P.041 アヤメの戦い(1)
立ち込める土煙に咳き込みつつも周囲を見渡すと、巨大な岩の周りにも唖然とした表情の人々がいる。見渡す限りでは、怪我人などはいないもようだ。
「な…何なんですか?これは…」
「さぁ…俺らが来たときにはこうなってた」
「ねぇシャクル、あそこ見て」
ナックがシャクルの肩に乗り、図書館入口を指差すのだが…そこには入口という扉は無く、あきらかに岩がソコを通りました的な大きな穴が空いていた。
アヤメは乱れたネクタイを直しつつミネアを見る。
「これって隕石かな?」
「隕石というより…シャクル、これは…」
「あぁ。こりゃ『降ってきた』というか、『投げ込まれた』って感じじゃないのか?」
「おそらくですが…」
図書館入口にぽっかり空いた穴に視線を向けると、何やら外から騒がしい声が聞こえてくる。
「厄介事かよ、ったく…」
「とにかく行きましょう」
「OK!ほらマスター、行くよ」
「どうか戦闘じゃありませんように…」
駆け出すシャクルとミネアに一拍置いて、ナックを肩に乗せて後を追うアヤメ。祈るように両手を合わせながら図書館を飛び出した。
外に出てすぐの視界に映るのは、下り階段の先の広場で、武器を手にした数人の甲冑姿の兵士数名。そして傷ついた兵士も何人か倒れている。その中には一般市民と思える人も何人か見られた。
町の様子も激しい戦闘が行われたようで、所々の石壁や街灯、建物なども崩れ、辺りに瓦礫が散らばっている。
「な、何これ…いったい何が起きたの?」
「これは酷いや…」
その光景を唖然として見渡すアヤメとナック。しかしシャクルとミネアは武器を構えた兵士の先を見つめ、表情を強張らせる。
「…どうやら、彼らの仕業のようですね」
「だな…」
アヤメとナックはシャクルの視線を追い、その一点を見ると……武器を構える兵士の先に、2人の緋色のロングコートの人影が見える。その人影もいつからかはわからぬが、こちらの方をジっと見ていた。
それはあのランティ城で襲撃を受けた、大聖堂ザーバスの一員を名乗ったシレイス。隣に立つは、顔こそよく見えないが2メートル程の巨体に加え、コートの上からでも相当な筋肉質であろう事が伺えるガタイのいい男がいた。
シレイスはニヤついた表情でアヤメ達に向かい手を振った。
「おや~また会ったな?お姫様とその他御一行さぁ~ん」
「シレイス…何故ここにいるんです!?」
「それって別に、あんたらに言わなきゃいけない訳じゃ~なくない?」
両手を上げ、首を傾げるシレイス。そして隣に立つ男を見上げ、何かを確認し合うように互いに頷く。
するとガタイのいい男がこちらにその顔を向けた。シレイスのようにフードを被るその顔は、面長で角張った骨格。右目には黒い革の眼帯。見える左目は鋭く、眉毛は無い。そして何かに"飢えた"ような殺伐とした目をしている。
男はゆっくりと右手を上げ、己の正面に突き出す。するとその右手の先に、拳程の赤く光る球体が出撃した。その球体にナックが反応する。
「マザー反応!?何かくるよ!気をつけて!」
「アヤメ!俺の後ろにいろ!」
アヤメを庇うようにシャクルが前に立つ。
すると男は赤く光る球体を握り潰すように掴む…次の瞬間、その手から赤く燃え上がる炎が伸び、男の背丈程はあろう長い両刃の斧が形成された。
「なっ、何だよあれは!?」
「あれはブレイバー型ですよ!」
「あれがブレイバー型?すごい、初めて見たぁ!」
「…お2人の中にアラーケの記憶はないんですか…一応ブレイバー型なんですけど…」
そう呟くミネアを他所に、炎の斧を手にした男の目はまっすぐアヤメ達に向いている。その目からは、距離の離れたアヤメ達にも伝わる程の殺気が滲み出ており、思わずアヤメはシャクルの背中に頭まで隠れてしまう。
するとシレイスが鼻で1つ笑い、男の背中をポンっと叩く。
「全く、帝国直属の部隊もたいした事なかったし…不完全燃焼だよな?【ヤナ】」
「あぁ」
【ヤナ】と呼ばれた男は、ニヤリと口元を緩ませ頷いた。
「…足りない…足りないぞ、血が……もっと血を見せろォォォッ!!」
雄叫びと共に斧を両手で握りしめ、アヤメ達めがけ突進してくる。
「来ましたよ!!」
「こっちは丸腰だってぇのに…アヤメ、ナック!ここで援護頼む!」
拳を鳴らし、ミネアに「行くぞ」と合図し駆け出すシャクル。
「うおっ、獲物独り占めすんなよヤナ!」
そう言って慌てたようにシレイスはヤナを追う。当のヤナはその巨体に似合わぬスピードで、構え立つ帝国兵士をまるで無かったモノのように弾き飛ばし、炎の斧を振りかぶる。
一気に階段を駆け下り戦いの先陣を切ったのはミネア。ヤナは飢えた獣のような奇声と共に、振りかぶる斧を横なぶりに薙ぎ払う。
斬撃に合わせ瞬時に地を蹴るミネアは、振り抜かれる斧を側宙で躱す。宙を舞う身を捻り、渾身の蹴りをヤナの顔面に放つ。
完璧なるヒットの鈍い音が鳴り、ヤナの動きが止まる…瞬間、シャクルが間合いに踏み込み拳に力を込める。
「やっぱスゲェ蹴りしてんなあミネア……これでどうだ、オラァッ!!」
シャクル追撃の左ストレートがヤナの腹部に刺さる。決まる2連撃にアヤメとナックがガッツポーズ。
「やったぁ!さっすがー!」
「決まりぃ!」
……がっ、振り切られた斧を握る手がピクっと動いた。
「マズいっ…!シャクル!!ミネア!!危ない!」
叫ぶナックが援護の為、弓を形成させた…瞬間、
「うおぉらぁぁぁぁぁッ!!」
ヤナが雄叫びと共に振り切った斧を振り戻し、その長い柄でシャクルの横っ腹を薙ぎ払う。そして未だ滞空状態のミネアは、軽く引いて一気に押し出されたヤナの頭突きがその身を弾く。
「ぐあっ!」
「きゃあっ!」
地面を転がる2人の援護に矢を構えるナック。すると……
「邪魔しちゃダメだろ?どチビ」
ナックのすぐ横に気配と声。視線を向けるとそこにはシレイスの姿が。
「っ!?しまっ…うわぁッ!!」
シレイスの放つ強烈な蹴りが、ナック体を軽々と図書館内に弾き飛ばす。
「ナック!!」
吹き飛ぶナックに振り返るアヤメの頭を、シレイスが髪の毛を掴み引き戻す。
「痛っ!」
「おーおー綺麗な髪だねぇ?さすがは王族様だ」
「ちょっと痛い!離して!」
「用事のついでだ。ちょっと来いよ」
そう言って強くアヤメの髪を引っ張り歩き出す。
「痛いっ、痛いってば!離して痛い!」
「ちっ、女の悲鳴はキーキーうるせぇな…黙れっつうんだよ!!」
更に強い力でアヤメの髪を真上に引っ張ると、片手にナイフを握りアヤメの喉に当てる。
「別にいいんだぜ?今、ここでお前が死んでもな…」




