P.039 明かされた世界の理(2)
1時間後…ようやく落ち着いた感のある研究所、中央の机を囲むアヤメ達。
「―――…ってな訳さ。闇の精霊、そして冥王を倒す為にボクらは旅をしてるんだ」
ナックによりひと通り説明された旅の真意。黙って聞いているカムラは、あいづちを打ちながらノートにペンを走らせ続けている。カリカリと音を発てるペンが止まるのを待ち、止まった所でシャクルが口を開く。
「書く必要あんのか?」
「わたしは書いて理解していくタイプでね。それに、こうも珍しい出来事は書き留めなくてはもったいな――…おっと、世界の危機という内容からして、不謹慎な発言だな。すまない」
「いや、真剣に聞いてくれただけありがたいさ」
「実体化した精霊に霊召士……不思議な組み合わせだと思ってはいたが、内容を聞いて合致した」
そして自分の書いたノートを確認し、数回頷くカムラ。
「カムラ様は驚かないのですか?わたし達の世界の他に、もう1つの世界がある事に対して」
「2つの世界がある事は、以前から研究者の間では噂されていた事。精霊を調べている内に霊召士、そしてアースランドに辿り着いたんだ。アースランドについて調べてる研究所もあるが、まだ確信は得られていない研究でな。だから公式に発表はされていない事だったんだ。その研究所でも紹介しようか?」
「いや、いい。俺らが聞きたいのはアースランドについてじゃない。冥王を倒す為の情報がほしいんだ」
「なるほど…」
カムラは少し考えるように天井に目を向け、開くノートを閉じ立ち上がる。
「ちょっと待っていてくれ。今資料を持ってくる」
そう言って図書館へ向かい歩き出し、部屋を出た。残されたアヤメ達はとりあえず待つしかない。ちょっと飽き気味のアヤメは周りをキョロキョロ。
「ねぇミネア?今更だけど、私達ってお尋ね者になってるじゃん?冥王対策を調べるのもいいけど、この町に長居してても大丈夫なの?」
「時間的にもわたしとシャクルの手配書は、まだ他の大陸には渡っていないと思います。おそらくは大丈夫なはずです。仮に見つかったとしても、町にいる間は捕まりませんし」
するとナックがアヤメの頭に乗っかりミネアを見る。
「え、何で?」
「無理に捕らえようとして争いを起こす訳にはいきません。ましてや帝国兵の守る門以外に、ここの出入口はありませんから」
「それってバレたらヤバいじゃん…私達丸腰だよ、今」
「俺とミネアはな。だから頑張れ、霊召士の萱島さん」
「ヘンに苗字で呼ばないでよ……頑張れ、精霊ナックくーん」
そう言って自分の頭に乗ったナックを撫でる。
「ボクだけじゃなくて、その時は一緒に頑張るんだよマスター」
「あ~頑張りたいけど持病の腰痛が~…う~っ」
「えっ、大丈夫ですか!?」
「おいミネア…まっすぐな嘘に構うな…」
すると再び研究所の扉が開き、カムラが戻ってきた。その手には2冊の分厚い本。
「待たせたな。まずはこれから見てほしい」
そう言って机に1冊の本を置き、アヤメ達に向けて開く。そこには1本の両刃の剣が描かれ、見開きの4分の3を埋めつくす説明文らしき文章が書かれている。文章に目を向けるアヤメ。
「…覇剣…ダーヴィス…?」
そう言ってカムラを見ると、カムラは頷きを返しアヤメの頭に乗るナックに視線を向ける。しかしナックは剣の絵を黙って見つめたまま、表情を強張らせていた。
「ナック君、君なら知っているんじゃないか?この剣」
シャクル達もナックを見るが、ナックは視線を本から離さず無言。まさか気づいてないとか…っとアヤメは小さく頭を揺らす。
「お~いナック~。聞いてるか~い?」
「ちゃんと聞こえてるよ、マスター」
ナックはアヤメの頭からふわりと本の傍に降り立つ。
「カムラ…せっかくだけど、覇剣ダーヴィスは駄目だ。この剣は危険すぎる」
ナックは首を横に振り、その身いっぱいを使い本を閉じようとした。しかし閉じようと持ち上がった本をシャクルが押さえ、再び机に広げる。
「待ったナック。危険なのかどうかは内容を聞いてからだ。なぁカムラ、この剣はいったい何なんだ?」
「この剣、覇剣ダーヴィスは世界に点在する呪われし武器の1つ。精霊を殺す為に作られた魔剣だ」
「精霊を殺す為、だと…?」
「そうだ。創成期時代の話にさかのぼるが…当時精霊は"悪霊"や"冥界への使者"という説があってな。人の命を喰らう者とされていた。そこで先人達はその精霊を殺す為、各種族1万人の生き血を吸った魔の武器を生み出したのだ」
「い…1万の生き血って…ゾォ~…」
アヤメの背筋がゾクッと震える。するとナックが口を開く。
「各種族じゃないよ…ヒューマ族だけだよ。呪われし武器を作ったのは」
「なっ、何だと!?ヒューマ族だけって…し、新事実という事か…その点を詳しく聞かせてくれ!」
再び学者魂に火がついたかのように、ノートとペンを手にナックに迫るカムラ。だがナックは微動だにせず、なぜかその奥にいるアヤメがビビる。そしてナックはシャクルに向いた。
「…ごめんシャクル。過去に話した2つの世界の理、嘘を教えてた」
「嘘?何が嘘なんだよ」
「世界は最初から2つあった訳じゃなかった。本物の地球は…このマザーランドなんだ」
「は?本物だと?」
「世界の創成期は、地球…このマザーランドだけだった。でもさっきカムラが言ったように『精霊は悪霊だ』と、マザー素養の無いヒューマ族が言い出した」
「未知の力に恐れて…っという事ですね」
ミネアの言葉に頷き返すナック。
「そしてヒューマ族は、最もマザー能力に長けた数万人のカナフィーリン族を生け贄とし、虐殺した」
「なるほど…その虐殺した武器が呪われし武器な訳だな?ナック君」
「そうだよ。だからボクら精霊は、マザーランドの外郭に仮想大地を形成させた。精霊を殺そうとするヒューマ族を幽閉する為にね」
「幽閉って…なんか聞こえ悪ぃな…」
呟くシャクルに同意するように頷くアヤメ。
「いや、幽閉すら優しい言い方だね…実際は、ヒューマ族を殺す為に作った大地だ」
「なっ…!?」
思わぬ言葉に部屋の空気が凍りつく。さすがに驚いたカムラも手からペンが転がり落とす。
「外界の大地…アースランドにわざとマザーを循環させず、ただ衰退していくだけの死の世界にし、自然にヒューマ族が死んでいくようにした。精霊が自ら手を下さぬように…」
「えっ、じゃあさ、霊召士も精霊を殺そうとしたって事なの?」
「違うよマスター。霊召士はボクら精霊の過ちを諭してくれた唯一の存在…『このままでは本物に悪霊になってしまう。だから我らと死の大地に渡り、世界と歴史を救済しよう』と言ってね」
「ふ~ん…」
深い頷きを繰り返すシャクル以外の面々。
「そして歴史が繰り返されぬよう、霊召士が時の精霊クロノに頼み、外界のヒューマ族からマザーランドの記憶を消したんだ。それをいい事に、精霊は人間を殺そうとした事実を隠し、罪を無かった事にした……けっきょく悪霊なのかもしれないね、ボクら精霊は…」
深いため息と共に俯くナック。するとシャクルは本を再び手にし、ナックにつき出す。
「まぁそんな事よりこの剣、何が危険すぎるんだ?」
「そんな事よりってシャクル…」
あっさりと話しを切り換えるシャクルに引きつった表情を向けるアヤメ。
「今更昔の事でとやかく言っても仕方ねぇだろ。けっきょく今は、霊召士と精霊は外界のアースランドを守る存在なんだろ?それでいいじゃねぇか」
「ま、まぁそうだとは思うけど…」
「なら早く剣について教えてくれよ。その呪われし武器についても知りたいしな」
「アハハ~…シャクルらしいや…」
苦笑い気味に差し出された本を受け取り、再び机に寝かせるナック。




