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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.03 世界への船出
25/122

P.025 緋色の聖者(1)

 ランティ王国を目指すアヤメとミネア。3日もかけて歩いてきた道も、馬の足ともなればものの数時間で王国へと到着した。



「さぁ、行きましょう。アルシェン様」



先に馬を降り、アヤメに手を差し出すミネア。ここは降りるしかないと頷き、ミネアの手を取ろうとするが…長時間の乗馬に下半身は完全に痺れ、踏ん張りがきかずにミネアの上に落下する。



「ふぎゃあ!!」

「きゃっ!!」



後頭部を摩るミネアと、腰を摩るアヤメ。互いにゆっくりと体を起こす。



「う~痛ぁ~…だ、大丈夫ですか?アルシェン様」

「すいません…ミネアさんこそ大丈夫ですか?」

「…ミネア…"さん"、か…」

「え?ど、どうかしましたか?」

「前々から思っておりましたが…アルシェン様、ずいぶん大人しくなられましたね?」

「え?」

「わたしの事を『さん』付けで…それに敬語まで使われて…」

「え…あ…」

「わたしはアルシェン様のお世話係として、長年この城におります。ですから…」

「………」



疑いの視線にアヤメは黙り込むばかり。



「そこにいるのは…ミネアか?」



突然男の声がする。振り向くと数人の兵士の姿があった。2人の姿に駆け寄る兵士達。



「アルシェン姫まで…戻られたんですね?」

「よくやったぞミネア」

「アルシェン姫もミネアも…ずいぶんとボロボロですな。さぁ早く城内へ」

「俺はアルシェン姫の無事を先に国王様に報告してくる」

「ほらミネアも。しかし…一緒に向かった隊はどうした?」

「それは後で報告します。今は城の中へ行きましょう」

「そうか、わかった。じゃあ行こう」



兵士達に連れられ、アヤメとミネアは城内へと足を進めるが、アヤメの背中に向けられる疑いの視線……ミネアの"その目"は、事を見透かし始めていた。




◆◆◆――…




 アヤメはそのまま国王の間に連れていかれ…「アルシェ~ン!!」…っと国王のキツい抱擁によって出迎えられた。



「全く家出とは…このバカ者がぁ~!!」



そう言いって泣きながら更にキツく抱きしめる国王。



「く、苦しい…です…」

「お?お~すまんな。さぁ早く着替えてきなさい。そんな汚い格好ではせっかくの可愛さが台無しだ…」

「は、はぁ…」



そして解放されたアヤメ。しかし何故だろう…不思議な違和感を感じる。3日間…そんなに長く離れた訳じゃないのに、何故だろうか…違うお城に来たような感覚だ。


妙な違和感に辺りをキョロキョロ見回すアヤメを見つめるミネア。そのミネアに歩み寄る国王。



「ミネア」

「はい」

「アルシェンの着替えの手伝いを頼む」

「はい…かしこまりました」



頷き静かにアヤメを見つめる目。またあの疑いの目……



「い、いえ!!私1人で大丈夫です!」



慌てたように叫ぶアヤメに、国王をはじめ、周囲の兵士達もその声量に驚いた。


ミネアからは変に怪しまれている為、出来るだけ2人きりにはなりたくない。その気持ちが声量に出てしまう。まぁこれが逆に怪しいんですが…



「着替えくらい平気です。もう子供じゃありませんから」

「そ、そうか…なら着替えが終わったら私の部屋に来なさい。話しがある」

「え?あ…はい(お説教?…そりゃあるか…)」



軽く引きつった笑いを残し、国王の間を小走りに出たアヤメ。その後ろ姿を見つめ、小さなため息をつくミネア。




◆◆◆――…




 久しぶりに来た自分の――…っと言うか、アルシェン姫の部屋は、やたらと豪華に見えた。実際豪華な事は豪華ではあるのだがね。


すぐさまベッドに倒れ込む。ふかふかのベットはとても気持ち良かった。だがアヤメの気持ちはそれどころではない。



「シャクル…ナック…」



2人が無事でいるかどうかが心配で、すぐにでも飛び出したい気持ちでいっぱいだった。だが土地勘もなければ城の中…どうにも動く事は出来ない。



「………」





………………………………………………………………………






…………………………………………………………





………………………





  コンコン!




 突然の部屋をノックする音に、アヤメはハっと目を覚ます。どうやら少し寝てしまっていたようだ…アヤメは驚いて起き上がるが、返事はしない。ミネアかもしれない……恐る恐るベッドから降り、忍び足で扉に近づく。すると扉がゆっくりと開いた。


鍵をかけ忘れた扉が、返事もしていないのに勝手に開かれた。その向こうに立っていたのは、緋色のロングコートを羽織り、コートについたフードを被った小柄な男が1人。アヤメより少し大きいくらい…160cm前半くらいだろう。右目は長く垂れ下がる緑の前髪に隠れているが、覗く左目は鋭く切れ長。鼻下と顎には無精髭が見える。そして表情はどこかやる気のない、風来坊感の漂う男だ。


その男はアヤメと目が合うと、「お?」っと言って部屋に入って来た。



「何だ?人がいたのか」

「え?あなた…誰ですか?」



しかし男はアヤメの言葉を無視するように辺りを見渡す。


挿絵(By みてみん)


「ん~…ここには無さそうだなぁ。お前、この城のモンか?」

「え?ま、まぁ一応、姫って事になってますけど…」

「ほぉ~…姫、ね」



すると男はニヤリと笑い、アヤメに向いたまま内鍵を閉めた。その行動にアヤメは身構える。



「よっしゃ。おれってばツイてるぜ」



男はニヤニヤと口元に笑みを作り歩み寄る。



「だ、誰よ…あなた…」

「おれかい?おれは【シレイス】。【大聖堂ザーバス】からきたモンだ」

「だいせいこうざーます?」

「いやいや、いい感じに間違えてくれちゃって、『大失敗ざます』だろそりゃ。ザーバスな、ザーバス…ってごまかしたって無駄だぜ。まぁでも、とりあえずお前には感謝しなきゃなぁ。お前が家出してくれたお陰で城の守備はスッカスカ。容易に占拠できたぜ」

「え、占拠?」

「あぁ。お前、国王に会ったか?」

「はい…会いましたけど…」

「気づいてやれよ。ホンモノの父親かどうか、な」

「えっ、まさか…?」



あの時違和感は……



「偽者だよ。あのお前の親父さん…」

「っ!?」



驚きの表情を浮かべた瞬間、シレイスは円月型のナイフをアヤメの喉元に向けた。



「おっと。大声出したら痛ぁ~い目にあうぜ?お姫様」



肌スレスレの位置にある刃物に身を硬直させ、小刻みに何度も頷くアヤメ。



「んな怖がんなって、安心しろ。お前の父親は殺しちゃいないし、一切危害は加えちゃいない。大事な人質だからよ。だからお前も大人しく人質になる気はないか?」

「人質って…」

「ま、おれ達の目的が終ればすぐに解放する。人質っつっても、別に危害を加えつもりもない」

「…目的って何ですか…?」

「おれ達の目的…それは"世界の再建"だ」

「世界の…再建?」

「この世界は腐ってると思わないか?…金を持つ者だけが豊かになり、持たぬ者は干からびていくだけ。生まれた土地、身分の違いだけで虐げられていく者達。そんな差…そんな運命…そしてなに不自由なく暮らし、ただのうのうと生きる皇族って奴らが、おれは憎んだ。なぜ我々が苦しまねばならない…なのになぜ奴らは、そんな我らをみて嘲笑う!」



喉元に向けられたナイフが小刻みに揺れはじめる。



「おれの家族も…仲間も…村の皆が飢えで死んでいった!!国は…国は自国の繁栄の為、小さな貧しい村を糧にするだけ。搾り取るだけ搾り…あとはゴミ扱いに棄てるだけ……復讐心だけが込み上げる中、1人の救世主が現れた。その名を【セリエフ】」

「セリ…エフ…?」

「セリエフ様…あの御方こそ"真の聖者"。貧富の差の生まれぬ世界を謡う大聖堂ザーバスの長」

「ま、待って下さい…その大聖堂ザーバスっていったい何なんですか?」

「おいおい…お前本当にここの姫かよ?…大聖堂ザーバス。それはさっき話した、生まれや身分違いで迫害を受け、生きる道を見失った者の集う場所だ。お前らみたいな皇族の奴らには到底縁の無い場所だ」

「………」

「セリエフ様はおっしゃった…『いつか…何年かけても必ず実現させてみせる。何の隔ての無い世界…それまで私は謡い続けよう…そして共に生きよう』…とな」

「だ…だからお城に復讐を…?」

「違ぇよ。【リュカ】様に言われた【水氷源珠(すいひょうげんじゅ)】を探しに来ただけだ」



次々に出される単語にアヤメの頭は全く整理が出来ず、もうパニック状態だった。だからと言って質問攻めにして相手を苛立たせても駄目な事。


しかしその困惑の表情を見てか、シレイスは自ら語りはじめた。



「セリエフ様が天より授かった子の名だ、リュカ様は。不思議な力を使う子供さ…自らの事を『冥王』と名乗るな」

「めっ、冥王!?」

「あんま大声出すなって…死にたいのか?」



シレイスの睨む重圧に表情を強張らせ、アヤメは首を横に振る。



(冥王…まさかそのリュカって子供がシャクルとエルセナの子供…?)

「水氷源珠…それくらいは当然知ってんだろ?」



当然知らない。アヤメは少し申し訳なさげに、小刻みに首を横に振った。すると深いため息をはき、シレイスも首を横に振る。



「お前どんだけな世間知らずだよ……ったく、源珠は各種族の根源と言える精霊の宿る宝珠だ。人間…ヒューマ族は水の精霊ジュエルの恩恵を受け生きている。そして自然界の水を統べる力を持つものだ。理解したか?」



今度は首が縦に振られる。



「んで、今まで集められたのはラーグ族の根源、火の精霊ブラムの火炎源珠だけでな。いろいろと小難しい所に隠してたりする種族や源珠もある。だから残りの源珠を集めるには、ヒューマ族三大国家の1つであり、最も貿易の盛んなバルハール大陸代表、ランティ城が適任だって訳さ。だから国王、そして1人娘のアルシェン姫を拘束し、我軍を潜り込ませる。だから協力していただけるかな、姫様…?」



これに対しては首を縦にも横にも振れない。



(いろいろとマズいよ、この状況……それに聞いてた冥王がもう動き始めてるなんて…)



するとコンコンっと扉をノックする音が。



「アルシェン様?」



ミネアの声。やはりアヤメを探る為に現れたのだろうが、実にナイスなタイミング。ここぞとばかりにアヤメが叫ぶ。



「ミネアさん!助けて!!」

「チッ!黙れッ!!」



叫んだアヤメの首を掴み上げるシレイス。すると鍵のかかる扉がガタガタと揺れ、一拍おいてミネアが扉を蹴り破る。



「アルシェン様!!…ッ、何者!?」

「けっ、邪魔だぞ…女ぁ…」

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