P.061 分かつ想い(2)
一方外では……アラーケが1人地面に座り、大破して声のしないウィビの残骸を見つめていた。
「ウィビ……なぁウィビ…返事しろよ…」
しかし応える事のないウィビ。アラーケはグっと奥歯を噛みしめ、握る拳を地面に打ちつけた。
「くそっ、ウィビ…師匠…ごめん……ん?」
ふと視線を反らした先…瓦礫の中で何かが一瞬光ったように見えた。腰を上げ、その光りを見た瓦礫に駆け寄り中をあさる。
「っ…こ、これは…」
◆◆◆――…
場所は再び戻り、ベットに眠るシャクルの横に座るミネア。包帯の巻かれたシャクルの頭に両手をかざし、治癒の力といえる薄い緑の波紋を発動させていた。すると突然ミネアの頬に冷たいものが当たる。
「きゃっ!」
驚き見上げた視線の先には、水の入ったグラスを持ったキリがいた。
「おっと、驚かせちまって悪いな、お嬢さん。ほら、ちょっと休め」
「こ、これは宮殿王様!」
ミネアはすぐさま立ち上がり、キリに向かい深々と頭を下げた。するとキリは下がるミネアの頭をペシっと叩く。
これにも驚くミネアはキョトンとした表情を上げ、キリを見る。
「堅いのは嫌いでな。キリでいい」
「えっ、あ…キ…キリ…様…」
「"様"は要らん」
っと言って再び頭を叩くキリ。
「痛っ……え、で、では…その…キリ…さ…さん…?」
「ん~…ギリギリOKだ」
「痛い!OKなら叩かないで下さい」
何度も叩かれた頭を押さえ、キリが差し出すグラスを受け取り、少々膨れっ面気味に頭を下げるミネア。
キリはベット脇の壁に寄りかかるようにし、床に腰を下ろす。
「ありがとよ、お嬢さん」
「え…?」
「怪我人の治療してくれた礼だ。お陰でオレも万全だ」
そう言って冥王の槍で貫かれた脇腹を指差す。だがそこにはまだ包帯が巻かれている。
「万全って…すみません。皆様の傷も完全には塞ぐ事が出来ず…」
「何言ってんだ、オレにとっちゃあ万全レベルだ。それにお嬢さんのお陰で誰も死人が出てねぇんだ。助かるよ、本当に」
「いえ…わたしは…」
俯くミネアの様子に、キリは小さく息をはいた。
「…まだ、姫さんの居場所は掴めないようだな?」
「はい。今、リグル様の隊の方々が調べて下さってるようで…」
「で、姫さんとはどういう関係だ?」
「主君と使用人です」
「そっか…なら心配だよな…」
「はい…主君でもあり、1番…大事な友人で、大切な妹ですから」
「ハハっ、友人に妹か…それなら尚更助け出してやんなきゃな」
ミネアは笑顔で頷き、キリから受け取ったグラスに口をつけた……が、すぐに「ぶはっ!」っと噴き出してむせるミネア。
「ごほっ、ごほっ!!…こ、これお酒じゃないですか!」
「何だお嬢さん、酒は苦手か?」
「苦手と言うか飲めません…普通こういう時はお水ですよね…」
「酒も水も同じだろがよ」
当然と言ったようなキリに苦笑いを返すミネア。するとカムラが部屋の中に入って来た。
「ここにいたのかキリ。捜したぞ」
「おっと、もう1人の"飲めない"ヤツが来たか」
「ん?何の話しだ?」
「いや、何でもねぇよ。そう言う兄貴はどうしたんだよ。捜してたんだろ?オレを」
「あぁ。ミネアさんもちょうどいい。アヤメさんとナック君の居場所がわかったらしく、リグル副隊長が呼んでいたぞ」
「っ!本当ですか!?」
◆◆◆――…
足早にリグルら帝国兵がいる宮殿跡地に来たミネア達。そこで転がる岩の上に地図を広げ、兵士と話し込んでいるリグルがいた。
「リグル様!居場所はわかったというのは本当ですか!?」
声に気づき、振り向くリグル。駆け寄るミネア達を見て小さく頷き返す。
「我が隊の調べによれば、場所はやはり大聖堂ザーバス本拠地のようです」
「本拠地ですか…確か、ここより北にある【アスフェド大陸】でしたよね?大聖堂が建っているのは」
「そうです。50キロ四方の大陸の大半を占める【ドグマ山脈】。その中腹に位置する大聖堂にです」
するとキリがミネアの肩に手を乗せてリグルを見た。
「ならさっそく行くとしよう。場所がわかりゃ、あとは行って潰すだけだ…もちろん、姫さん助けてな」
そう言って肩に置いた手でミネアの背中を軽く叩き、「行くぞ」と言うように頷いてみせるキリ。だが当のミネアはもちろん、リグルも押し黙ったまま地図を見つめている。
「何だ?どうしたんだよ、急に黙ってよ」
「いえ、宮殿王。少々地形に無理があり、容易に攻め入る事が出来ないのです」
「どういう意味だ?」
「アスフェド大陸は山脈に囲まれた大陸であり、一ヵ所だけ船で上陸出来る砂浜があるんです。ですが、それは大聖堂入口の正面。そこ以外からは船での上陸は不可能な地形」
リグルは地図上のアスフェド大陸を指差した。
キリもその指差された位置を見ると、円形に近い大陸だが、一部分だけ窪んだ形をした大陸がそこに標記されている。
「この窪んだ所が唯一進入可能な砂浜。ですが砂浜までは距離があり、突入後から迎撃を事は必至かと…」
「…なるほど…」
苦虫を噛み潰したような表情で数回頷いてみせるキリ。
「大聖堂の後ろには、とても素手では登れぬ程に険しい岩山…難攻不落と呼ばれる自然要塞に守られた建物なんですよ、ザーバスの本拠地の大聖堂は…」
言い終え、悔しそうに歯を喰いしばるリグルに、眉を寄せて俯くミネア。カムラも頭を強く掻きため息を1つ。
「ウィビさんがいれば、空から攻める事が出来たのにな…」
「そう…ですね…」
ウィビの大破に関しては、ミネア自身もショックな事でもあった。黙り込み俯くミネアに更に空気は重くなる。
だがキリは腕を組むなり鼻で笑い、組んだ腕でカムラを突いた。
「なら"下"から行くのはどうだ?」
「なっ…!?」
この発言にはまずカムラが驚き、一拍置いてミネアとリグル、周囲の兵士達が反応。
「し、"下"って…宮殿王…」
「まさか穴を掘って行くとか…ですか?」
それに答えようと口を開くキリを、遮るようにカムラがキリにつめ寄る。
「【朧火の黄泉路】の事を言っているのか?お前は…」
「あぁ、そうだが」
「あの道は封じられたはず…それにあそこは危険過ぎる。通り抜けられる保証も無いだろ!?」
「ま、待って下さいカムラ様!その朧火の黄泉路とはいったい何なのですか?」
すると振り向くカムラではなく、キリが口を開く。
「朧火の黄泉路は、このサカンドラからアスフェド大陸に繋がる天然の地下通路だ」
「そんな道があるのですか?」
「実際はその昔、モルハス族が鉱石の採掘を進めていく中で見つけたものでな。ちなみにアスフェド大陸も、昔はモルハス領の大陸だったんだ」
確認をするようにキリはカムラを見た。カムラはため息混じりに1度小さく頷き、キリの説明を代わる。
「過去の言い伝えでは、死者の魂が冥界へ出発する地がアスフェド大陸…大聖堂が建つ場所だと言われていてな。死者の魂は地下に作られた黄泉路を通り、冥界へと向かう…っとな。だが言い伝えでしかなかった黄泉路は実在した。それは――…」
「あ~兄貴のまどろっこしい説明はいいっつうの」
キリはカムラの肩に手を乗せ首を横に振る。
「ようするにだ。簡単にまとめると、2つの大陸より掘り進めた坑道が、死者の道で繋がったって事だ」
「宮殿王、そこを進むと言うのですか?」
リグルの問いに「当然」と言ったように何度も頷いてみせるキリ。そしてカムラの肩をポンっと叩く。
「それに確証もある。黄泉路は大聖堂ザーバスに直接繋がってる訳じゃなくて、【カナン湿原】に繋がってるらしい」
「カナン湿原だと?…それに"らしい"とはどういう意味だ?キリ」
「数年前だが、その黄泉路を通ってこのサカンドラに来たヤツがいるんだよ」




