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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.03 世界への船出
32/122

P.032 大陸脱出(2)

「な、何だ!?」



シャクルとアラーケは辺りを見回す。崩れたような音といえど、被害は揺れ具合からしてこの建物ではない。だがその音はもちろん、別室で洗い物中のアヤメの耳にも届いていた。



「助けてくれぇぇッ!!」

「化け物よ!!」

「うわぁぁぁッ!!」



加え聞こえ出すのは外からの悲鳴と叫び声。これはただ事ではない事が伺える。すぐさまシャクルは剣を取り走り出す。



「アラーケ、ちょっと行ってくる。アヤメを頼む」

「あ、オイ!シャクル!!…って行っちまった…」

「騒がしいわねぇ…」

「そう言うウィビちゃんはマイペースだねぇ~…」



すると船場にアヤメが駆け込んで来た。



「お?アヤメちゃん」

「あれ?アラーケだけしかいない…シャクルは?」

「今表に出てったけど?」

「え~まだケガ治ってないのに…もう、私も行ってくる!」

「いやアヤメちゃん!危ないって!」



制止を無視したアヤメが外に向かい走り出す。



「あらら行っちゃったよ…ったく、これだから旅人さんは…」



そう言って頭を掻きなが首を左右にコキっコキっと鳴らす。そして大きく深呼吸を1つして目を閉じる。



「あら行くつもり?」

「女の子を頼むと言われたんだ。行くしかないっしょ?男はさ」

「ふぅ~ん、たまにはイケメンになるじゃないの。あんたも」

「"たまに"は余計じゃーいっ!」

「はいはい、いってらっしゃい。アヤメって子、もう行っちゃったわよ」

「へいへ~い!」



するとアラーケは背を向け、後ろ向きにウィビに手を振り工場を後にした。




◆◆◆――…




 町中の異変…それは飛び出したシャクルの視界にすぐ飛び込んできた。



「ワーグってやつか…!」



ランティ王国の舞踏会の時に襲ってきたあのワーグ。朽ちてただれた皮膚に錆びた武具をまとうゾンビ達が、圧し寄せる波のように町中になだれ込んでくる。



「何でこんなにいやがんだよ…!!」



走るままに剣を抜き、今まさに襲われんとする町民に迫るワーグを斬りすてる。



「無事か?」

「え…あ、はい。ありがとうございます!」



腰を抜かした町民の安堵の表情を見、次なるワーグに斬りかかるシャクル。次々現れるワーグを斬りすてていく中、そこにアヤメが駆けつける。



「シャクル!」

「お前っ、何で出て来た!?」

「何でって、シャクルまだ傷治ってないのに――…」

「バカッ、後ろ!!」



シャクルの視線の先、アヤメの背後に迫るワーグの姿が。声に固まるアヤメの肩を掴み、無理矢理しゃがませ剣を一閃。ワーグの首が跳ね上がり宙を舞う。


アヤメの腕を掴み起き上がらせるシャクル。そしてアヤメの腰から短剣を抜いて、その手に握らせた。



「来ちまったものはしょうがねぇ…ちょっと怖いかもしれないが、俺の傍離れんな」

「う、うん!」



短剣を握りしめ、何度も頷くアヤメ。



「うわぁぁぁッ!!」



すると2人の耳に響く子供の悲鳴。目を向けると4~5歳くらいの1人の男の子に近づくワーグが見えた。


咄嗟に走り出そうとするシャクルだったが、立ちはだかるように数体のワーグが飛びかかってくる。斬撃を剣と鞘で受け、隙あるワーグを蹴り飛ばす。


思わぬ足止めに一拍おかれたシャクル。その間男の子に近づくワーグは手にした斧を振りかぶった。恐怖に声も出せずに動けぬ男の子。その道に隔てるもののないアヤメは、握る短剣に力を込めて走り出す。



「バカ行くな!」



瞬時にワーグの剣をさばきその身を斬りすてるも、男の子を助けるには間に合わない。


咄嗟に剣を逆手に持ち、投てきフォームに入るシャクル。しかし先に走るアヤメの背中が進路を塞ぐ。



「アヤメどけぇッ!!」

「えっ!?」



気づき振り向く視界に映るシャクルの姿に、アヤメは足を止めてその場にしゃがむ。ようやく開けた進路にシャクルの手に力がこもる。だが狙う斧は待ってはくれず、無情にも男の子の頭上めがけ降り下ろされる。


間に合わない…っ!っと思わず視線を伏せる――…その次の瞬間、ドゴォンッ!!っと突如響いた鈍く重い音。


何事かっ!?っと顔を上げたシャクルと、しゃがんだ状態だったアヤメも同様に顔を上げた。



「へっへ~!やっぱおれ、イケてんじゃねぇ~の~!」



そこには1.5メートル程はあろう長い黄土1色の巨大ハンマーを持つアラーケがいた。傍らには完全にダウンしたワーグに、無傷の男の子。



「大丈夫かい?坊や」

「う、うん…」

「なら漁港口まで行くんだ、皆あそこから海に逃げてるから。行けるか?」



男の子は頷き、アラーケにお礼を言って走る。その背中を見送り、再び視線はシャクルに向く。



「…ったく、おいしい登場だな?アラーケ」

「アラーケ。ありが――…」

「ホレんなよ?」



お礼にかぶせてポーズを決めるアラーケに、アヤメとシャクルの表情は"無"に変わる。



「…いやだからホレん――…」

「お前も戦えんだな?」

「ツッコみも無しかぁ~い……まぁいいけどさ…軍人って訳じゃないけどな。ここはおれの町だ。化けもんごときに好き勝手はさせねぇよ。職人の腕っ節、ナメてもらっちゃ困るからよ」

「なら頼りにさせてもらうぜ。しかし、そのハンマー…」



アラーケの持つハンマー…黄土色だが金属ではない。何の素材なのだ?となる不思議なハンマー…だがそれは近くで見るとある事に気づく。



「お前…このハンマー、まさか…土か?」

「よくおわかりで」



手にあるハンマーには小さな小石や砂が凝縮されていた。



「おれは一応地のマザー傾向の強いブレイバー型のヒューマ族でね。大地からのマザーを受けて武器を作り出せるって訳よ」

「これが…ブレイバー型って訳か…」



思わず見つめてしまうアラーケのハンマー。しかし背後から圧し寄せるワーグの群れ。



「おっと、話し込んでる場合じゃないよね」

「だな。行くぞ!」



シャクルとアラーケ、互いに頷き走り出す。アヤメも慌てて後を追う。





 乱戦の続く中、アヤメはワーグを見ている暇などない。シャクルとアラーケ。この2人の攻撃に巻き込まれぬように逃げ、なおかつ離れぬように必死だった。


アラーケ振り回す巨大ハンマーが周囲のワーグを吹き飛ばす隙に、シャクルがアヤメの背中を叩く。



「アヤメ!あそこに隠れてろ!」

「う、うん!」



頷き指差された積み荷の陰に走るアヤメ。


その後続く乱戦の中、辺りにはランティ城の兵士達も集まり出す。そしてワーグに向かい武器を構える。すると1人の兵士がシャクルを見て、1枚の紙切れを取り出した。



「み、見ろ!シャクル=ファイントだ…」

「何!?…本当だ!」



他の兵士達もそれを見て騒ぎ出す。どうやらその紙切れはシャクルの"手配書"のようだ。



「おっと、やっぱり見つかったか…」



だがシャクルは兵士達には目もくれず、ワーグの群れに突進していく。


ワーグの武器を躱しつつ、次々に斬撃を繰り出していくシャクル。アラーケもとにかく力技。渾身の力で振り抜くハンマーに、数体のワーグが吹き飛んでいく。


剣を振り抜いたシャクルの瞬間の隙をつき、突進する1体のワーグ。しかしそこにすかさず撃ち込まれるはアラーケのハンマー。



「ナイス」

「へへっ!イケメンタァ~グ♪」

「ハハ…今ならイケメンかもな」



皮肉を込めつつも笑みを返す。しかし周りからは、逃げ遅れている町の人々の悲鳴が至る所から聞こえてくる。視界を回すと、ワーグの大群はリムドアと大陸を繋ぐ橋を渡って来ているのが確認出来た。



「元を断つしかなさそうだな」



剣を握り直したシャクル。アラーケもハンマーを肩に担ぐ。



「そうみたいだね、こりゃ」

「そうと決まれば行くぜ。蹴散らすぞ」

「はいさぁ~!!」



駆け出す2人。しかし目の前にはワーグではない…ランティ城の兵士が1人立ち塞がる。



「待て!!シャクル=ファイント!!貴様をここで捕える!」

「はぁ!?…ったく仕事熱心だことォ!!」



走る勢いそのままにシャクルと兵士の剣が競り合う。



「シャクル何を…!?」



味方のはずの兵士との交戦に驚くアラーケの足が止まる。



「いいから先行けアラーケ!!」

「はぁ!?な、何で!?」

「いいから行け!!皆やられちまうぞ!!」

「うっ…ラ、ラジャー!!」



疑問の表情のまま敬礼を見せ、橋に向かい一直線に駆け出すアラーケ。



「お前ら、今は民間人守るのが最優先だろうが…」

「確かにな……だが民間人と共に城をも守る!それが城の兵!!姫君を誘拐した貴様を見過ごす訳にもいかない!!」



競り合う兵士の剣に力が込められる。しかしシャクルも負じと押し返し、



「ったく、状況も見れねぇこのバカがァ!!」



剣を弾き腹部に蹴りを一撃。



「ぐふッ……おのれ、貴様ァ!!」



一瞬グラつくが、すぐに体制を立て直す兵士。蹴ったシャクルの足に、少しの痺れが残る。



「くそっ、かってぇ甲冑だなぁ…」

「だからこそ甲冑なのだ」



剣を握り直す兵士。



「そんな場合じゃねぇのによ…」



シャクルも再び剣を構え直した。

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