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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.05 地底国家
60/122

P.060 分かつ想い(1)



「――…っ…ん……ッ!!」



 ゆっくりと目を覚ましたシャクル。数回のまばたきを繰り返し、ハっとしたように起き上がる。


そこはボロボロのベッドの上。落ち着かぬ様子で、息を乱しながら辺りを見渡す。薄暗い石造りの部屋。所々にはヒビや崩れた跡もあり、椅子や棚なども倒れたままの廃墟とも思える部屋だ。シャクルの頭や体には包帯が巻かれており、数ヶ所血が滲む所もある。



「こ、ここは…うっ!!」



立ち上がろうとした瞬間、全身に走る激痛。するとカムラがシャクルのいる部屋にやって来た。



「お、シャクル君!目が覚めたのか、よかった…」

「…カムラか…」

「まだ寝ていた方がいい。傷は完全には塞がっていないんだ」



そう言ってシャクルの肩に手を置くカムラ。



「他の皆も無事だ。ミネアさんが治癒の力で全員を治療してくれてな。死者は誰1人としていない」

「アヤメとナックは…?」



その質問にカムラは押し黙り、目を閉じて首を横に振る。



「…あれから、どれだけ経った…?」

「3日だ」

「みっ、3日だと!?」



目を見開きベッドから跳ねるように飛び降りるシャクル。しかし降り立つ瞬間、全身を襲う激痛と、力の入らぬ足腰にガクっとその場に崩れ落ちる。



「ぅぐっ…!!」

「おいよせ、その体じゃ無理だ」

「う、うるせぇ!ぐっ…俺が…俺が行かなきゃなんねぇんだ…!」



手を貸そうとするカムラの手を振り払い、床を這うように進むシャクル。



「どうしたんですか――…っ、シャクル!?」



騒ぎを聞いてか、ミネアが部屋の中を覗き込む。そして床を這うシャクルを発見し、慌てて駆け寄る。



「ちょっとシャクル!何をしてるんですか、まだ傷が…」



そっとシャクルの肩にミネアは手を添える。



「うるせぇ……ぐっ…ぐぉぉぉ!」



その手を払い退け、ふらつきながらも立ち上がるシャクル。



「シャクル!」

「はぁ…はぁ…」



辛うじて立ち上がるも、苦しそうな表情は汗に濡れ、滲む血の範囲が広がりを見せている。そして1歩…また1歩と、ふらつきながらも歩き出す。



「っ、くっ…はぁ…はぁ……!」



前方に何らかの気配を感じ取り、シャクルは視線を上げる。するとその前にはミネアが無言のままに立っていた。


よく見れば、ミネアの頭や体にも包帯が巻かれており、表情もかなりやつれた顔つきをしている。先程カムラが話していた通り、治癒の力を多用して消耗しているようだ。



「はぁ…はぁ……どけ、ミネア…」



しかしミネアは首を横に振り、その場をどこうとはしない。シャクルは荒い呼吸のまま、向かい合うミネアの肩に手を置き、押し退けようとする。だがやはりミネアはどく事はない。



「…止まって下さい」

「どいてくれ…」

「駄目です」

「どけッ!!」

「どけませんッ!!」

「俺が…!!」



叫ぶと同時に肩を掴む手に力を入れる。



「俺が行かなきゃいけないんだ…アヤメとナックは俺が助ける…守るって決めたんだ!!この身がどうなろうとも…命に代えても!!」




 パァァンッ!!




突如ミネアがシャクルの頬を平手で打った。



「いい加減にしなさい!!何でも命をかければいいものではないでしょ!!」

「………」

「よく考えてみなさいよ。貴方がその体で救出に向かって何が出来るの…?誰だって結果わかる事でしょ!?」

「それでも…このままにはしておけねぇだろ!!俺がここにいたら意味がねぇ!!」

「今行く事も意味なんて無いわよ!無駄に死にに行くだけ!助ける気も無いならカッコつけるんじゃないわよ!!」

「何だとコラァ!!」



互いに睨み合う中、シャクルはミネアの胸ぐらを掴み上げる。



「ま、待て!落ち着け2人共!」



宥めるようにシャクルとミネアの肩に手を置いくカムラ。だが2人は同時にその手を払う。



「お前はアヤメとナックを見捨てるつもりかよ!!」

「そうじゃない!」

「だったらそこどけ!!俺が行かなきゃ意味が――…」

「バカァ!!」




 パァァァンッ!!




再びミネアの平手がシャクルの頬を打つ。その勢いで胸ぐらから離れた手を払い、逆にミネアが掴みかかる。



「何でもかんでも『俺が俺が』って…悔しいのは貴方だけじゃないのよッ!!」

「ッ…!」

「アヤメやナックを大事に思っているのも貴方だけじゃない…わたしだって…わたしだって今すぐ助けに行きたいわよ!!」



そう叫ぶミネアの目は少し潤んで見え、必死に涙を堪えている表情。



「それに貴方だって大事な仲間なの…命を捨てにいくような真似しないで!」



声と共に、ミネア目から堪えていた涙が零れ落ちる。これにはシャクルも何も言えず、俯き黙り込んだ。


ミネア自身も体力面でも消耗していた為、叫んだ事に苦しそうに息を乱している。



「…冥王は言ってました…『母さんと待ってる』と…おそらく相手方は、シャクルの"父"としての合流を待ってる。それに殺す事が目的ならばあの場で出来たはず……しかし殺す事はなかった。ならアヤメ達はシャクルを呼び寄せる為の存在。そう簡単に手にはかけないはず」



するとミネアはシャクルの頬に優しく手で触れた。



「それにアヤメが…ナックが本当に会いたいのは誰?…貴方でしょう?」

「………」

「貴方の元気な姿…笑顔に会いたいはずよ。わかるでしょ?命に代えてもなんて、貴方は絶対に言っては駄目。必ず生きて、生きて助け出さなきゃいけないの」

「生きて…助け出す…」

「そう。生きて助け出すの…だから今は我慢をして、ね?」



そう言って微笑むミネア。


シャクルは無言のままミネアの笑みを見つめる。徐々に落ち着きを取り戻していたシャクルも1度ゆっくりと頷き、口元を緩ませた。



「シャクル……わっ!」



触れていた頬から手を離すと、シャクルの体がミネアに向かい倒れてきた。倒れてくるシャクルの体を受け止めるも傾くミネアを、カムラが後ろから抱き止める。



「おっと大丈夫か?」

「カムラ様、ありがとうございます……あら?」



もたれたシャクルからは「スー…スー…」っと静かな寝息が聞こえてきた。



「寝たようだな…無茶するからだな…」

「それだけ大切なんですよ、アヤメとナックは」



そっと覗き込むシャクルの耳元で、ミネアは小さく呟く。



「命をかけるとなれば…それはわたしの役目です…」

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