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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.02 追憶の語り部
14/122

P.014 継承と誓い(2)

「な、なぁ…どういう事だよ?説明してくれよ」



そう言ってシグを見るが、シグは無言で俯いたまま動かない。シャクルはエルセナに視線を移すと、エルセナはゆっくりと目を閉じ小さく息をはく。



「…昔々…」



答えるエルセナが口を開く。まるで今から子供達にお話を聞かせるような、とても穏やかな口調で……




…………………………




 1万年――…いやもっと前になるだろうか…人の文明が創られはじめた頃、2つの顔を持つ地球は、自然に満ちた平和な世界であった。


核なる大地と呼ばれしマザーランドは、様々な種族が暮らす緑に溢れた世界。外界大地と呼ばれるアースランドには、霊召士と共にマザー無き世界でも影響を受けない人間が移り住み、互いにそれぞれの歴史に生きていた。


自然界を見守る『地・水・火・風・光・闇』の女神達は、これらを統べる『命・時』の精霊の(めい)により、2つの世界を行き来していた。この6人と8体の精霊により、自然界は守られていた。


それから時代は進み、マザー無き世界に生きている内、マザーを使えぬ体になっていったアースランドの人間。それが普通となりかけていた…むしろ霊召士という存在すら忘れてられていた頃の事。1人の男が霊召士の力を望み、闇の精霊を宿す女神を殺し、その身に闇の精霊を憑り込んだのだ。


素養の無い身になった人間が、強大なマザーを持つ精霊を憑り込んだ事により、闇に繋がる負の力に呑み込まれ、欲深き人の心が暴走した。ただ人を統べたい…支配したいという欲望に…


これが悪夢の始まりだった……


"悪しき心"に暴走した精霊は制御を失い、マザーランドのマザーを吸収し、他の精霊達もどうする事も出来ない【冥王(めいおう)】へと姿を変えた。


自我を失い、欲望のまま破壊を繰り返す冥王。名を【デフィテンザーク】


女神達は精霊の力を駆使し立ち向かうも、冥王の強大な力の前に倒れ、皆死んだ……


そこで【"命の精霊"レリス】。【"時の精霊"クロノ】の2大精霊がその身を捨て、マザーの根源を司る世界樹へ、世にあるマザー全てを使い冥王を封印したのだ。


そうして世界は再び平和が訪れた。


しかし冥王は死んだ訳ではない。ただ封印されただけ。精霊達にはわかっていた。冥王の力は全く弱まる事はなく、封印に力を注ぐ命と時の精霊、世界樹のマザーが弱まっていくのが……近い将来、再び冥王は蘇る。


そこで精霊達は残る霊召士らと誓いをたてた。


『もし再び冥王が蘇る時がくるのなら、"光が消えれば闇も消える"…その自然の摂理に従い、光の精霊と共に相殺消滅をしよう』…それまで光の精霊ナックが世界樹を見守り、危機が近づいた頃に地上の霊召士を連れ、共に死のう…っと……




……………………………………




…………………………





話しが終わり、シャクルは唖然とした。



「つまり、その冥王が復活?」

「そう…自然元素を消してでも、終わりにしなくちゃいけない歴史。私が命をかけて世界を守らなきゃいけないの」

「おいおい、そんなの嘘だろ…」

「嘘じゃないわ。霊召士には代々この話が伝わっているの。冥王はもうすぐ復活をする…私が死ねば、皆が助かるの」

「ま、待てよ!何で死ななきゃいけないんだよ!?…もしかしたら倒せるかもしれないだろ?その冥王を」

「シャクルや…無理なんじゃよ」

「え…?」

「そうなんだ。冥王を消すには、ボクの力の消滅意外に手はない。倒す為には霊召士の生命力を全て使って相殺するしかない」

「そっ、そんな……やってみなきゃわからないだろう…なら、俺が戦う。俺が倒してやるさ!エルセナは死なせねぇ」

「シャクル…でも…」

「余計な手出しは無用だよ。死人が増えるだけだ」

「何だと…!」

「死ぬのはボクと霊召士で十分さ」

「テメェ!!」



怒りの表情でナックに向かうシャクル。



「これシャクル!」

「やめてよ!!」



エルセナの声が響き、ナックに向かうシャクルが足を止める。



「エルセナ…?」

「もういいの…いいのよ…もう…」



声が震えている。ゆっくりと祭壇を降り、そしてシャクルの横を通り過ぎ、



「ごめんね……少しだけ1人にさせて…」



小さく呟き寺院を出る。


小走りに遠退いていくエルセナの背中に、シャクルは何も言えなかった。



「…ごめんよ。ボクの言い方が良くなかったよね…?」

「いや、いいさ……よく知りもしねぇ奴が熱くなっちまって悪かった。考えてみりゃ、俺達の世界の為にお前が来てくれたようなもんなんだよな」



その言葉に以外そうな表情を浮かべるナック。



「まさかそう言われるなんて思ってもみなかった…『来てくれた』だなんて」

「?」

「だって言い方を変えれば、ボクは1人の霊召士を強制的に死なせてしまう…死の精霊のようなものなのに……ボクの力を継承すれば死ぬのに…何の曇りもない笑顔で『おいで』なんて…」



するとアグナーがふわりと浮き上がり、ナックにすり寄っていく。



「やぁアグナー。久しぶりだね…何千年ぶりだろうね?」



優しく微笑みアグナーを撫でるナック。



「心配するな。エルセナは…わしらもお前を死の精霊などとは呼ばん。あの子が決意したのなら、共に戦おうぞ…ナック」

「ありがとう。すごく嬉しいや…」




◆◆◆――…




 数時間後……外はもう夜だ。


月明かりの小高い丘の上に1人、エルセナはいた。静かに月を見上げている。


そこにシャクルがゆっくりと近づいた。するとエルセナが気配に気づき、シャクルを見る。



「1人にしてって、言ったじゃない…」

「………」



呟くように背を向けるエルセナ。



「もう帰って…」

「…いや…その…」



その背中にかける言葉が見つからない。こんなにも小さな背中に、突如背負った大きな使命。それは"平和"と共に訪れるであろう"死"……自らの"命"と引き換えの"平和"なのだから……


胸が締めつけられた……


死なせたくない!!



シャクルはエルセナを後ろから抱きしめた。



「っ…シャクル?」

「…!」



何も言わず、ただ強く抱きしめる。


するとシャクルの腕に、そっとエルセナの手が触れた。



「何でよ…何でぇ…」



抱きしめる肩が震えはじめ、エルセナの頬を涙が伝う。



「何で来るのよぉ…」

「悪い…」

「バカ…」



触れるエルセナの手が、抱くシャクルの腕を強く握る。



祖母(ばあ)様が言ってたの…マザーランドから伝わるマザーが最近変化している。もしかするとそろそろ冥王が復活するかもしれない、って…私がそうでも構わないって思ってた。世界を救う事が出来るだなんて、霊召士としての最高の"誇り"にさえ感じていたわ……なのに…」



シャクルの腕にポツ…ポツ…っと、大粒の涙が落ちてきた。



「どうして…どうして貴方に出会っちゃったんだろ…」

「エルセナ…」

「出会ってしまわなければ、こんな気持ちにはならなかったのに…」



するとエルセナはシャクルの腕を振り払い、その泣き顔を向けた。



「貴方は…貴方は私の"誇り"にとっての重荷でしかないの!!お願いだから帰って!…ここにいないで!…私の傍に…もう傍にいないで…」



溢れ出る涙に震えるエルセナの体を、シャクルは再び抱きしめた。強く…そして優しく頭を撫でる。



「………」

「どうしてよ…」



シャクルの胸に顔を埋めたエルセナは、ゆっくりとシャクルの体に腕を廻し、ギュっと抱きついた。



「どうして…どうして私なの?嫌だよ…死にたくないよぉ……ずっと一緒にいたいよぉ、シャクル…」

「精霊の誓い程強くねぇけど、俺も誓う……絶対死なせない…お前を絶対に死なせない…!」





月明かりの小高い丘の上。ゆっくりと…静かに……シャクルとエルセナの唇が重なった…

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