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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.05 地底国家
54/122

P.054 地下への上陸(3)

 声が聞こえた方向からは、複数の足音と甲冑の擦れ合う音がカシャカシャと聞こえる。


その場の全員が音の方向に向くと、複数の甲冑姿の兵隊がこちらに向かい歩いてきた。その先頭にはヒューマ族の黒い髪の青年が1人。青い軍服姿で、腰には1本の剣下げ立っている。


挿絵(By みてみん)


「ララグド宮殿王。ここは自分が…」



そう呟くと青年は腰から剣を抜き、両刃の切っ先をシャクルとミネアに向ける。距離にして3メートル程…その気になれば斬り込める間合いだ。青年の後ろに立つ兵士達も、手にした剣や槍をゆっくりと構える。



「な、何だよあいつら…?」

「あの甲冑…紋章…エクシラにいた部隊と同じ隊です…」

「さすがランティ城に属しミネア=リステナ。よく知っていたな。そしてシャクル=ファイント…お前達罪人はここで終わりだ!!」



優しい顔立ちからか、睨む眼からの"凄み"こそ感じられぬ…だが隙はない。不思議とその場に縛られたように身動きがとれない。


未だ構えるキリと青年を交互に見、舌打ちを1つするシャクル。



「ここに来ても手配書かよ…ったく面倒くせぇ」

「すぐにアルシェン姫を解放しろ!そうすれば命だけは助けよう」

「解放って…ちょっと待って下さい!」



シャクルに向けられた青年の剣の前にアヤメが立つ。



「よせ、バカ」

「あーの!状況がよくわかりませんけど、解放も何も私は私の意志でここまで来たんです!」

「おいよせって」



引き戻すようにアヤメの腕を引くシャクル。しかしアヤメは腕を振り払い、再び青年に向かう。するとミネアが小声で呟く。



「待って下さい。ここはアヤメに任せて、姫という事で通しましょう…その方がいいです」

「…大丈夫かよ、あいつで…」



そうは言いつつミネアも不安そうにアヤメを見つめた。



「し、しかし姫君…貴女様はこの不等者に誘拐されたと…」

「だから違うの!そう言うアナタは誰なんですか?兵隊だか帝国だか何だか知らないけど、私達の邪魔しないで下さい!」

「じっ、自分はタスマニカン帝国軍本部マーズ隊所属、副隊長を勤めます【リグル=バイスン】です。決して邪魔などは…」



整理のつかぬ流れに加え、王族に突然怒られる状況に軽くパニック気味の【リグル】と名乗った青年。



「ん?バイスン?…どっかで聞いたな…」



そう首を傾げるシャクル前を突然何かが横切り、リグルの足元で転がった。何だ?っと全員が見ると、転がるのは2本のトンファー。ミネアの武器だ。



「ミネア、何してんだよ…?」

「このままでは話しが進みません。武器は預けますし、抵抗する気もありません」



そう言ってシャクルを見、リグルに視線を向ける。



「投降致しますので、お話しだけでもお願いできませんでしょうか?」

「…そういう事ね…」



シャクルもひと息はき、リグルの足元に剣を投げた。



「…わかった。では話しを聞かせてもらおう。宮殿王、彼らは我々に預けて頂けませんか?」

「あぁ、構わんが…いい加減『宮殿王』はヤメろ。キリでいい」

「あ、ありがとうございます…さぁ、連れて行け」



その声と共に、周囲の兵士達がシャクルとミネアを槍を構えて囲み、2人を連行していく。



「シャクル!ミネア!」



後を追おうとするアヤメの腕をアラーケが掴み止める。



「ちょっと離してよアラーケ!」

「待ったアヤメちゃん。先方は話し聞いてくれるって言ってんだ、だからたぶん大丈夫だって」

「でも…」

「ボクも大人しくしてた方がいいと思うよ、マスター」



2人に言われ、渋々だが頷き大人しくなるアヤメ。するとそこにリグルが歩み寄る。



「さぁ、行きましょうか。アルシェン姫」



優しく微笑み、「こちらへ」と手で促すリグル。しかしアヤメは振り向き様に舌をベーっと出して背を向ける。



「ひ、姫…?」

「行こうアラーケ。ほらカムラさんも」



呆然とするリグルに振り返る事なく歩き出すアヤメ。その後をアラーケが慌てて追いかける。


カムラは立ち上がり、白衣の土を払いキリに歩み寄った。



「キリ…」

「…この地を攻撃したのはアイツらじゃねぇ。味方だ、帝国は…」



そう言って背を向けるキリ。



「さっきは…殴って悪かったな…」

「いや、それは別にいい。だがこれは…」

「悪い…オレ自身、もう少し落ち着いてから話す…まだいろいろと整理が出来てねぇんだ…」

「ハマナはいるのか…?」

「…それも後で話す…」



そう言ってキリもその場を歩き去る。


キリの背中を見送り、見渡す周囲には誰もいない。再び視線を回して滅びたサカンドラを見上げる。



「いったい何が起きたんだ…」




◆◆◆――…




 数分後…アヤメ達は建物が無事なエリアで、少し大きめの建物内の一室にいた。


薄暗く石造りの壁や床から冷たく重苦しい空気の漂う、20畳以上はあろう部屋。中央にはシャクルとミネアが床に座り、向かいにはリグルが立つ。その周囲をぐるりと槍を構え兵士が囲んでいる、重々しい雰囲気だ。


その輪から少し離れた壁際に立つアヤメ達とキリ。アヤメは不安げにナックを抱きしめ、シャクルとミネアを見つめる。その見つめるミネアが全ての経緯を話していた。ただ全ての真実は明かさず、大聖堂ザーバスにより城が支配され、アルシェン姫を救う為にシャクルと協力して城から連れ出した…っと。冥王に関する事はあえて話さず、旅の経緯を話しているとキリがアヤメ達に近づいてきた。


先程の剣幕もあり、ちょっと怯えたように身を強張らせるアヤメは、数歩後退りカムラの傍に寄る。その心情に気づいてか、あえて少し距離を空け、腕組みをして壁に寄りかかるキリ。



「なぁ姫さん。アンタらも大聖堂ザーバスの被害者って訳か?」

「え?…『も』って…」

「おいキリ、それってまさか…この地を襲ったのは…?」

「あぁ。その大聖堂ザーバスの連中だ」

「なぜ奴らがこんな所を襲ったのだ…?」

「源珠だよ。宮殿に奉られた地の精霊の根源、【地郷源珠(ちごうげんじゅ)】を奪っていったんだよ。アイツらは」



唇を噛み締めたキリは組んだ腕を解き、寄りかかった壁を殴りつける。ゴッ!っという音と共に壁にヒビが入り、周りの全員が驚いたようにキリに向く。


するとキリはシャクル達を囲う兵士の輪に歩み寄る。そして兵士の間を通りリグルに向いた。



「なぁリグル、コイツら2人解放してやってくれよ。んでオレに預けてくんねぇか?」



そう言ってシャクルとミネアの間にしゃがみ込み、2人肩を掴む。


突然の提案にリグルはもちろん、シャクルとミネアも戸惑いの表情を浮かべキリを見た。



「何を言ってるんですか宮殿王…彼らは誘拐犯として――…」

「だからコイツらは誘拐してねぇって言ってるじゃねぇか。現に姫さんもこうして無事なんだし、被害を広げてんのはザーバスって事だ…逆に姫さん救ってんじゃねぇのか?これは」

「しかしそれは真実かどうかは確かめてみないと…」



突然話しに割って入るなり、手配書の出回る世間的犯罪者を庇うキリ。シャクルとミネアはどうする事も出来ずにキョトンとするだけ。互いに見合い、「とりあえず黙っておこう」と視線で確認し合う。



「確かめてる時間なんてあんのかよ?んな事してる内に、ザーバスはまたどっか襲ってるかもしれねぇんだぞ?それにコイツらの眼…腐った犯罪者の眼はしてねぇ。だから大丈夫だろ?」

「そんな根拠の無い事…」



種族は違えど、むちゃくちゃな事を言う王を相手に強く言い返せぬリグル。困り果てた表情を浮かべて視線を泳がせる。


普通に考えればリグルの言い分の方が道理が通っているような気がするが…これはチャンスとばかりに、リグルからすれば権力者のアヤメも参戦。



「私は誘拐なんてされてませんし、2人は私を守ってくれてるんです」

「ほらな。姫さんもあぁ言ってるじゃねぇか」

「だからもう2人を解放して下さい。私達の邪魔しないで下さい」

「そ、そんな我々は邪魔などは…」

「邪魔なの!この時間が邪魔ーっ!」

「っ…ひ、姫…」



さすがにこの権力者のWパンチに黙り込むリグル。ムスっとした表情でシャクルとミネアの元に進むアヤメ。



「もう行こ。シャクル、ミネア」

「は?」

「え?」

「だってこの人頭堅すぎるんだもん」



そう言ってリグルを指差すアヤメ。



「ぼ、僕がですか!?」

「そうよ!カッチカチよ!」

「いやでも、兵士としては正しい対処してるんじゃねぇか?」

「確かにそうですね」

「コラーっ!2人してどっちの味方だ~!」



そうして騒ぎ出すアヤメとシャクルにミネア。その光景に思わず笑ってしまうキリは、困り果てた表情のリグルを見た。



「誘拐された姫がこんな風になるか?普通」

「………」



リグルは数秒再び黙り込み、それから大きく息をはく。



「わかりました……皆、武器を降ろしてくれ」



そう言ってリグルは、シャクルとミネアを囲う兵士達に武器を降ろさせる。


その光景にアヤメは「お?」っと兵士達を見回す。そしてリグルは仕方がない、っと言った表情で小さく息をはきながらアヤメを見た。



「アルシェン姫。貴女様を信じます…そしてこの者達も…」

「え、じゃあ…」

「はい。2人はこのまま解放しましょう」



リグルの言葉に周囲の兵士達が驚きをみせる。



「ふ、副隊長!?」

「いいんだ。姫様の表情を見ればわかるだろう…2人に武器を戻してくれ」



リグルの言葉に、兵士達は戸惑いながらもシャクルとミネアに武器を戻す。そして更にリグルは自分以外の兵士を全て建物から撤退させてくれた。


これにはアヤメも安堵の表情。ようやく見せた笑顔でリグルに向く。



「ありがとうございます。信じてくれて」

「いえ、自分の頭が堅すぎただけの事ですから」

「あ、いや、あの時はごめんなさい!あれはその~…ごめんなさい!」



あたふたしながら深々と頭を下げて謝罪するアヤメに、リグルも「頭を上げて下さい」と慌てて対応していた。


そんな2人を横目に、シャクルは剣を腰に戻してキリに向いた。



「悪いな、何か擁護してもらってよ」

「別に擁護なんかしちゃいない。オレはオレが思った事を言ったまでだ」

「…で、あんたに『預ける』って意味は何だよ?」

「そのまんまの意味だ。ザーバスの被害者同士、一緒にザーバス潰しといこうじゃねぇか」

「なるほど、そういう事ね…」




◆◆◆――…




 その頃、地下帝国サカンドラ正規門付近では……



「…っかぁ~…地下牢から出られたかと思ったら、また地下かよ」

「まぁまぁ、そう言わずに行きましょう」

「へいへい…わかりましたよ。迎えに行けばいいんでしょ?エルセナ=ミリアードを…」



そう言って歩き出す人影は、両手に持つナイフをクルクル回し、けだるそうに足を進めていく。そしてその後ろを歩く大柄な人影。横に並ぶもう1つの人影も、同じ緋色のコートに身を包み、サカンドラ奥地を目指し動きはじめた。

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