P.023 関所防衛戦(2)
「何!?何なの!?」
「静かにしろ…!!」
シャクルはアヤメの口を手で塞ぎ、草の陰から目を凝らす。すると関所内で幾つかの松明の明かりが揺れ動いているのが確認出来た。そして耳に入る悲鳴、怒声、金属音……
「おいおい、まさか…」
「ト、トカゲが歩いてる…!?」
視線の先…身の丈2メートル程はあろう二足歩行するトカゲ…っというか、爬虫類風の顔をした生き物が見える。体つきは人間なのに顔は爬虫類風。お尻の部分からは太い尻尾が出ており、皮膚の色は赤だったり青だったりなど、1体1体違う色。カンフーの胴着のような服装に、手には剣や斧、槍といった武器を持って関所の人々を襲っている。
「あれは【"竜人"のラーグ族】!?」
「ラ、ラーグ族だと?」
「あれ竜なの?…トカゲじゃなかったんだ…」
「そう言えば2人は知らなかったよね。このマザーランドには人間と呼ばれる【ヒューマ族】以外に、3つの種族がいるんだ」
「ずいぶんと凶暴そうな奴らだな…あんなんが3種類もいやがるのかよ?」
「いや、全部がそうじゃない。ただ、4種族の中でもラーグ族は最も武力に長け、武の道に生きる誇り高い種族。意味もなく人間を襲うような種族ではないはずなのに…」
「でも現実はあんな感じってか…つうかあれ、結構ヤバいんじゃないか?」
その言葉通りラーグ族と呼ばれた竜人達は、次々に人々に襲いかかっている。
「確かに…けど…」
そこにはランティ城の兵士達もいて、竜人と戦っている。今シャクル達が出て行けば、戦力的助けにはなるかもしれないが…それと同時に捕まる可能性もあるという事。立ち上がろうとする足が躊躇する。
「何迷ってるのよ!早く行って助けなきゃダメじゃん!」
辺りに響くような声で、迷いなく立ち上がるアヤメ。しかし足は震え表情も強張っている。
「マスター…」
「…ま、その度胸は認めるが、お前はここで待機だ」
「え、待機?」
「今のお前に、ナック使って戦う勇気あんのか?」
その問いに、即答の如く首を横に振り続けるアヤメ。
「なら無理すんな。ジッとしてろよ」
そう言ってアヤメの頭をポンっと叩き、草むらから飛び出すシャクル。
「え、ちょっ…」
「行くぞナック!!」
「ラジャー!!」
敬礼をしながら追って飛び出すナック。シャクルは剣を抜き関所内に斬り込んでいく。
「ちょっ、ちょっと!1人にしないでよぉ~…」
アヤメは背後の暗く不気味な森を見て、小さく丸くなって震えていた。
◆◆◆――…
金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く関所内。ランティ城の兵士とラーグ族の戦闘が激しさを増している。その中でひときわ明るいピンクのローブにオレンジのケープを羽織るミネアが叫ぶ。
「早く宿屋に避難して下さい!!」
関所内で叫ぶミネアはランティ城兵士達に混ざり、人民を3階建ての宿屋に集めている。
「皆さん!宿屋の守備もお願いします!!」
「ハッ!!」
「槍隊は前へ!弓矢隊は構え後方待機!」
メイドであるはずのミネアの指揮に、迷いなく陣形を組む兵士達。しかしラーグ族は人を越えた力を持つ種族。圧倒的とも思える力で兵士達を圧していく。
「ミネアさん!!もうもちませんっ……ぐあッ!!」
次々に倒れる兵士達。ミネアは人民の避難を確認すると、スカートの横に入った太股までのスリットをまくり、その中から鉄性トンファーを取り出し両手に構えた。
「皆さん、宿屋の守備を堅めますよ」
「ハッ!!」
その声に後退し、円形に陣を組む兵士達。
「前線はわたしが守ります」
そう言って前線に飛び出した瞬間、2体の竜人がミネア斬りかかる。
しかし焦る素振りもないミネア。竜人の斬撃をヒラリと側宙で躱し、滞空のままに竜人の顔面に横殴りな蹴りを一撃。そして手にしたトンファーを高速回転させ、もう1体の喉元に喰らわせる。
「ギェェッ!!」
鈍い音と奇声を発し倒れる竜人。着地後ミネアは振り向きざまに回し蹴り。喰らう竜人の首が渇いた音を発てて鋭角に折れる。
「貴様ァッ!!」
怒る竜人の斧がミネアに迫る。この一撃をクロスさせたトンファーでなんとかガードするも、竜人のパワーにミネアの体ごと弾かれる。
「ッ…きゃあッ!!」
まるで人形のように軽々と吹き飛び地面を転がるミネア。その倒れ込んだ先に、竜人の追撃が襲いかかる。
倒れるミネアの前に走り込む1人の兵士。振り下ろされる斧を手にした槍で受け止めた…っかに思えた瞬間、圧力に軋む槍が砕け、兵士の脳天を斧が襲う。斬ると言うより割り砕かれた頭から飛び散る血飛沫が、ミネアの足元に降り注ぐ。
「ッ…!!」
一瞬の動揺がミネア身を強張らせた。これを好機とばかりに他の竜人が襲いくる。
「ミネア!!横だ!!」
「えっ…!」
すぐさま振り向くも、時既に遅し。完璧ともいえる間合いに3体の竜人。躱す事も動く事すら出来ぬミネアは覚悟を決め…迫る剣に目を閉じ身を硬直させた。
「ッ!!…ギヤァァァッ…!」
しかし響いたのは竜人の悲鳴。「えっ?」と開く視界に映るのは、左胸を光の矢に射ぬかれた3体の竜人。
「ギャッ!!」
「ギヤァァッ!!」
後方から響く奇声に振り返る視界には、血飛沫の舞う中心で次々にラーグ族を斬りすてるシャクルの姿が。そして弓を構え、合わせた視線にピースで応えるナックがその先にいた。
「シャクル…様……ナック様…」
呆然と2人を見つめゆっくり立ち上がる中、数人の兵士がミネアを囲む。
「わたしは大丈夫ですから、宿屋の守備を優先して下さい」
「ですが…」
「いいから行きなさい!!」
「ハ、ハッ!!」
慌てるように散らばる兵士達。ミネアの視線は再び2人に向く。するとナックは笑顔。シャクルは無表情ではあるが、合わせた視線に軽く頷き応える。
強力な助っ人に、ミネアにも安堵の表情が浮かぶ。すると……
「いやぁあ~~っッ!!」
響く女の悲鳴にミネアが驚き辺りを見る。
「まだ住民の避難は終わってなかったの!?」
するとその視界に泣きながら逃げ惑うアヤメの姿が。その後を追うは1体の竜人。
「ア、アルシェン様!?」
「お前っ…!隠れてろって言っただろうが!!」
「だって森暗いんだもん!シャクル助けてぇ~!!」
「ったくあのバカ…」
競り合う竜人を斬り倒し、アヤメに向かい駆け出すシャクル。しかしすぐさま複数の竜人に囲まれてしまう。
「チッ…この…!」
「いやぁーっ!!助けて~!」
「くそっ…どけェ!!」
「ボクに任せて!!」
すぐにナックが光の矢を構える…が、その背後には槍を構えた竜人が迫る。
「ナック!!後ろだッ!!」
「へ!?」
振り返ると同時に突き出される槍。そこに突撃したのは瞬間的に間合いを詰めたミネア。渾身の蹴りが炸裂し、竜人は脇腹から綺麗に『く』の字に曲がる。
「ナイス♪」
「これで貸し借りなしですね」
微笑むミネア。すぐさまナックは矢を放ち、見事アヤメを追うラーグ族の眉間を貫く。
「アヤメ!!」
周囲を片付けアヤメに駆け寄ると、飛びつくようにシャクルに抱きつくアヤメ。
「うわぁ~ん!」
「バカ!何で出て来るんだよ!?」
「だって1人で怖かったんだもん!」
「お前なぁ…って鼻水つけんなバカ!!」
「ふわぁ~っ!ごめん!」
「ま、まぁいい…今から俺の傍離れんなよ」
「う、うん。頑張る…」
頷き、恐る恐る短剣を抜くアヤメ。その震える手元に……
「お前…間違っても俺を斬るなよ…?」
「は、はい…努力します…」
◆◆◆――…
その後激戦は続き、約30分後……
「はぁ~……終わったぁ…」
実際何もしてないが、1番の疲れた様子でその場にヘタり込むアヤメ。ナックも地べたに寝転がり大きく息をはく。
「ふぃ~疲れたねぇ…」
戦いは終わっていた……見事、関所を守り切ったアヤメ達と城の兵士達。息を乱したミネアもその場に立ち尽くし、ゆっくりと辺りを見渡す。生き残りはアヤメ達を含め6人。城の兵士はほぼ全滅に近い。
シャクルは剣に付着した血を拭き、鞘に納めた。そしてミネアの方に視線を向ける。
「で、どうすんだ?俺達を捕まえようってなら相手になるが」
するとミネアはクスっと笑う。
「えぇ、そうですね…助けて頂いた事には感謝しておりますが、わたし達も目的がございます。どうか穏便にアルシェン様をお渡しいただければ、と…」
「アルシェン姫"だったら"返してやりたいがな――…ッ!?」
話しを続けようとした瞬間、異様な気配が近づいて来るのを感じとったシャクルが突然剣に手をかける。
「ど、どうしたの?」
「…何だ、この気配は…?」




