P.030 生きる船(3)
「どうだい?立派なモンだろ?」
自慢気にアラーケは両手を広げる。
「いや…アラーケ、これって…」
「う…嘘でしょ…」
唖然とする2人の視線の先……船首の突き出た部分、祈りを捧げる美しい女性の上半身だけの像が彫り込まれている。船にはよくある事。海路を導く女神として、航海の無事を祈った守り神としてでもある。しかしその像が……
「し…死んでるのか…?」
木で造られてる女神の像のデザインが…ぐったりしたように頭と両手を垂らし、うなだれるポーズになっていた。
「奇抜なデザインしてんな…おい…」
「あ~あれは寝てるだけだよ」
「ふぅ~ん、寝てるだけなんだぁ~…って、何よそれ!?」
摩訶不思議発言に驚く2人に対し、アラーケはケラケラと笑いながら、ぐったりした女神に向かう。
「おぉーい!お客だぞぉー!起きて挨拶しなって!」
「寝てるって何なんだよ…意味わかんねぇって…」
相変わらずの困惑の表情の2人。しかしアラーケは女神の像を見上げ、事を進めていく。
「お~い!起・き・ろ~!」
両手を口のメガホンにし呼ぶと、女神の像がゆっくりと起き上がり正面を向く。
「なッ!?」
「うっ、動いたぁ!?」
驚く2人に振り向き、得意気な笑みを浮かべ腕を組むアラーケ。そして再び女神像を見上げる。
「ほら、お客さんだぞ。挨拶しとけよ」
「…何よ…人が気持ち良く寝てたってのに」
「しゃっ、喋れんのかよっ!?…嘘だろオイ…」
「嘘なんかじゃないよ、現実さ」
「あら?アンタ達、誰?」
アヤメとシャクルを交互に見て、首を傾げる女神像。当のアヤメとシャクルは口をあんぐりと開き、何も言えない状態。
「この女の子がアヤメちゃん。んでおれに負けじのイケメンさんがシャクルだ」
「あ、そう」
「いやいや自己紹介しなってもう、クールレディなんだから……えっと、こいつは【ウィビィーシャ】って名前なんだ。おれは【ウィビ】って呼んでるけどね」
結局アラーケが紹介する形となった。その【ウィビ】という女神像は、アヤメ達をチラリと見てから、眠そうに大きなあくびをする。
「アラーケ…コイツはいったい…」
「おれにもはっきりした理由はわからない…師匠と一緒に船造りしてたら急にさ」
3人はウィビを見上げる。するとウィビは興味無さげに辺りをキョロキョロ。
「おれも最初は驚いたさ。でも何かさ、面白いじゃん?こーゆーの」
「面白いって言っていいのかしら…」
「でも本当に面白いのは、もう1個の仕掛けなんだ」
「仕掛け?」
「そう。この時代海ばっかじゃ面白みがないってモンよ。そろそろ人間も空に旅立つ時代っしょ?」
「空って…まさか…」
「まさか飛ぶの!?この船」
「へっへぇ~♪そいつはどうかなぁ~。な、ウィビ?」
「………」
無言ではあるが、少し得意気な表情のウィビ。
「じゃあ飛ばせてみせてよ!見てみたい!」
これにはさすがにアヤメも目を輝かせる。
「ね?見たいよね、シャクル?」
「まぁ本当に飛ぶなら…確かに見てはみたいかもな」
「そんなに見たいなら乗れば。ちょっとだけならイイわよ」
「お?ウィビちゃん太っ腹ぁ~!そうと決まれば乗った乗ったぁ~♪」
嬉しそうにアヤメとシャクルの背中を押して船に向かうアラーケ。
そしてかけられた梯子を上り、3人は甲板に上がる。甲板にはまだ作業中と思わせるように、工具や木材が転がっている。
するとアラーケが咳ばらいを1つ。
「さてさて、これからがお楽しみだ!ウィビちゃんお願いねー」
「はいはい…」
「『はいはい』って…本当に飛ぶのか?この船」
「何よ…まだ信じられないの?」
「まぁな…(っと言うか、木が動いて喋ってんのが1番信じられないがな…)」
「あらそう?ならあなたの驚く顔見るの楽しみだね…いくわよ?」
「おっ、いきますかぁ~!アヤメちゃん?怖かったらおれに掴まっていいよ」
「………」
無の表情のままにゆっくりとシャクルの袖を掴むアヤメ。
「OK、お約束だよね…」
「ほらいいからいくわよ」
ウィビの声と共に船体が小さく揺れはじめ、船底に接した水面に波紋が広がる。そして静かに、ゆっくりと持ち上がるように船が上昇しはじめた。そして船底は完全に水面を離れ、船が宙に浮かんだ。
「う…浮いた…本当に浮いてる…」
唖然とした表情で辺りを見渡すアヤメとシャクル。その姿を見てニヤつくアラーケ。ウィビも若干。
「どうだい、すげぇだろ?」
「何言ってんのよ。あんたじゃないでしょ…アタシが凄いのよ」
「そうだね、ごめんごめん。な?2人共、ホントに飛んだろ?」
「あ…あぁ…すげぇな、本当に…」
「でも、何で飛べるの?」
「さぁ?」
「知らないわ」
逆にアヤメ達に聞くような表情で、さらっと答えるアラーケにウィビ。
「え?」
「いや当人だろ…」
◆◆◆――…
場所は移り、元いた部屋に戻った3人。
「ごめんよ。本当にわかんないんだよ。何でウィビは話せて、空を飛べるのか…」
「別に問い詰めてる訳じゃないんだ、謝る事もないさ。むしろいいモン見せてもらったよ」
「そか。…そういやぁ2人は旅人なんだろ?この町には定期船に乗る為に来たのかい?」
「あ、いや。人捜しをしてんだ。この町に、コー…コレ?ん、コー…?」
そんなシャクルを見てアヤメがため息。
「コーレイ!…もぉー、お約束化されそうでヤダこの流れーっ」
「うるせぇな…で、それなんだ。そいつを知らないか?」
するとアラーケはキョトンっと2人を見つめた。
「『コーレイ』…か?」
「あぁそうだ。知ってたら教えてほしいんだが」
「もちろん知ってるよ」
「え!?」
「ほ、本当か!?」
顔を見合わる2人。
「でも、もうこの町にはいないよ」
「え?いないの?」
「うん。死んだよ…3年前に」
「何だよ…故人だったのかよ…」
「うん。2人の捜してる【コーレイ=リステナ】は、おれの船大工の師匠だったんだ」
「へぇ~師匠ねぇ…じゃあミネアの言ってたのは船大工だったのか…」
その言葉に「ん?」っと反応するアラーケ。
「ミネ…ア?なぁ今、ミネアって言わなかったか?」
「あ…あぁ。言ったが…」
「ミネアって……あの【ミネア=リステナ】の事かい?」
「へぇ~ミネアさんってリステナって苗字なんだ……ってリステナ!?」
ハっ、としたようにアヤメとシャクルが視線を合わせる。
「まさか!?」
このシンクロに驚くアラーケ。
「おっ、おう。知ってるも何も、この家はそのミネアちゃんの家だよ。実家」
「え、えぇ!?」




