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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.01 序幕の唄
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P.006 世界から世界へ(4)

 そうしてアヤメがランティ城に来ての、最初の夜が明けようとしてた。


あの『ざます』――…じゃなくて、あの先生との勉強はまさに拷問と言える時間でもあった。スタートから4時間、延々と訳もわからない歴史の勉強をさせられた。なんちゃら歴がどうのこうの……開始2~3分くらいで、アヤメの頭はフリーズを越えたビッグバンに襲われ、意識はほぼ無かったといえよう。


そして勉強が終わる頃には夕方となり、夕飯までの2時間は踊りのお稽古だった。…っというより、体が硬いアヤメは柔軟体操だけで2時間終わったようなもの。2時間「痛い痛い」「死ぬ死ぬ」っと連呼し、号泣のまま終わったのだ。


その1日を通してわかった事が1つある。あの【ミネア】と言う女性の事だ。あれはおそらく姫アルシェンのお世話係のような存在なのだろう。城で出会う女性の中でも、際立って綺麗な顔をしており、スタイルも抜群。逆に「あなたがお姫様?」とも言いたくなる程の容姿をしていた。何にしても優しいお姉さんのような感じで、安心できる存在でもある。あの『ざます先生』みたいなのがお世話係だったら……想像したくもないざます。


そしてわからない事に関しては幾つも浮上したが…今の所大きな疑問点は2つ。


1つは文字についてである。ざます先生の持ってきた本に書かれていた文字は、アラビア文字にも似た記号のようなものであった。なのにアヤメは不思議と読む事が出来たのだ。目で見た文字は記号なのに、頭の中では日本語として読める不思議な感覚。そしてその記号文字は書く事まで出来、当然普通に日本語も書ける。自分の気持ち1つで書き分けられたのだ。


そしてもう1つ。今アヤメが名乗る【アルシェン・サン・ヘザフェルト】という存在についてだ。自分と入れ替わってもバレていない……この世界に萱島アヤメが入る為の架空の存在なのか?はたまた実在する存在で、自分と似ているのか?実在するならなぜ現れない?


疑問を上げていくと切りがない程……


だが発見もあった。それは時間や距離の長さなど、ほとんどの単位が地球と同じ概念である事だ。それに時計もしっかりとある。ただし電気は無いようでゼンマイ式のアナログ時計。暦も現代と同じ、1年365日で12ヶ月。別世界なのにここまで地球と酷似していると、不思議と面白くも感じられるものだ。




 そんなこんなでもうすぐ朝を迎える時刻となっていた頃、アヤメはベッドの上で仰向けになり、ボーっと天井を見つめていた。


自分は本当に帰れるのか…そして両親の事も考えると、体は疲れているのに心配で全然寝れなかった。


そしてもう1つの心配事。



「また今日も変なお稽古事するのかな?……あのナックって精霊…次会ったら絶対怒ってやる…」



ふかふかの布団に包まりながら再び窓の外を見ると、朝日は既に山間から完全に顔を覗かせていた。



「お城のお姫様も大変なんだなぁ、いろいろ…」




◆◆◆――…




  …――コンコン!



扉をノックする音で目が覚めた。どうやら少し眠っていたようだ。



「…――ん…はぁい…」

「おはようございますアルシェン様。朝食のご用意が整いましたので、お呼びに参りました」



聞こえるのはミネアの声。



「朝食…?は、はい!わかりました!」



"朝食"の単語にアヤメは嬉しそうにベッドから飛び起きる。



「じゃあ入りますよ?お着替えのお手伝いをさせて頂きますから」

「はぁーい!」



妙に上機嫌なアヤメ。その理由は昨日の夕食のメニューだった。


クリスマスを彷彿とするような大きな鶏の丸焼きに、顔よりも大きな分厚いステーキ。キラキラとしたクリームソースのかかるカレイのような魚の蒸し物…味は良かったから大丈夫な品だろう。そして綺麗に盛りつけられた新鮮なサラダに、トロっとした半透明なあんかけのライスボールピラミッドなどなど…


お城の朝食もきっと豪華なもののはず!っと期待に胸を膨らませながら、ミネアの手を借り着替えを早々と済ませて食事会場を目指すアヤメとミネア。


食事会場は前日夕食を食べた場所。横に5~6人は楽に椅子で座れるくらいの、大きく豪華な正方形のテーブルが中央にあり、2脚の椅子が対面するように置かれている。


入口向いの1脚には既に国王の姿があり、そして部屋の周囲を10名程のメイド達が囲っていた。



「おぉ、おはようアルシェン」

「おはようございます」



先に席に着いていた国王の対面に座るアヤメ。するとミネアが「それでは失礼します」と一礼し、部屋の左手側にある扉の無い出入口から出ていった。昨日はその出入口の向こうから料理が出てきた事を想定すれば、たぶん厨房なのだろうか?奥からは美味しそうな匂いがアヤメのいる部屋まで漂ってきている。


すると2人のメイドが奥から料理を乗せたカートを押してやって来た。そして次々とアヤメの前に料理が並ぶ……が…



「あ…あれ?」



目の前に出されたのは小さいパン3切れにコーンスープ。少量のサラダとゆで卵のような卵が専用のケースに1個立ててあるだけだった。先の次々とは作者の言い過ぎだったようだ……


昨日の料理は確かに食べ切れない程だったけど、これは急に少ないんでは…?そう思いつつも食べた味は確かに良かった。量もアヤメには合っていたが……夜と比べると物足りなくも感じる。


でも食べさせてもらえるだけ感謝しなくてはバチが当たるもの。アヤメは笑顔で「ご馳走さまでした」と両手を合わせる。国王も食事を終え、アヤメを見た。



「それにしてもアルシェン。時が経つのは早いものだなぁ。ついにお前も結婚する日がくるとは…父として本当に嬉しく思うぞ」

「あ~そうですよねぇ、結婚ですよねぇ――…って結婚っ!?」

「ど、どうした?急に大声を出して…」

(そうだ、忘れてた~…)





◆◆◆――…





 そして再び時は流れ、翌日の夕方。アヤメの姿はベッドの上にあった。


ゴロンと寝転び虚ろな表情。お姫様になるという事、立場的ものからしても悪いものではないと思っていた。普通に優雅なお城の生活を出来ると思ったが…日々勉強、そしてお稽古。しまいには婚約者だなんて。


そのお稽古事も結婚の為の花嫁修業。だが別に花嫁になりたい訳でもないし、ただただ辛いだけ。



「もぉ~あのナックのやつ~…こんなならお願いとか聞いてやんないわよ」



待てども待てども当のナックは姿を一切見せない。もしかして騙された?っと何度も思ったが、アヤメにはどうする事も出来ずにこうして待つのみ……それに加え、襲ってくるのはホームシック。



「はぁ…お父さん、お母さん……家に帰りたいよぉ…」




 コンコン!




っと呟いた瞬間、部屋の扉を誰かがノックした。今日予定していたお稽古事は全て終わったはずだし、夕飯にしてはまだ早い。



「はい」

「アルシェン、私だ。入っても大丈夫か?」



これは国王の声。アヤメは体を起こしベッドから降りる。



「あ、はい。どうぞ…」



すると扉は開き、国王が中へ入ってきた。その後ろには大きなケースを持ったミネアの姿がある。



「どうかしたんですか?」

「いや、ちょっとしたプレゼントがあってな」

「プレゼント?私にですか?」

「あぁ。これだ」



国王がミネアを見ると、ミネアは頷いて手にした大きなケースを机の上に置く。



「これは父としての結婚の前祝いだ。受けとってくれ」



開かれたケースの中には、純白の美しいドレスが入っている。



「うわすっごぉい!」



触れた白いドレスはツルツルとした肌触り。触り心地も抜群で、これはもう高級な素材に違いない。それに開いた胸元の装飾も、派手過ぎない程度の小さな宝石が散りばめられている。



「本当にこれ…私にですか…?」

「あぁ、お前にだ。これを着て明日の舞踏会に出るといい」

「明日の舞踏か――…え、明日って?」

「何だ?もう忘れたのか?明日はお前の婚約者を招いた舞踏会ではないか」

「ほぇ?」



キョトンとした国王の視線と、同様にキョトンとしたアヤメの視線が合わさり、同じタイミングで同じ方向に首を傾げる。



「何だ?そんなトボけた顔して。あんなに楽しみにしていただろう」



アヤメはポカンと口をあけたまま全く動かなくなった……名付けて『萱島アヤメのフリーズタイム』。もちろんこのブっ込みはスルーして頂いて結構だ。



「まぁ相手はあの【タスマニカン帝国】の【"皇帝"ザラン卿】の次男、【ファラン"王子"】だ。それは楽しみなのもわかるぞ」



続けざまにきた不明単語…またまたフリーズタイムかと思ったが、アヤメの表情は突然輝いた。



「お…王子?」

「あぁ。次期このランティ王国を任せるに相応しい青年だ。過去に1度王国に来た時に、お前の事をえらく気に入っていたからなぁ」

「お…王子様…」

「明日はその帝国側を招いての舞踏会だからな。少し気合いを入れねばならん。ザラン卿がいらっしゃらないのが残念ではあるが…」

「王子様…舞踏会…」



ボーっと(くう)を見つめるアヤメの頭の中では、素敵な王子と踊る姿が浮かび上がっている。



(王子様…そういう事ならわかったわ、ナック。あと1日くらいなら待ってる…王子様と一緒に待ってるわぁ~…)

「では、そろそろお食事の用意が出来たと思います。行きましょうか」

「そうだな。さぁ行くぞアルシェ…アルシェン?」

「………」



女の子だったら一度は夢見た事があるだろう王子様。超がつくイケメン…イメージではあるが、その王子様と実際に会える。そう、きっと素敵な王子様と一緒に――…Fu~~☆っと、そう考えながらポーっと立ち尽くすアヤメ。


ミネアは遠くの世界に旅立ったアヤメの顔を心配そうに覗き込む。



「アルシェン様?どうかされましたか?」

「王子…王子ぃ~…」

「ア…アルシェン様…?」

「っ、ふぁい!?な、な、何ですか!?」

「お食事のお時間ですので…行きましょうか…?」

「あっ、はい!わ、わかりました」



急いでドレスを机に戻し、国王とミネアに続き部屋を出るアヤメ。夕食会場に向かい、軽いスキップを刻み歩く。



「ご飯ご飯~♪」



あっ、そっち?

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