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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.04 覚醒の力
43/122

P.043 アヤメの戦い(3)

 当のアヤメもあまりの速度に驚き、呆然と広場の地面に刺さる光の矢を見つめている。



『マスター!放つ時は肘をまっすぐにして、手をブラしちゃダメだ!最後までちゃんと集中して!』

「え!?あ、ごめん…」



そう言いつつも再び照準の絞られ、ゆっくりと弓がシレイスを向く。対するシレイスも身構え、1歩…1歩と後退していく。



(あんな速度の矢、全然見えねぇ…喰らったらマズいぞ…)



表情を引きつらせながらもアヤメの弓を見据えるシレイス。アヤメ自身、この緊張感の漂う空気に恐怖もあるが、不思議とワクワクもしていた。



「すごい…私、戦えてるんだよね…」

『確かに戦えてるけど、ボクが操れるのは左腕だけ。生身は自分で守るしかないんだよ』

「え…あ、そうなの…?」

『だから接近戦になったらマスターが頑張ってね』

「う~!やっぱり怖いだけだーっ」



端から見れば独り言。そんなアヤメに違った意味でも表情を引きつらせるシレイス。



「…何を1人で言ってっか知らねぇが、こりゃ本気で行かなきゃマズそうだな」



真剣な眼差しで睨みを利かし、ゆっくりとナイフを構えた。





 その後方では再び炎の斧を手にしたヤナと競り合うシャクル。


斧はさすがに炎というだけあり、競り合うだけで熱が伝わるもので、シャクルの持つ剣も赤く熱を持ちはじめる。



「こんな所に何の用だよお前ら…!」

「人を捜しに来た」

「人捜しで町襲ってんじゃねぇよ」

「先に手を出してきたのは向こうだ。我々ではない」



熱を持ち弱くなった鉄の剣は、ヤナの圧し返す力に耐えられずに、刃の中心から真っ二つに割れ落ちる。



「チッ…これだから安物は困る…!!」



折れた剣を投げ捨て、振り抜かれる斧を躱すと……



「シャクル!!」



突然の呼ぶ声が響く。すぐさま声のする方に振り向くと、黒い棒状の物が迫ってくる。驚きながらもキャッチする、と……



「俺の…剣?」



その手にあるのは、鞘に入ったシャクルの愛剣。剣の来た方向…図書館と対面する側を向くと、そこにはミネアが立っている。顔の半分は頭からの血に染まり、体の至る所も出血が見られるも、全くふらつく様子もない。その手にもしっかりとトンファーが握られている。どうやら預けていた武器を取ってきていたのだ。



「ミネア…お前その怪我…」

「怪我なら大丈夫です。偶然図書館に治癒術師(ヒーラー)の方がいらして、その方に少し治して頂きましたから…完全ではありませんが」



そう言って図書館に向かい笑ってみせるミネア。するとアヤメの後方に空いた穴から、1人の白いローブに赤い短髪のカナフィーリン族が顔を覗かせ、ミネアに向かい「頑張れ」の意味だろうか?ガッツポーズを送っている。


アヤメは「いつの間に!?」っといったようにミネアと図書館を交互に見る。シャクルも口元を緩ませ、ひと息に剣を抜きヤナに向かう。ミネアも地を蹴り駆け出した。



「シレイス!!覚悟!!」



広場を駆け抜け一気に階段を駆け上るミネアがシレイスと激しい金属音を響かせ競り合う。



「ケガ人は大人しくしてろや!!」

「大人しくするのはそちらの方です!!」

「ぐぉ!?」



ナイフを巻き込むようにトンファーを合わせ、あえて身を引かせる事でシレイスの体勢を崩す。なんとか堪えるも、これではシレイスも下手には動く事が出来ない。



「アヤメ!!今です!」

「い、今って言われても、ミネアに当たっちゃったら…」

『やりかねないけど、狙うしかないよマスター』

「う…でも…」



戸惑いながら見るミネアの衣服の血の染みが広がっていく。完全ではないと言っていた傷口が開いたのだろうか…頭からも血が新たに流れ出ている。



「アヤメ…早く…っ!」



徐々に圧されるミネアの体。



『ボクと一緒に詠唱してマスター!』

「え、詠唱!?」

『本来はするものじゃないけど、マスターの力の上限をこじ開ける為にね。ほらいくよ!』



声と共に左腕が勢いよく天を向く。



(そら)に放浪せし…って早く!!』

「え!?あ、はい!!…え~宙に放浪せし…」


『「聖なる雫よ、悪しき魂を射抜き、万物に宿りし生命の息吹を此処に!!」』



詠唱に応えるように左腕の弓が巨大化する。



「おっ、おっきくなった!?」

『まだ集中して!!…今だ!弓を引いて!!』

「えっ!?あ、え、えぇい!!」



ナックの声に煽られるように慌てて矢を引くモーションに入ると、アヤメの身長の倍はあろう巨大な矢が出現する。すると貧血でも起こしたかとも思える感覚、激しい立ちくらみがアヤメを襲う。



『マスター!!』

「っ…!」



倒れそうになる瞬間、響くナックの声にその身を保つ。しかし一瞬抜けた力が既に巨大な矢を天に放っていた。放たれた矢は天井に向かい一直線。



「ちょっ、ナック!方向がっ…!」

『大丈夫!』



すると空中で「ボン」っと音が鳴り、まるで花火のように1本の巨大な矢が無数の小さな矢に分かれ、天井いっぱいに広がり周囲を明るく照らす。


音と光りにシャクル達も動きを止め、無数に広がる矢を見上げた。



「なっ、何だありゃ!?」



無数に分かれた光の矢がシャクルやミネア、もちろんシレイスとヤナに矛先を向け一拍停止。そして広場に降り注ぐように一斉に発射された。



「おいヤベぇ!!きたぞヤナ!」

「む…」

「シャクル!上です!」

「はぁ!?おいちょっと待てアヤメ!」


「ダメ!ストップ!!ストップ!!」



しかし光の矢は止まる訳もなく、シャクルとミネアを巻き込み一斉に広場に降り注ぐ。矢は地につく瞬間、激しい閃光と爆風を巻き起こし、その風をグっと溜め込み一気に放出するような衝撃波をも巻き起こした。


アヤメの体は弓を形成したまま衝撃波に圧し負け転倒する。しかしすぐさま起き上がり、白い爆煙の立ち込める広場を見下ろすアヤメ。



「シャクル!!ミネアー!!」



だが白煙以外は何も確認出来ない。シャクルとミネアの安否ももちろん。



「シャクル…ミネア…うそ…」

『大丈夫だよ……マスター』



がっくりと肩を落とすアヤメに、弓からナックの声が流れ込む。



「え…大丈夫…って?」



再び広場に視線を向けると徐々に白煙が晴れてゆき、ゆっくりと立ち上がる影が2つ見えた。



「…あ…」

『言っただろ?』



視線の先…広場に立つのはシャクルとミネア。当の2人も唖然とした表情で自分の体や辺りをキョロキョロと見渡し、2人同時にアヤメを見上げる。



「…ったくビビらせやがって。死んだかと思ったぜ…」

「はい…寿命が縮まりましたよ……でも傷が…」



そう言うミネアの体に血の跡はあるが、傷口は無く疲れも無い。同様にシャクルにも体の痛みが無くなっていた。そして辺りに倒れていたはずの兵隊や一般市民まで立ち上がりはじめ、ミネア同様に傷が消え、「何が起きた?」と言わんばかりの表情で辺りを見渡している。シャクルとミネアの足元には、シレイスとヤナがボロボロに傷ついた状態で、気を失い倒れている事に更に驚く。



「な…何で…?」

『光の力。ボクの能力は"悪"を貫き、"正"には癒しの力を施す』

「そ、そうなん…だ……ぁれ…?」



突然アヤメの視界がグラりと揺れ、強い睡魔に襲われたように意識が薄れる。その身もグラつき、倒れていくアヤメ。



「お、おい!」

「アヤメ!?」



傾くアヤメにシャクルとミネアが走り出す。しかしアヤメはその場に力なく倒れ、同時に弓の形成の解けたナックが姿を見せる。



「でも、この力を同時に使うのは、さすがに疲れるよ……ごめんよ…マス……ター…」



そう言ってナックもアヤメの隣にパタリと倒れ込む。


そこにシャクルとミネアが駆け寄り、アヤメをミネアが抱え、ナックの体はシャクルが持ち上げる。



「アヤメ!?大丈夫ですかアヤメ!?」



ぐったりとするアヤメの体を抱えながらも揺らし、必死に呼びかけるミネア。するとアヤメからは微かにではあるが、寝息のように「スースー」という息遣いが聞こえてくる。



「…よかった…寝てるみたいですね…」

「こっち(ナック)も寝てるみたいだ」

「それにしても…これが霊召士の力なんですね?想像以上です…」

「あぁ、俺もだ。初めて霊召士として戦って、こんな事出来るなんて……ホントすげぇよ、霊召士は…」



そう言ってシャクルは、ミネアに抱えられ横たわるアヤメのお腹にナックを寝かせ、2人の寝顔を見て表情を緩ませた。

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