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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.04 覚醒の力
45/122

P.045 帝国部隊との接触(2)

 カムラの家を出たシャクルは、居住区から広場に出る階段を上がっていた。広場に近づくにつれ、何やら騒がしい声が聞こえてくる。


少し警戒しながらも広場に出ると、先程のシレイスらとの戦いで散乱してしまった瓦礫などをいそいそと処理をする兵隊達が10人程いた。その光景を横目に、手配書の件もある為広場の壁際を歩くシャクル。すると目の前に人影が突然飛び出してきた。



「うおっ」



驚き足を止めたシャクル。その人影を見ると、1人の女性であった。人間…つまりヒューマ族で、年齢は10代後半くらいだろうか?アヤメと同じ歳くらいに見える。肩を越えるくらいの黒い髪に、丸くぱっちりとした目。緑を基調とした軍服を着ており、赤い腰の辺りまでのマントを羽織り、白銀に輝く装甲を手足に装着させた姿。格好からしてあきらかに軍人。さっそく手配書絡みかとシャクルは表情を引きつらせる。


すると目の前の女性は、ため息混じりにシャクルの腰元を指差す。



「ちょっとあなた。この町のルール知らないのかしら?」

「は?…あっ」



指差す腰を見ると、そこにはシャクルの愛剣がキラリと光る。



「町中で一般市民の武器所持は禁止。知らない訳じゃないわよね?」

「あ~悪い。ちょっと事情があって…」

「事情も何もないわよ。あっ、まさか!この騒動ってあなたの仕業じゃ…!?」

「んな訳ねぇだろ、違うって。…まぁ絡んでない訳じゃないが…」

「はぁ?何よそれ?…ん?あなたさぁ~…どっかで見た事あるような気が~…」



そう言ってシャクルの顔にグっと近づく女性。


この流れは完全に手配書絡みだと、シャクルはゆっくりと顔を横に反らす……が、当然女性もその顔についてくる。その顔の右往左往を2、3回繰り返された瞬間、女性が「ハっ」っとしたようにシャクルの顔を指差す。



「あ~ッ!!シャクレ=ファンファン!!」

「誰だその顎出てて楽しそうな名前は!!俺はシャクル=ファイントだっつぅの!!…あっ…」



咄嗟に名乗ってしまった。



「そう!そのシャクル=ファイント!!このアルシェン姫の誘拐犯め!」



瞬間、女性の目付きが鋭く光り、シャクルの顔に何かが迫る気配が……


咄嗟に身を引き気配を避けた…っと思ったシャクルの目の前を、ブオッ!っと風を斬る音が通り抜け、追うように打撃に似た風圧がシャクルの顔を襲う。



「っと…なっ、何だよ!?」



思わずその場に倒れ込むも、すぐさま起き上がり身構えるシャクル。その視線の先には、拳を打ち出した状態の女性がシャクルを鋭く睨み立っている。どうやら先程の気配は彼女の拳のようだった。すると突然シャクルの頬に鈍痛がはしり、唇から一筋の血が流れた。



「っ…今の拳圧だけでかよ…」

「犯罪者は…大人しく捕まりなさい!覚悟ッ!!」

「おっ、おいちょっと待てって!!」

「問答無用!!」



怒声と共に地を蹴る女性兵士。その身のスピードは常人並。捉えられぬ程ではないが、その打ち出された拳の速度は常人を遥かに超越した速度。


シャクルは目線と肩口から予測し、なんとかギリギリ拳を避けるも、かすっただけでも軽く押されたような衝撃が肩に当たる。少しグラつくシャクルの懐に女性が飛び込み、ちょうどヘソの辺りに掌を押し当てた。



「ふっ飛べ犯罪者ァ!!」

「おいちょっ――…」



声に合わせて地を踏み込む女性の掌から、シャクルの体が弾丸のように打ち出され、広場で作業中の兵士の中に突っ込んでいく。


突然突っ込んできたシャクルに兵士達は驚いた様子で動きを止め、シャクルが飛んできた女性の方を見る。



「そいつは誘拐犯シャクル=ファイントです!確保っ!!」

「ハっ、ハイ!!」



おそらく彼女は上官クラスなのだろうか?その指示に慌てて敬礼し、シャクルに視線を戻す兵士達……だが、1人の兵士の首元には片刃の剣がピタリとついている。その元を辿ると、既に起き上がるシャクルの姿と剣を握る手があった。


完全に仕留めたと思っていたのだろう、女性は唖然とした表情でシャクルを見つめる。



「うそでしょ?…けっこう本気だったのに…あ、あんた頑丈ね…面白いわ、私が相手になるから、その人離してくれないかしら?」

「ちっ、ミネア連れてくりゃよかったぜ…」



そう呟き、剣を向けた兵士に離れるように顎で差す。すると兵士は数回頷き、ゆっくりと後退る。他の兵士も同様に離れていく。この光景からも女性に対する上官クラスの地位が伺える。



「まぁあの強さじゃそうだろうよ、ったく…あんたもマザーの能力者って訳か?」

「おあいにくー。私は能力者とかじゃないわよ」

「は?じゃあ、あの力は天然って訳かよ…」

「ちょっ、ちょっとあんた!!誰が怪力ゴリラ女よ!!」



そう言って顔を真っ赤にして「ムキー」っと両手を振って激怒する女性。



「いやそこまで言ってはいないが…」

「うるさいうるさーい!!花の25歳の乙女になんて事をーっ!!」

「25か…(見た目より)けっこう歳いってたんだな…」

「うぁ~っ!誰がパワフルオバちゃんだーっ!!」

「や…やりずれぇ~…」



引きつる表情で女性を見ていると、その後ろから青い軍服姿の長身の男が歩み寄ってくるのが視界に入る。その男は未だ「ムキー」っとなる女性の肩をポンっと叩く。



「どうかしましたか?」

「へっ?…あっ!マ、【マーズ】隊長!?」



その男の顔を見るなり、突然緊張したように背筋を正す女性。


その男…【マーズ】と呼ばれた男は、質感の良い青い軍服に、女性兵士よりも長く、地面につくくらいの赤いマントを羽織っている。そしてさほど長くない金髪をセンター分け、開いてるのか開いてないのか微妙な細い目に眼鏡をし、口元を常に微笑ませている優男…っといった感じだ。



「どうかしたんですか?穏やかじゃありませんね、この空気は」



そう言いつつも、ニコやかな表情のまま周りを見渡すマーズ。そして女性の顔を見て、



「君は確か…カーレン隊の…」

「は、はい!カーレン隊所属、昨年暮れに第一小隊長へ就任しました【ユーネ=バイスン】です」

「そうか、君がウチの副隊長のお姉さんなんだね?こうして会うのは初めましてだね」

「はい!よろしくお願いします!!」



未だ緊張した様子で拳を胸に当て敬礼する女性…【ユーネ】。



「………」



その光景を無言で見守り、こっそり逃げようか…っとも考えたが、とりあえず剣を納め2人を見つめるシャクル。するとマーズは微笑みを浮かべたままにシャクルを見た。



「…で、君は手配書にあったシャクル=ファイント君で合ってるかな?」



その問いには無言で頷き返す。



「そうなんです!それに武器の所持も。あと女性に対する暴言も」

「いや、それは言ってねぇ」

「言ったー!絶対言ったー!!」

「あのなぁ…」

「まぁまぁ、少し落ち着きなさい」


挿絵(By みてみん)


「私は落ち着いてます!それにコイツ!誘拐犯ですよ!早く捕まえて、姫様の安否を確かめないと!」

「姫なら大丈夫だよ。先日身柄を無事確保した」

「は?」

「今はもう、お城で普通に暮らしているよ」

「な…何だと…」



確かナックの話しでは、アルシェン姫は現状アヤメと入れ代わっている存在のはず……今姫を戻した所で、シャクルとミネアの手配書は廃止になる訳では――…



「じゃあ早く誘拐犯として捕らえるべきです!」



無いようだ。


とにかく思いつくあらゆる案にも、シャクル達に対する利点は無く、下手をすればアヤメが偽者……っというか本当の偽者として捕まる危険も出るかもしれない。そう考えを巡らせるシャクルを他所に、マーズ達の話しは続く。



「いや、彼はいいんだ。この町を守る為に戦ってくれた1人なんだから」

「え?」 「え?」



シャクルとユーネが同時にマーズを見る。



「住人から聞いたんだ。町の為に戦ってくれてありがとう」

「た、隊長!罪人にお礼なんて…!」

「感謝を告げるのに、犯罪者も何もありませんよ」

「ほーほー、左様ですかい…なら今日の所は見逃してくんねぇか?ちょっとこっちも忙しいもんでさ」

「そうですか。でしたらどうぞ」

「隊長!!」

「"今日だけ"…ですけどね」

「ハハ…"だけ"、ね…とりあえずサンキュ、隊長さん」



軽く手を上げ、マーズ達に背を向け歩き出すシャクル。



「あっ、町を出るまで私が見張ります!」

「はぁ!?」

「えぇ。頼みますよ」

「頼むのかよ…」

「了解です!」



そう言ってユーネがシャクルに並ぶ。あきらかに睨みを利かせた目でシャクルを監視するユーネに、シャクルは深いため息を1つ。


ユーネの強さは短い手合わせでも十分過ぎるくらい理解した。それに加え『隊長』と呼ばれ、格としては確実にユーネの上であろうマーズ。そんな2人を相手にどうこうする気は起きる訳もない。



「…はいはい、大人しくしてますよ…」

「さ、早く外に行きましょ」



そう言ってシャクルの背中を押し進んでいくユーネ。無気力な表情で押されるがままのシャクル。



(何か俺…追い出されるみたいだな……ナックが起きたら姫の件、確認しねぇとな)



町の出口に向かい連行されていくようなシャクルとユーネを見送るマーズ。するとそのマーズに1人の兵士が歩み寄る。



「マーズ隊長。少しよろしいでしょうか?」

「はい、何でしょう?」

「先程捕らえました2名なのですが、処分の方は…」

「…それでしたら、我が隊の方で処理しますよ。ですので皆さんはこちらの作業を続けて下さい」

「ハっ!」



兵隊は敬礼と一礼をしその場を去っていく。


マーズは再び振り返り、崩れた町並みを見渡す。



「しかしまぁ派手に騒いでくれましたね…全く…」



そして少し下がった眼鏡を中指で上げる。元の位置に上がった眼鏡から覗く細い目がゆっくりと見開いていき、鋭く光った。

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