P.034 大陸脱出(4)
その頃、ワーグ達を退けた橋の袂では武器を構えた兵士達がシャクルとミネアを囲んでいた。
「どういう事ですか?ミネアさん…」
近くには気を失った兵士が3人倒れており、その手には微妙に似てるようで似てない、シャクルとミネアの似顔絵が描かれた手配書が握られていた。
「援軍到着と思いきや、あんたを捕まえに来た方の援軍だった、って訳かい」
「わたしをですか?…貴方も、でなくて?」
ワーグとの戦闘中、町の外から大勢のランティ城の兵士達が駆け付けたのだった。いいタイミングで来てくれた、っとも思ったが…やはりこうくるか…
「ま、どっちもで正解だわな。何かやらかして来たのか?」
「ほんの少しですけどね」
「ほんの少しねぇ…にしちゃぁずいぶんな援軍だ事」
「国王を名乗る御方、おもいっきり蹴り飛ばしてきましたから」
「お~怖ぇー怖ぇー」
互いに視線を合わせ、軽く笑みを交わす。
「そうなりゃもう後戻りはできねぇな…お互いに」
「えぇ」
小さく頷き、ゆっくりと武器を構え直すミネア。対峙する兵士達も武器を持つ手に力を入れる。
「嘘だと言ってくれ…ミネアさん…」
「ごめんなさい…」
踏み込み足に力が込められる。
「…行くぞ」
「はい」
◆◆◆――…
一方でアラーケに引かれるアヤメ。それを追うナックは、倒されたワーグ達の転がる町中を走る。
「ちょっとどこ行くのよ!?」
「家だよ!」
「家って何で?シャクルは?」
「後で拾うさ!」
「ひ、拾う?」
「いいから!!」
アヤメを引いたまま自宅の扉を開き、工場に駆け込むアラーケ。するとナックが船を見るなり、パァっと目が輝かせる。
「うわぁ~!!すごいなコレ!」
船を見てこの歓声。その姿にアラーケもご満悦の様子。
「だろ~わかるか?おチビ」
「だからナックだってば!」
「あ~そうだっけ。ごめんごめん」
するとウィビが再び不機嫌そうに振り向く。
「今度は何?ホントうるさいんだけど…」
動いたウィビに当然の如くナックの動きがピタリと止まる。
「何よ、このチビっ子」
「しゃ…喋った……船が喋ったぁぁ!?」
「ハっハっハ~!ビビったか?でも驚いてる時間はないよ~。ほら乗るぞ」
「え?この船に?」
「はぁ?何よ…また飛ぶの?」
「『飛ぶ』って何?」
ナックはアラーケの肩に乗り顔を覗き込む。
「詳しくは乗ってからだ。さぁ乗った乗った」
「えっ、ちょっと説明してよアラーケ」
促されるまま船に乗り込むアヤメとナック。甲板は以前と同様、工具と木材が置かれたまま。
アラーケはアヤメの腕を引き船内への扉を開く。内装ももちろん木造。以外と広々としていて高さも十分。空間には屋上へ続く梯子と、地下へと続く急な階段、更に奥には扉があり部屋があるようだ。
「以外と広いんだぁ、中」
「だろ?じゃあ操舵室に行くよ。こっち」
導かれるように梯子を上ると、すぐそこには舵のある操舵室だった。
「ねぇ、本当に飛ばせるの?この船」
「もちろん!シャクルも待ってる事だし急ぐよーっ!」
「待ってるって、そんな…何をどうする訳?大丈夫なの?」
「あら?1度アタシに乗ったのに、信用出来ないって言うのかしら?」
船内にウィビの声が響く。
「え、違うくて…意味がわからないって言うか…」
「あ~もう。とにかく飛べばイイんでしょ?アラーケ、目的地は?」
「理解が早くて好きよ~ウィビちゃん♪目的地はこの町の中にいるシャクルのお迎えさ」
そう言ってアラーケは舵を握った。
「人間が目的地?…とりあえず町飛び回ればイイのね?また怒られても知らないわよ」
「そん時は一緒にね」
「嫌よ。…とにかく、舵は頼んだわよ。アラーケ」
「了解!ブっ飛ばしで頼むぜ~ウィビ」
「はいはい……せいぜい振り落とされないでよね」
すると船体はあの時同様に揺れはじめ、船と接する水面が激しく波打つ。
「よっしゃ!行くぜぇ!!」
揺れる振動をそのままに、船体がゆっくりと水面を離れはじめる。するとナックの表情が急に強張る。
「ほ、ホントに飛んだ…けどこの力って…」
「どうしたの?ナック」
「いや…何でもないよ…」
「ほら、行くわよ?ちゃんと掴まっててよ」
「っしゃあ!!…はっ、しぃ~んッ!!」
そのかけ声を待ってました!っと言わんばかりの爆音と飛び散る水飛沫の中、勢いよくウィビの船体が空に向かい飛び出した。
「いやぁぁ~ッ!!」
「うわぁぁ~ッ!!」
ウィビは工場の屋根をブチ破り飛び上がる。
「ちょっとウィビちゃんやりすぎーッ!!」
「いったぁ~い!!頭打ったぁー!!」
「きゅ~…」
辛うじて舵を掴むアラーケに、ひっくり返る状態でコケてるアヤメ。その近くには全身強打でノビ気味のナックが倒れている。
「アンタが飛ばせって言ったんでしょ。それに飛んだんだから結果オーライ」
「うぅ~…これちゃんと制御出来るんだろうね?」
「任せんしゃい!!」
「アンタに制御される筋合いないわよ」
「製造者の1人よ!?おれ」
「はいはい。ほらバカ言ってる内に見つけたわよ、あのシャクルって子。南西の方角よ」
舵にしがみつくアラーケの視界にも、窓を通してぼんやりとだがシャクルとミネアの姿を確認。
「おっ、ナ~イス♪よっしゃ、ウィビちゃん高度マイナス70!!」
「了解」
「いっくぜぇ~!!」
いきいきとした表情で舵をおもいっきり切るアラーケ。すると船体は舵の方向に急降下。
「いやぁ~!!」
「マ…マスター…ぐるじぃ~…」
突然の落下にナックを抱き締め悲鳴を上げるアヤメに、その腕を必死にタップするナック。
「くぅ~!おれもナックに位置に連れてってぇ~ん!!」
そんなアラーケの視界にはっきりと映り込むシャクルとミネアの姿は、ランティ城の兵士に囲まれた状態。
「『相手』ってやっぱりそういう事かよ……ナック!!出番だぜ!!」
「…ぐる…し…い…」
「ってアヤメちゃん離してあげてーっ!ナックが死んじゃうーっ!」
その頃シャクル達の耳にも「ゴォォ」っという、何やら風を切り進む音が届きはじめていた。その気配に兵士を含めた全員が空を見上げる。
「な、何だ!?」
「船!?船だぞあれ!!」
空飛ぶ船に驚く兵士達。
「あ、あれは…!?」
兵士同様、ミネアも船を見て目を丸くする。
「あれは…?」
「あれはアラーケの船さ。上手く拾ってくれるといいが」
「え?アラーケ…の?」
はじめは驚きの表情ではあったが、船を見つめるミネアの口元が微かに笑みを作る。
「あの形…お父さんの設計だ…」
だがその船はもの凄いスピードでこちらに突っ込んでくる。その場から逃げ出したくなる程の勢いだ。思わずシャクルも数歩後退るその時、船体からナックがロープを持って飛び出した。
「ナック!?」
「シャクル!!ミネア!!掴まれぇ!!」
ロープ片手に地面スレスレを飛ぶナック。兵士達は驚き道を空ける…っというか逃げて避けているのだ。
「掴まれっておい…何ちゅうスピードだよウィビちゃんよぉ…」
そう言いつつシャクルはミネアの腕を引く。
「いくぞミネア!俺に掴まれ!」
「は、はい!」
「「せぇ~…のッ!!」」
シャクルとナックのアイコンタクトと、合わせたかけ声で見事にロープを掴んだシャクル。掴む瞬間、ナックがスピードを緩めたお陰で振り落とされる事なく、ミネアと共に何とか飛び上がる。
「よっしゃ大成功~!!」
「やったぁ~!」
アラーケとアヤメも操舵室でガッツポーズ。
ロープにぶら下がるシャクルもウィビを見上げて苦笑い。
「速すぎて腕千切れるかと思ったぞ……ま、脱出成功した訳だし、サンキュ。ウィビ」
「全く、面倒事は今回だけにしてよ」
当然の如くウィビの姿にミネアがポカン……
「い、今喋った…?」
「何よ。喋ったっていいじゃない」
「い、いいのか…?」
兵士達がポカーン…っと見上げる空。1隻の船…飛ぶはずのない船が、空の彼方へと飛び去って行くのだった。




