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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.05 地底国家
50/122

P.050 迷いをすてて(1)

 1人で佇むアヤメに、ミネアが歩み寄ろうとした所…



「なぁミネア」



シャクルがミネアを呼び止める。



「はい、何でしょうか?」

「次の目的地の地下帝国ってどんな所なんだ?」

「地下帝国サカンドラは、その名の通りに地下にある1つの国です。まぁ国といっても、モルハス族の里が数300キロに渡り広がる地下空間なんです」

「地下に数300キロって…すげぇ規模だな」

「確かにその規模もすごいですが、地下にいる事を忘れてしまう程、とても町並みが美しいんですよ。特に【地下宮殿エレクサス】は、それはもう壮観なものです」

「へぇー。とにかくすげぇんだな。で、入口はどこなんだ?地下とかだし、危険とかは無いのか?」

「入口は…」



少し考えたミネアは1度カムラを見るが、未だカムラはウィビに夢中。アヤメの元を離れたナックが肩に乗り、「何書いてるの?」というように覗き込むのも、気にせずにペンを走らせている。これでは駄目だとミネアは首を横に振り、操舵室に歩み寄りアラーケを呼ぶ。



「アラーケ、サカンドラの入口はどうするんです?」

「あ~入口ね。このまま行くなら【カラ】の入口の方がいいんじゃない?これもある事だし」



そう言ってアラーケは、シャクルとミネアの手配書をポケットから取り出す。



「おっと、ついにアラーケんとこまで出回ったか…」

「港にいたら配られてきてね」

「悪い。手配書の件は後でゆっくり話すから、今はサカンドラまで向かってほしい」

「あ~いいよ、手配書もらった時いろいろ聞いたから。まぁいろいろと事情もあるだろうし、それに2人が手配書通りの犯罪者だとは思ってないからさ。それに…やっぱアヤメちゃんって、アルシェン姫な訳?」



この質問にはシャクルとミネアが同時に視線を合わせ、互いに「どうする?」っといった視線を交わす。



「…っと、何か深追いしない方が良さげな空気だね?やっぱさっきの無し。アヤメちゃんはアヤメちゃんって事で」

「…悪いな、アラーケ。ところで、入口は『の方が』って言ってたが…?」



すると突然シャクルの肩を誰かが叩く。振り返るとそこにはカムラがいて、肩にはまだナックが乗っている。



「わたしが説明しよう」

「カムラ…終わったのか?書き物は」

「あぁバッチリさ。…で、説明の続きだが、サカンドラには入口が2つあってね。正規の入口はランティ城のあるバルハール大陸にあり、しかも城の国領関所のすぐ近くだ。だから手配書が出回ってる今、君達が再び近づくのはかなり危険だろう」

「ほぉ~。だからもう1つの、さっきアラーケが言った所から入るって訳か?」

「あぁそうだ。アラーケ君が言った【カラ】という島は、町や村が無く、誰も住んでいない無人島なんだ」



そうカムラが説明してくれていると、アラーケが操舵室の窓から両手いっぱいに広がる程の、額に入った世界地図を差し出してきた。その世界地図を受け取りお礼を返すカムラは、シャクル達に見えるように指しながら説明を続ける。



「ここがバルハール大陸。そして無人島のカラはここだ」

「以外と離れてんな」

「まぁこの速度なら…丸1日くらいあれば着くだろう。ちなみにカラの入口は、『入口』と言うよりも『通気孔』とも言える巨大な縦穴だ。一応階段もあるから、上り下りも可能だが…そこから行くんだろ?アラーケ君」

「うん、そのつもりだよ。な?ウィビ」

「は?『な?』って…まさかアタシごと入っていく気?」

「縦穴だから行けるっしょ?」

「イヤよ。ギリギリだったらどうすんのよ?嫁入り前よ、アタシ」

「いやいやウィビちゃん誰とよ!?男の生きてる船ってある訳!?」

「ハっハっハっ、大丈夫だよウィビさん。入口の穴は君の倍くらいはある。だから余裕で入る事が出来るよ」

「…あら残念」



ため息混じりのウィビに、少し苦笑いを浮かべるカムラ。1度シャクル達を見、「それでいいか?」と目線を送ると、シャクルは「任せる」っと頷き返す。


するとカムラは操舵室の窓に近づき、中を覗き込む。



「すまないアラーケ君。ちょっと船の事でいろいろ聞きたいんだが…少しだけ時間をもらえないか?」

「時間?全然いいよ。話すだけなら今でもいいから、中入りなよ」

「そうか。すまない」

「あ、ボクもボクも!」



ナックも元気よく手を上げ、カムラの肩に乗ったまま共に操舵室に入っていく。中でノートを広げるカムラは、アラーケと話しながら再びペンを走らせはじめた。



「…あの…シャクル?」



そのアラーケとカムラを他所に、未だ1人立つアヤメを見ながら、ミネアがシャクルを呼ぶ。


シャクルも振り向く視界を、途中に入ったアヤメの背中で止め、ミネアに向かぬままに「ん?」っと返事をする。



「アヤメの様子…エクシラを出た辺りから、急に変わりましたよね?」

「あぁ…確かにな」

「何かあったんですか?」

「さぁな。俺が聞きたいくらいだよ」

「そうですか…シャクルなら知ってると思ったのですが…」



その言葉にシャクルは、アヤメの背中からミネアに視線を移す。



「俺ならって…買いかぶんなよ。俺はあいつの事まだ全然知らねぇんだ」

「…エルセナ様と似ていらっしゃるのにですか?」

「………」

「すみません…不用意にお名前を出してしまいました」

「いや、別にいいさ…」



そう呟き縁に寄りかかるシャクル。「いいさ」と言いつつも、その表情を曇らせるシャクルに、ミネアは続く言葉をつまらせる。



「すいません…」

「謝んなよ。気にしちゃいないんだからよ…それに、エルセナはもういない。あそこにいるのは萱島アヤメという1人の人間だ」

「…そうですよね。アヤメはアヤメですもんね」



小さく呟くミネアはシャクルに並び、縁に手をかけ景色を見下ろす。それからしばらく沈黙が続き、ミネアが小さくひと息はいて口を開いた。



「…亡き者の為に戦う。その意志も、また1つの道…」



景色を見たまま呟くミネアをシャクルは横目に見る。



「ですが…今を守れぬのなら、その道の意味は無くなるだけ」

「…今?」

「亡き者の意志を追い続け、他の道を見失う事は、全ての道を閉ざす事となる」

「つまり…1番大事なのは、今を守る事。そう言いたいのか?」



ミネアは少し押し黙り、ゆっくりとシャクルを見た。



「失礼を承知で言わせて頂くと、わたしはそう思っています。それはわたし自身がエルセナ様からは遠い存在であるという事。アヤメと、アルシェン様の安全を最優先と考えるからです」

「………」



無言で空を見上げるシャクル。



「要するに…ミネアは覇剣に向かう旅には反対、って事なんだろ?」

「反対という訳ではありません。ただ、アヤメを危険に晒したくないんです。もちろんナックも、シャクルの事もです」

「気持ちは嬉しいが、俺の事はいいさ。1度は死んだような命だ。だからあっても無いような命さ」

「それでも、今は生きてます」



シャクルはミネアを見るが、ミネアはまっすぐに景色の方を見ている。



「1度は死んだ命でも、今ここに生きているのなら、それは今に生きる命に変わりはない。守る命に変わりはないんですよ」

「守る…命…」

「共に旅をする仲間としてです」



そう言ってミネアは笑顔をシャクルに向けた。その笑みに、シャクルも鼻でクスっと笑い返す。



「それなら…お互いに、って事だな」

「えぇ、そうですね」



それから2人は視線を景色に移し、再びの沈黙の時間が続く。そして30秒程して、ひと息はくシャクルが口を開いた。



「現状としてだが、俺は1度覇剣の元に向かおうと考えてる」

「天空都市アルドナを目指す、っという事ですね?」

「あぁ。だが、カムラの話しを聞いて正直迷ってもいる……覇剣の本質。それに封じられた魔神。対冥王としての一手で敵を増やしてたんじゃ、ただの堂々巡りになりそうでな…」

「ではやはり覇剣は――…」

「でも。やっと掴んだ1つの道だ…ジっとなんかしてらんねぇ」

「…動き出す事で生まれる活路もある…ですね?」

「そうだ。とにかく行こう。他に何か見つかるかもしれない。覇剣に向かえば、繋がる何かがある。必ず他の突破口があるはずだ」

「もし無ければ…?」

「んな事考えんじゃねぇよ。必ずある…迷うな、信じろ」

「案外、夢見がちなんですね」

「まぁな。そーゆーバカなんだよ、俺は…」



そしてシャクルはまっすぐにミネアを見つめた。



「そしてもし…もしこの先、俺が俺じゃなくなるような結果になった時は…」

「………」

「お前に頼むかもな」

「…わかりました。でもそれは…」

「お互いに、って事か…」

「はい」



するとミネアは縁から離れ、シャクルに背を向けた。



「迷わず進めば、見えるものがある」

「あぁ。必ずな…」

「例えその道が荊でてあろうとも…」



ミネアの後頭部の先にあるアヤメの背中をシャクルも見る。するとミネアは振り返り、互いに視線を合わせて頷いた。



「守ってみせるさ…」

「わたしもですよ。この命に代えても…」



そう言ってミネアはアヤメに向かい足を進めて行く。その背中を見つめ、深呼吸を1つ。シャクルは空を見上げてから目を閉じた。



「…もう2度と失う訳にはいかねぇんだ」

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