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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.02 追憶の語り部
15/122

P.015 霊召士…そして母として(1)

 その後のシャクルとエルセナは、シグをはじめとした島民達に結婚を報告した。この結婚に島民達は「待ってました!」っと言わんばかりに、島を上げての盛大な結婚パーティーを開いて祝福した。シグからは「ありがとう」というお礼の祝福をもらった。


正式な儀式や、結婚を誓った指輪も無かった。だが2人は確かにこの日に夫婦となり、本当の家族となった。




◆◆◆――…




 …――そうして月日は流れ、季節は冬となる。


ある日、雪の降る中でシャクルとナック、アグナーは家の周りの雪掻きをしていた。


気候的には特に温暖な訳ではないこの島の冬は、なかなか厳しいもの。気温の低さや積雪はあるが、特別豪雪地帯という訳でもない。それが唯一の救いだ。



「う~寒ぃ~…」

「くぅ~…ホント寒いよね~」



フード付きのコートを羽織り、歯をカチカチ鳴らしながらスコップを振るうシャクル。体にタオル地の布を巻き、ナックも震えながら小さなスコップ…いやスプーンで雪を掻く。



「精霊も寒がるもんなんだな?」

「感じない精霊の方が多いんだけど――…」



そう言ってアグナーに視線を向けるナック。追ってシャクルも見ると、アグナーは楽しそうに「キューキュー♪」っと鳴きながら雪の上を転がっている。



「ボクは五感を持つ精霊だからさ…得な面もあるけど、やっぱり寒いのだけは嫌だなぁ…」

「でもいいじゃねぇか、お前は浮いてられるしな。足元冷たくなくていいだけだろ」

「おやおや…指摘する点が小さいねー。細かいねーシャクルくーん」



少しバカにしたような表情でシャクルを見た。それには「この野郎~…」っとシャクルがナックを捕まえようと手を伸ばすも、標的のナックは空に飛び上がり、手の届かない所を飛び回る。



「へっへーん!やぁ~い、こっこまでおいでぇ~!」



っとお尻まで叩きはじめる始末。



「こんのぉ~…降りてきやがれ!…よし、アグナー行け!」



するとアグナーは楽しそうに「キュー」っと鳴きナックに向かう。



「うわぁ!アグナー使うなんて卑怯だよ!」

「じゃあ飛ぶんじゃねぇよ」

「やめろ!来るなアグナー!!捕まったらシャクルに殺されるー!!」

「ハっハっハァ、殺さぬ程度にくすぐってやろう」

「ひぃ~ご勘弁を~!」



そうやって雪掻きそっちのけで雪の中ではしゃぐシャクル達。すると家の扉がゆっくりと開き……



「あぁ~、また遊んでる…ご飯出来たのに、遊んでるならご飯抜きにするよ!」



そう言って、頬を膨らましながら姿を現すエルセナ。そのエルセナのお腹が大きく膨らんでいるではないか。それはもう1つの生命が宿っている証。



「いや、だってナックのヤツが…」

「もういいから。早く中入って、ご飯冷めちゃうよー!」

「あぁ、わかった。行くぞ~ナック」

「行ってもぶたない?」

「3発くらいで勘弁してやる」

「OK、拒否」

「もーっ!は・や・く!」

「わかったわかった、今行くって」



こうして流れる平穏な日常……夫婦となろうと誓ったあの時から思う。この生活がいつまでも続けばいい…1日でも長く。1分でも…1秒でも長く。シャクルもエルセナも、そう願い続けた。




◆◆◆――…




 そうして数日が経ったある日、シャクルはふと目を覚ました。まだ夜なのだろうか、空が暗い。しかし何かがいつもと違う……恐怖とも違う、不思議な圧迫感と息苦しさを感じる空だった。



「何だ…嵐でもくんのか…?」



横を見るとスヤスヤと寝息を発てるエルセナ。しかし共に寝ていたはずのナックの姿が無い事に気づく。ベッドから起き上がり辺りを見回すが、やはり部屋の中にナックの姿は無い。辺りを見渡し偶然捉えた窓の外、雪の積もる中にナックはいた。呼びかけようとナックの背中を見つめている…が、何やら様子がおかしい。


シャクルは黒い革のジャケットを羽織り外に出た。雪は降ってはいないが冷たい風が吹く屋外。



「おーいナック。何してんだ風邪引くぞー…ってか精霊って風邪引くのか…?」

「あ、シャクル…」

「何してんだよナック。寒いんだから夜出歩くなって」

「今は夜じゃないよ…もう朝なんだよ」

「朝?これが朝か?」



辺りを見回すが、空も景色もあきらかな夜。だが感覚は確かに何かが違うような気がする……暗いだけじゃない。空気か?寒さとも違う、悪寒とも言える感覚までする。



「シャクル…何か感じないかい?」

「ん?…あぁ。何か嫌な感じがするな……まさかこれって…」

「うん。おそらくね…」

「…マジかよ…」



大きなため息と共に頭をボリボリと掻くシャクル。そして家の方に振り返り、無言のままに戻っていく。その背中に対し、ナックは言葉をかける事なく見送った。


シャクルは家の前で少し立ち止まり、再び大きなため息を1つ。そして扉をゆっくりと開くと、静まる室内に小さな呻き声が聞こえる。


何事か!?っと声のするエルセナの部屋に入ると、ベッドで苦しそうに蹲るエルセナの姿がすぐに目に入ってきた。その横には杖を手に立つシグの姿も。



「おぉシャクル!」

「おい大丈夫かよ!?エルセナ!」

「うぅ…痛いよぉ…」

「バアさん、これは?」

「陣痛がきたようじゃのう」

「ウソだろ、こんな急に…どうすんだよ、バアさん」

「どうするもこうするも、早く【コナッテ】の所に連れて行くんじゃ、シャクル」

「コ、コナッテ?…あ、あぁ」



【コナッテ】とはシグ程ではないが、島では有名な肝っ玉婆さんの1人。医療的な知識があり、出産時などは全てコナッテが診ていた。



「わかった、すぐに行ってくる。でもバアさん、奴が――…」



エルセナに毛布を掛け、抱え上げた瞬間……




 ッ、ドォオォォォォォンッ!!




轟音と共に激しい落雷が村に落ちる。



「何だ!?」

「来おったか…!?シャクル!早く行かんか!!」

「だけど!」

「安心せい、わしが行く」

「そんなバアさんじゃ――…」

「お前が行くよりは幾分かマシじゃ!だから早く行け!!」



その言葉に一度は躊躇うも、頷き駆け出すシャクル。その姿を見送るシグは後ろにいるナックを見た。



「さて行くぞナック。世界と…あの2人の"未来"為に」

「うん、行こう」




◆◆◆――…




 雪道をエルセナを抱え走るシャクル。周囲では落雷の稲光と轟音が鳴り響く。



「コナッテさん!!すいません!コナッテさん!!」



村の外れにある1件の家の前でシャクルがエルセナを抱え叫んでいると、ゆっくりと扉が開き、中から恰幅のいい老婆が出て来た。



「何だい?こんな夜に――…って、おや?シャクルじゃないかい。それにエルセ――…っ!?」



コナッテはすぐにエルセナの様子に気づき、「早く中へ」と入れてくれた。そしてベッドにエルセナを寝かせる。


その時既に足からは真っ赤な血が伝ってきており、エルセナは激しい痛みを訴え続けていた。コナッテはエルセナの寝間着をめくり、出血する腹部を見ると……



「何てこったい…もう出てきちゃってるじゃないかい!しかも足から…逆子だなんて、早くしないと大変な事になるよシャク――…?…シャクル?」



振り返るコナッテ。しかしそこにシャクルはいない。見渡す視界にシャクルを捉えたのは玄関口。視線が合うと、シャクルは少し笑ってみせた。



「コナッテさん。後は頼みます」

「頼むって…あんたどこ行く気だい?」

「守らなきゃいけないんです…俺の大事な家族を…」

「守るってまさか…この空も奴のせいって事かい?」

「コナッテさん…知ってたんですか?冥王の存在」

「そりゃ島の住民だからねぇ…あんた、まさかだけど…」

「………」



あえて答えずコナッテから視線を外して、出口の扉にゆっくり手をかけた瞬間…



「シャ…ク…ル…」



震えるようなエルセナの声がシャクルの耳に届く。振り返ると、今まで痛みで呻いていたエルセナが、必死にシャクルに向けて手を伸ばしている。開けかけた扉から手を離し、エルセナに駆け寄り伸ばした手を握る。



「エルセナ…」

「ダメ…行っちゃ…ダメ…」



シャクルの握り返す手を、エルセナは己の頬に運び当てた。



「お願い…行かないで……1人にしないで…」

「………」

「シャクル…お願い…」

「…頑張れよ、エルセナ。元気な赤ちゃん生むんだぞ」



そう言って微笑みかけ、握る手をゆっくりと離す。



「いやぁ…行かないで…シャクル…」

「大丈夫だ。必ず…必ず戻るから」

「シャクル…待ってシャクル…!」






……――パタン…





外は吹雪に変わっている。


薄暗い空を見上げ、己の頬をバシッと両手で叩くシャクル。小さく「行くか…」っと呟き、吹雪に荒れる雪道を走った。

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