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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.04 覚醒の力
37/122

P.037 古代書の都エクシラ(3)

敬礼で見送ってくれる門番を横目に、門をくぐりエクシラに入る4人。



「もっと厳重な警備を想像してたんだが、案外すんなり入れるもんなんだな」

「『学を求む者は、いかなる者も拒まず』それがこの町の決まりですから」



アヤメはナックを乗せたまま、通路の切れ目となる谷底を覗き込む。もちろん落下防止の壁はありますので心配無用。覗く谷底はやはり真っ暗で先は見えない。



「うひゃ~…落ちたら死んじゃうね、これは…」

「じゃあマスター試してみる?」

「う~っ!降りろバカナック~!」

「アハハ、冗談だって冗談」

「何やってんだよ2人して…先行くぞ」

「あ、待ってよー」



既に先に進んでいたシャクルとミネアに、慌てて駆け寄るアヤメ。合流した場所は円形の広場のような敷地。周囲はランプの灯る外灯に石造りのベンチが並び、四方八方に石階段が伸びている。


その広場にはミネアより説明を受けた四大種族が入り交じり、お互いが資料を広げて意見交換をしたり本に集中する者。様々だ。


ランティ国領の関所で会ったラーグ族。ここでは全然穏やかな顔つきの者ばかりだ。


体は人間のような二足歩行だが、顔は犬や猫…様々な動物の顔をした種族はモルハス族と言うらしい。偏見で申し訳ないが、この2つの種族に突然会ったら身構えてしまいそうだ。まぁ時期に慣れるであろうが……


そして見た目は人間と変わらないが、尖った耳をした種族がカナフィーリン族。人間よりも線が細く、華奢な体だ。色とりどりの髪の色をしていて、どこか品のある種族にみえる。



「…で、どこ行けばいいんだ?」

「精霊の研究をしている所に行きましょう。ちょっと聞いてきますね」



そう言って近くの外灯に寄りかかり本を読む、柴犬風の顔をしたモルハス族に話しかけるミネア。その間アヤメはまたポカーンっと口を開き、周囲を見渡していた。



「こんなに広い空間が山の中だなんて不思議…でも何かワクワクするね?ここ」

「うん、確かに。秘密基地って感じでワクワクするよ、ボクは」

「あ~わかるかも、そーゆーの」



あいかわらずキョロキョロと町並みを見渡すアヤメとナック。



「何してるんですかアヤメ。行きますよ」

「ほえ?」



呼ばれ振り返ると、ミネアとシャクルの後ろに、先程声をかけていた柴犬風顔のモルハス族が立っていた。


黄土色の毛並みにグレーの瞳。白衣を羽織り、黒いハイネックのタイトシャツに手袋。絹の黒いズボンを履いた2メートル近くはあろう大柄な男…いや雄?とにかくそちらがいる。



「こちらは【カムラ=リアーセ】様で、精霊研究所の所長をお勤めされているんだそうです」

「カムラだ。よろしく、お嬢さん」



そう言って手を差し出すカムラと名乗るモルハス族。少し戸惑いながらも手袋に包まれたカムラの手を取る。


挿絵(By みてみん)


「手袋をしている事に気分を害していたらすまない。外したら更に気分を害してしまうからね。何せ毛むくじゃらだからさ」

「え、あ…いえ…アハハ…」



自虐の冗談なのだろうか…返答に困り、とりあえずの愛想笑い。だがアヤメ的にはその毛むくじゃらを触ってみたいと、袖から覗く毛並みを見ていた。



(モフモフしてそうだなぁ…)



するとカムラはアヤメの肩に乗るナックを見て数回頷く。



「なるほど…君が実体化した光の精霊なんだね?」

「そ、そうだけど」

「素晴らしい…実に素晴らしい……ではさっそく研究所へ移動しよう」



目を輝かせナックを見つめた後、くるりと身を反転させ歩き出すカムラ。長身に加えて、はやる気持ちからの早歩き。予想外のスピードに慌て、アヤメ達も小走りに後を追う。


広場から伸びた長く蛇行する階段を上り、岩壁にその身を埋め、2階建ての顔だけを覗かせた赤煉瓦の建物前にきた。



「さぁ入ってくれ」



カムラは木製の扉を開き、アヤメ達を中に促す。「どうも」と軽く頭を下げて中に入ると、100近くは軽くあろう本棚が並ぶ広い一室を見下ろす場所に出る。室内にはたくさんのランプが灯されており、以外と明るい。



「ここは一般開放されている精霊図書館だ。研究所はこの奥にある」



そう言って正面にある、下りの階段に足を進めるカムラ。後に続くアヤメ達は、辺りをキョロキョロ。精霊図書館と呼ばれた空間は、一般開放されているだけあって疎らではあるが人の姿が見られる。


古い本独特の香りのする通路を進み、両開きの木の扉前に突き当たる。



「この先が研究所になる。普段は関係者以外は立ち入り禁止なのだが、今日は特別だ」



両手で勢いよく扉を開くカムラ。アヤメはシャクルの後ろに隠れつつ、扉の奥を覗き込む。



「お前…何してんだよ?」

「いや、何が飛び出してくるかわからないからね」

「俺は盾かよ…」



ため息をつき、スタスタと歩き出すシャクル。その後を慌てて追いかけ、ジャケットを掴むアヤメ。



「わぁ~待ってよ」

「うおっ、危ねぇな引っ張んな」

「ちょっ…痛い足踏んでるってばぁ!」

「お前が引っ張るからだろうが」



騒ぐ2人を他所に、先を行くカムラは誇らしげに両手を広げながら足を止める。



「この研究所には世界に2つしかないマザー値測定装置や、マザー蓄積装置などのとても貴重な装置があるんだ。さぁ見てくれ、この素晴らしさを!」



振り返りながら広げた両手を更に高く上げるカムラ。アヤメ達はその勢いを受け、周囲を見渡す。


室内は奥行きは4~5メートルくらいの小さな部屋。そう高くない天井に吊るされたランプが青白く光り、図書館よりも全然明るく全体を見渡せる。


周囲には赤煉瓦の壁よりに、幾つかの机と椅子が寄せられていて、資料や貴重な装置と言った代物が散乱している。床や中央にある長方形の机の上にも本や紙。器材の破片とみられるものも散乱する、全く片付いていない一室であった。


あまりの散らかりように、アヤメ達の表情は引きつった。



「確かに…こりゃ素晴らしい散らかりようだな、おい…」

「うん、汚い」

「しっ!マスター正直すぎるよ!」



咄嗟にアヤメの顔に張り付いて口を塞ぐナック。しかし鼻ごと塞がれ、息が出来きないアヤメがもがく。ミネアが慌ててナックを引き離し、「殺す気かー」っと再び騒ぐ。



「ず…ずいぶん賑やかな御一行さんだな…君達は…」

「あ~悪い。無視してもらって構わない」



騒ぐアヤメ達を見ずに、足元の本を拾い上げパラパラとめくるシャクル。



「他の研究員はいないのか?」

「あぁ、今は留守中だ。他の大陸に調査に出ている」

「部屋の広さからして…あと3、4人ってとこか?」

「ここはそう、わたし以外に3人。研究所本部はタスマニカン帝国にあるんだ。エクシラは分子支部ってやつさ」



すると騒ぎ終えたアヤメ達も合流。『帝国』の単語に、警戒の目でカムラを見るミネア。



「…っという事は、カムラ様は帝国部隊に属していらっしゃるのですか?」

「いや、わたしはただの雇われ研究員の1人でしかない。部隊とは無関係だ」

「ですが所長という立場なのに、無関係というのは…」

「何をそんなに警戒しているかわからんが…ここは元々わたしが1人でやっていた研究所でね。生活の為に帝国に情報を売っている内、いつの間にか雇われ研究員になっていただけの事。だから軍関係の事はさっぱりだ。もちろん他の3人も一般研究員さ」



それを聞いてひとまず警戒を解くミネア。その隣でアヤメは突然手を叩き、「ひらめいた」っと言うように人差し指を立てる。



「わかった!つまりカムラさんはバイトリーダーですね!」



決まった感満載の表情のアヤメだが、当のカムラとシャクル、ナックやミネアの表情は無。どうやらこの世界には『バイトリーダー』…いや、『バイト』の言葉は無いようだ。


まぁそんな気はしてたけどね……


アヤメはそそくさとミネアの後ろに隠れて小さくなり、存在感を薄める。



「ま、まぁ君達が帝国に警戒の念を抱くのは知らないし、追究するつもりもない。その点だけは信じてくれ」

「あ、いえ、わたし達も帝国に警戒をおいている訳ではなく、その…ただ…」



するとカムラは「まぁまぁ」と言うような手振り。



「旅にはそれぞれの理由がある。言っただろ?わたしは追究はしないと。わたしが興味があるのは精霊とマザーの力だけだ」



そう言ってナックに視線を向けるカムラ。そしてすぐに視線を外し、横の机に乗ったスマートフォンくらいのサイズの透明なケースを手に取る。


ケースの中には小麦粉のような白い粉が、容器の半分程の量入っている。カムラはそのケースを数回振り、ケース内に粉を舞わせた。しかし粉は白い煙りのように舞い続け、下に落ちる事はない。そして白い煙りは次第に緑色に変化していく。


アヤメは「何で?」っという表情でケースとカムラを交互に見る。



「この白い粉はね、マザーの分子を固体化させたものなんだ。マザー素養のある者が振ると、粉が気化して舞い続ける。そして属性を色で教えてくれるんだ。ちなみにわたしは緑色、風の属性を持っている」

「へぇ~おもしろ~い」

「火ならば赤。水は青。地は茶色となる」



未だ舞い続ける緑色の煙りを、興味津々っといった面持ちで見つめるアヤメ。その肩にナックが降り立ち、カムラを見る。



「ボクがそれを振るといいのかい?」

「察しの通りだ。君が精霊である事を確かめさせてくれ」



そう言ってケースを差し出すカムラ。ナックは両手を出して、体の半分はあろうケースを抱えた。その姿を潰されないか?っと心配そうに見るアヤメ。



「大丈夫?ナック」

「うん、思ったより軽いから大丈夫だよ――…ってあれ?」

「粉が……消えた?」



言葉の通り、ナックの抱えたケースは空っぽ。何も無かったのだ。キョトーンっとした表情でカムラを見るアヤメ達。


するとカムラはニヤリと笑い、無言でケースを指差す。つられ見るケースには、先程まで何もなかったはずなのに、小指の爪程の六角形の金に輝く石があった。



「精霊程の強力なマザーは触れただけで反応し、小さな源珠を形成する。君は本物の光の精霊という訳だ……素晴らしい。これで実体化した精霊は3体目だ」

「え?ボクの他にも精霊に会った事があるのかい?」

「あぁ。帝国で水の精霊。ラーグの里で火の精霊と1度だけ」



するとカムラは奥の机に走り、積み上がる資料をあさりはじめる。「無い無い」と連呼し、何かを探しているようだ。


その姿を見るシャクルがナックに近づき、



「お前…今から実験か解剖とかされんじゃねぇの?」

「えっ!?ま、まっさかぁ~…」


「あった!あったぞ!」



カムラが急に叫び振り返る。その手には注射器と小型のナイフが……



「嘘だろ…!?」

「そのまさかァーっ!」



抱えたケースを放り投げ、アヤメの肩から飛び上がるナック。放られたケースをアヤメが慌ててキャッチ。安堵のため息をはくアヤメに、ミネアが並んだ。



「ナイスキャッチですね、アヤメ」

「危なかった~…割ったら何が起きるかわかんないからね」



そう言ってケースに視線を下ろすと……



「えっ…これって…」

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