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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.05 地底国家
51/122

P.051 迷いをすてて(2)

「アヤメ。ちょっといいです?」



縁に伏したアヤメの横に並ぶミネア。するとアヤメは1度視線を上げミネアを見るが、再び組んだ腕に顔を埋める。



「…ごめん…ちょっと1人になりたいの…」

「駄目です」

「え?」



まさかの「駄目」発言に驚き、パっと顔を上げるアヤメ。するとすかさずミネアがその顔を両手で挟む。頬を挟まれ、「むい」っとタコくちになるアヤメに、ミネアはグっと顔を近づけた。



「こんな涙目で落ち込んでるお姫様、メイドとして放っておけません」

「………」

「わたしは今、アヤメの専属メイドですから…ね?」



アルシェンではなく、アヤメと言って優しく微笑むミネア。


そのミネアの笑みを見つめている内…言われた通りに涙で潤んだアヤメの瞳から、次第に涙が零れ落ちていく。



「ふえ~ん、ミにゅわぁ~(ミネア~)」



アヤメはミネアに抱きつき、その胸に顔を埋める。埋められたアヤメの頭を優しく撫で、ミネアはその体を抱きしめ返した。



「何があったかは無理には聞きませんし、話したくなったらで構いません。構うなと言うのであれば構いません。だけどアヤメを1人にしたりはしません…こうして傍にいます」

「ミネア…」

「でも離れろと言われても、離しませんからね?」



そう言うミネアは優しくも強く、アヤメの体をギュっと抱きしめた。


抱きしめられるアヤメの目からは、次々と涙が溢れ出てくる。シャクルへの迷いや不安…もちろんそれは、この旅に対する恐怖も折り混ざるもの。優しく包んでくれるミネアの温もりに、今まで我慢していた家や家族への思いも爆発してしまい、アヤメは大声を出し泣いた。


その泣き声はシャクルはもちろん、操舵室のアラーケ達にも届いていた。



「…マスター…?」



泣き声に呼ばれるように、開いた操舵室の窓から心配そうに見つめるナック。


シャクルも「何だ?」っと見るも、寄り添うミネアの姿に、己が歩み寄る事はやめた。その場に立ち尽くし、しばらく2人を見つめていたが、そっと顔を伏せ無言で船内に入っていった。


大声で泣くアヤメを、ただ黙って抱きしめ続けるミネア。数分は泣き続けただろうか…アヤメはゆっくりと顔を上げる。



「ひくっ…ひくっ…ごめんね…ミネア…」

「いいんです――…よォ!?」



泣いた事への謝罪と思い、笑顔で答えるが……顔を上げたアヤメの鼻からミネアの服に掛けられた、キラキラと光る鼻水の橋。アヤメが「ズズーっ」っと鼻をすすると、キレイに2分割された鼻水が、ミネアの服にピシャっとかかる。



「グスっ…ごめん…」

「い…いいんですよ…アハハ~…」




◆◆◆――…




 数分後。ミネアは着替えを済ませ、甲板に座るアヤメの横に座る。



「ごめんねミネア…服汚しちゃって」

「それはいいと言ったじゃないですか。それより、アヤメの方は大丈夫なんですか?」

「うん…泣いたら少しスッキリしたかも…」

「そうですか。ならよかったです」



笑顔のミネアは、それから何も言わずにただアヤメの横に並び、空を流れる雲を見上げていた。



「…聞かないの?理由とか…」

「それもさっき言いましたよ。言いたくなった時でいいと」



再び笑顔を見せてくれるミネア。彼女にならエルセナの言葉を言って相談をしてもいいのでは…?



「ミネア、あのね…」

「何ですか?」

「あのね…あのね…」



この優しい笑顔に闇は無い……そう信じ言葉を続けようとするも、続かず。けっきょくそのまま黙り込むアヤメ。それでもミネアはアヤメを優しく見つめ、黙った所でアヤメの頭を自分に寄せ、優しく撫でる。



「無理しないの…」



そう言ってポンポンっと頭を優しく叩く。アヤメは無言で頷き、ミネアの肩に頬をすり寄せる。



「何か、ミネアってお母さんみたい」

「『お母さん』って…わたしまだ23歳なんですから、せめて『お姉さん』にしてほしいんですけど?」

「ハハ、ごめんごめん。お姉ちゃんだね、お姉ちゃん」

「………」

「………」



それから訪れる再びの沈黙。だが空気的には重くはなく、自然と心が落ち着いていくゆっくりとした時間。


アヤメの頭に置かれたミネアの手が、トン…トン…っと、まるで子守唄でも歌われているようなリズムで叩かれた。アヤメはそっと目をつむり、その身を完全にミネアに預けた。



「……お母さん…」



小さくもれたアヤメの言葉に、ミネアが「ん?」っと反応するも、何も言わずにミネアの体に腕を回すアヤメ。



「もう…甘えん坊なお姫様ですね」



そう言ってアヤメの頭を撫で、再び子守唄のように頭を優しく叩く。それからアヤメが「スー…スー…」と寝息を発てるまで、ミネアは寄り添い続けた。




◆◆◆――…




 2時間程は経過しただろうか。操舵室ではゲッソリとしたアラーケが、舵を何とか握り締めていた。完全にカムラの学者魂に打ち負かされた姿だ……当のカムラは船内の部屋で机に向かい、アラーケから聞いた事柄をノートに書きまとめている。その部屋の奥からは……



「あっ、コラ!つまみ食いすんなナック!」

「まだ食べてないってば!」

「『まだ』って食うつもり満々じゃねぇかよ!」



そんな騒がしい声と、何かを焼いた香ばしく美味しそうな香りが漂ってきていた。


すると書き物に夢中なカムラの前に、出来立てのアップルパイが置かれた。「お?」っと手を止め見上げる視界に映るのはシャクル。



「ちょっと休憩しろよ」

「これ…シャクル君が作ったのか?」

「まぁな。けっこう自信あんだぜ、料理は。ほらナック、お前もここで食ってろ」

「ヤッター!いただきまーす♪」

「すまない、シャクル君。ありがとう」

「いいって。ちょっとアラーケん所にも届けてくる」



もうワンホールを半分ずつに切り分けた皿を2枚持ち、操舵室への階段を上る。



「おーい、アラーケ」

「んあ~?」



呼ばれ振り返るアラーケのゲッソリした顔に、一瞬驚くシャクル。



「だ、大丈夫か?お前…」

「なんとかね~…しかしすげぇよな…学者って…」

「だな…ほら、これ食って元気出せ」



そう言ってパイを差し出すと、アラーケはパアっと笑顔で皿を受け取る。



「うほーっ!すっげぇ~!サンキューシャクル~♪…ってこれシャクルが作ったの?」

「あ、あぁ…」

「ほぉ~シャクルって料理出来たのかよ?」

「いや…俺の記憶が正しければ、お前の家で俺朝飯作ったはずだが…」

「あっ、そういえば。悪い悪い」

「いや別にいいけどよ…で、アヤメとミネアは見てないか?」

「さぁ、たぶん甲板にいると思う。中には来てないからさ」

「そっか」



シャクルは頷き、甲板への扉を開ける。外の心地よい風をその身に感じ、深呼吸をしながら辺りを見渡すシャクル。すると船尾の方で縁に寄りかかり、お互い寄り添いスヤスヤと眠る2人の姿が見えた。



「何だ寝てんのかよ…」



シャクルはゆっくりと歩み寄り、2人の前にしゃがみ込んで静かに皿を置いた。


すると「ん…」っという声と共に、ミネアが目を覚ます。そして起きるミネアにつられるようにアヤメも目を覚ました。ミネアは目を擦りながらシャクルを見る。



「あら…シャクル…」

「あ、悪い。起こしちまったか」

「いえ…いつの間にか寝ちゃってました…どうかしましたか?」

「いや、どうって訳じゃねぇけど…ただコレ作ったから持ってきただけだ」



パイの乗る皿を指差すシャクル。



「まぁ、アップルパイですか?これはシャクルが?」

「何で全員以外そうに見んだよ…」

「え、あ、すみません…そういう意味じゃなくて…」

「いや、別にいいけどよ…」



シャクルはため息と共にアヤメを見る。アヤメも未だボーっとする視線をシャクルに向けていると……



「どっかの泣き虫が腹でも空かしてるかと思ってよ」



そう言うシャクルから額を指で小突かれる。



「あうっ」

「ほれ、泣いて腹減ったろ?」

「う~…そんなに燃費悪くない~…」

「へいへい。でもちゃんと食えよ。食って忘れられんなら忘れろ、嫌な事全部」

「ほぇ…?」



シャクルは小さく息をはき、立ち上がりながら背を向けスタスタと歩き出す。


その背中を見つめるアヤメを、ミネアが軽く肩で押す。



「心配して作ってくれたみたいですね、シャクル…」

「…うん…」



アヤメはジーっとシャクルの作ったパイを見つめ、そして離れていくシャクルの背中に再び視線を向けた。



「シャ…シャクル!」



呼び止められ、「ん?」っと振り返るシャクル。



「あ…ありがと…アップルパイ」

「おぉ」



後ろ手に振り、再び歩いて行くシャクル。


その背中を見つめ、再び置かれたパイに視線を落とすアヤメ。



「ねぇミネア…」

「何です?」

「もしもだけど…信じた人から、裏切られるような事があったら…どうする?」

「…難しい質問ですね……実際その状況下で、どう動けるかわかりませんが…わたしは裏切られようとも、相手の事を信じます」

「信じるって、例えばその裏切りが酷い裏切られ方だったとしても?」

「…そうですね。わたしの性格上の事かもしれませんが、わたしは信じたい。そしてその相手も、自分を信じさせてみせますよ」

「相手も…信じさせる?」

「そんな事、口先だけの綺麗事なのはわかってます。でも無理な事は無理と言えば、無理なままで終わる。例え綺麗事でも、出来る…やってみせる気持ちがなければ、何も変えられないとわたしは思います」

「自分も…相手も信じて動く、って事?」



頷くミネア。



「そっか…そうだよね。出来るとか、出来ないじゃないよね。やってみなくちゃわかんないもんね」



そう言ってアップルパイをひと切れ持ち上げ、ニコっと笑う。



「いっただきまぁ~す」



笑顔のままにパクっとひと口。



「んまぁ~い♪」



口いっぱいにパイをほおばり、伸ばした両足をパタパタと上下させる。



(ねぇエルセナ…闇って、悪なの?今ここにいて闇なんて感じないし、悪だって無いと思う……だから私決めたよ。誰がどうあったとしても…綺麗事でも、現実を見れてないと言われてもいい。闇でも冥王でも信じてみる。そして信じさせてみせる。誰でも変われると信じてみるよ……絶対に、出来ると信じて…)

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