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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.02 追憶の語り部
13/122

P.013 継承と誓い(1)

 あれから2年の月日が流れた。


初夏の晴天の空…昼下がりの心地良い風が島を吹き抜ける。そんな中、数人の小さな子供達が楽しそうな笑顔で走っていた。



「待ってよぉ~!」

「ほら、急げよ!」

「今日はどんなお話なんだろ?」

「早く行こうぜ!」

「あそこにいるぞ!おーい!!」



男の子が手を振る先には10代半ばの少女が1人。ひしゃくを持ち、家の庭の花に水を撒いているようだ。声に気づいた少女は子供達の方に向き、笑顔で手を振り返す。



「そんなに走ったら転びますよー」



するとその少女に近づく1人の男性。



「相変わらず大人気だな、エルセナは」

「あらシャクル。薪割りは?」

「全部終わったよ」

「はいご苦労様」



笑顔を交わす2人。少しばかり――…いや、だいぶエルセナは大人びた様子。シャクルも少し背が伸び、顔つきも精悍さを増している。


そうしている内に、子供達がエルセナの元にたどり着く。



「エルセナ、今日は何のお話するんだ?」

「聞きたい聞きたーい!」

「早くお話してー!」

「ちょっと待ってね?あと少してお水撒き終わるから」



袖を掴み急かす子供達に、困った表情のエルセナ。するとシャクルはエルセナの肩を叩き、手に持つひしゃくを取った。



「あとは俺がやっとくから行ってこいよ」

「え…いいの?」

「あぁ」



すると子供達が声をそろえて叫ぶ。



「ダメー!!シャクルも一緒に聞くのお話ぃー!」

「あ~ハイハイわかったわかった。じゃあ皆で水撒くか?早く終わして、それから皆でお話聞くぞ」

「はぁーい!」



元気よく手を上げて応える子供達は、全員で桶から水を手ですくい、バシャバシャと水を撒き――…っと言うよりも水のかけ合いで遊び出す。



「ふふっ、シャクルも大人気じゃないの?」

「はいはい。ほら、お前もサボらずにやれってぇーの」

「はぁ~い」



そう言って再び笑みを交わす2人。そうして子供達と皆で水撒きと言う名のかけ合いをした。


子供達の言う『お話』とは?それはエルセナが話す物語の事である。元々本が好きなエルセナ。シャクルから聞いた外の世界を元に、自らもいろいろな物語(おはなし)を書いていたのだ。それを子供達に読み聴かせをしている。子供達もエルセナの物語が大好きなのだ。



「皆ありがとう。お蔭で早く終わったわ」

「じゃあお話して!」

「早くーっ!」

「はいはい、じゃあ向こうの丘でお話しようね」



急かす子供達の頭を優しく撫でるエルセナ。



「わぁ~い!」

「ほらシャクルも行くの~!」



そう言ってシャクルの手を左右に振る女の子。シャクルも優しい笑顔で応え、その手を握る。




◆◆◆――…




 数時間が経過し、辺りの日が暮れはじめていた。今日分のお話を聞き終えた子供達は、夕食の時間だと家路につき始める。



「じゃあね~エルセナ!シャクル!また明日ねぇ~!」



手を振り駆け出す子供達。



「あ、だからそんな走ると――…って行っちゃった…」

「ま、元気でいいじゃねぇか。俺らも帰るか」

「そうね」



そうして2人も家に向かい歩き始める。




◆◆◆――…




 家に着き、木の玄関扉を開けるシャクルとエルセナ。部屋の奥にはシグがいる。そのシグは1年程前から体調を崩し、ほぼ寝たきりの状態となっていた。枕元にはアグナーが寄り添うように眠っている。



祖母(ばあ)様、ただい――…あれ?」

「寝てるみたいだな」



シャクルの言葉通り、シグはスヤスヤと寝息を発てている。



「だね。じゃあ私は夕飯作るね」

「あぁ、頼む」



そうエルセナが台所に入ると、シグが目を覚ました。



「ん…おや、帰ってたのかい?」

「あぁ、今帰った。どうだ?体は」

「まぁそうそう悪くはない。じゃがわしもそろそろと言う訳じゃな…」

「そんな事言わずに長生きしてくれよ、バアさん」



軽い笑みでシグの布団を直す。



「シャクル」

「ん?何だ?」

「お前さんが島に残ってくれて本当によかった…ありがとう」

「何だよ、急に気持ち悪いなぁ~、バアさんがしおらしくお礼言うだなんてよ。明日はエルセナの15歳の誕生日なんだろ?一緒にお祝いしなきゃな」

「そうじゃ、明日でエルセナは本物の霊召士となる…"継承の儀式"を受け…」



そう呟きエルセナを見つめた。その視線は少し寂しくも、不安も混じる視線だった。



「エルセナだってもう子供じゃないんだ。心配いらないさ」

「そんな事で片付けばいいんじゃが…」

「え…?」



すると再び目を閉じるシグ。



「もう少し寝る…飯が出来たら起こしてくれ…」

「あ、あぁ…」



そんな事…?他に何かあるのか?っとも返したくなる言葉だ。ただ精霊の力が得て、以前聞いたパイプ役となるだけじゃないのか…?シャクルも静かにエルセナを見つめた。




◆◆◆――…




 翌日となり、エルセナは15歳を迎えた。遂にエルセナも精霊を継承し、一人前の霊召士へとなる時が来たのだ。


継承の儀式は寺院で執り行われる。中では祭壇を前に膝を付き、祈りを捧げるエルセナとシグ。一応シャクルも、肩にアグナーを乗せて寺院の中にいた。足腰が弱くなったシグの支えをする為にだ。しかし「離れていろ」と言われたので、寺院の片隅で見守るシャクル。


昼下がりに始まった儀式だったが、既に数時間が経過していた。時折あくびをするシャクルはちょっと飽き気味。しばらく見ていると、辺りを囲む女神像が突然様々な色に光り出した。するとシグがエルセナの名を静かに呟く。小さく頷き立ち上がるエルセナ。


祭壇には5段の小さな階段があり、エルセナは1歩ずつゆっくりとその階段を上る。頂上に着いたエルセナは、祭壇の上にある手の平サイズで、心臓の鼓動のように青白い光りを放つ水晶玉に触れ、ゆっくりとまぶたを閉じた。



「我、ミリアードの血筋の者なり。名をエルセナ…今ここに新たな誓いをたてし者。応えよ…世界樹の主レリスよ」



その言葉に応えるように、水晶玉はよりいっそう強い光りを放つ。


あまりの強い光りに咄嗟に目を覆うシャクル。だがその光りはすぐに治まり、目もすぐに開く事が出来た。周囲を確認すると、エルセナの目の前には、大きさ30センチ程のユニコーンのような一角を持つ人間…いや妖精のように背中に小さな羽を持つ精霊…そう、あのナックがいたのだ。



「君が宿主なんだね?ボクはナック。…光の精霊だよ」



無事に済んだ儀式に安堵の表情を浮かべるシャクル。労いの言葉でも…っと祭壇へ歩み寄るが、突然シグが頭を抱えて蹲る。その姿に思わず足を止めた。



「どうしたバアさん!?」



慌てて駆け寄り覗き込むと、シグは小刻みに震えているではないか。すぐさまアグナーがシグへと飛び移る。



「嘘じゃろ…嘘じゃ…嘘じゃ…」



シグの呟く言葉…それは何度も何度も繰り返された。



「おいバアさん?どうしたんだよ…」



しかし蹲るだけのシグ。シャクルはエルセナとナックの方を見ると、2人は黙ったまま向き合っている。


…空気が若干冷たい。



「ボクが継承された意味…わかるかい?」



そう小さく言うナック。エルセナは1度頷き、そっと手を伸ばす。



「おいで…ナック…」



そう言って笑顔を見せると、ナックの表情も徐々に笑顔に変わる。



「強いね…君は…」



差し出された手の平に乗り、笑顔を見せるナック。するとゆっくりと振り返るエルセナ。



祖母(ばあ)様…」

「エルセナ…お前…」

「大丈夫。覚悟はもう決まってるから…」



そう言って笑顔を見せる。しかしその笑顔には少しの曇りが見えた……

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