P.046 魂の対話と"闇"(1)
町の出口に向かうシャクル。真横にはピッタリと張りつき歩く、あのユーネの姿が……端から見れば、本当に連行されているようにも見える。
「………」
「(ジー…)」
「………」
「(ジー…)」
「いや見すぎだろ…」
「だって監視ですもの」
「あっそ…」
「(ジー…)」
(監視のレベル越えすぎだろ…これ…)
気マズさを感じつつ、出口に向かい歩き続けていると…前方から、ユーネと同じ緑の軍服に赤いロングマント。身長は190近くはあろう大柄な男が歩いて来た。髪は銀というより白髪で、少しバサついた髪を後ろに流し、少し歳を重ねた風の男。表情はなぜか不機嫌そうに眉間にシワを寄せて仏頂面。
その男を見るなりユーネは体をビクつかせ、緊張感を漂わせたまま立ち止まり、ビシ!っと敬礼を決めた。
「カ、【カーレン】隊長!…お疲れ様です!!」
【カーレン】と呼ばれた男は立ち止まり、ユーネに敬礼を返した。
「ご苦労。バイスン小隊長」
シャクルは敬礼を続けるユーネの肩をつつく。
「誰だ?このデカいの」
「バっ、バカ!口の利き方に気をつけなさいよあんた!!この御方はねぇ――…」
「ん?お主、手配書の…」
ユーネの言葉を切るように、カーレンがシャクルに視線を向けた。
「あぁ、手配書通りの誘拐犯。シャクル=ファイントだ」
「ほう…これはどういう事だ?バイスン小隊長」
「あっ、えっと~…これはですね…この町が不等な輩に襲撃を受けた時、彼が…シャクル=ファイントが撃退をして…その~…その件から、マーズ隊長の計らいで~…その~…」
考えてみれば深く内容を知らなかったユーネは、しどろもどろになりながらも説明を続けていると、カーレンは手を上げ「わかったわかった」というようにユーネを制止する。
するとユーネは上手く説明出来なかったからか、シュン…っとなって1歩後退り。
「なるほど、マーズ隊長の計らいか。まだエクシラの指揮権はマーズ隊長のものだ。オレが口を出す事でもない」
「ま、そういう事。じゃ、俺は急ぐんで」
まるで興味のない素振りで足を進めるシャクル。
「あっコラ!まだ監視区域だってばぁ!!」
(く、区域って…)
「ではカーレン隊長。誘拐犯の監視任務を続けます。それでは失礼致します!」
再びビシ!っと敬礼をし、先を行くシャクルの後を追うユーネ。
その背中を見送るカーレンはひと息はき、ゆっくりと町並みを見渡す。
「…あいかわらずの辛気くさい町だ…罪人も自由に入る事の出来る町。どうにも合わぬな…」
より一層不機嫌そうな表情で呟くと、シャクル達とは反対側に歩みを進めていくカーレン。
一方のユーネはシャクルに駆け寄り、再び真横に並ぶ。
「私の許可無く先に行かないでよ」
「…なぁ?」
すると何事もなかったように口を開くシャクル。
「え、何?」
「お前ら所属の帝国軍は、隊長制度なんだな?」
「うん、そうだけど…って何?あなた知らないの?」
「全然」
「当然みたいに言うわね…そうよ、ウチの軍は四隊長制度。この町の護衛部隊、それは【マーズ隊】。これはわかるでしょ?」
「あ~あの優男ね」
「優男ってあなたねぇ…マーズ隊長怒らしたら怖いのよ~。まぁ怒った所見た事ないけど」
「あっそ。で、あとの隊は?」
「あとは【リディア隊】に【クルブ隊】。そして我らが【カーレン隊】よ」
そう言いながら「えっへん」っと胸を張るユーネ。しかしシャクルは完全無視で歩き続ける。
「そんで各隊『隊長』に『副隊長』、『小隊長』の役職…って訳ね。小隊は何隊あるんだ?」
「全五隊よ。てか何よ、知ってんじゃん」
「まぁ軍隊系はな」
「は?…まさか、あなたも軍人?」
「………」
「ってそんな訳ないわよね~?手配書が出回る犯罪者だもの」
「はいはい、そうですね~……お?」
そうこうしている内、町の出口に到着していた2人。
「もう監視区域は以上だろ?小隊長さん」
「ん?あ、そうね。じゃ、こんな所2度と戻って来るんじゃないわよ」
「俺は獄卒か…」
「言ってみたかっただけよ。次、この町以外で見つけたら容赦しないからね?」
「はいはい、気をつけますよ~…」
ため息をはきながらユーネに向かい後ろ手に振り、足を進めるシャクル。
離れていくその背中を見つめるユーネも、ため息に似た息をはき、首を傾げて頬をポリポリ。
「…なぁ~んかまた会いそうな予感。厄介事じゃないといいけど…」
◆◆◆――…
白い石壁の3階建のエクシラ護衛部隊宿舎。その内部、薄暗く狭い地下牢へ続く階段を下りるマーズ。
地下に2階分は降りただろうか?ゴツゴツした岩肌が剥き出しの地下牢入口の空間に到着。鉄で出来た扉の前、2人の兵士が門番のように立っている。
「お疲れ様です、マーズ隊長」
「あぁ、ご苦労様」
ニッコリと微笑み答えるマーズ。
「彼らは目覚めたかい?」
「はい、先程目覚めたようです」
「彼らと話しがしたいんだが…入っても大丈夫かな?」
「は、はい。只今」
腰に繋いでいた鍵で扉を開ける兵士。
「ありがとう」
扉の中へと入り、自らその扉を閉めるマーズ。
中は岩を切り開いて作られた幾つかの鉄格子に分かれている。ヒトのいない空の牢の中を、何かを探るように横目で確認しながら、奥の牢を目指すマーズ。最も奥の位置にある牢屋前に来たマーズは、眼鏡を指でクイっと上げる。
「目が覚めたかい?…罪人諸君」
その牢内にいるのはシレイスとヤナ。マーズの呼びかけに反応し、背中を向けてごろ寝状態のシレイスがくるりと向きを変え、マーズを見るなりニヤりと笑い、「オッス」っと手を上げる。ヤナはあぐらをかいたまま、目を閉じ腕組み状態で動かない。
「起きたぜぇ~バッチリと。なぁ、隊・長・さん」
マーズは視線を振り返らせる。そこからは、10メートルは離れたであろう牢屋口の扉の前に立つ2人の兵士の後頭部が確認出来る。そして何かを確認したように小さく頷き、再びシレイス達を見た。
「用件は何かな?この町に」
「ん?人捜しっスよ」
互いに視線を合わせ、少しの間をおく2人。
「あと何だっけなぁ~…『間もなく事が進む。"地"の珠の元にて待つ』…そんな伝言預かってたんだっけな~」
「そうですか…いったい誰に宛てた伝言なんでしょうねぇ…」
再び眼鏡をクイっと上げるマーズ。
「…まぁいいでしょう…」
すると牢屋に背を向け、来た道を引き返していくマーズ。そして歩くままに、
「3日後、君達に刑を処す。楽しみにしていたまえ…」
そう言って去っていくマーズの背中を見つめ、再び背を向けてごろ寝状態に入るシレイス。
「はいはい、楽しみにしてますよ~…隊・長・さん…」




