P.055 緋の急襲(1)
シャクルは未だ互いにペコペコし合うアヤメとリグルの元に行き、とりあえずアヤメの頭が下がった所を掴んで止める。
「ふぎゃ」
「お前がヤメなきゃ副隊長さんがヤメれねぇだろ、バカ」
「バカとはなんだぁ~離せーっ」
お辞儀したまま両手をバタつかせ、なんとか起き上がろうとするアヤメ。しかしシャクルは頭を掴んだまま離さない。
その光景にリグルは対処に困りあたふたしている…っと、ミネアがリグルに歩み寄る。
「騒がしくてすみません」
「あ、いえ。しかし、これは止めなくても…?」
「いいんです、いつもの事ですから」
「おう。いつもだいつも」
「副隊長さん!やっぱり逮捕して~!この男だけ~逮捕~っ」
そのやり取りを他所に、キリはカムラに向いた。
「しかし何だ…ランティ城の姫さんに、指名手配の2人。ずいぶんと賑かなヤツら連れてきたな…何かしたのか?」
「あぁ、ちょっとな…今回はお前に、双塔ゴルブルの鍵を借りに来たんだ」
「双塔ゴルブルのだと?」
怪訝な顔つきでカムラを見るキリだが、すぐさま視線を外して鼻で1つ笑う。そして首からネックレスとして下げていた鍵を取って、カムラに投げ渡す。
「ほらよ」
「おっと。すまんな、少しの間借りさせてもらう」
「返さなくてもいい。幻の天空都市か…まだあんなもの信じてんのかよ」
「もちろんだ。わたし達の先祖が辿り着いた場所だぞ?信じない訳が――…」
「ハマナの事だが…」
カムラの言葉を切り、背中を向けたキリが口を開く。
「…聞くだろ?」
そう言ってカムラに視線だけを向ける。するとカムラは押し黙るように目を閉じ、首を横に振る。
「いや、いい。何となくだがわかる」
「…どこまでわかった上で言ってんだよ……オレが…オレがハマナを殺したって事までか…?」
「っ…!?」
その言葉に目を見開きキリを見るも、再びゆっくりと目を閉じるカムラ。
「やはり死んでいたか……お前の事だ。守れなかった事を『殺した』とでも言うんだろ…そう言うな。誰のせいでも無いはず…自分の傷を深めるような事を言うものではない。お前が1番悲しいのはよくわかってる」
「…よくもまぁ冷静に言えたもんだ…」
小さく呟くキリに、「ん?」っとカムラが視線を送る。
「オレが1番悲しい?……ハマナの気持ちを知った上で言ってんなら、こんなに残酷な事はねぇな…」
「…どうした?いったい何の事を言っているんだキリ」
「"そういう事"はわかりません、ってか…兄貴のそういう所が気にくわねぇんだよ…」
するとキリは完全に背を向け、カムラの元から離れていく。
「お、おいキリ!」
呼びかけるも、キリは振り返る事はない。
「いったい何だと言うのだ…」
その場に立ち尽くすカムラは、ただ呆然と離れていくキリの背中を見送った。
◆◆◆――…
その頃アヤメはようやく頭を解放され、シャクルに対し無言で抗議の視線を送っていた。しかし当のシャクルはアヤメの視線を無視するようにミネアに向く。
「アイツら…一国を壊滅させるような力持ってやがんだな…」
「よくよく知らない団体でしたが、怖いものですね…正面をきってブツかる事は避けるべきですね。今後は出来るだけ」
「だな」
するとアヤメは、ミネアの後ろに隠れながら顔を出してシャクルを見る。
「でもさ、シレイスとあの大きな人ならもう倒したし、もう大丈夫なんじゃない?」
「何が大丈夫なんだよ。まだまだあんな奴らがいるかもしれねぇんだ、ザーバスには」
その会話に、リグルと歩み寄るキリが反応する。
「『倒した』って…君達が奴らを…?」
「あぁ。ま、何度か…つうか2回か?闘り合ってな。今頃はエクシラの牢屋の中さ」
「な、何?」
「ウチのお姫様が、シレイスとヤナって2人をブっ飛ばしたんだよ」
すると一気に視線がアヤメに集まる。
「ちょっ、ちょっとシャクル!」
「そうかい…ありがとよ、姫さん」
そう言ってキリは嬉しそうにアヤメの背中をバンっと叩く。叩かれたアヤメの体は、その勢いに負けて前に立つミネアの体に激突。
「あ痛っ」
「おっと悪い悪い」
「さすが宮殿王。噂通りの豪腕ですね」
叩かれたアヤメの背中を擦りながら苦笑するミネア。対するキリの表情もミネアと同じように苦笑する。
「豪腕…そう言われようとも、国や同胞の命も守れねぇ…オレの腕には何の意味も力も無い…」
「あ、いえ…そのような事は…」
「ハハ、すまないなお嬢さん…どうも女々しくなって駄目だ…」
そう言ってリグルを見るキリ。
「鉱石の貿易でたまたま来ていたリグル達のお陰で、何とか全滅は免れたんだ。本当に感謝してる」
「いえ、帝国部隊としては当然の事です。ですが、アルシェン姫?」
「あ、はい」
「姫君がザーバスの者と戦った際、ワーグの軍勢も一緒ではありませんでしたか?」
アヤメはキョトンとし、ミネアを見て首を傾げる。その表情からはおそらく「ワーグって何だっけ?」っと言っているようだ。ミネアは「わたしが代わりますよ」と言うようにアヤメに笑いかけ、リグルに向いた。
「わたし共が戦った時には、ワーグは一緒ではありませんでした。別に襲われた事はありましたが……今回の件、ワーグも共にという事ですか?」
リグルは頷き答えた。
アヤメは抱きかかえたままのナックに小声で話しかける。
「ワーグって、あの気持ち悪いゾンビの事だよね?」
「うん、そうだよ」
一応まだぬいぐるみ設定のナック。完全に露出のタイミングを逃していた…
「やっぱり冥王と関係があるのかな?ワーグって」
「無いとも言い切れないね。闇は冥界の力でもあるから、死者を操る力もあるはずだからさ」
「うぇ~…ゾンビ気持ち悪くてヤダ~…」
ナックを抱きしめシャクルに向くと、隣のアラーケが辺りをキョロキョロと見回していた。
「どうしたの?アラーケ」
「いや~気のせいかな…何か外が騒がしくないか?シャクルも聞こえんだろ?」
「ん?…いや、俺には何も聞こえねぇけど」
するとそこにカムラが歩み寄る。
「確かに聞こえるな」
「だろ?」
同意し合う2人に対し、外に向かい耳を澄ますアヤメとシャクル。だが何も騒がしい音など聞こえない。
「なぁに、ただ種族間での五感力の違いだ。ヒューマ族よりモルハス族は聴力が発達しているんだ。だから――…」
そう言いかけ、カムラはアラーケを見る。アラーケは「ん?」っとカムラを見つめ返す。
「…いや、何も言うまい…」
「えっ、何をよ!?」
「アラーケお前…」
「前から人とは違うと思ってた…」
「あれ?何この疎外感…」
すると今度はキリが反応する。
「っ!何だ…」
「どうしましたか?宮殿王」
「この音…それに血の臭い…また奴らか…!?」
歯を喰いしばり言う言葉と共に、鋭い眼光を外に向けるキリ。
すると外から金属がブツかり合うガシャガシャと音が聞こえはじめ、その音が大きくなっていくと、1人の甲冑姿の帝国兵士がアヤメ達のいる建物の入口に立つ。
「副隊長!!」
焦ったように叫ぶ兵士の甲冑には、大量の血が付着しており、その顔も頭からの血に半分を染めていた。
「ど、どうした!?」
「奴らです!!正門からワーグの軍勢が再び――…ぐあッ!!」
言葉の途中、一閃の矢が兵士の首を横に貫いた。咄嗟に両手で顔を覆うアヤメ。するとミネアが倒れた兵士に駆け寄り、矢の刺さる首に両手をかざす。
「大丈夫ですか!?今治療します!」
するとミネアの両手が薄い黄緑色の光りを放ち、周囲に2メートル四方の同色に輝く波紋を広げはじめた。
後に続いて駆け寄るリグルがミネアの横に片膝をつく。
「君は治癒術師だったのか…助かる」
「初めて使う力ですが…」
「彼を頼む。では宮殿王はここで待機を――…」
「また来やがって!くそッ!!」
キリはその言葉をまるで聞いてない様子でリグルの横を駆け抜けて行く。
「宮殿王!!危険です!!…っ…君達!ってうわっ!」
振り返るリグルの目の前にはシャクルが立っており、お互いに驚きのリアクション。
「なっ…驚かさないでくれないか」
「あ~悪ぃ。それより行くんだろ?手ぇ貸すぜ」
「何だと…?」
疑問の眼差しのリグルに1度頷いてみせ、アラーケに向くシャクル。
「アラーケ。アヤメとカムラ連れてウィビで待機していてくれ。ヤバそうなら先行け。改めてエクシラ集合だ」
「待機はわかったけど、シャクルはどうすんだよ?」
するとシャクルはリグルに視線を戻し、肩をポンっと叩く。
「そん時はエクシラまで頼むわ」
「は?」
「送ってくれって事。いいから行くぞ、副隊長さんよ。何か音がデカくなってきやがった」
その言葉通り、打ち鳴らされる金属音が確かなものとなり耳に届いてくる。
「俺らが出た後にお前らも行けよ、アラーケ。ミネアは治療が終わったらウィビに走れ。1人でも行けるか?」
「わたしなら大丈夫です。でも必要とあらば加戦致します」
「そこは任せる。行くぞ」
そう言って再びリグルの肩を叩き走り出すシャクル。
「おっ、おい待つんだ!おい君!」
その後を慌てて追いかけるリグルが共に部屋を飛び出して行った。
アラーケはカムラと視線を合わせ、「行くぞ」と言うように互いに頷く。そしてアヤメを見た瞬間、飛び上がるナックと共にアヤメも部屋を飛び出して行く。
「ちょっ、ちょっとアヤメちゃん!」
「ごめん!先に行ってて!」
驚くアラーケは1度ミネアに視線を向ける。
「アラーケ追って!お願い!」
未だ治癒の念を兵士に送るミネアの声に、アラーケは数回頷き走り出す。
「カムラ様、すみません。治療が終わったらわたしとウィビに」
「あ、あぁ…すまない」
「アヤメ…どうして…」




