P.018 死闘の末路(2)
エルセナはシャクルの胸に顔を埋め、その身を…肩を震わせる。その小さな肩を抱くシャクル、自らの血に濡れた手でエルセナの頭を撫でた。
「立派に戦ったんだ…泣くな…」
すると撫でる頭は小さく頷いた。そしてゆっくりとシャクルを見上げる。
「ねぇ…シャクル……産まれたよ…元気な男の子…」
「そうか…男の子か…頑張ったな、エルセナ…」
「うん…」
頷くエルセナに微笑みかけ、そっと地面に寝かせた。そして冥王を見据え剣を抜くシャクル。するとナックが肩に乗る。
「全く…おいしい登場してくれるね、シャクル」
「茶化すな。行くぞ、ナック」
そう言って1歩、1歩と冥王に歩み寄っていくシャクル。
「まだ刃向かうつもりか?虫ケラ共…」
「テメェ…絶対殺す」
剣を握り締め冥王に向かって地を蹴り突撃。追うナックも弓矢を構える。
「これ以上…何も奪わせねぇぇッ!!」
「熱いですねぇ…全く…!」
シャクルの放つ斬撃は軽々と冥王の素手が掴み止め、ナックの矢は手にした鎌が打ち消した。
「くっ…!」
「この島は小蝿が多いですねぇ…」
「けっ…性根まで腐ったゾンビにはたかるもんだぜ、小蝿がよぉ!」
「ならば殺虫しませんとねぇ…」
すると冥王の体から黒い光を放つ電流が、掴まれた剣を伝いシャクルを襲う。
「ぐぁあぁぁぁッ!!」
「シャクル!!今助ける!」
すぐさま追撃の矢を構えるナック。しかしどこを伝い来たのかわからない同様の電流がナックの身をも襲い、一気に爆発。2人は爆撃の衝撃に、体は弾き飛ばされ地面に叩きつけられる。
「シャクル!!」
2人のピンチにも起き上がる事の出来ないエルセナは、雪の地面を這うように進み、ナックに向かい手を伸ばす。
「ナック…!!早く…早く私の所に…」
雷撃のダメージにふらつきながらも、起き上がるナックは、苦痛な表情を浮かべエルセナに向き小さく頷いた。
「ダ、ダメだ…行くな…ナック!!」
起き上がる事も、這う事も出来ぬシャクルは仰向けのまま、エルセナに向かおうとするナックに手を伸ばす。
一瞬ナックも躊躇い足を止めた。
「シャクル…ダメよ、こっちに来てナック…私が倒さないと…」
「ダメだって言ってんだろ!絶対…絶対力を使うな!…俺がコイツを倒すから!!だから死ぬな…絶対死ぬなァ!!」
「…ナック…早く来て!!」
そのやりとりを不気味な笑みで見ている冥王に、突然アグナーが突っ込んだ。しかし冥王はアグナーの体をあっさりと掴み捕る。掴まれながらも怒ったように「キュー!」っと鳴き、手足をバタつかせるアグナー。
「フっ…所詮は術士を失った精霊…じきに消えるだろうが、そんなに早く消えたいか?」
「キュー!キュー!」
「アグナーよせ!!やめろ冥王!!」
「さぁ元素へ還れ!!」
「アグナー!!」
「ヤメろォォ!!」
一瞬…身がすり潰される鈍い音が鳴り、小さな鳴き声と共に、アグナーの体は静かに消滅した。
シャクルやエルセナ、ナックは呆然とアグナーの消えた冥王の手元を見つめる。
すると冥王は何か汚ないモノを触ったかのように手を払い、鼻で1つ笑う。
「100年もすれば、また新たな"地"が生まれる。まぁ精霊としての形成には何千年とかかるがな…な?光よ」
「冥王…お前…新たな"地"が生まれても、アグナーはアグナーでの命があった!たった1つの命なんだぞ!!」
ナックの言葉に反応を見せない冥王はエルセナに視線を向ける。呆然としたままのエルセナの頬には、一筋の涙が伝っていた。
「その涙の意味…"愛"からくるものか…」
「…アグナー…」
「"愛"か…訳のわからぬ感情だ。しかし、それを奪うのは…」
冥王は倒れるシャクルの元へと移動する。そして手にした大鎌をゆっくりと天にかざす。
「やめろ冥王!!マスター!」
ナックの声に、ハっ!っと我に返るエルセナ。冥王の大鎌がシャクルを狙う状況。止めようにも動けぬエルセナの体。傷が深く、全く動く事が出来ない。この状況はシャクル自身も同じ事…己に向く刃に対して全く抵抗が出来ない。
「奪うというのは本当に…」
「ヤ、ヤメて…」
「くっ…!」
「…たまらなくイイものだなァ!!」
「ヤメてぇぇぇぇッ!!」
ズンッ!!
振り落とされた刃はシャクルの腹部を貫き、地面もろとも深々と突き刺さる。
「シャクル!!」
「イヤァァッ!!」
「いい!!いいぞォ!!もっと聴かせてくれ!!奪われていく絶望の声をォォ!!」
狂ったような声を挙げ、一気に引き貫かれる鎌の刃。それと同時にシャクルの腹部からは大量の血飛沫が辺りに舞う。その飛沫を浴びながら笑う冥王は、再び鎌をシャクルめがけ振り下ろす。
「次はその首をっ……グッ!」
突然冥王の身体が金縛りのように動かなくなった。
「き…貴様…」
唯一動かせた視線をエルセナの方へと向けると……その先のエルセナは立ち上がった状態にあり、その身を青白く光り輝かせていた。そして横には同じ光りに包まれたナックが並んで浮かんでいる。
「マスター…」
「えぇ…もう逃げたりしない…」
傷の痛みなんて感じていないような表情で、動けぬ冥王に向かいゆっくりと1歩…1歩…っと歩み寄っていく。しかしその光りが負担なのか、1歩進むごとにエルセナの皮膚が小さく裂け、所々から血が流れる。
「エル…セナ…」
辛うじて息のあるシャクルの視線がエルセナに向く。視線は感じるも、エルセナはシャクルを見ずに冥王を見据える。
「シャクル…ごめんね……私どこかで逃げてたのかもしれない…力を使う事…死ぬ事、やっぱり恐れていたみたい……でももう覚悟は出来た。もう逃げたりしない!!」
鋭く冥王を見据えたまま、両手を天にかざし己を包む光りを強くするエルセナ。そのかざした手の先にナックが舞い上がり、青白い光りがナックと融合し、球体を作り出し空中で巨大な渦を作る。
『ボクが冥王を吸収して相殺消滅する…最期まで気を抜かないでよマスター!!』
「わかってるわよ、ナック!!」
「待て…エルセナ…!」
「シャクル…あの子の事、よろしくね…」
「ヤメろ…ヤメろ…!!エルセナァァッ!!」
「終わりよ…冥王ッ!!」
光りの渦がまるでブラックホールのように冥王のみを吸い上げていく。一瞬堪えた冥王の足が地面から離れ、渦に向かいその身が舞う。ゆっくりではあるが、冥王の体は渦に向かい進んでいく。
これで終わった!…っと、思った瞬間、冥王の口元が怪しく笑った。
「くっくっ…これで終わったと思うなよ…」
「…?」
「以前から思うておった。この身はもう使えん……ならば、素養に溢れた霊召士の体も悪くないのではないかと…」
「ッ!?…ま、まさか!?」
『だっ、駄目だマスター!!集中して!!』
「赤子の内なら抵抗できまいな…」
「やっ、やめてぇぇぇッ!!」
光りの渦に冥王が半身を入れた瞬間、凄まじい爆撃と衝撃波が辺りを襲う。




