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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.05 地底国家
59/122

P.059 光の消失(3)

「なっ…マーズだと!?」



これには横にいるシャクルも思わず声が出てしまう。


しかしあのマーズと称されたネイサーは、表情をピクりとも動かさずにリグルとの間合いを広げた。



「…リュカ様。そろそろお時間では?」

「うん、そうだね。そろそろ帰らなきゃね」



ネイサーの言葉に、冥王リュカは数回頷き、未だ苦しそうに呻くアヤメに歩み寄っていく。



「ごめんよ父さん。先に母さんと行って待ってるから」



そう告げると、アヤメの体に渦巻いた黒い影が徐々に円形になっていき、先にアヤメを閉じ込めた黒い巨大な球体となる。


すると突然……



「イっ……イヤァァァァァッ!!」



響き渡るアヤメの悲鳴。



「アヤメェ!!」



その悲鳴に、シャクルは己の体を縛る黒い影を解こうと力を込める。だが動こうとする度に締め付けがキツくなり、微弱だが電流のような痛みが体に走る。



「ぐっ…ぐォォ…っ!」

「よしなよ父さん。下手に動けば死ぬよ、それ」

「うるせぇ…ぐっ…アヤメを…離せェ!!」



体を襲う痛みや締め付けを跳ね返すように、バチバチと音を発てシャクルの体が徐々に動きはじめる。すると突然シャクルの肩口を貫く、青白く細い両刃の剣。



「ぐあっ…!」

「シャクル!!」



リグルの盾から弾く剣をシャクルの肩を突き立てるネイサー。口元に笑みを浮かべ、すぐさまシャクルの肩から剣を引き抜いた。



「"我が子"の忠告はちゃんと聞くもんだよ、シャクル君…」

「マーズ…テメェ…」

「ネイサーだよ、この身の名は…ね!」



そう言いネイサーはリグルに向き直り、笑みを浮かべたままに再び刃を振るう。その斬撃をリグルの盾が次々と受け流していく。


突如肩を貫かれ、再度その身を拘束されるシャクル。そのシャクルに代わり、ミネアが状態を起こしてアヤメに向かう。


ミネアの太股には先に斬られた傷からの流血が見え、足の大半を血に染めている。もちろん痛みはあるのだろうが、気にしないとばかりに全速力で黒い球体に迫る。



「アヤメ!今助けます!!」



走りながらもクルクルと高速回転させたトンファーを両手に構え、球体めがけ振りかぶる。



「また邪魔する気か…」



呟く冥王リュカはミネアに視線を向け、その目を強く見開いた。すると前方に向け瓦礫をも吹き飛ばす衝撃波が撃ち放たれた。



「ッ!きゃあァァ!!」

「ミネア!!」



衝撃波の直撃を受け、ミネアの体は軽々と瓦礫らと共にまた吹き飛ばされていき、弾かれたボールのように地面を転がる。


そしてミネアに遅れ、瓦礫から出ていたアラーケとカムラにも衝撃波の一撃が襲い、2人の体も弾き飛ばす。



「もう1人も、黙ってもらおうかな…」



そう言って振り返るリュカ。幾度もシレイス、ヤナと撃ち合うキリを見、再びその目を見開いた。するとキリの足元より突如突き出す黒の槍。ミネアの足を斬った同様の槍が、キリの脇腹を一気に貫いた。



「ぐあっ!」



貫く勢いにキリの足が僅かに浮き上がり、そのタイミングに合わせたシレイスの蹴りと、ヤナの拳が勢いよくキリの体を吹き飛ばす。


転がるキリに向かい「ピュー」っと口笛を鳴らすシレイスは、ヤナにハイタッチを求めるように片手を上げる。



「ナイスタァ~――…」



しかしヤナの闘争心は止まらない。シレイスには目もくれず、倒れるキリに向かい猛ダッシュ。そして野獣が獲物に飛びつくように再び襲いかかっていく。


虚しく片手を上げたまま、ポカーンっとヤナの姿を見送るシレイス。



「どんだけ戦闘好きよ…」



障害は消え、悠々とアヤメとナックを閉じ込めた球体に歩み寄るリュカ。球体からはアヤメの苦しそうな声が時折もれてくる。



「さぁ邪魔者はいなくなった…」



そう呟き球体に触れるリュカ。



「何をする気だお前!!アヤメとナックを離せコラァ!!」

「父さん…少し静かにしてくれないかい」

「うるせぇんだよ!!早くアヤメとナックを解放しやがれ!!」

「だから父さん、少し――…」

「その名で呼ぶんじゃねぇぇッ!!」

「ッ!!」



リュカは再びその目を見開きシャクルに振り向く。するとシャクルの身を拘束する黒い影が伸び、首に巻きつき強い力で締め上げる。



「ぐっ…!!」

「黙ってくれないかな…父さん…」

「くっ…っ…!」

「せっかく会えた父さんを、これ以上傷つけたくないからさぁ…」



そう言ってシャクルに向かい手を上げた……瞬間、突如辺りに眩い閃光が巻き起こる。



「うっ…!」

「なっ、何だ!?」



その閃光元は黒の球体。光りはすぐに治まるも、元の球体は黒を掻き消し光り続けている。


その光りの中では、気を失ったようにぐったりとうなだれたアヤメとナックが見えた。そしてその真上に浮かぶ、光りに包まれたもう1つの人影が………



『…冥王…』



するとその人影からの声が辺りに響く。その声にシャクルの表情がハっとなる。



「こ…この声…まさか…」



見上げる視線の先…人影の放つ光りは目を覆う程ではない。むしろ逆に人影を照らしているかに思える優しい光り。巫女のような着物姿に長い黒髪を1つに束ねた女性の影。



「エ…エル…セナ……エルセナァ!!」

『シャクル…』



光りに包まれた人影はエルセナ。名を呼ぶシャクルに向き、優しい笑みを投げかける。すると突然リュカが頭を抱え、苦しそうな素振りで倒れ込んだ。



「くっ、くぅぅ…っ!!…ど、どうして邪魔をするんだ…母さん…」



するとエルセナはグっと目を閉じ、唇を噛みしめながらリュカを見下ろした。



『…冥王……あなたの好きにはさせない…』

「くっ……クソォォォォッ!!」



叫ぶリュカは、地面から両手で何かを引き抜くような動きを見せ、その手に身の丈程の黒に染まる両刃の大剣を出現させる。そして大剣を地面に力強く突き刺した。


すると地面に黒い稲妻のような光りが走り、リュカの周囲に不思議な魔法陣を描き出す。



「母さんも…母さんも黙ってくれよォォォォッ!!」

『うっ…!!』



するとエルセナの体にも黒い稲妻が襲い、その顔を苦痛に歪める。



「エルセナ!!」

『シャクル…!』

「ウアァアァァァッ!!」



地面に突き立てた刀身を更に埋めるように、リュカは叫びながらもその手に力を込めていく。するとリュカの体も黒の強い光りの中に消えていき、未だ動かぬアヤメとナックをも呑み込んでいく。



「ア、アヤメ!!ナック!!」

『シャ…クル…ッ!!』

「エルセナ!!」



黒の光りは徐々に広がり、エルセナの体をも呑み込んでいっている。



「エルセナ!…行くなエルセナァ!!」

『シャクル…シャクルーッ!!』



エルセナの声が響いた一瞬、




 ―――…ドッ!!!!




辺りを黒い光りのフラッシュが巻き起こり、再び強い衝撃波が襲いかかる。衝撃波を受けた途端にシャクルの身の拘束は解け、勢いよく吹き飛ばされるシャクルの体。


衝撃波はかつてない波動で周囲の瓦礫をも一掃する強さ。もろとも吹き飛んだシャクルの体は、奇跡的に瓦礫に埋もれる事なく、その上に落下する。


全身を強く打った痛みで体はすぐには起こせない。視線だけを前方に向けると、5~6メートルはあろう巨大な黒い球体が浮遊しており、冥王や三大神官、もちろんアヤメとナックの姿も無い。



「くっ……冥…王…」



するとシャクルの後方から積み上がった瓦礫の崩れる音が響き、辛うじて回る首を向けた。


そこにいたのは、ぐったりとしたミネアとカムラを両肩に担ぎ上げたアラーケ。頭などから流血は見えるが、2人を担ぎ球体を睨む。だがアラーケは、球体から更にその奥の存在に気づき、ハっとしたように目を見開く。



「ウィ…ウィビ!!」



その声の先には、掃かれた瓦礫の中に転がる木製の女神像のウィビ。既に体にはヒビが入り、胸より上の部分だけが原型を留めている状態。



「ア…アラー…ケ…」



途切れ途切れで弱々しい声だが、確かにウィビが動いた……瞬間、大きな岩がウィビの体の上に転がり落ち、木材の割れる渇いた音を響かせその身を砕く。



「ッ!!ウィビィィィッ!!」


「ねぇ父さん…」



すると突如、球体からリュカの声が聞こえた。



「母さんはもらっていくよ。だから父さんの事、待ってるから…」

「な…何だと…」



しかし返事は無く、球体は渦を巻きはじめ、大気中に吸い込まれていくように小さくなっていく。



「まっ、待ちやがれ…!!」



咄嗟に起き上がろうとするも、全身の痛みから身動きが出来ず力も入らない。



「待てって言ってんだろうがァ!!」



シャクルの声に反応するように、呆然とするアラーケの肩に担がれたミネアが顔を上げる。もうろうとする意識と目で、消えゆく球体を見たミネア。



「…アヤ…メ…」



その対面側の離れた位置で、瓦礫の間で剣を地面に突き立ち上がるリグル。



「…マーズ…隊長…」



しかしそれぞれへの返事は無いまま、球体は拳程の大きさとなり、そして音もなく消えていった。



「待て…アヤメ!!ナックーッ!!」





シャクルの声は滅びた地下帝国サカンドラ内に反響し、虚しく響き渡る。

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