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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.07 ミネアの旅路
66/122

P.066 朧火の黄泉路(1)

 暗く狭い道を進むミネア、アラーケ、キリの3人。


朧火の黄泉路に続く道に、明かりと呼べるものは一切無く、暗闇に目が慣れる事も無く。視覚による情報は皆無である。少し手を広げて触れる岩壁に沿って歩くだけしか出来ない。


サカンドラを発ってからは、既に半日が経過していた。



「なぁキリ?」



ため息混じりにアラーケが口を開く。



「どうした?」

「いつまで続くんだよ…こんな暗い道…」

「オレが知る訳ないだろ…とにかく今は前に進むしかない」

「まぁそうだよね。でもさ、ずっとこんな感じなのかな?この道って」

「それはそれでキツいですよね…徐々にですけど、内部の気温も落ちてきてるように感じるのですが…」



ミネアの言葉にキリが「そうだな」と答えるが、アラーケは「そうかな?」と言わんばかりに首を傾げる。言うとイジられそうなので、暗闇に乗じて無言をつらぬく。深い息をはき、キリが続けた。



「何も見えない暗闇の中に長時間…加え気温を低下させていけば、生物の五感も鈍りはじめるだろうからな…もって2日くらいじゃねぇか?この状況は」

「マジか~…だから黄泉路なのかよ…」



暗闇だが、アラーケは片手を額に当てて首を横に振る。



「いや、おそらくまだ本来の黄泉路には入っていないはずだ」

「朧火の黄泉路と言うくらいです。朧火と呼ばれる灯りが見えるはず」

「五感を潰してからの本黄泉路って訳かもな…」

「死者の魂…朧火に誘われやすくですね?…最悪の流れだけは避けなくてはなりません。体力の温存も大事ですが、出来るだけ会話を途切れさせずに自分を持ち続けましょう」

「うひょ~なんか帰りたくなってきた…」

「おいおい、ここまで来てかよ…バカ言ってないでさっさと先に進むぞ、アラーケ」

「そうよ、ウィビに笑われてもいいの?」

「わかってるよ…冗談だって、帰るなんてよ」



そうして暗闇の中を歩き続ける3人。




◆◆◆――…




 更にミネア達は進み続け、既に1日が経過した頃だが…未だに景色に変わりはない。狭く何も見えない暗闇の中。


洞窟内の気温もミネアが言った通り、進めば進む程どんどん低下していった。体は小刻みに震え、手や足先の感覚が無くなってきてる。



「うぅ~…さぁ~みぃ~…」

「はぁ…はぁ…」



寒さによる体温低下は急速にミネアとアラーケ、ヒューマ族の2人の体力を奪っていく。モルハス族のキリは、暑さや寒さの温度変化には強い種族。だが長時間の暗闇…ましてや1歩1歩に神経を集中させて先頭を歩き続け、精神的な疲労はかなりのものだった。



「おいアラーケ、ミネア。大丈夫か?」

「おれはまだ大丈夫だよ…でもミネアちゃんは…?」

「わたしも…大丈夫…」

「そうか…ならいい」

「そういうキリは大丈夫なのかよ?」

「まぁまぁだな…この状況下で万全なやつがいるなら見てみたいもんだな」

「ハハハ、確かに。エビくらいじゃないか?この暗さと寒さに耐えられんのは」

「エ、エビ?何でそのチョイスなんだ?お前…水が無いから、そもそも無理だろ」

「え?そうなの?エビなのに?」

「おいおい…寒さで頭イカれたのかよ…」

「イカ?いやエビだって」



突然壊れたアラーケに、キリは深いため息を1つ。



「ミネア~、この患者の頭を治癒してやってくれ」

「………」

「おいミネア?」

「え、あ、はい…すみません、どうか…しましたか…?」

「おいおい…2人共、ちょっと止まれ」



キリに言われた通りに足を止める2人。暗闇ではあるが、2人の方に振り向くキリ。



「ミネア、本当に大丈夫か?」

「大丈夫です…さすがにちょっと疲れただけです…」



荒い呼吸の中にも、微かに笑ったような息遣いも感じられた。



「そう強がれる内はまだいいが、本当に無理だけはすんなよ?」

「はい…わかってます…お気遣い頂きありがとうございます…」

「大丈夫だってミネアちゃん。自分をエビだと思えば」

「エ…エビ…?」

「おい…マジでコイツだけヤバいぞ…頭…」



大きなため息と共にキリは前方に視線を向けると、針の先端程の小さな明かりがある事に気づく。辺りが暗闇だから、小さな光りでも目立って見える。



「おい、お前ら!光りが見えるぞ!」

「え?マジで?」

「本当…光りが…」



薄い緑色のぼやけた光り。だが歩いて辿り着ける光りなのかは定かではない。



「あそこから黄泉路の始まりってやつかな?どうなのさキリ」

「だからオレが知るはずねぇってさっきも言ったろ」

「とにかく進んでみましょう…前進に合わせ、光りが大きくなるなら可能性はありますから…」

「くぅ~…どうか黄泉路は暖かい所であってくれぇ~!」

「よし、行くぞ」



再び歩き出した3人。前に進めば進むだけ光りは大きくなり、この狭く暗い通路の終わりを予感させる。それに光りに近づくにつれ、周りの温度も上がってきているように感じられた。


約1時間かけ、3人は光りの元へと辿り着く。幸いな事に気温は25度前後と思えるもので、適温と言える。むしろ今までを考えると暑いくらいだ。視界的には長い間暗闇の中にいたが、近づく光りにより目は慣らされており、光りに照らされた向こうは容易に確認出来た。



「何だ…この道は…」



先頭のキリが呟くと、後ろにいたアラーケが脇から覗き見る。そのアラーケの視線の先には、ぼんやりと緑色の光りを放つ谷底に照らし出された、足場50センチ程しかない、細く長い崖の道が見えていた。


唖然とその道を見つめるキリとアラーケ。膝に手をつき屈んでいたミネアも体を起こし、細長い道を視界に捉えた。



「何なんですか…この道は…」

「これが黄泉路だと言うのか…」



キリは息を吐き捨てるように呟き、ゆっくりと足を踏み出した。



「キリさん!不用意に進んでしまっては…!」

「大丈夫だ」



人1人がやっと通れる幅。踏んだだけで崩れてしまう可能性も見え焦るミネアだが、その始まり部分は寝そべられるくらい、少しだが広い場所になっていた。


グっと踏み込み、足場を確かめるようにキリが足を出す。そして足場の無事を確認し、ゆっくりと身を乗り出して緑色の光りを放つ谷底を見た。



「っ!な…なるほど…これでここが朧火の黄泉路って訳かい…」



そう言って表情を引きつらせる。キリの言葉に、ミネアとアラーケは互いに顔を見合せ、同時に首を傾げる。まだ狭い通路にいる2人。アラーケは上半身だけを黄泉路に入れた。



「な、なぁ…おれらも行っても大丈夫そうか?」



するとキリは谷底を向いたまま、小さく頷く。



「大丈夫だが、お前らは下…谷底を見る事はあまり勧められないな…」

「下…ですか?」

「な、何かいんのかよ…」



少々へっぴり腰気味に、アラーケも1歩前に踏み出す。



「下って何が――…っ!う、うわぁ…!」



恐る恐る下を向くアラーケの表情が、一瞬にして強張った。


後に続くミネアも、少しビクビクしたようにアラーケの両肩を背後から掴み、そぉ~っと見る……っと、ミネアの表情も強張ると共に、そのアラーケの背中にサっと隠れた。



「っ…!!」



アラーケの背中に小刻みに震える頭をつけ、ゆっくりと目を閉じるミネア。



「ちょっ…大丈夫?ミネアちゃん…」

「…魂という名の朧火……死者達のつくり出す黄泉の路…」



細く伸びた道。挟むように分かれた谷底から放たれる緑の光り。元をよく見ると、その緑の光り体から放つ、各種族の死者達がひしめき合っていたのだ。


腐敗しただれた皮膚に、剥き出しとなる白骨……死者達からもれる小さな呻き声が、洞窟内に反響し不気味な音を発している。


するとキリ達の存在に気づいたのか、死者達は両手を伸ばし、呻き声と共に集まり始める。



「うわぁ!何だよこいつら…呼んでるって訳かよ…」

「決してヤツらの目を見るな……引き込まれるぞ」

「引き込まれりゃ"仲間入り"ってかぁ~。勘弁してくれよォ…」

「そうだな…」



キリは未だアラーケの後ろに隠れたミネアを見た。そしてからかうような笑みを浮かべながら歩み寄る。



「お?ミネア。こんなに大きくなっても、オバケが怖いのかぁ?」



そう言ってアラーケの肩越しに伏せた頭をくしゃくしゃに撫でた。


するとミネアは「きゃ~」っと悲鳴を上げ、逃げるようにアラーケの肩から手を離し、膨れっ面をキリに向ける。



「バ、バカにしないで下さい!ちょっと…びっくりしただけです!」

「ハハ、そうかい。そんだけ元気あんなら十分。このまま進むが、お前らは大丈夫か?」



その問いに、「当然」と笑顔と親指を立てて見せるアラーケ。そして頷くミネア。



「わたし達はもう前に進むしかありません…迷っている時間も…」

「そうだな。だがしかし、この先1番心配なのはミネア…お前だ」

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