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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.03 世界への船出
22/122

P.022 関所防衛戦(1)

 晴れ渡る空に、吹き抜ける心地よい風。まさに小春日和と言えるこの日は、ランティ城を発ってから3日目の昼下がり。のどかな草原を歩くアヤメとナック、そしてシャクルの3人。


その中の1人……



「あ゛~~…」



廃人と化していたアヤメ。唸り声を上げ、活力の感じられぬ目。両手をだらりと垂らし、足を引きづり歩く姿はまるでゾンビのよう。綺麗な黒髪のストレートはボサボサにハネ、制服も土やら泥やらに汚れていて、正直女の子としてはかなりキツい姿。


こうなったのも仕方ないと言えば仕方なかった。初日は『姫の家出』に騒ぐ城からの追っ手もあって、夜を通しての逃げては隠れ…逃げては隠れを繰り返す1日。つまり徹夜という事。


2日目は土砂降りの雨の1日。ずぶ濡れになりながらも追っ手から逃げ、その夜は洞穴で夜を明かした。つまり野宿。アヤメにとっては寝られたものじゃない。=徹夜である。


そして3日目の天候は冒頭で述べた通り。晴々と澄み渡っている空。今のアヤメとは正反対の清々しさだ。



「はぁ~ダル~い…体痛ぁ~い…」



初の徹夜に初の野宿。それに連日走り続けた体の悲鳴……もうアヤメの体力は限界だった。加えてお風呂も入れない状況は、年頃の女の子への精神的ダメージも大きい。



「ほらマスター。あと少しでこのランティ国領を抜ける関所に着くからさ。頑張ろうよ」



笑顔でアヤメの顔の前にやって来るナック。するとアヤメはため息混じりに表情を引きつらせる。



「ナックはいいじゃん…空飛べるから、楽でいいわよね…あっ、ねぇ。あの時の光る鳥また出してよ。それで私を運んでよぉ~」

「わぁ!ちょっ、ちょっとマスター!服引っ張らないでくれよー!」

「早く出して出して~!」

「あれはすごく体力を消耗するからダメだってば!」

「いいじゃんケチーっ!」



騒がしい2人に、先頭を歩くシャクルがため息と共に立ち止まり振り返る。



「何やってんだよお前ら。そんなに疲れたんなら休むか?」

「え?あ…だ、大丈夫だよ…」

「…そうか。まぁ休みたかったら言えよ」

「う、うん…」

「じゃあ行くぞ」



そう言って再び歩き出すシャクル。


このぎこちない会話に微妙な空気……旅に出て3日、未だにアヤメはシャクルに対しては打ち解けられずにいた。


ナックからの説明で事情はわかってるつもりでも、鉄仮面のような無表情に無感情な声。普段から無口で、会話をしようとしても、ひと言ふた言で終わり続かない。話してくれたとしても、やはり口調は冷たく、時折口元が緩む程度で目は笑っていない。普段から怒ってる?のようなこの空気…まぁなにかと気遣ってはくれるし、根は優しい事は過去の話で理解はしてる。…が、実際は近寄り難く、今となってはアヤメからは全く話しかけられない状況。


するとナックが笑いながらシャクルの頭に乗っかった。



「じゃあ休みたーい、からよっと!」

「お前っ…ったくしょうがねぇなぁ…落っこちんなよ」

「はーい」



ナックを乗せたまま歩き続けるシャクルの背中を見つめるアヤメは、「やっぱいい人なんだよなぁ…」っと小さく呟き、なぜか大きく深呼吸。



「ね、ねぇシャクル…?」



初日以来、アヤメからシャクルに話しかけた。深呼吸はこの為か?



「何だ」

「そ…そう言うシャクルは、大丈夫なの?」

「大丈夫って、何がだ?」

「シャクルこそ休まなくて大丈夫なの?だってこの2日間、『見張り』って言って全然寝てないんじゃない?食事だってあんまり…」

「………」



するとシャクルは、表情を変えぬまま背を向け再び歩き出した。



「え…あ…」

「お前に心配される程やわじゃねぇから行くぞ」



っと去りながらのひと言。冷たく突き放すかのような返答に、頑張って話しかけたアヤメの気持ちは一気に崩れた。


するとナックがシャクルの肩に降り立ち、その顔を無理矢理回してアヤメの方に向ける。「何だよ!」っと抵抗するシャクルの視界に、落ち込んでる…っというより、既に泣きそうな表情で俯くアヤメの姿が映る。


その姿に、諸々やっちゃった感に気づいたシャクル。肩ではナックが「バカシャクルー」っと言って頬をペシペシ叩いてくる。シャクルはすぐにナックを振り落とし、困ったようにアヤメと空を交互に見た。



「…ア…アヤメ…」



バツの悪そうに囁くような声で呼ぶシャクル。しかしアヤメは俯いたまま鼻を1度小さくすすった。気まずそうに視線を泳がせながらも、



「…アヤメ」



ようやく張った声。呼び声に持ち上がるアヤメの視線がシャクルに向いた。泣いてはいないが、潤んだ瞳。



「あの…その…」

「…?」

「わ、悪かった…な」

「え…?」

「さっきの俺の言い方…悪かったみたいで、謝る。別に…お前を嫌ってるとか、何つうか…そうゆうんじゃねぇから、気にすんな」

「えー『気にすんな』って、それシャクルが言うんだ~」

「ナック、お前は黙ってろ」



そう言ってシャクルは再び視線を泳がせながら頬を指で掻く。



「だから、悪かったよ」

「…ううん。別にいいよ…私も、気にしてないから」

「じゃ、じゃあ…ちょっと休むか」

「え…休むの?」

「何だよ、せっかく姫さまに気ぃ遣ってもらったんだから、お言葉に甘えさしてもらうって言ったんだよ」



照れ隠しなのか?歩み寄りアヤメの頭をくしゃくしゃに撫でる。



「うわっ!ちょっとぉ~!」

「ほら休むって言ったら休むぞ。そこの木陰でいいだろ?俺が見張りしてっから――…」

「ほらまた『見張り』って言う~。見張りくらいナックで大丈夫だって」



くしゃくしゃにされた髪を直しながら、膨れっ面気味にナックを見るアヤメ。



「え!?ボク!?」

「ふっ…だな。頼むぜナック」

「えぇ~!?本当にかい?」

「よろしくね、ナック」

「そういう事みたいだな」

「そ、そんなぁ~…」



落ち込むナックの姿に互いに視線を交わし、木陰でしばしの休憩に入る。


芝の上で寝転ぶシャクルの横に座り、そっと見下ろすその寝顔。不思議と今まで感じていたわだかまりは無くなっている。どこか居心地の良さも感じられ、そっとアヤメも体を横にした。




◆◆◆――…




「―――…メ……ヤメ。ほら起きろアヤメ」



肩を揺らされ、アヤメはゆっくりと目を覚ます。どうやらそのまま寝てしまったようだ。



「…ん…あ、あれ?私…」

「爆睡してたな。口開けて」

「う、うそ!?…なら起こしてよ~」

「あんな気持ちよさそうに寝てたら、起こすに起こせねぇよ。ほら、そろそろ行くぞ。日が暮れるまでには関所に着きたいからな」

「あ、うん、わかった」



頷き立ち上がるアヤメだったが、その顔をジっと見てくるシャクル。



「…どうしたの?」

「いや、ヨダレくらい拭けばいいのにって思ってな」

「ッ!?…んなぁ~!!」



慌てて口の周りをゴシゴシ擦る。シャクルは未だ眠るナックの頭を指でつつく。



「ほらナック。起きろ」

「…んぁ……シャクル…抱っこ」

「見張りサボったくせに要求かよ…抱っこならアヤメおかーさんに頼め」

「うん、拒否する」

「ちょっとマスター!?即答はヤメてーっ」



…っとまぁ、そんなこんなで休憩を終え、関所を目指し歩き出したアヤメ達。




◆◆◆――…




 日の傾きがもうすぐ山間に消える頃。一行の視界、100メートル程先に、高さ約10メートルの高い塀が見渡す大地に伸び、その中心に石造りの門を要した関所が映っていた。その手前には数軒の木造の小屋。その中の1軒は3階建てと大きめな建物。あと敷地内には疎らに馬車があり、行商人達の姿なども見られた。



「ねぇ、あれが関所?」

「たぶんな」

「いや~ようやく着いたね~」

「そーゆーお前は頭に乗ってただけだろうが」

「うむ、ご苦労」

「…ったく…」



関所が見え自然に足の速まる一行。



だがその1時間後……一行の姿はなぜか関所から少し外れた、森を背にした草むらの中にあった。


その草むらからは関所内がはっきりと確認が出来る。3階建て建物は、下がる看板から宿屋と酒屋の合わさる建物と見れ、そして関所の兵の宿舎に、流通物資の倉庫が残り、っという造りと思われた。


アヤメは宿屋を見て『今日くらいはベッドで寝れる』という希望を抱いていたのだが……予想通り。ランティ城の追っ手の兵士達が関所内を巡回していた。そして驚いた事に、その中にはミネアの姿まである。お世話係として心配して来たのだろうか?


挿絵(By みてみん)


「まだ少し明るいな…人も疎らだし、これじゃあ見つかる危険性も高い。仕方ない…暗くなってから抜け道を探すとするか」

「だね。完全に日が暮れないとすぐ見つかっちゃうしね」



そのシャクルとナックの会話に怪訝な表情を浮かべるアヤメ。



「えぇ~…宿屋で休めないの~?」

「アハハ~、面白い事言うね~マスター…そんな事したら1発で捕まっちゃうよぉ~?」

「じゃあお風呂だけでもいいから入りたい~」

「それも同じ事ですよ~?」

「ったく、わがまま言うなよ。国領出て大陸さえ渡っちまえば、それ程追っ手も多くないだろう。そうすればゆっくり休めるだろうから、もう少し我慢しろ」

「も~我慢出来ない~。お城でいいから帰りた~い」

「うるせぇな、ホントにつまみ出すぞ」

「鬼ー、悪魔ー、女の敵ー」

「おいナック。このバカ何とかしろ」



あの休憩以来、急激に打ち解けたアヤメとシャクルに「ついていけない」っといった愛想笑いで対応するナック。


抗議…っと言うか、単なるわがまま発言を完全無視され続けたアヤメは膨れっ面のまま、草むらの陰に座り込む。その横にナックを肩に乗せたシャクルが座り、関所内の兵士達を警戒して見る。



「べーっ、だ」



シャクルの横顔に向かい舌を出すアヤメ。すると関所を見つめたまま、その舌をシャクルが引っ張った。


その数秒後、完全にノックアウトされたアヤメが倒れていたと目撃者(ナック)は語る……




◆◆◆――…




 それから再び1時間が経過した頃。もう日は完全に暮れ、関所内に松明の火が灯り始めた。



「ねぇ、今話してもいい?」



シャクルの袖を引き、一応小声で話しかけるアヤメ。



「何だ?」

「今更だけど、私達どこに向かってるの?」

「とりあえずは国領を出て、近くの町か村に行く。それから冥王についての何らかの手掛かりとかを探すつもりだ」

「そっかぁ。まだ冥王の所在とかもわかんないんだもんね。ナックの力とかで探せないの?」

「一応試してはみたけど…全然わかんないんだ。1度気配は覗かせたのに、それ以来ぱったり…」

「あ、もしかしてあの地球とこの世界の間にある空間での事?」

「うん。あの時は結局気配だけ…おそらくマスターを狙ってきたんだろうけど、マザーランドに送った途端に気配は消えたんだ」

「まぁとにかく、この世界には武器となるマザーがあるんだ。まずは情報という情報をかき集めて武器を増やす事が大事だ」

「うん、そうだ――…」


「きゃあぁぁぁぁッ!!」



アヤメの言葉を切り、突然関所の方から女性の叫び声が響く。

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