P.017 死闘の末路(1)
「まだか霊召士は…」
村の中心に立つ冥王。その姿からは苛立ちが感じられる。首を左右にポキポキと鳴らし、地面に突き刺していた鎌を抜く。
冥王の出現に、大半の島民は森の奥へと避難した。しかし若干名逃げ遅れてしまい、民家に息を潜める者もいる。
徐々に黒く淀んだ禍々しい邪気が冥王を包み始め、鎌を持たぬ左腕を空にかざす。
「時間切れ、もう終わりだ…皆殺しだァッ!!」
叫んだ瞬間、黒い稲妻が四方八方に落ち、凄まじい轟音と衝撃が村に襲いかかる。幾度と落ちる稲妻が周囲の家や森、地面をも砕き、村の半分を一気に破壊した。
周囲に爆煙が立ち込め、崩れた家屋や飛び散る破片などから炎が上がる。身を潜め巻き込まれた島民の声だろうか、苦しそうな呻き声や逃げ出す悲鳴などが聞こえてくる。
冥王はゆっくりとその光景を見渡し、皮膚を軋ませながら口角を上げ、再び左腕をかざす。
すると……
「待ちなさい!!」
突然背後から聞こえた声。冥王はかざした腕を下げ振り返ると、そこにはエルセナがいた。
産後の痛みがまだ残っているのだろう、荒い息遣いに震える足元。衣服の腹部からは血が滲んでおり、吹雪の中でも滲み、流れる汗は立つのもやっとの状態に見える。
「霊召士か…?」
「そうよ。狙いは私でしょ…他の人には手を出さないで!!」
「ほう……精霊も連れずにデカい口を…」
不気味な笑みを浮かべ、懐からエルセナに向かい小さな影を放り投げた。
「こいつだろ?…貴様の精霊は…」
放られた影…それは傷だらけで、ぐったりとしたナックだった。
「ナック!」
すぐさまナックを両手で拾い上げ、抱き寄せるエルセナ。
「ナック!!」
「マ…マスター……ごめんよ…力になれなくて…」
「…祖母様と…シャクルは…?」
もし会っていなければ……
「あぁ、奴らか…」
乾いた皮膚を軋ませる程の不気味な笑み。
「殺したよ…我に刃向かう愚か者はな?」
「ッ…!!」
その言葉を聞いた瞬間、エルセナの体が青白い光りを帯び周囲に生暖かい風が巻き起こる。
「なっ、何だ…!?」
その光りと風に、冥王は思わず数歩後退る。そしてエルセナに包まれていたナックの傷がみるみると回復していき、エルセナと同様の光りを帯びたまま横に浮かぶ。
「許さない…アナタだけは許さない!!」
鋭く冥王を睨みつけ手を目線の高さまでかざした瞬間、並ぶナックの体が眩い金の光りに包まれ、そのままエルセナの左腕を包み始めた。
「くっ…目覚めおったか…!」
すると光りは徐々に黄金に輝く弓へと変化した。
その姿に再び後退る冥王。しかし再び不気味に笑い首を傾げた。
「くっくっ、怒り任せの覚醒か…そんなにあの虫けら共が大事だったのか?」
「ッ!!…貴様ァァッ!!」
叫びと共に右手に黄金の光の矢を作り出し、冥王めがけ射ち放つ。
矢は目にも留まらぬ速度で冥王刺さり爆発する。まるでショットガンで撃たれたかのように体を仰け反らせる冥王。好機とばかりにすぐさま次の矢を構え、グラつく冥王の頭を狙う。
「祖母様…シャクル……うわァァァァァッ!!」
声に呼応するように構えた弓矢が巨大化し、そして冥王めがけ放たれた。矢は周囲にソニックブームを巻き起こしながら冥王を直撃。凄まじい爆撃と衝撃波が大地を駆ける。
これで決まった…っと、エルセナが弓を下げた瞬間、立ち込めた爆煙の中から冥王が弾丸の如く飛び出してきた。
「ッ!!」
一歩も動けぬエルセナの顔面を、冥王の乾いた灰色の手が掴み上げ、そのままの勢いで後頭部から地面に叩きつけた。鈍い音と共にエルセナの頭は後頭部から地面に減り込む。次の瞬間には数本の細い血の柱が噴き上がる。足を振り上げた状態のエルセナの体が力無く地面に落ちる。ぐったりとした体が一瞬波打ち、未だ掴まれた顔の口から大量の血を吐き流す。
「ぁ…ぁう…」
微かに聞こえるエルセナの声。すると冥王は掴んだ顔から手を離し、手にしていた鎌を血の滲んだ腹部の上に運び、一瞬振り上げから柄で突いた。
「ッ!!…うッ…うぐぁぁぁぁぁッ!!」
辺りに悲鳴が響き渡る。冥王は更に鎌を捩るように圧力をかけていく。
「あぁぁッ!!うァッ!!」
「あの餓鬼共がそんなに大事だったのか?祖母様…家族か?シャクル…もしやあの男か?……そうか、この傷はあ奴との赤子でも産んだ後のものか?」
鎌の持つ手に更に力を込めた瞬間…ドスっという、柄が地面に到達した音が鳴る。
「ッ…あァァァァァ…ッ!!」
辺りにエルセナの絶叫が響き渡る。すると弓の変化が解けたナックが、
「マスター!!やめろォォッ!!」
すぐさま冥王に突進するも、鎌から離した手がナックの体を掴みとった。
「うわっ!!」
「あれしきの攻撃が限界か?…なら終わりなのだよ、貴様らは…」
握る手に徐々に力が込められる。
「ぐっ…ぅぐぁ…」
苦しみの声がナックから洩れ始めた、次の瞬間、突然冥王を地面の隆起が突き飛ばす。
「ぐおッ!!」
その衝撃はナックを冥王から解放し、当の冥王は勢いよく吹き飛ばされた。そして空中に放られたナックをキャッチし、エルセナに駆け寄る影が……
吹き飛ぶ冥王は空中でヒラリ身を返しゆっくりと着地を決める。
「貴様ら…何故だ…?この手で殺したはずだが…」
視線の先にはシグとアグナー。そしてエルセナに刺さる鎌を抜き、抱き上げるシャクルの姿が。しかし2人の体には、相当な深手を思わせるかなりの出血が見られた。
「エルセナ…遅れて悪いな…」
「シャ…シャクル…祖母…様……」
潤んだ瞳でシャクルを見つめるエルセナは、ゆっくりとシグに視線を向ける。シグはエルセナと視線が合った瞬間、優しく微笑み1度頷き、そのまま力無く地に崩れた。
「祖母…様……祖母様ぁ…っ!」




