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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.05 地底国家
62/122

P.062 分かつ想い(3)

「誰なんだ、それは…?」



一気にキリに集まる視線。



「別に名の知れたヤツじゃねぇよ。大聖堂ザーバスの罪人さ…」

「罪人だと?」

「『宗教の理に反し者は罪を負うべし。黄泉の迷原へと放たん』…これがソイツから聞いたザーバスの教えらしくてな。教えに反した者は、切り立った山脈に囲まれた天然の監獄…カナン湿原に投げ出されるらしい」



ミネアは首を傾げながらリグルに視線を向けた。



「リグル様。カナン湿原はご存知で?」

「実際に行った事は無いですが、名前だけなら。何でも、年中昼夜問わずに深い霧に包まれ、方位磁針も狂わす磁場を持つ湿地帯だと…」



リグルの視線はミネアからキリ、カムラに向き確認をとる。



「まぁオレもカナン湿原は見た事も行った事もねぇ。だが罪人の話しでは、偶然見つけた洞窟からここまで来たと…そしてその道には、死者達がうじゃうじゃいたって言ってたな」

「その罪人の方は今…?」

「来て数日後に死んだよ。かなり衰弱してた上に、だいぶ精神的にもイってやがったからな……黄泉路でやられたんだろ。意味不明に発狂しながら逝っちまったよ」

「………」



押し黙る周囲。微妙な空気が流れ、しばらくの沈黙が訪れた……


リグルは唇を噛みしめ頭を抱える。



「実在するも不確かな死者の道…それに突破したとしても、そこは"死の湿地帯"……そんな危ない道を進むなんて…」

「誰もお前に行けとは言ってない。行くのはオレだ」



笑みすら浮かぶ表情のキリに、今度は驚きの視線が集まる。



「きゅ、宮殿王!?何を言っておられるんですか!?」

「何って、そのままの意味だ。オレがその道を行き、カナン湿原から大聖堂ザーバスに侵入する。そしたらデッカイ花火でも打ち上げてやる。それが合図だ。そしたらリグル、お前は帝国の兵隊連れて軍艦で正面から突っ込んで来い」

「なっ…囮のつもりですか!?」

「囮じゃねぇ。挟み撃ちってやつだ。なんならオレ1人ででも奴らの寝首掻いてやってもいいんだぜ?」



やる気満々の笑みを浮かべるキリの両肩を掴み、カムラがつめ寄る。



「バカを言うなキリ!!賛成出来る訳がなかろう!!」

「悪いな兄貴…こうなったオレは動かねぇぜ。兄貴ならよく知ってんだろ?」

「っ…くっ…!」



確かに知っていた。昔からこうなったキリは動かぬ事を……続く言葉が出てこないカムラは、グっと目を閉じる。


キリは視線をリグルに向けた。



「罪人は4日かけてサカンドラに来たらしい。アスフェド大陸までの距離から見て…歩いてもだいたいそのくらいだ。たぶん朧火の黄泉路は直線通路とみていいだろう。急いでも最低3日はかかるだろうしな……なら決行予定は4日から5日後の日没前まで。それでいいな?」

「宮殿王!!それはあまりにも危険過ぎます!黄泉の道なら自分が――…」

「お前がいなきゃ兵達はどうすんだよ」

「ですが王を危険な目に遭わせる訳には――…」


「でしたらわたしが行きます」



突然口を開いたミネア。そのミネアに全員の視線が集まった。



「その朧火の黄泉路、わたしに行かせて下さい」

「なっ、何を言ってるんだ君は…!?」

「そうだぞミネアさん!今までの話しを聞いていただろう?」

「はい。だからこそ、わたしが1番適任かと思いますが」



まっすぐに見据えた視線に、カムラもリグルも止める言葉を1度呑み込んでしまう。するとキリがゆっくりとミネアに歩み寄る。



「お嬢さん…本気か?」

「主君の為…いえ、友の為に、です」

「そうか…」



キリは数回頷き、突然ミネアのお腹を軽く拳で叩く。



「うっ…?」

「決まりだ。行くぞミネア」

「は…はい!」

「お、おい待てキリ!だったら――…」


「ちょっと待ったァァーッ!!」



突然辺りに響く声。一同が振り返ると、そこには片腕を高々と上げたアラーケが立っていた。



「アラーケ…?いたの?」

「ちょっとミネアちゃん、既に忘れられた存在にしないでよーっ!」

「あ、ごめんなさい…何か用?今忙しんだけど…」

「ちょっ、ちょっとちょっと!何なのその扱い!おれも行くって言ってんのに、その黄泉路ってやつ」

「えっ…アラーケも…?」

「そう!」



そう言いながらキリに駆け寄り、勢いよく頭を下げるアラーケ。



「頼む!おれも連れてってくれ!」

「…にいちゃん、お前は何の為にだ…?」



その問いに頭を上げたアラーケは、ポケットから手の平サイズで、緑色に透き通った綺麗な六角形の石を取り出してキリに突き出した。



「家族の為だ」

「家族…それがか?」

「アラーケ…それは?」

「ウィビの体に埋まってた石だ」

「…あの空飛ぶ船の事か?」



深々と頷くアラーケ。



「仇討ちのつもりか?」

「だけじゃない。おれにとって仲間は家族だ…その家族を守りたい。アヤメちゃんとナックだって助けたい。その為行かせてくれ、頼む」



まっすぐに見つめるアラーケに、キリは笑いながら片方の拳を差し出した。



「気に入った。頼りにしてんぜ、にいちゃん」

「へっ…マジ?」



キョトンとするアラーケに頷いてみせるキリ。するとアラーケの表情は徐々に笑顔になり、嬉しそうにキリと拳を合わせる。



「にいちゃん、名前は?」

「アラーケだ」

「よし、準備があるならしてこいアラーケ。間もなく発つぞ」

「おれならいつでも万全だぜ!」

「ミネアはどうだ?」

「わたしもいつでも行けます」

「ならさっそく行くぞ。もたもたしてらんねぇ」



そう言って歩き出すキリ。アラーケは気合いを入れるように顔をバシっと叩き、キリの後を追う。その姿を見送るミネアが微笑む。そしてリグルを見て、



「リグル様…シャクルをよろしくお願いします」



そう言って頭を下げる。



「…こちらからも…頼みます」

「はい。宮殿王の身もお任せ下さい」

「必ず生きてザーバスで会いましょう」

「はい…ありがとうございます」




◆◆◆――…




 廃墟と化したサカンドラの外れ…灯りすら無き所に、錆びれた鉄の扉が1つあった。松明を灯しながら、幾つも施錠された扉を開ける。すると人が1人通れるくらいの岩肌の洞窟が覗く。


内部を探ろうと松明を洞窟内に入れると、何故かその火は小さくなり、スっと消えてしまう。何度やっても火は消える。これにはキリも舌打ちをして頭を掻く。



「どうやら暗闇の中を進むしかなさそうだなぁ…」

「キリ」



呼ばれ振り返ると、暗い表情で立つカムラがいた。



「何だよ辛気くせぇ顔して…」

「キリ…やはりお前じゃなく、ここは――…」



するとキリは笑いながらカムラの胸を突く。



「学者の体力じゃ無理な仕事だぜ、これは」

「いやしかし…」

「帰ったらオレの事、誰が迎えてくれんだよ…」

「…キリ…」

「いろいろと気にくわねぇトコもあるが、もう家族は兄貴しかいねぇんだ…」

「………」

「帰ったら酒でも奢れよ?そこで話してぇ事もあるからよ。そこじゃ『飲めない』とは言わせねぇからな、兄貴」

「…わかった。なら約束しろ。必ず戻れ、キリ」

「あぁ」



数回頷き、再び黄泉路に通じる洞窟を覗き込むキリ。カムラはしばらくその背中を見つめ、その場を離れた。


ミネアとアラーケは、モルハス族らから食料や水の入った布製の袋を渡されていた。



「すみません、ここまでして頂いて」

「いえ、それはこちらの台詞ですよ。宮殿王の事お願いします」

「はい。お任せ下さい」



そこに歩み寄るカムラ。



「ミネアさん」

「ちょっといってきますね。すみませんが、シャクルにもお伝え願えますか?」

「あぁ、伝えておくよ」

「キリさんの事も、わたしがお守りしますから」

「ミネアさん…貴女は本当に素敵な女性だ…」

「へっ!?な、何を言ってるんですか急に」



突然言われた言葉に、顔を真っ赤にして両手をブンブンと振るミネア。その姿にカムラはクスっと笑い、アラーケの肩をポンっと叩く。



「アラーケ君。男としてミネアさんを守ってやれよ」

「おうよ!もちろんだぜ!」



親指を立て、満面の笑みで答えるアラーケ。



「さて…行くぞ。ミネア、アラーケ、準備はいいか?」

「バッチこいだ!」

「はい」



互いに頷き合い、リグルやカムラ達とも頷き合う。キリを先頭にアラーケ、ミネアと続いて洞窟に入っていく。


洞窟内は両手を広げれば壁に手が届く程狭く、高さも2メートル弱。暗く、妙に冷たい風の感じられる不気味な洞窟。冥界への道と言うにはぴったりな、黄泉へと誘う暗き道。


それぞれに想いを抱き、決戦の地大聖堂ザーバスを目指し動き出した仲間達。



「アヤメ…ナック…今行きますからね…」

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