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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.05 地底国家
48/122

P.048 魂の対話と"闇"(3)

 しばらくして、エクシラの広場を1人歩くシャクルの姿があった。今度はしっかりと武器を預けた状態であり、もちろん港からの帰りである。


港でアラーケに今後の旅の為、「地下にある町に連れてってくれ」と伝えると、アラーケは快く2つ返事でOKしてくれた。ウィビはどっちでもいい、っという感じだったが。了承は得られたものの、アヤメとナックが回復しない事には出発が出来ない。それも伝えた所、それまで「船着き場で待つ」とも言ってくれた。


歩くエクシラの広場にはまだ小さい瓦礫はあるものの、大きな瓦礫が無くなりだいぶ片づいてきていた。しかし整備中の看板が立ち、一般の人々の姿は疎らである。


するとシャクルの視線の先に、マーズのしゃがみ込んだ背中が見える。目の前には1人の男の子が立っており、マーズが男の子の足に包帯を巻いて上げてるのを見る限り、転んだか何かした足の手当てをして上げているのだろう。



「ほら、これで大丈夫」

「ありがとう隊長さん!」

「どういたしまして。まだ綺麗に片づいてないから、ここで走っちゃダメだぞ」

「はーい!じゃあね、バイバーイ!」



男の子は笑顔でマーズに手を振り駆け出した。



「あっ、コラ走っては――…全く、元気過ぎるのもねぇ…」



苦笑いで頭を掻くマーズ。



「人気あるんだな?隊長さん」

「おや?君は…」



振り返るマーズに歩み寄るシャクル。



「そういえば正式な自己紹介がまだだったね。僕がタスマニカン帝国軍四部隊の幹部【マーズ=クレイサー】です」



微笑みながら手を差し出し握手を求める。



「こりゃご丁寧にどーも」



少し戸惑いながらもマーズの手を取った。するとマーズはシャクルの顔をまじまじと見だす。



「…何だ…俺の顔になんか付いてんのか?」

「いや…君はなかなかいい眼をしているなぁ、っと思ってね」

「は?」

「君、兵隊になる気はないかい?」

「おいおい、勧誘かよ…俺は犯罪者なんだろ?誘う人間を間違ってるぜ、隊長さん」

「えぇ、そうかもしれませんね」

「………」



妙な絡みにくさを感じ、頬をポリポリと掻くシャクル。当のマーズはズレた眼鏡を直しながらのあいかわらずの笑顔。



「エクシラ業務最後の日に、君と出会えてよかったよ」

「最後?引退か?」

「いえいえ。帝国本部へ戻るだけですよ。3年交代制なもので、護衛期間は」

「ほぉ~…」



あいづちを打ちつつも、全く興味なさ気に頬を掻くシャクル。



「次は君を監視していた、あのユーネ=バイスン小隊長の所属するカーレン隊が、この地を護衛する事になるんだ」

「あ~アレね。んじゃ、今後はより一層気をつけとくわ」

「その方がいいかもね。もう目を付けられてるようだから」

「本当に手配書を恨むぜ、全く…」



ため息をつき、ゆっくりとマーズの横を通り過ぎる。



「お話しどーも…じゃあな。本部勤務頑張れよ」



後ろ手に振り、シャクルはマーズから離れていく。マーズはその背中を見つめ、そっと眼鏡を外す。



「えぇ、頑張りますよ…シャクル=ファイント君…」



そう言ってニコっと笑う細い目を鋭く開き、シャクルの背中を睨むように見た。



「っ…?」



妙な気配に立ち止まり、ゆっくりと振り向くシャクル。しかしそこにマーズの姿は無く疎らな人々が行き交うだけ。



「…気のせいか」



再び歩き出そうとした時、ポケットに入れていた手に違和感が……取り出してみると、シャクルの両手の平は異常なまでの汗に濡れていた。



「…マーズ=クレイサー…っか」



汗に濡れた手を見つめ、グっと握り締めてから再び歩き出すシャクル。




◆◆◆――…




 翌朝、カムラの家を出る一行は、すっかり綺麗に片づいた広場を歩いていた。もちろんカムラも共にである。



「うぅ~…ダルい~…」



猫背で左右に体を揺らし歩くアヤメ。すると横を歩くシャクルが、その揺れる頭を掴みまっすぐに支える。



「さっき元気に朝飯食ってたろうが。ならしゃんとして歩け」

「頭支えるならおんぶして~」

「甘えんな」



そう言ってアヤメの頭をグっと押さえつけた。



「うぎゅ!…も~本当に万全じゃないんだから、もっと優しくしてよ~…」

「ボクも万全じゃなぁ~い…」



そんなナックも、今まではフラフラと揺れながら浮いていたが、ミネアの頭に乗っかりダルそうにうなだれた。ミネアは仕方ないか、っといった表情でナックの体を撫で歩き続ける。そして未だにダラけたアヤメの姿にシャクルはため息を1つ。



「…ったく、2人で戦う時はあんま力使いすぎんなよ。そんな状態続かれたんじゃ、今後が思いやられるからよ」



するとアヤメ、ナックの順に力無き手が上がる。



「はぁ~い…」

「あ~い…」

「ホント頼むぜ…」



再びため息をつきながらシャクルがスタスタと歩いていった。1人後ろを歩くアヤメは前を行くシャクル達の背中を見つめ、エルセナの言葉を思い出す。



(近くの闇……つまり誰かは敵って事なの?でもこれって…誰かに言って相談するべきなのかな?でもその人物がエルセナの言う"闇"だったら…)



そしてその視線は1人の背中に留まる。



(エルセナは言ってた…『近づきすぎた』って……近づく…それって…)

「……?」

(まさか…)



すると、疑心の視線に気づいて振り返るのはシャクル。その振り返る眼光は、一瞬ではあったが鋭く、冷たく感じられるものであった。


体をビクつかせたアヤメは思わず足を止め、怯える表情でシャクルを見ると、シャクルも足を止めてアヤメを見る。



「………」

「………」



互いに無言。数秒見つめ合うと、シャクルは視線を外し、再び出口に向かい歩きはじめた。


目が合ってから息をするのも忘れていたアヤメは、水から上がった時のように「ぷはっ」と息をはいて荒い呼吸を繰り返す。



「…何…今の…」



呟くアヤメの頬を一筋の汗が伝う。


そして先を行くシャクルの眼光が再び鋭く光り、前を行くミネアとナック、カムラの先をジっと見据える。


そのシャクルを見つめる別の視線……



「…シャクル…」



ミネアの頭の上で、ナックが小さく呟いた。

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