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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.03 世界への船出
27/122

P.027緋色の聖者(3)

 シレイスの出て行った出口を見つめるミネア。その横顔を見ながらシャクルは剣を納めた。



「…動き出しちまったか。こりゃぼやぼやしてらんねぇな。行くぞ、アヤメ」



その言葉にミネアがすぐさまシャクルを見た。視線に気づくも、あえてミネアを見る事はしなかった。


アヤメはミネアの顔色を伺いながら、そっとシャクルに近づく。



「う、うん…そういえばナックは?」

「ナックなら今頃兵士達に追われてんだろ」

「へ?何それ?」

「兵士達の引き付け役だよ。騒ぎ起こしてればそっちに兵士は固まるからな。ミネア…だっけ?俺達いつの間にお尋ね者になっちまってんだ?」

「え、何?お尋ね者って」

「あぁ。お前を追って城に来てみりゃ、いきなりお尋ね者呼ばわりされちまってな」

「当然です。貴方達はアルシェン様を連れ出した誘拐犯…」



その言葉にシャクルは苦笑。



「なるほど。誘拐犯ね…」

「そんな誘拐だなんて…」

「しかしそれは国王様や周りがそう言うだけ。わたしには貴方を誘拐犯という悪党に見る事が出来ません」

「へぇ…じゃあ見逃してくれんのか?」

「そうはいきません」

「ま、正論だわな」



そう呟き剣に手を掛けるシャクル。



「ちょっ、な、何する気?シャクル」

「ん?悪党らしく強行突破」



慌てるアヤメ対し、シャクルはさらっとミネアに対しての攻撃宣言。さすがにミネアも苦笑気味。



「直球ですね…シャクル様は…」



すると突然辺りから、幾人もの人が廊下を走る音。加えて何やら「わーわー」っと騒がしい声が部屋に聞こえはじめる。次第にその音は駆け足で部屋に近づいてくるではないか。



「な、何?この音」

「たぶんナックを追ってる兵士達だろう…ったく、ある意味今更かってんだよ」

「どうするの?」

「ん?だから強行突破」

「あのねぇ…」



そうして2人はミネアに向いた。ミネアは無言のままにシャクルとアヤメを見つめる。



「なぁ、悪いけどここは行かしてくんねぇか?あんたとは正直戦いたくねぇ」

「………」



しかしミネアは無言。


すると1歩…また1歩とミネアはシャクルに歩み寄る。シャクルは一瞬眉を寄せ、剣の鞘を持つ右手に力を入れた。


しかしミネアはそのままシャクルの横を通り過ぎる。



「お?」っと、アヤメとシャクルは通り過ぎるミネアを視線で追う。ミネアはそのまま出口に向かい、後ろを向いたまま…



「隠れて下さい」

「は?」

「早くして下さい」

「どこにだよ?」

「クローゼットの中に。早く」

「お、おう…」



言われるままに2人はクローゼットの中に入る。数あるドレスでなかなか窮屈だ。



「皆さん!!急いで大広間に移動して下さい!!」



突然ミネアの叫ぶ声が辺りに響く。



「早く!そっちに行きました!急いで下さい!!取り逃がしますよ!!」


「お?」

「ミネアさん…」



すると複数の男の声が聞こえ、徐々に部屋から遠ざかる。足音が消えると同時に隠れたクローゼットが外から開く。



「さぁ、今のうちに」

「…いいのかよ?」

「えぇ」



ミネアはまっすぐにアヤメを見つめるも、なぜかシャクルの後ろに隠れるアヤメ。



「ですが今はこの状況…わたしがここから逃がします。その代わり、アルシェン様の護衛をお願いしてもよろしいでしょうか」

「まぁ頼まれなくてもそうするけどな」

「そうですか…ではお願い致します。この状況からして、わたしも正直安全と言う立場ではないようです。無事にまた会えるのであれば…是非とも真実をお教え下さい」

「わかってるよ。でも心配すんな。ナックに会えば必ず味方してくれる。チビだが案外頼りになるぜ、アイツは」

「はい、わかりました。では行きましょう」



そうしてアヤメとシャクルは、ミネアを先頭に城内を走った。途中の曲がり角などはミネアが兵士を確認し、徐々に外へと向かう。時折危ない所もあったがミネアが何とかしてくれた。



「ここを右にまっすぐ進めば裏口があり、そこから外に出られます」



薄暗く細い廊下を指差す。



「では、わたしはナック様と合流したいと思います」

「ナックを頼むぜ。こっちも残って助けてもやりたいが、俺らの現状じゃな…」

「そのお気持ちだけで十分です。それにわたし、けっこう強いですから」



そう言って微笑んでみせるミネア。



「おー怖ぇ怖ぇ」

「ミネアさん」

「…はい」

「あの…私、実は…」



何かを言いかけると、ミネアが首を横に振る。



「それは次、またお会いした時です。急がなければ見つかってしまいます…さぁ」

「…はい」

「よし、行くか…って、いったんこの大陸を出たいんだが、どこに向かえばいいかわかるか?」

「バルハール大陸を抜けられるおつもりでしたら、この城から北西の位置に大陸で1番大きな港町【リムドア】があります。徒歩で向かえば5日。馬で行けば2日とかからないでしょう」

「リムドアか、わかった。こっちは関所で拝借した馬があるからそれで行く」

「それではリムドアに到着しましたら、【コーレイ】と言う男の元へ行って下さい。わたしの名前を出せば、きっと協力してくれるはずです」

「わかった。じゃあナックの事よろしく頼む」

「はい、お任せ下さい。道中まだ追っ手もあるでしょうが、お気をつけ下さい」

「あぁ…リムドアでは5日待つ事にする」

「5日ですね。お伝えしておきます、ナック様に。…わたしも合流できれば…」



シャクルは頷きアヤメの背中を軽く押す。



「え?もう行くの?」

「当たり前だろ、ぐずぐずしてらんねぇんだよ」

「あ、うん。ありがとうございますミネアさん」

「はい。ではいってらっしゃいませ、シャクル様…アヤメ様」

「え…」



最後だけ『アルシェン』ではなく『アヤメ』と呼んだミネア。やはりミネアはもう気づいているのかもしれない……


戸惑うアヤメの首筋をシャクルが掴み、引っ張るように歩きだす。



「だからさっさと行くって言ってんだろうが」

「猫じゃないんだから普通にエスコートしてよ!」

「この状況で騒ぐ女がエスコートとか言ってんじゃねぇよ」

「ちょっ、痛いってば!!」

「騒ぐなっつうの!」

「痛っ!頭叩かないでよ!!」

「うるせぇ、だ・ま・れ!」



次第に暗い通路に消えていくアヤメとシャクルの背中を、苦笑いで見送るミネア。しばらくその場に立ち、ゆっくりと振り返る。小さく息をはき、再び来た道を戻っていくミネア。




◆◆◆――…




 木製の裏口を開き、外に出たアヤメとシャクル。


シャクルはポケットから方位磁針を出し方角を確かめる。未だ首筋を掴まれたアヤメも、ムスっとした表情で方位磁針を覗き込む。そしてシャクルの首筋に手を伸ばし掴むと、無言で北西を指した方角に向かい力を入れる。しかしシャクルはアヤメの手を逆に掴み返すと共に手首を捻り技をかける。



「はうぁ!」

「100年早ぇよ」

「ご…ごめんなさい…」



そんなこんなで水路のある掘を迂回し、城の領土を出る。


辺りに兵士は何人かいたが、ほとんどの兵士がナックを追って城内に行っている為か、あまり数はいなかった。そのお陰で比較的楽に城を離れられた。



「ねぇシャクル?馬で来たって言ってたけど、どこに繋いでるの?」

「…あっ、繋いでねぇ」

「えぇ!?繋いでないって…逃げちゃうかもしれないじゃん」

「そうだな。…あ~やっぱいねぇや。あそこで降りたから、俺」

「さらっと言わないでよ…」

「いや、あん時は急いでたからよ。悪いな」



まぁそのお陰で助かった点もあるから責めるに責められないアヤメ。



「まぁいいじゃねぇか、歩いても5日。途中行商の馬車にでも乗せてもらうかして、リ…リム…」

「リムドア」



シャクルはアヤメを指差し「そう、それ」という表情。



「んでそのリムドアに行ってコー…コー…」

「コーレイ」



再び「そう、それ」という表情でアヤメを指差す。



「ちょっとどんだけ記憶力弱いのよ…そういうボケ疲れる…」

「ボケじゃねぇ。天然だ」

「真顔でナチュラル宣言しないでよ!」



しかしシャクルは答えずにアヤメの手首を掴む。



「っ…!」

「いいから行くぞ、リムレイ」

「混ぜないでよ!ちょっとドキッとしたの返してよ!」

「どうやってだよ?」

「知るかぁー!」



掴まれた手を振り払い、逆にシャクルの手を握る。



「もう行くよ!」



そう言ってアヤメがシャクルを引っ張り走り出す。


少しシャクルはキョトンとして引かれていたが、鼻でクスっと笑いアヤメを簡単に追い越す。



「逆だろ?エスコートが」



そう言って口元を緩ませるシャクル。視線が合い、思わず顔を伏せるアヤメ。もう耳まで真っ赤だ……



「あ…あ~そうですかー」



シャクルは再び前を向く。アヤメは視線を上げ、握られた手をずっと見つめていた。



「って、さっきから走るの速いってばァ!!手ぇ~痛ァ~い!!」

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