P.040 明かされた世界の理(3)
「呪われし武器は全部で4つ。剣、双剣、槍、斧。中でも剣、覇剣ダーヴィスは力はすごくてね…力という点だけなら、あの冥王以上だろうね、たぶん」
「ほぇ?冥王以上なら絶対必要じゃないの。ね?」
そう言ってシャクルを見るアヤメ。シャクルも首を縦に振り、ナックに疑問の眼差しを向ける。
「確かに対冥王だけなら必要だ。でも駄目なんだ。覇剣ダーヴィスは呪いの武器…マザーを持つ者は触れる事が出来ない上、触れた者の心を砕き、悪に染め上げる。だから――…」
「ならマザー素養の無い俺が使えばいいんだろ?冥王を斬って、その後は俺を殺せばいい」
「ちょっとシャクル!?何言ってんのよ!?」
「そうですよ、そんな事出来る訳ありません!」
2人に責め挟まれ、思わず身を引かせるシャクル。アヤメとミネアを交互に見、指で頬を掻く。
するとナックが首を横に振る。
「それも駄目なんだよ、シャクル。覇剣自体に触れただけで心は砕かれる。冥王と戦う前にシャクル自身が死ぬ」
「…どうにもなんねぇのか?」
「それ以前に、覇剣は"ある悪魔"の封印に使われているんだ」
そう言ってひたすらペンを走らせているカムラを見るナック。
「書いてる所ごめんカムラ。【魔獣グァルファウニ】って聞いた事ないかい?」
「ん?魔獣…グァルファウニ…グァルファウニ……っ!知っているぞ、魔獣グァルファウニ!呪われし武器の生け贄となった、カナフィーリン族の術士達の怨念が召喚したと言われる魔獣だな」
「さすがだよ、その通り」
指をパチンと鳴らしカムラを指差すナック。正解した事に気を良くしたカムラが大きく頷き、再びペンを走らせる。するとシャクルは深いため息と共に頭を掻く。
「…倒すんじゃなく、封印してるってか…なんとなくだが予想がつくな…こりゃ」
「え?え?どーゆー事?」
「精霊の力を持ってしても倒せねぇ魔獣だった、って事だろ。冥王以上の力を持つ覇剣…それを使わねぇと封印出来なかった程のな。そうだろ?ナック」
「うん、そうなんだ。仮に覇剣を扱う術があっても、持ち出す事で封印は解かれ、魔獣が世に放たれる」
「へぇ~そうなんだ…でもさ、精霊ってマザーの根源なんでしょ?なら倒せない敵なんていないと思うんだけど…」
「マスター、ボクら精霊は戦う為にいる訳じゃないんだよ。豊かな自然を保つ為にいる存在だから、本来戦闘は専門外なのさ」
「あ、そうなの?」
「でしたら、他の呪われし武器は使えないのですか?」
そのミネアの一言に、「それだー」っと言わんばかりの表情を向けるアヤメ。しかしナックは再び首を横に振った。
「他の武器はもう力を失い、どこにあるかすらわからないんだ。まぁあっても覇剣同様、扱う術がなくては意味はないし、封印を代われる程力は持ってない」
「なんだよ…けっきょく八方塞がりかよ」
深いため息と共に頬杖をつき、天井を見上げるシャクル。重くなる空気にカムラが頬を掻く。
「なんかすまなかったな…案を出してみたものの、調べが足りずに力になれなくて」
「いえそんな、カムラ様が謝る必要はありませんよ」
「シャクルが八方塞がりとか言うからだよ、全く…」
「あ、あぁ…悪い」
「いや学者としての力不足に変わりはない。君達がよければだが、もう少し時間をくれないか?ナック君と共に調べを進めたい。あと2日もすれば研究員達も戻し、そうすれば君達の力となる情報を必ず提供出来るはずだ。頼む!」
提供を頼む側のアヤメ達に、なぜか頭を下げるカムラ。
「え、ちょっ、カムラさん?頼んでるのはこっちなんで頭下げないで下さいよ」
「そうですよカムラ様、頭を上げて下さい」
「いや、精霊の研究者として調べたいのだ!」
「なら頼む」
「軽いってシャクル!」
さらっと言ったシャクルにナックがツッコむ。しかしシャクルは「ん?」っていう表情で続ける。
「ならカムラを連れてくか?」
「いやいや『なら』ってそんな軽く…手配書が出てるお尋ね者の一行にカムラを連れて――…ハっ!」
再びナックがツッコむも、言ってしまった『お尋ね者』の単語。口を両手で塞ぎ、ゆっくりとアヤメ達を見回す。アヤメ達も「言っちゃったよコイツ…」のような顔でナックを見て固まっている。
「…てへっ♪」
「『てへっ』じゃねぇよバカナック!」
「何ギャグ漫画みたいに説明しながらバラすのよ!シャクルとミネアが私を誘拐したお尋ね者だって!」
「お前も言ってんじゃねぇよ!!」
怒鳴りながらアヤメの両頬をつねるシャクル。
「にゃんれわわふぃわへぇ~っ(何で私だけぇ~)!!」
「お前は絶対わざとだろうが!」
「ひぃはふぅ~うぇうぃほふぉろぉ~(違うぅ~出来心ぉ~)」
「あ~シャクルちょっと落ち着いて下さいよ~!」
わーわーと騒ぐアヤメ達を他所に、カムラは何かを考え込むように腕組をして目を閉じている。
事の発端のナックは、飛び火がこぬように机の上そろりそろりと歩き、カムラに近づく。
「あれ、どうしたんだい?カムラ」
「………」
「カムラー?おーい」
カムラの顔の前に浮かび上がり、両手を振って呼びかけると、突然目を見開き立ち上がるカムラ。
「うわぁ!」
驚くナックは机の上に転がり落ちる。その気配と声にアヤメ達も動きを止め、立ち上がったカムラを見た。
「よしっ!行こう!」
何かを決意したかのように拳を握りしめ、深く頷くカムラ。動きを止めたまま、キョトーンとした表情でカムラを見つめるアヤメ達。
「わたしも君達の旅に同行しよう…いや、むしろこちらから頼みたい。是非ともわたしを連れて行ってはくれまいか?」
「いや…俺ら、さっき言ったようにお尋ね者なんだが…」
「そんな事はどうでもいい。君達が何であろうとも、わたしは精霊の研究以外に興味がない。正直な所を言うと、精霊に霊召士がいる一行なんて……興味の塊でしかないのだよ!」
興奮もう最高潮。両手を広げ叫ぶカムラ。さすがに引き気味のアヤメ達。
「わたしは学者であり、いち研究者だ。戦闘に関してはからきし駄目だが、情報という点では君達を助ける事は出来る。もちろん…覇剣が必要となった時の道案内も出来る」
そう言うとカムラは首から下げていたネックレスを、ハイネックのシャツから取り出した。そのネックレスはチェーンに人指し指大の黒い鍵がついていた。
「何だ?その鍵は」
「この鍵はな――…」
カムラがそう言いかけた瞬間…ズウゥゥン!っという重低音と共に、小さな地震のように部屋が揺れ、天井から砂煙や小石がパラパラと落ちてきた。
そして運悪く、親指の爪くらいの少し大きめの石がアヤメの頭を直撃する。
「あ痛っ!…う~何で私だけぇ~…」
「アヤメ、大丈夫ですか?切ったりしてないですか?」
「うん、大じょ――…」
ズウゥゥン!
再び響く重低音に、先程より激しい揺れ……いやもう衝撃波に近いものが部屋とアヤメ達を襲い、部屋にいる全員が突き飛ばされるように床に転げ落ちた。しかし続く揺れや衝撃はなく、アヤメ達は頭や腰を擦りながらゆっくりと起き上がる。
「いったぁ~い…何よ今の…地震?」
「さぁな…つうかこの町で地震あったらヤベぇだろ…生き埋めだぜ俺ら…」
引きつる笑みでミネアを見るシャクル。
「それは避けたい事ですが…この揺れ方はあきらかに地震ではないはず」
「ボクの予想は、山の壁に何かがドーンってぶつかった。かな?」
「っぽいな…何か嫌な予感もする。ナック、ミネア。ちょっと外の様子見に行くぞ」
「OK」
「はい」
しりもち状態のアヤメに手を貸し、ナックとミネアにそう呼びかけるシャクルは、無意識に剣のあった右腰に触れる。
「…っと、今は丸腰だったな」
そう言ってアヤメの肩をポンっと叩き…
「行くぞ、霊召士の萱島さん」
「…いや、怖いっス」
…っとアヤメも肩を叩き返す。
だがシャクルは無表情のまま、アヤメの制服のネクタイを引っ張り歩き出す。
「うぅ~!引っ張るなぁ~鬼畜男ぉ~!」
「いいから行くぞー、家畜女」
そう言って部屋を出ていくアヤメとシャクル。残るナックとミネア、カムラは互いに苦笑い。
「じゃ、じゃあボクらも様子見てくるよ」
「何があるかわかりませんので、カムラ様はこちらでお待ち下さい」
「あ…あぁ…だが何があるかわからんのはお互い様だ。君達も気をつけてな」
「はい。では行きましょう、ナック」
「うん」
互いに頷き合い、部屋を小走りに出るナックとミネア。
すると扉を開いてすぐの位置にアヤメとシャクルがいて、小走りの勢いあまり、ミネアはシャクルの背中に軽くぶつかってしまう。
「きゃっ!…ご、ごめんなさ――…」
ぶつかる背中からその身を離し、謝罪の言葉を言いかけたミネアの視界に映ったものは……図書館の本棚を多数なぎ倒し、土煙を立て転がる5メートルはあろう巨大な岩だった。
「い…隕石…?」




