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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.03 世界への船出
28/122

P.028 生きる船(1)

 アヤメとシャクルがランティ城を出発し、2日の時が流れた。


未だ朝靄のかかる早朝。広大な草原の一角に2人の姿はあった。転がっていた丸太を枕に眠るアヤメ。その横にはシャクルが立ち、腰のベルトフォルダーに剣を装着していた。



「アヤメ、起きろ。そろそろ出発するぞ」



呼びかけるもアヤメは熟睡中。小さく息をはき、シャクルはしゃがみ込んでアヤメの頬をペシペシと叩く。



「おーい、起きろ」

「ん……ん~…」

「ほら朝だ。出発するぞ」

「ん~…朝ぁ?」

「おう、朝だ。早く起きろ」

「はぁ~い…」



気だるそうに体を起こし、頭をポリポリと掻くアヤメ。体は起きているのにまだ目は開けてない状態。そして数回左右に体を揺らし、せっかく起こしたその身を傾かせる。するとシャクルはその体…っというか顔を掴んで支えた。



「ふぎゅ」

「また寝るなバカ」



それからしばらくし、ようやく立ち上がるアヤメ。大きなあくびと背伸びをしてシャクルを見る。



「シャクルは寝れたの?」

「あぁ、少しな」

「そっか…ごめんね、私ばっかり寝てて」

「別にいいって。お前に見張りさせた方が休まらねぇからな」

「ちょっと何よそれ~…私だって少しくらいは見張り出来るわよ。10分くらい」

「短いだろうがよぉ…」



そう言ってアヤメ頭をポンと叩き、歩き出すシャクル。また歩きか…っとアヤメは肩を落としながらも後に続く。


それから1時間程歩いていると、辺りを朝日が照らしはじめた。そして晴々とした天気を予想できる、朝の空に変わる……のだが、アヤメの気分は天気とは反比例。


それもそのはず。あのランティ国領関所の一件から今日までの3日間、ろくな食事は摂っていない。昨日の夜から空腹感は、腹痛になってアヤメを襲っていた。


しっかり歩こうにも全身に力が入らず、フラフラと蛇行してしまう。その様子に気づき、先を歩くシャクルが振り返る。



「大丈夫かよ…少し休むか?」

「いいよ、大丈夫…」

「無理すんなよ。全然大丈夫って顔してねぇじゃねぇか」

「大丈夫だってば。早くリムドアに行って、そこでちゃんと休むんだから大丈夫」

「その意気は認めるが、到着前にぶっ倒れられても仕方ねぇだろ……お?」



アヤメに向いていたシャクルの視線が、更に後ろの何かに向いた。追って振り返るアヤメの視界に、遠い位置ではあるが、何やら馬車らしきものが近づいてくるのが映る。



「あれ…馬車だよね?」

「だな。リムドアに行くか聞いてみるか、試しに」

「うん、そうだね」



互いに頷き合い、2人はその場から動かずに馬車が近づいてくるのを待った。1~2分もすれば、馬車は2人の元へと辿り着く。



「おや?どうしたんだい、お2人さん?」



白髪混じりで口の周りに髭を生やした男が1人、止めた馬車から2人を見下ろし尋ねてきた。馬は2頭の栗毛。馬車本体は全体的に黒く塗られた木造の馬車。扉や窓などもあり、見るからに旅馬車のようだ。



「ちょっと聞きたいんだが、この馬車はリムドアには行くのか?」

「リムドアなら、今向かっている所さ。乗っていくかい?」

「乗ります乗ります!」



元気よく手を上げて前に出るアヤメ。しかしすぐにシャクルの手が、アヤメの首筋を掴み横にどける。



「見たところ旅馬車のようだが…あいにく俺らは今、持ち合わせが無い」

「そうかい…まぁ見ての通りの旅馬車さ。こっちとしても商売だから、持ち合わせが無いんじゃあねぇ…」

「いや、いいんだ。悪いな、足止めさせて」



一瞬「えっ」っとアヤメがシャクルを見るが、お金が無いなら仕方がない。そのくらいの常識はある。がっくりと肩を落とし、深いため息と……




 ぐぅ~~~~……




腹の音を響かせた。


まっ赤になった顔を伏せ、咄嗟にお腹を押さえるアヤメ。その音に一拍おいて馬車の男が大笑い。シャクルまでも鼻で笑うから、余計にアヤメは顔を赤くさせて蹲る。



「アっハっハっ!すごい音だね、お嬢さん。よし、ならこうしよう。剣を持ってるようだから、お兄さんは傭兵とかかい?」

「え?俺?…まぁそれに近いもんかな」

「じゃあこの馬車の護衛でも頼もう。依頼料は、リムドアまでの運賃って事でどうだい?」

「そんなんでいいのか?」

「あぁ。最近はここいら一帯、頻繁にワーグが出ているらしくてな。物騒なもんでね」

「それならこっちにしても好条件だな。馬車の護衛、引き受けるぜ」



そう言ってシャクルが蹲るアヤメの頭を軽く2、3度叩くと、ハっとしたように顔を上げるアヤメ。



「じゃあもう歩かなくていいの?馬車に乗ってもいいの?」

「ちゃんと護衛するならな」

「やったー!」



今まで恥ずかしがっていたのが一転、飛び上がって喜ぶアヤメに再び男が笑う。



「ハっハっハ、ほら乗りな。今なら貸し切りだよ」

「うわぁーい!早く乗ろ、シャ――…」



名前を言おうとした瞬間、シャクルがアヤメの口を塞ぐ。そして男に聞こえぬ小声で、



「バカ。俺はお尋ね者で、手配書が出回ってる可能性もある。間違っても名前を出すな」



そう言うと、アヤメも理解したように何度か頷く。



「…よし…じゃあ乗りましょうか、ジョン」

「ジョン!?」



在り合わせな名付けを勝手にし、馬車に乗り込むアヤメ。シャクルも「まぁいいか」といったように続いて乗り込む。


馬車の中は意外に広く、5人は並べるだろう赤紫革の椅子が対面にあり、その間には幅50cm程の細い机があった。



「うわぁ~ふかふか~」



革の椅子はクッション性が高く、座り心地はかなり良い。進行方向に向かい座るアヤメは、すぐにその椅子に寝そべる。対面するシャクルは後頭部辺りにある小窓を開け、すぐそこにある男の後頭部に話しかけた。



「悪いな。じゃあ頼むよ」

「いやいや、こっちも護衛頼んでるんだ、お互い様だって。じゃあそろそろ出発しようか」



そう言って走り出す馬車。しかし舗装されていない草原を進む車内は、かなりの揺れがある。だがさっきまでの歩きに比べたら、体力的にもかなりマシだ。


すると開いた小窓から、1つの紙袋が車内に差し出された。とりあえず紙袋を受けとるシャクル。



「…何だ?これ」

「今はこんなんしかないけど、2人で食べな」



そう言われ開けた紙袋には、丸い拳くらいのパンと小さく切られたチーズが入っていた。



「うわぁーパンだぁー!」

「いいのか?」

「あぁ。お嬢さん、かなりお腹空いてるみたいだったからね」



身を乗り出していたアヤメが、また恥ずかしそうに顔を赤らめ着席する。シャクルは「どーも」と言って紙袋をアヤメに渡す。



「ありがとー!おじさん」

「いいっていいって。腹が減っては戦は出来ないって言うからねぇ」

「だってさ、ジョン」



そう言って紙袋に入った2つのパンを出して1つは食わえると、もう1つをジョン(←もちシャクル)に差し出すアヤメ。ジョン(←やっぱりシャクル)はそれを受け取り苦笑い。



「お前もちょっとは頑張れよ。そん時は」

「ふぁ~い」

「食いながら答えんな、行儀悪い…」

「おいひぃ~♪」

「聞いてねぇなコイツ…」



苦笑いのままにパンをひと口。すると見ていた男が笑いながら、竹を筒状に加工した水筒らしき物を差し出す。


再びジョ――…そろそろ戻そう。シャクルが受け取りアヤメに渡す。男へのお礼を言って水をひと口飲むアヤメ。



「悪いな、食料までもらっちまって」

「別にいいって、気にするなよ。ところで君達は夫婦か何かかい?」

「ぶはァ!!」



ふた口目に入っていたアヤメの口から水が暴発。



「だぁーっ!きったねぇなバカ!!」

「ゴホッ、ゴホッ」

「だっ、大丈夫かい!?お嬢さん」

「あぁ悪い……俺らはそんなんじゃねぇよ。俺はコイツのお守り役」

「へぇ~。じゃあジョンさんが、お嬢さんの雇った傭兵って訳かい?」

「まぁ…そんな所だ」

「なら、ジョンさんは【ブレイバー型】かい?それとも【ファイター型】なのかい?」



突然出た2つの単語に、アヤメとシャクルが動きを止め、ポカーンっと男を見る。すると男もキョトンとした表情で2人を見た。



「何だ?そのブレイバーとか、ファイターとかって…」

「えっ!?ジョンさん傭兵なのに知らないのかい?」

「…えっと…そ、その辺は俺、疎くてよ」

(いやどんな言い訳よっ)

「そうなのかい」

(納得するんかいっ)



ちょいちょいアヤメが頭の中でツッコんでいると、男が説明を続けた。



「簡単に説明をするとだね、大気中のマザーを利用して武器を強化させたり、武器や防具を作り出して武装出来るのが【ブレイバー型】と呼ばれているんだ。逆にマザーを武具に転用が出来なくて、肉体的な強化をするのが【ファイター型】さ。要するに力持ちになったり、足が速くなったりとかだよ」

「へぇ~。そんなんがあんのか」

「でも必ずしもどっちかって訳じゃない。中にはマザーを全く使えないヒューマ族もいる。4つの種族の中じゃ、マザー能力は1番弱いからねぇ、ヒューマ族は。特に強いマザーを持つ尖り耳の【カナフィーリン族】には、【ウィザード型】って、マザー放出型の魔法使いまでいるからすごいよなぁ」


またでた初耳の種族【カナフィーリン族】…尖り耳という事は、よく物語に出てくる『エルフ』的な存在なのだろう、っと勝手に解釈。



「で、ジョンさんはブレイバー型とかかい?」

「え、あ…いや、俺はどっちでもない」

「そうかい。ブレイバー型はヒューマ族でも少ない方でね。まだ僕も会った事がなくて、ちょっと見てみたかったんだよ」

「そうだったのか。期待に添えなくて悪いな」

「あ~いやいや、別に責めた訳じゃないんだ。こちらこそすまなかった」



その会話の中、妙に静かなアヤメが気になり視線を向けると……食べかけのパンを片手に、机に伏せて寝息を発てていた。



「よく寝れんな、この振動の中……なぁ、最後に聞きたいんだが、あのゾンビみたいなワーグって奴ら…ありゃいったい何者なんだ?」

「ワーグはねぇ…元ヒューマ族かカナフィーリン族のどっちかと思われる、魔物の一種らしいんだ」

「らしいって…はっきりとはわかってない奴らなのか?」

「そうなんだよ。奴らは15年前くらいかなぁ…それくらいから急に現れたんだ。未だどこが根城か、目的が何かもわからない、突然現れる魔物なんだ」

「そうなのか…」

「だからワーグが出たら頼むよ、ジョンさん」

「あ、あぁ…任せてくれ」

「頼もしいねぇ~」



15年前という事は、関係してるのは冥王だろうか?…っとシャクルは黙り込む。

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