だけでも上げられたかもしれない。しかしキリの支えるのは人間2人。しかもその内の1人、ミネアは暴れるように谷底のラッスルに手を伸ばしているのだ。



「ラッスル…ラッスルッ!」

「だから暴れんなァ…!ジっとしてくれミネア…っ!!」

「そうだってミネアちゃん!急にどうしちゃったんだよ!?そのラッスルっていったい誰なんだよ!?」

「ラッスルは…ラッスルはわたしの大切な人なの……わたしの…わたしのォ…」



流れる涙を拭う事なく、ミネアはラッスルに向かい必死に手を伸ばす。



「バカヤロォ!!大切なヤツだから知らねぇが!ここは朧火の黄泉路だ!その"大切な人"はもう死んでんだよ!!」

「違う…違う!!ラッスルは!ラッスルは今そこにいるの!!」







………………………………………






………………………





『おや、見ない顔だね…新入りさんかい?』


『あ、はい。今日から姫様のお世話係として働きます、ミネア=リステナと申します』


『ミネア、か……僕はラッスル。この城の二等兵士さ。わからない事があったら何でも聞いてくれよ。遠慮なくね』


『は、はい。ありがとうございます!』

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