P.026 緋色の聖者(2)
「アルシェン様を離しなさい!!」
「へっ…OK、いいぜ」
そう言って、突き飛ばすようにシレイスはアヤメの首から手を離す。その場に倒れるアヤメは、掴まれていた首を擦り咳き込む。
「アルシェン様!!」
手に構えたトンファーを高速に回転させ、シレイスに向かうミネア。応えるように袖からもう1本のナイフを取り出し逆手に持ち構えるシレイス。
ッ、ガギィィィンッ!!
耳鳴りに残る甲高い金属音を響かせ競り合う両者。
「っと、邪魔すんなよお嬢さん…」
「アルシェン様に手を出した事、許しません!」
「けっ…別にとって喰っちゃいねぇよ、あんなガキ!オラァ!!」
瞬間的に力の込められたシレイスの圧に弾かれ仰け反るミネア。しかしすぐさま体勢を立て直し前を向く…が、突然ミネアの鼻をシレイスの指がデコピンのように軽く弾く。
「はい隙だらけ、っとな」
両手をヒラヒラと開き、嘲笑うかの挑発を見せるシレイス。
これぞ隙!っと、挑発には全く乗らないミネアの足が、渾身の力を込めて蹴り上げられる…も、空を斬る足蹴。そこにシレイスの気配は無い。
「女にしちゃイイ蹴りだ」
空中より聞こえる声…見上げる空中にはシレイスの姿が。
「やっぱ隙だらけだなぁ…オラァ!!」
空中のシレイスが反転し、ミネアの脇腹を蹴り飛ばす。勢いに負け転がるミネアに、起き上がったアヤメが駆け寄った。
「ミネアさん!大丈夫ですか!?」
「は、はい…うぐっ…」
倒れた体をすぐさま起こすと、駆け寄ったアヤメを後ろに廻し、シレイスを睨みつける。
「目的は何なのですか…?」
「アンタにまで説明してる時間はないんだよねぇ…」
再び笑い地を蹴るシレイス。その動きに、寄り添ったアヤメを延長線上に乗せたミネアが駆け出した。互いがぶつかる瞬間、ミネアの腹部にシレイスの拳が鈍い音を発てめり込んだ。
「ミネアさん!!」
「うぐっ…!」
低く呻き倒れるミネアを見下ろすシレイスがナイフを構えた瞬間、アヤメは腰から短剣を抜き走り出す。
「やぁぁッ!!」
意を決して突っ込むも、軽々と短剣は弾かれる。
「アルシェン様…!!」
「邪魔すんなって…せっかく危害は加えない、って言ってんだからさぁ…」
アヤメにシレイスが振り向いた瞬間、ミネアは体を起こし床を蹴る。瞬時に身を回転させてシレイスの顔面に膝蹴りを一撃。
「ぐッ!!」
見事に顎を捉えられ、グラつくシレイスに追撃のトンファーを振り抜くミネア。胸にヒットした回転の加わる打撃は、シレイスの体を吹き飛ばし、近くの本棚に激突させる。
「ぐはっ…!」
しかし崩れぬシレイスは揺らぐ体を踏みとどまらせ、切れた唇から流れる血を指で弾くように拭き取りミネアを睨む。ミネアもゆっくりと横移動でアヤメの前に移動し、そして再び構える。
「言ったはずです…アルシェン様に手を出した事、許さないと」
「ったく、めんどくせぇな…どうせここには源珠は無ぇんだろ?」
「源珠…?水氷源珠の事でしょうか?」
「そうそう。知ってんなら、置いてある場所教えてくんないかね?やっぱ三大国家のどっかな訳?」
「…残念ですが、在りかは知しません。まぁ知っていても教える事はないでしょうけど」
「はいはい、別に構いやしねぇさ。この城拠点にいろいろ調べるからさ」
「拠点って…まさか!?」
「ほぉ~お嬢さんは勘がいいねぇ。そう、この国はもうおれらの手中にある訳。あとは姫さんさえ入れ替えれば、目的達成って訳よ~」
「………」
「世界再建の為だ…悪いな」
シレイスは握るナイフに力を込め、踏み込み体勢に入る。
「…――なるほどね…」
突然聞こえた別の男の声。
するとシレイスの背後、鋭く首を狙う一閃。咄嗟の反応でナイフで受ける。
「ぐおっ…何者だァ!?」
「だいたい予想はついた。お前らの好きにさせたらマズそうだ」
「シャ…シャクル!?」
アヤメの視線の先には剣を握るシャクルが立つ。シャクルの剣とシレイスのナイフがギリギリと軋む音を鳴らし競り合う。
「き、貴様も邪魔する気かぁ…」
「邪魔するも何も…実際お前が邪魔だっつぅの!!」
握る剣に力を込め、シレイスのナイフを弾く。そして撃ち出す右の拳がシレイスの顔面を捉え、その身を床に叩きつける。
「シャクル!」
「悪い、遅くなった」
「ううん。よかった無事で……ッ!?シャクル、血!」
腹部から滲む赤い血液が、白いワイシャツを染めていた。矢で受けた傷からのものだろう。心配そうに見つめるアヤメの頭に手を置くシャクル。
「大丈夫だって、大した事ないから心配すんな」
「え、でも…」
「シャクル…様…」
そのミネアの声に振り向くシャクル。
「…悪いな。ウチんトコの姫、守ってくれてよ」
「い、いえ…」
「まぁあんたには、いろいろと話さなきゃいけない気がすんだけど……とりあえず、目先の奴を片付けなきゃな」
既に立ち上がっているシレイスに向き直る。
そのシレイスの姿は余裕ともいえるように服の乱れを直し、汚れをポンポンと払っていた。
「アイツ片付けてからでも遅くはねぇな」
「はい…」
そう言って剣を構えるシャクルとトンファーを構えるミネア。
「1対2って卑怯もクソもねぇ。たたみ掛けるぞ」
「はい」
「ほぉ~こりゃマズそうだ…」
するとシレイスはナイフを袖に納める。
「…どういうつもりだ」
「へっ、バカじゃあるまいし。あんたらみたいなの、2人も相手にしようだなんて、見え透いた負け試合はしないのさ」
そう言って背を向け出口に進み始める。
「ま、待ちなさ――…」
「よせ」
追おうとするミネアの腕を掴むシャクル。
「無理に引き止めんな…避けられんなら十分だろ」
「ですがこのままでは…!」
シャクルに向いた視線を再びシレイスに戻すと、シレイスはミネアの破った扉の残骸を足で避けながら振り返る。
「ひとまず姫さんは諦めますわ。焦るモノでもないし…ま、この国の最高権力者の国王は抑えた。だからあんたらが騒ごうが、たぶん誰も信じちゃくれないさ。城に入り込んだのは国王だけでもないからな」
そう言ってシレイスはニヤリと笑い、ゆっくりと部屋を出ていった。




