P.058 光の消失(2)
アヤメを呑み込んだ黒の球体に弾かれたミネアとアラーケ。その傍にいたのは、遅れ駆けつけたカムラだった。
「大丈夫か!?ミネアさん、アラーケ君」
「カムラ様…!?ウィビに向かったのではないのですか?」
「向かったのだが、ウィビさんが上空を飛び去っていったもので、追ってきたんだが……これは…」
カムラの目にも映る黒い巨大な球体。
「あの中にアヤメが!」
「何だと!?」
「おれらでブっ壊してやんぞ!!ナック…ってあれ?」
立ち上がり辺りを見回すも、ナックの姿は無い。ハっとして見るのは黒の球体。
「まさかナックのヤツ…!?」
すると黒の球体に青白い電流のような光りが走り、その黒を薄めると共に、中にいるアヤメの姿を映す。
アラーケの予想通り、ナックの姿は球体の中にあり、アヤメの肩でその身を青白く光らせている。その光りはアヤメの体にも伝い、同様の光りを放っていた。どうやら球体は収縮しているのだろうか、アヤメは両手を広げて必死に堪えているように見える。
「へぇ…やるね、母さん。光の精霊も…」
「アヤメ!!ナック!!」
ミネアが駆け寄ろうと立ち上がると、アヤメとナックの帯びる光りが、突然爆破したような閃光を放つ。
そして己を呑み込もうとしていた黒の球体を打ち消し、瞬間的に形成させた光の弓矢を構え冥王を狙う。
「待ってナック!!私は別に戦うつもりじゃなくて…!」
『何を言ってるんだよマスター!!戦うんだよ!』
「でもそれじゃあ…」
『マスター!!前!!』
「えっ!?」
向き直る視線の先、冥王は地に片手を付きアヤメを見据える。その周囲に広がる先と同様の黒に染まる禍々しいオーラ。一瞬アヤメの背筋に悪寒が走った、次の瞬間……
ッ…ドックン!!
「うっ…うあぁぁぁッ!!」
突然アヤメの頭を激しい痛みが襲う。
『マスター!?…ッ、うぐぁぁぁぁッ!!』
その激痛は弓となるナックへも流れ込む。そして悲鳴と共にアヤメの体が青白く光り出し、周囲を黒の渦が巻きはじめる。その悲鳴と光景にミネアがすぐさま走り出す。
「アヤメ!!ナック!!」
しかし、ドンッ!!っという爆発音に合わせ、アヤメを中心に衝撃波が巻き起こり、冥王以外の人々や周囲の瓦礫をも一気に吹き飛ばす。
近くにいたミネアとアラーケとカムラも、その衝撃に瓦礫と共に地を転がる。それはもちろんシャクル達も襲い、シレイスと競り合うまま吹き飛ぶ2人の体。しかしその体はすぐに別々の"何か"によって止められた。
シャクルもシレイスも「何だ!?」っと見上げると……シャクルをキリが。シレイスをヤナが自らの武器を地に刺し堪え、2人の体を受け止めたのだ。
「あ、あんた…」
「大丈夫か?坊主」
「おっと、サンキュー、ヤナ」
「む…問題無い」
起き上がりながらキリの肩を「ナイス」的な意味合いで軽く叩き、アヤメに向かい走り出すシャクル。
「アヤメ!!」
呼びかけるも未だアヤメの状態は変わらず、青白い光りと黒の渦に巻かれ苦しそうな悲鳴を上げている。その前に立ち、アヤメの苦痛の元凶と言える冥王の背中めがけて手にした剣を突き立てた。
「ヤメねぇか!この野郎!!」
剣が冥王の背中に突かれる瞬間、スッ…っと消滅したかのようにシャクルの視界から冥王の姿が消える。そしてすぐさま背後に感じられる気配。振り向こうにも、突如体に巻きつく黒の影。手足の動きが一瞬にして奪われ動けない。
「ぐっ…!」
「…ねぇ父さん?」
その声…冥王はシャクルの真後ろにいた。だが首を回せぬ状態。その目で確認が出来ない。
「やっと会えたね…父さん」
「っ…!」
「父さんもさ、僕と一緒に来てくれるんだろ?」
「………」
「父さん?」
「うるせぇよ…」
「え?」
「俺はお前を倒しに来てんだよ…」
そう言ってシャクルの視線がアヤメに向く。
「それに…母ちゃんを苦しませるようなバカ野郎は…ブっ飛ばして、それで終いだ…」
「…そっか。なら――…」
「んっ、だアァァァァァッ!!」
っと冥王の言葉を切るように響くアラーケの雄叫び。その声に合わせるように、離れた位置の巨大な瓦礫が持ち上がる。するとその土煙の中から、飛び出してきたのはミネア。そして少し晴れた土煙から見える、巨大な瓦礫を持ち上げるアラーケとカムラの姿。
「ミネア!?」
「アヤメは任せてシャクル!!」
しかし冥王は慌てる素振りなく、片手をミネアに向けて突き出した。
「邪魔しないでよ…」
呟く声に合わせ、走るミネアの足元から音もなく突き上がる黒の槍。槍はミネアの太股を斬り天に飛ぶ。
「うっ…!」
突然の衝撃にミネアの状態が崩れ転倒してしまう。ミネアの名を呼ぼうとした瞬間、シャクルの背後から武器の撃ち合う音が響き、続くようにキリの声が上がる。
「行けリグル!!」
少し回った視界に映るのは、キリが両手の石刀でシレイス、ヤナの武器を受け止めた状態で、冥王めがけ剣を手にしたリグルが走る姿。
「2人を解放しろ!!」
「…また邪魔者かい…」
ため息混じりに呟く冥王。しかし迫るリグルに振り返る事なく前を見ながら言葉を続けた。
「頼むよ、ネイサー」
すると突然、シャクルの真横に姿を現す仮面の男ネイサー。気配すらなく現れたネイサーに、シャクルはもちろん、リグルも驚きの表情。
「仰せのままに…冥王【リュカ】様」
「"様"はいいよ。リュカでいいんだって」
「王とは仰ぎ頂くものですから…」
そう言うと一瞬の踏み込みで瞬間移動のようにリグルの前に立つネイサー。
「なっ…!」
「相手の動きにいちいち動揺してたら切りがないよ…君…」
「くっ!」
突然入った攻撃間合いに、リグルの剣が斜めの太刀筋で振り上がる。
ガギィィィィンッ!!
響き渡る剣同士の撃ち合いの音。
間合いに入ったネイサーは丸腰に見えた。ならば今自分の剣と撃ち合っているのは、ブレイバー型として作られた剣か…っと見た剣に、リグルは思わず息を呑む。
「そっ…その剣は…」
「おやおや、つい出しちゃいましたか…」
ネイサーの手に握られていたのは、鍔の無い白く柄だけの代物。柄の方には青い水晶玉が埋め込まれ、そこから伸びた刀身は、限りなく透明に近い薄い青の細い両刃。
「これは…この剣は【水流刀】…水流刀を使える人物は…ただ1人しかいないはず…」
剣の競り合いを忘れたように、驚きに満ちた表情でネイサーの目を仮面越しに見つめるリグル。
「…最初は声でバレるかとも思いましたが…」
「まさか…まさか貴方は…」
完全なる好機にもネイサーはあえて出ず、姿勢をそのままにリグルに向かい笑みを作ってみせる。
「見てはいけないものを…知ってはいけない事を知ってしまいましたね?リグル君…君は…」
「や…やはり…」
「おっと、それ以上の発言は認めないよ……っ!!」
そう言ってリグルの剣を一瞬にして弾き飛ばし、ネイサーの放つフェンシングのような突きが心臓を狙い迫る……が、突如リグルの左腕が赤く燃え上がる炎に包まれ、楕円の盾を形成させた。火に水が触れた時の「ジュッ!」っという音を発し、ネイサーの突きをリグルの炎の盾が受け止める。
「なにもブレイバー型は武器だけではない…副隊長として、貴方に真意を問いたい…マーズ隊長」




