P.038 明かされた世界の理(1)
「どうしたんだ?アヤメ」
固まるアヤメにシャクルが歩み寄ると、手にしたケースをシャクルに差し出した。
「見てよ、これ…」
「ん?…あれ」
シャクルがケースを見ると、そこには最初と変わらぬ白いマザーの分子がある。アヤメは目の前で何度か振ってみせるも、ただ白い粉が舞い、再び粉として戻るだけ。つまりそれはアヤメにマザーを操る素養が無いという事。
「私…霊召士じゃないの…?」
「嘘だろ…ナックが触った後だからイカれちまったのか?ちょっと貸してみろ」
ケースを受け取りシャクルも振ってみる…が、何も変化は無い。まぁシャクルは生粋の地球人。反応が無いのは想定内の事、シャクルはミネアにケースを差し出した。
「ちょっとやってみてくれ」
「はい」
ケースを受け取り、数回振ってみせるミネア。すると粉は気化していき、次第に渦を巻き始めた。そしてその渦は茶、青、赤、緑の色となり、混ざる事なく渦は回り続ける。
「な、何だよこれ?」
「わたしにもわかりません…元々わたしは風のマザーを使い、脚力強化のファイター型だったはずですが…」
「おっと、こいつは驚いた」
アヤメ達の後ろから、息を切らせたカムラが歩み寄ってきた。
「あ、カムラさん。…あれ?ナックは?」
「外に逃げていったよ。髪の毛を1本採取しようとしただけなんだが……しかし、ミネアさんだったかな?あなたは【治癒術師】だったのかい?」
「わ、わたしが…治癒術師ですか?」
アヤメとシャクルは同時にミネアを見て首を傾げる。
「治癒術師とは、地水火風。生命の源と言われる4つのマザー属性を持つ、外傷治療術師の事で、1万人に1人の確率でいる特異体質の者なんです」
「えっと…つまりあれか、斬られた傷を術とかで治せるって訳か?」
「はい、簡単に言えばそうです。ですが、それがわたしだったなんて…全然気づきませんでした」
「ミネアすごぉ~い」
するとカムラは再び奥の机に向かい、また何かを探しはじめた。
「まぁ無理もない。4つもマザー属性が体にあると、お互いに上手くバランスを保ちにくいんだ。だから術を発動出来ず、自分にはマザーの素養が無いと勘違いをする者も少なくはないくらいなのだから。おそらくミネアさんは生まれながらというよりは、後に治癒術師として目覚めたようなものかもな。そういう例も存在はする」
そう言うと、資料に埋もれた1冊の本を取り出し、ミネアに「いくぞ」と合図をして投げ渡す。
「これは…何ですか?」
「治療術の学問書だ。研究の為に帝国からもらった物だが…研究に役立つ情報が無くてね。資質を持ったミネアさんに読んでもらった方が、本の存在価値が出るってものだ」
「いいんですか?お借りしても」
「いや、返す必要はない。1人でも多くの術師が世に出る事の方が、研究なんかよりも世の中の為になる」
「すみません、ありがとうございます」
笑顔で深々と頭を下げるミネア。するとシャクルがアヤメの背中を押し、カムラの前に出す。
「すまないカムラ。ちょっと見てほしいんだが…ミネア、ケースを貸してくれ」
「あ、はい」
「ほらアヤメ、振ってみろ」
「う、うん…」
言われた通り、カムラの見守る中ケースを振るアヤメ。だがやはり粉は気化せず、ただケースに降り積もるだけ。その光景を見るカムラは数回頷き、小さくひと息。
「…残念。お嬢さんにはマザーの素養は無いようだ。まぁヒューマ族の大半は素養の無い場合が多い。気にやむな」
「やっぱり私…違うんだ」
「なぁカムラ。本当にコイツに素養は無いのか?何かの間違いだろ?」
「いや、素養が無いというか…あったとしても、術として発動出来ない。っと言った方が正しいかもな」
「嘘だろ…」
「そんな…」
がっくりと肩を落とすアヤメとシャクルに、カムラ首を傾げ2人を交互に見る。
「どうしたのだ?お嬢さんにマザー素養が無いと何かマズいのか?」
「それはボクが説明するよ」
するとナックがシャクルの肩に舞い降りた。
「ナック…お前どこまで逃げてったんだよ?」
「町の外」
「どんだけだよ…」
アヤメはシャクルの腕を掴み、体ごと正面に向けてナックを見る。
「ねぇナック。まさか私を騙したとかじゃないわよね?」
「そんな騙すなんて…マスターはちゃんとマザー素養はあるよ。ほら、そのケースを見てごらん」
「え?…あっ」
シャクルの腕と挟み持っていたケースを見ると、ナックのような金に輝く六角形の石ではなく、白い丸い石がそこにはあった。その石を見たカムラは、目を見開きケースに駆け寄る。
「なっ…何だこれは!?白い源珠だと!?こんなの見た事がない…」
アヤメの手を取り、ケース内の白い源珠をまじまじと見つめるカムラ。ナックは視線をアヤメからカムラに移す。
「源珠が形成されたって事は、マザー素養があるって事だよね?カムラ」
「あ、あぁ…素養どころじゃない。精霊に匹敵するくらいのマザーを持っているという事だ…」
そう言いながらもカムラは白い源珠から目を離さない。
「じゃあさっきは何で私が振っても反応が出なかったの?」
「それは精霊の実体化について話した時に言った、実体化による精霊のマザー消費を抑える力が関係してるんだ」
「…そんなの聞いたっけ?」
首を傾げるアヤメに、シャクルの肩でコケるナック。
「言ったよ…も~、もう1回言うけど、精霊が実体化している間は膨大なマザーを消費する。でも霊召士は消費マザーを抑え、補い、なおかつ自然界にマザーを送り出す事が出来る術士だって」
「あ~聞いたかも。つまり、天然のエコ人間って事ね?」
「ごめん、何を言ってるかわかんないけど……要するに精霊との契約に力を使う霊召士は無駄にマザーを放出はしない為、普段は表にマザーを出さない。それにたぶんマスターは、まだ霊召士の力をコントロール出来ていない。解放の仕方もわからないはずさ。だろ?」
そりゃそうだ、っと頷くアヤメ。
「あとは慣れだね。これは徐々に練習していこうよ、マスター」
「うん、わかっ――…」
「ちょっと待った!!」
アヤメが答えているのを切り、カムラが掴んだままのアヤメを腕を引き寄せる。
「ひゃあっ」
「お嬢さん!今『霊召士』と言ったな!?」
「えっ、あっ、はい…」
「本当か!?本当になのか!?」
睨み付けるような表情でカムラに迫られ、アヤメは半べその顔で何度も頷く。シャクル達も突然の事に、唖然とその光景を見ている。
するとカムラはアヤメの腕を離し、再び奥の机に走る。
「何て事だ、古い文献で読んだ霊召士がまだ実在していたのか…光の精霊に霊召士…何という日だっ…!素晴らしい、これは新しい発見が生まれるはずだ!!」
そう言って振り返るカムラの手には、1冊の本と……ナイフがあった。
「っ!?解剖いやぁーーっ!!」
悲鳴と共に部屋から走り去るアヤメとナック。
「あっ!おい待ってくれ!……ん?」
っとカムラは手にしたナイフを見て……
「ハっ!しまった、ペンと間違えた」
そう言ってペンに持ちかえ、アヤメ達を追って部屋を走って出ていくカムラ。
その光景にシャクルは深いため息を1つ。横目にミネアを見た。
「こりゃいったん落ち着かねぇと話しが進まねぇな…」
「ですね。カムラ様にもわたし達の旅の真意をお伝えした方が、話しは円滑に進むと思いますし」
「そうかもな。…っていうかアイツら…」
アヤメ達が出ていった扉に呆れ顔を向けると……
「きゃあーっ!!殺されるーっ!!」
「腹開かれるーっ!!」
「違う!!待ってくれ!髪1本!髪の毛だけでいいから!」
ドタバタと図書館内を走り回っている音と、アヤメ達の声が響いてくる。
シャクルはため息をはきながらミネアの肩を叩き……
「ミネア。頼む」
「えぇ!?わたしがですか!?」




