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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.01 序幕の唄
4/122

P.004 世界から世界へ(2)

 穴に落ちたアヤメは真っ暗な空間にいた。


はじめは体が落下している感覚はあったが、その感覚はすぐに違うものに変わる。地に足はついてはいないのに、周囲が動いているような感覚。簡単に言えばエレベーターで下に降りていく感覚に似ていた。


この不思議な感覚は恐怖感をあおり、より体を強張らせた。そして真っ暗な辺りを見渡すも、もちろん何もない。



「え~何なのよ…ちょっとぉ~…」



するとそれから数秒後、突然軽く押されたような衝撃が体を襲う。「うわっ」っと声が出た瞬間、カメラのフラッシュのような光りが目にささる。瞬時に目を閉じそのまぶたを覆う。すると閉じた視界に微かな光りが見え、もしや暗闇の空間から出られたのか?っとゆっくりと目を開けてみた。



「うっ…!」



痛いくらい眩しい光りが目を襲う。表情を強張らせ、まぶたの開け閉めを繰り返しながら目を慣らしていくと、徐々に真っ青な空が視界に映り出す……が、未だ足が地にある感覚はなく、アヤメは恐る恐るゆっくりと下を見下ろした。



「……うわっ!」



やはり地に足はなく、その遥か下には緑豊かな大地と、遠くには青々とした大海原が広がっている。しかし体が落ちるという気配は全くない。漂う訳ではないが、ふわふわと宙に浮いている。



「ウソでしょ…何よコレ…」



人間が宙に浮く。そんな非科学的な状況に恐怖もあるが、不思議と少しだけ気持ち良くもある。だがずっと浮いたまま…っというのも考えにくいし、どうしようもない。焦る気持ちを抑えつつ、浮いたまま状況把握の為に辺りを見渡した。


見渡す視界には、高くそびえる雄大な山脈と緑の森林。そして真下には大きな湖があり、近くには日本とは思えぬ建造物。立派な白壁の西洋風のお城が1つ。赤い煉瓦の屋根が建ち並ぶ古風な町…城下町なのだろうか?城に隣接するように扇型に広がっている。



「すご~い、お城だ」



そう言って少し体を傾けた瞬間、アヤメの体が急激に落下する。



「え!?ちょっ…いっ、いやァアァァァッ!!」



手足をバタつかせながらもがき叫ぶも落下速度は増すばかり。真下を見ると、そこはあの大きな湖。



「うっ、うそォォォ~ッ!?」



手を羽ばたかせるが…人間が空を飛ぶ訳もない。アヤメの体は湖めがけまっ逆さまに落下していくだけ。




  ザッバァァァァァンッ!!!!




アヤメの体はもの凄い水しぶきを上げて大きな湖に落下した。


巨大な波紋が広がる湖。その波紋が徐々に納まるにつれ、周辺が騒がしくなり始める。



「な、何事だ!?今の音は」

「湖からだぞ!!」



声が声を呼び、あのお城の兵士なのだろうか?数人の甲冑姿の人影が湖に集まり出した。



「おいあそこ!」



1人の兵士が湖の中心を指差す。その先には水面に上がる幾つもの泡の気泡。ブクブクと上がる泡が大きくなった瞬間、「ぶはぁッ!!」っとアヤメの顔が飛び出した。



「にっ、人間!?」

「くせ者か!?」



驚く兵士達の視線の先に飛び出したアヤメの顔は、もがく水しぶきの中で浮き沈みを繰り返している。



「いやよく見ろ、あれは!」

「もがっ……た…助ぶ……助けて…!」

「姫君ではないか!?」

「何だと!?なぜこんな所に?」

「うぶっ…たすっ…助けてぇ!」



実は泳げないアヤメ。それに加え水を含んだ衣服が余計に浮力の邪魔をする。



「おい。姫君…溺れていないか?」

「そうだな――…って悠長に言ってる場合か!早く助けなければ!」

「待てバカ!!まず甲冑を脱がねば我らが沈むぞ!」

「あ、そうか!」



慌てて甲冑を脱ぎ始める兵士達。しかし本当に慌て過ぎてて変にもたついている。



「何をしてるんですか!!」



突然女性の声が響く。甲冑を脱ぎかけていた兵士達が振り返ると、1人の女性が湖に向かい走って来ている。


ピンクのローブ姿に肩までのワインレッドの髪。その毛先は肩口で外に向かいハネていた。


女性は何の迷いもなく湖に飛び込むも、時を同じくしてアヤメの頭は力無く沈み水面から消えた。


その約10数秒後……「ぷはぁっ」っという声と共に、アヤメを抱えた女性が水面から顔を出した。女性はぐったりとしたアヤメを抱え岸まで泳ぐ。辿り着くなり兵士に手を借りて陸に上がる。



「す、すまんな【ミネア】」

「はぁ、はぁ……全く、アルシェン様に何かあったらどうするんですか…」



【ミネア】と呼ばれた女性は、アヤメを抱きながら鋭く兵士達を睨む。



「い、いや…甲冑があるとだな…その~…」

「それはわかりますが、焦り過ぎです。この【ランティ城】の兵士たる者、常に冷静なる判断と応た――…」

「ッ!!…ごほっ!」



ミネアの言葉の途中、アヤメが咳き込みながら目を覚ます。



「アルシェン様!ご無事でしたか?」



耳に入る馴染みのない優しい声……



「ん?……ッ!?…生きてる…って、あれぇ?」



完全に意識を取り戻し、はっきりとした視界に映った周囲を取り囲む甲冑姿の面々。すぐ傍にはびしょ濡れで優しく微笑む女性…ミネアの姿が。



「…ほえ?」

「朝からずっと捜してたんですよ。おてんばも程々にして下さいね?もう16歳。子供じゃないんですから」



訳もわからず目をぱちくりさせ、目の前のミネアを見つめたまま、訳もわからず小刻みに数回頷く。



「これからは亡き王妃様の跡を継がれる立場なのですよ?王族としてのたしなみというものを――…っと、その前に…その格好はいったい?」



ずぶ濡れのブレザーの制服を不思議そうに見つめるミネアと兵士達。そしてアヤメも相変わらずミネア達を不思議そうに見つめていた。



「まぁそんな事よりも、風邪を引いては大変です。さぁ早く中へ。着替えましょう」



ミネアはアヤメに手を貸し立ち上がらせる。



「あ、ありがとうございます…」

「婚約も決まったばかりの身なんですから。大事にしませんとね?」

「はい、婚約ですよ――…へぇ?」



こんやく…婚約?つまり結婚?



「はいぃ!?婚約ぅ!?」

「はい。今更何を驚いていらっしゃるんですか?以前からお話ししてたじゃありませんか。さ、今からその結婚に向けてのお稽古もございます。行きましょう」

「へ?……うそ…」



本日2度目のフリーズ状態に陥るアヤメは、ミネアに引きずられるように城に連れて行かれるのだった。

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