P.064 最強の援軍(2)
「リグル…コイツが援軍だと…?」
その問いに頷き答えるリグル。しかしすぐさまブレゴが口を挟む。
「勘違いをするな。たまたま我らと主らの標的が同じなだけ。主らヒューマ族を助けるつもりなど無い」
そう言ってシャクルとリグルに背を向けるブレゴ。
「今日はララグド宮殿王に話しがあり来ただけの事。元々ヒューマ族とは相容れぬ者同士…共戦と呼ぶには等しくは無い」
そう言ってブレゴは首を回してシャクルを見た。
「シャクルよ。なぜザーバスは源珠を集めているのだ?」
「知らねぇよ、んな事は…」
「そうか。ならば理由など要らぬな。ただ相手を殲滅するのみだ」
そう告げるブレゴはそのまま部屋を出ていってしまう。その背中を見送るシャクルはリグルに向いた。
「おいリグル、これはいったい…」
「救援要請を伝書鳩に託した際、彼らがこの地に来てな。彼らの探している源珠を盗んだのは、大聖堂ザーバスだと話した。すると彼らは『ザーバスへと乗り込む』と言い出した。だから『共に行かないか?』っと尋ねただけだ」
「お前何言ってやがんだよ!アイツらは――…」
「わかってはいるさ。彼らは源珠を探す中、多くの破壊を繰り返した……だがそれ以上に今、彼らの戦力は必要不可欠ではないのか?」
「………」
「大聖堂ザーバスは、ヒューマ族最大の国家タスマニカン帝国に匹敵する程の武力を秘めている宗教団体だ。まともにブツかればどちらも無事には済まないだろう……だから今まで警戒しつつも、衝突する事は避けてきた。だが今回は違う。わかるだろ?」
シャクルは応えるように数回頷く。
「マーズって奴の事か?」
「あぁ、そうだ。仮にザーバス首領ネイサーが隊長だった場合、マーズ隊長の人脈は厚いもの…帝国兵団長閣下からも一目置かれた存在。隊長が右と言えば、迷わず右を向く兵がほとんどだ……もし戦う事になれば、自分の味方など無に等しい……そう考えれば、圧倒的に戦力は足りないんだ」
「それなら、ご一緒してもいいかしら?」
突然聞き慣れない女の声が部屋に響いた。
驚くシャクルとリグルは辺りを見渡すと、部屋の入口の壁に寄りかかる1人の女性が、腕組みをしながらて立っていた。
切れ長で鋭い赤い瞳に色白の肌。空色の長い髪をポニーテールにまとめ、尖った耳が覗く長身の女性。肩当て付きの白銀の胸当てに、肘までの同色の手甲をはめ、腰から逆Vの字に垂れ下がる装甲。足元まで装甲に覆われた姿なのだが……ヘソや二の腕、太股は大胆に露出させたアンバランスさ。そして背中には自分の身長よりも長い、刃まで黒の槍を背負っている。
20歳前後ともとれる綺麗な顔立ち、抜群とも言えるスタイルに加え、装甲による"守り"の中の露出具合は目のやり場にちょっと困る……
「誰だ?お前は…」
「ワタシは【リシェリーア=オルセイユ】。皆は【リーシェ】って呼ぶけど…ま、どっちでもいいわ」
おっとりとして、妙な色気を感じさせる艶のある声と喋り方をした【リーシェ】と名乗る女性。
「ま、待ってくれ。オルセイユ…?オルセイユという事は、まさか…」
突然リグルが一歩前に出て、リーシェの胸当てを見つめる。
「おいおいリグル…そんなに胸ばっか見て、変態か?」
「なっ!?バっ、バカな事を言うな!!僕はそんなつもりで――…」
「あら、別にワタシは構わないわよ。減るものじゃないんだし」
「だってさ、副タイチョーさん」
こんな2人にリグルは頭抱え、深いため息を1つ。
「違う。僕が見ていたのは彼女の胸当てに刻まれた紋章だ」
「紋章?」
「これはラーグ貴族の紋章で、王宮に仕える一族…ブレゴ殿が当主であるオルセイユ家の家紋でもある。つまり貴女は…」
するとリーシェはクスっと笑って頷いた。
「そう。ワタシはブレゴの娘よ」
「はぁ!?娘って…お前があの竜の娘?」
「ブレゴさんの亡き奥様は確か同じラーグ族…しかし貴女は見るからにカナフィーリン族。どういう事ですか…?」
すると再びクスっと笑うリーシェは、2人に歩み寄って来た。そしてリグルにグっと顔を近づける。
「カナフィーリン族がラーグ族の父親を持ってちゃ可笑しいかしら?」
「っ!い、いや…それは、まぁ…」
リグルは瞬間的に顔を真っ赤にし、その身を引いて頭を掻く。その姿に、からかうようにクスクス笑うリーシェ。
「単に拾われただけよ。育ての親って事。そんな深く考えないで」
「ではなぜここに?」
「娘が父親について来ちゃいけないのかしら?」
「いや、そういう訳では…」
するとリーシェはくるりと向きを変えてシャクルを見る。
「ねぇ、さっきも言ったけど、ワタシも連れてってくれないかしら?あなた達と一緒に」
「一緒にって…大聖堂ザーバスにか?」
「そ。イイでしょ?」
「まぁ別に構わないが。何で俺達となんだ?親父さんのブレゴと一緒に行けばいいじゃねぇか」
その言葉に深いため息をつくリーシェ。そしてグ~っと背伸びをして、再びため息。
「父ね、ああ見えてけっこう過保護なの。だから私が戦う事をあんまり快く思ってないのよ。今日だってこっそり後を尾行して来たんだから」
「尾行って……それに戦うって、お前戦えんのかよ?そんな細い腕でよぉ」
「えぇ、バッチリよ」
そう言って微笑むリーシェは、シャクルとリグルを交互に見る。すると次の瞬間、突如2人の視界からリーシェが消えた。
「ッ!?」
…――ゴッ!!
そして響いた鈍い音……それはシャクルの正面から拳を放っているリーシェからのものだった。リーシェの拳はシャクルの腕が、顔面ギリギリの所で辛うじて止めている状況。
「ご…合格だな…」
「あら、嬉しい」
引きつる表情のシャクルに対し、満面の笑みのリーシェ。拳が下ろされると共に、シャクルはガードしていた腕を痛そうに振り表情を歪める。
「いってぇ~…ったく、女のパンチじゃねぇぞこれは…」
「うふふ。何なら次は本気でやってもいいんだけど?」
そう言って笑うリーシェは、背負う槍に手をかける。これにはシャクルも呆れ顔。
「おいおい…俺まだ怪我人だぞ…」
「うふふ、冗談よ。あなた、お名前は?」
「シャクルだ。シャクル=ファイント」
「そう、シャクルね。改めて、私はリーシェよ。よろしくね、シャクル」
「あぁ。よろしく頼むわ」
唖然とするリグルを他所に、軽い笑みを交わし握手し合うシャクルとリーシェ。




