P.024 関所防衛戦(3)
その異様な気配にナックも気づく。
「シャクル、これ…」
「あぁ。何か来るな…」
その言葉にアヤメとミネア、そして王国兵士2人も辺りを見回す。
すると……
シュッ!!
突然何かが高速でアヤメに向かい迫ってくる。
「ッ!!…アヤメ!!」
「へぇ?…わっ!」
アヤメを庇うように前に立ったシャクルの腹部に一閃の矢が刺さる。
「ぐっ…」
「シャクル!?」
突然の襲撃にすぐさま武器を構え直し、辺りを警戒するミネアと兵士。シャクルは動揺するアヤメを背に庇いつつ、矢の飛び出した部分を折り投げ捨てた。
「大丈夫!?シャクル」
「あぁ大丈夫だ、これくらい…心配すんな…」
「大丈夫」とは言うものの、矢のダメージはなかなか大きい。よもや貫通するのではないかの深さに刺さっていた。これは相当な腕力を持つ者が射った矢だろう。痛みにシャクルの表情も歪む。
「1番強いのは主か?」
一瞬だった。苦痛に狭めた視界と警戒心の隙をつかれかのように、1体のラーグ族にシャクルとアヤメは背後を奪われた。
「なっ…!?」
襲いくる刃の気配に、シャクルは反射的に身を反転させると共に、棒立ち状態のアヤメを突き飛ばす。そして半分抜き身の剣で迫る斬撃を受け止めた。
「ぐっ…!」
「見事成り、ヒューマ族」
突如現れた竜人…真っ直ぐに伸びた片刃の刀身に込められる力に、シャクルの剣が軋む。剣圧に耐える度に矢の刺さる傷口から血が流れ出る。
「シャクル!!」
「動くなアヤメ!!」
その声に尻もち状態のアヤメがピタリと動きを止めた。瞬間、シャクルの剣が竜人の剣を受け流す。乱れた姿勢から剣を抜き、刃を真一文字に振り抜くと、その切っ先をスレスレで躱す竜人。お互いが反転し、両者の間合いが大きく開く。
対峙したラーグ族は、黄土の皮膚をした竜人。背格好としては、今まで戦ったラーグ族らと変わらぬもの……その眼光、立ち姿から、並の戦士なら動けず竦み上がる程の闘気が感じられる。
「矢を折る判断。見事成り」
「へっ…こんだけ深く刺さってりゃ、無理に抜いたら余計に血が出ちまうしな…まぁ刺さり具合でわかるぜ…引っ掛かりが無いなら毒矢の可能性は低い…それに邪魔なんでね、勝負時には…」
「実に見事」
「テメェ…何者だ」
「名を聞くなら、まずは主から名乗るのが礼儀であろう」
「へーへーそうかよ…だがその前に、あの女だけは離したいんだが…」
そう言ってアヤメを見、すぐさま竜人に視線を戻すシャクル。すると竜人はアヤメ見る事なく頷いた。それを了承ととり、シャクルはアヤメと視線を合わせ、「行け」っと顎で指す。
アヤメは数回頷き、慌てたように小走りにシャクル達から距離をとる。アヤメが離れていくのを確認し、シャクルは再び竜人に向き直る。
「悪いな、続きをやろうか…俺はシャクルだ。シャクル=ファイント」
「シャクルか…覚えておこう」
そう言って剣を顔の前で垂直に立てる。
「我が名は【ブレゴ=オルセイユ】。ラーグ宮殿騎士団長である」
「そうかい。ご丁寧にどうも、ブレゴ団長さん」
「久しぶりに血が騒ぐ…手合わせを願おうか」
「俺的には、あんたみたいに強そうな奴とは出来れば合わせたかねぇがな…」
向き合う両者の辺りに、冷たい空気が漂う……
近くの松明から燃えた木片が地面に落ち、パチ!っと音を発てた瞬間、けたたましく鳴り響く金属音。一瞬で間合いを詰め、剣同士を競り合わせる両者。半拍遅れ、波動のような衝撃が辺りにはしる。
「いい腕だ…シャクル」
「褒めてもらって悪りぃが、その腕…もう痺れたんだけどなぁ…」
そう言って苦笑するシャクル。そして両者がひと息はき、弾く剣を幾度も撃ち合わせる。
その速さ、その力に圧倒されるアヤメ達。するとミネアがアヤメに駆け寄り腕を力強く引いた。
「さぁ戻りますよ、アルシェン様」
「え、私は…」
「このままここにいては危険です!もう家出は終わりです、アルシェン様」
すると残る兵士らがアヤメを囲み、その内の1人が体を担ぎ上げる。
「うわぁ!ちょっと、放して!!…ナック助けて!」
兵士の肩の上で暴れるアヤメ。しかしナックは助けようとはせずに、ただ見つめるだけ。
「え、ちょっとナック!?」
「…行くんだ、マスター」
「何でよ!?」
「気づかないのかい?…この気配…」
そう言ってゆっくりと振り返る。すると周囲にはうごめく黒い影……それは軽く100体はいるであろうのラーグ族の軍勢。空には体長10メートル以上の翼を持つ4つ脚の飛竜が数体。
ナックはミネアを見た。すると応えるように視線を合わせ小さく頷いた。
「さぁ!行って!!」
光の弓を出現させ、1人の兵士と共にうごめくラーグ族に向かった。
「ちょっとナック!!…ってうわぁ!」
担がれた体は近くの馬に乗せられる。すると追うようにミネアが馬に跨がりアヤメを抱えた。
「姫…お城で会いましょう!!」
その言葉を残し、その兵士もナック達を追う。見送る目を1度閉じ、ひと息はくミネアが馬の腹を蹴る。
合図を受け、駆け出す馬は戦うナック達に向かう。ナックが何かを念ずるように目を閉じると、光る弓の形状が広がり、その弧に幾重にも光りの矢が重なった。
「今だ!飛んでッ!!」
その声に放つ矢は、群がるラーグ族を爆撃と共に吹き飛ばす。その爆煙をミネアの操る馬が貫くように駆け抜けた。
「ナック!!シャクル!!」
振り返り叫ぶも、その声は辺りの轟音に掻き消されてしまう。しかしアヤメは2人の名前を叫び続ける。
「………」
何度も何度も2人を呼び続けるアヤメの横顔を、ミネアはただ静かに見つめた。
◆◆◆――…
激しい金属音を響かせ競り合うシャクルとブレゴ。
「どうしたシャクル=ファイント。勢いがなくなってきたぞ…」
「うるせぇ…集中しねぇと痛い目に合うぜ!!」
振るう剣はブンッ!と虚しく空を斬る。
「ぬるい」
空振りに空いたシャクルの懐に、ブレゴの膝蹴りが刺さる。まるで鉄球にでも殴られたような衝撃が腹部を襲い、思わず体勢が崩れ片膝が地につく。
一定の間合いの中、追撃はなく静かに見つめるブレゴの視線。
「…終わりか?シャクル=ファイント」
「はぁ…はぁ…うるせぇ…」
「これが全力か?」
「チッ…うるせぇって言ってんだろ!」
剣を合わせた瞬間わかっていた…ブレゴとの力の差。傷の影響などなくとも勝機は僅かだという事。そしてまだブレゴは本気を出して戦ってはいない事も……
「さぁ、早く【火炎源珠】を返してもらおう」
「はぁ?か…火炎…源珠だと…?」
「とぼけるな。我らラーグ族の郷から火炎源珠を盗み出したのはヒューマ族、貴様らであろう」
「?…どういう意味だ…」
「後を追ってここまで来たのだが…」
「おいおい、俺達は関係ないぜ。たぶん、お前らが殺した連中もな…」
「…何?」
「アイツらは城の兵士。俺の連れに女がいたろ?あの女を連れ戻しに来ただけの連中さ。ていうか火炎源珠って何だ?」
「………」
するとブレゴはゆっくりと目を閉じ深く長い息をはき、左腕を天にかざす。すると…
「ギャアァァッ!!!!」
突如空から鳴き声が響き、空からひとまわり小さな赤い鱗の飛竜が舞い降りてくる。飛竜は降り立つなり、低い鳴き声で何かをブレゴに語りかけはじめた。
「そうか、やはり。ご苦労…全隊、攻撃止めよ!!」
その声で、一斉に動きを止める竜人達。
「どうやら盗んだ者は、もっと北に移動しているようだ」
「は?」
「我らは其奴を追う事にする」
「おいおい…ここまでしといてやり逃げかよ」
「主らが潔白であろうと関係は無い。主は知らぬのか?他種族の源珠に手を出す事は宣戦布告の意味合い。ならば我らはその宣戦布告に応え、ヒューマ族と戦おう」
「…そうかい。そんな事情なんぞ知らねぇが、そっちがその気なら潰すぜ、ラーグ族」
「ふっ…主は幼い。まだまだ強くなるだろう。楽しみにしておるぞ。シャクル=ファイント」
「偉そうに…ふざけんな!」
再び剣を握り締め斬りかかるも、シャクルの剣はブレゴの目の前を通過していくだけ。躱すブレゴが、ガラ空きとなったシャクルの腹部を蹴り上げる。重い一撃に崩れたシャクルを見下ろし、
「それまでは生かされている事をその頭に置いておけ。そしてもっと強くなってみせよ、シャクル=ファイント…」
まるで諭すかのような言葉を残し、その場を去る。
「ま…待ちやがれ…」
しかし振り返る事は無いブレゴ。
「ま…待ちやがれって言ってんだコラァ!!」
シャクルの声に、反応や対話も無しにブレゴはその場を去っていき、嘘のように静まる周囲……
「ち…畜生…」




