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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.009 闘技の祭典
118/122

P.118 ユーネとハヤ(1)

 リーシェ対カヌイの試合は、『両者失格』として幕を閉じた。途中に乱入したシャクルとミネアとキリの3人のお陰で、リーシェはカヌイに攻撃は無かったとされ、特にお咎め無しの結果となった。そして何事も無かったように選手入場口から帰っていくシャクル達。


戦いの終わったリング上、落ち着きを取り戻したリーシェは、グルっと観客席を見渡した。するとVIP席にいるアラーケとロンを発見する。互いに目が合い、リーシェは笑顔で手を振ると、アラーケとロンも手を振り返す。2人の反応を見て、リーシェはレフェリーに歩み寄る。



「ねぇ?あそこに仲間がいるの。このまま帰ってもいいかしら?」

「え?あ、はい。大丈夫ですよ」

「そ。じゃあ行くわ。騒いでごめんなさいね」



そう言ってレフェリーに笑顔を見せると、ミネアに何度も蹴られた(すね)を擦り蹲るカヌイを見た。



「あなたとの決着、しっかりと着けたいわ。"変なコト"とか抜きにして…どこに行けばあなたと戦えるのかしら?」

「何や…次に()うたら戦う気満々かいな…まぁええけど。戦うんやったら、次はルール無しの戦事(いくさごと)や…リシェリーア、あんたそない死にたいんか?」

「生きるも死ぬも、楽しく戦えるならどちらでもいいわ。それに死ぬつもりは一切無いし」

「…っかぁ~ホンマ怖いお嬢様や、あんたは」



苦笑いを浮かべて立ち上がるカヌイは、深いため息と共にリーシェに背を向けた。



「うちと戦いたいなら、うちの泥棒(しごと)邪魔してみん。それかや…ド派手に散りたいんやったら、うちが護衛しとる【ホラゴル島】のドルシャーノ本社、襲撃してみたらええ。うちだけやない…おっそろしい護衛(かいぶつ)がお出迎えしてくれんで…」

「そうなのね…わかったわ。近い内に行くわ、ホラゴル島に」

「そっち選ぶんかい…まぁええわ。ホンマに襲撃されたらかなわんから、オーナーに()うておくわ。うちの名前出せば会えるようにしといたる。夜は泥棒(しごと)に出る時あるもんやから、出来れば日中にしてや」



そう言うと、背を向けたまま手を振って歩き去っていく。



「ま~"夜のお相手"してくれんやったら、いつ何時でもええからなぁ~」



――…っと、このカヌイの言葉には無反応のリーシェは、観客席のアラーケとロンに向かいスタスタと歩いていく。


リングエリアと客席とを隔てた4メートル程の壁を、軽々と越えるリーシェはアラーケらに合流。



「お疲れリーシェちゃん」

「お疲れさんなのじゃ~」

「えぇ、ありがと。何かスッキリしないけど、それなりに楽しかったわ」

「楽しいって…観てるこっちはヒヤヒヤもんだったよ、全く…」

「わしはドキドキじゃったわい…美女同士のチュ~♥それにくのいちレディのボインボイ~ン♥あのパイパイにムギュ~っとされてみたいわい!」



体をクネらせ、リーシェに擦り寄っていくロン。



「確かにその通りだじいさん!あれはミネアちゃん以上のバスト!F以上のGとみた!」

「メイドとくのいちF&Gの――…」


「「パフパフ祭だァ(じゃ)ーっ♥」」



戦隊ヒーローのような決めポーズと、魂の(?)雄叫びを上げるアラーケとロン。しかしそれを前にするリーシェは無表情。



「………」

「………」



決めポーズのまま停止するアラーケとロン。リーシェはその2人を見ずに辺りを見渡す。そして何かに気づいたようにポンっと手を叩く。



「何か足りないと思ったら、ツッコミの2人がいないのね?アヤメと兵隊さんは?」

「って今更かぁーいっ!」







「「はぁくしょんっ!!」」



 2人同時にくしゃみをするアヤメとユーネは、未だアラーケ達のいるVIP席とは反対側にいた。鼻をすすり、互いに顔を見合う。



「ん?ユーネさんまで…誰か噂してるんでしょうかね?私達の事」

「きっと美女2人が揃ってるからですよ、きゃ~」

「…風邪ですか?」

「って誰が熱に浮かされてるんですかぁーいっ」

「アハっ、さすがユーネさん、ナイスノリ」

「もぉ~姫…ふざけないで下さいよ」

「す、すみません――…って最初にボケたのユーネさ――…」

「とにかく、早く元の席に戻りましょうか」

「わぉ、スルー…」



っと、どーでもいいやり取りをしながら歩き出すアヤメとユーネだったが、会場内は超満員。人と人の間を縫って進むだけでも大変で、なかなか思うように進めない。はぐれないようにと繋いでくれたユーネの手がアヤメを引く。


すると人混みの中…リング側に向けた視線に、腰まである茶色の長い髪を揺らす、見覚えのある小さな後ろ姿が映り込んだ。



「あっ…ユ、ユーネさんちょっと!」



先を行くユーネの手を引き、呼び止めるアヤメ。



「ほえ?どうしたんです?姫」

「ユーネさん、あの子…ハヤちゃんじゃないですか?」

「ハヤ…ちゃん?」



アヤメが指差す子供の後ろ姿。それは昨日出会った迷子、ハヤの姿だった。



「本当だ…じゃあテオ=テルアーも近くに…!?」



辺りを警戒するように身構えるユーネ。しかし周囲にはテオらしき影はなく、ハヤは1人のようだ。だからなのか?不安そうな…っと言うより、今にも泣き出しそうな表情で、誰かを捜すように辺りをキョロキョロと見ていた。



「たぶん一緒だったとは思うんですけど…今は違うみたいですね。ちょっと行ってきます」



そう言ってハヤに歩み寄ろうとしたアヤメの手を、ユーネが引き止めた。



「ダメです姫。危険です」

「でも…放っておけませんよ。あんな小さい子が1人でいる方が危ないですよ」

「しかしテオが近くに…」

「ならユーネさんはアラーケ達の所に戻ってて下さい。テオって人も、たぶんハヤちゃんを捜してるはずですから、私がハヤちゃんと一緒に闘技場の外に出ます」

「ですが…!」

「あのテオって人…『敵は帝国だけ』って言ってましたし、実際シャクルとかには攻撃しませんでした。だから私も大丈夫なはずです」



そう言うと、ユーネの反論を待たずしてハヤに近づいていくアヤメ。



「あっ!ひ、姫…」



遠退くアヤメにただ立ち尽くすユーネ。本来なら無理にでも止めるべきだが、確かに子供1人は危険というのも一理ある。しかしこの場所でのテオとの遭遇による戦闘も、危険といえば危険な事。ユーネは周囲を警戒しつつもアヤメを見守る事にした。


アヤメはハヤが驚かないようにゆっくりと近づき、優しい声で名前を呼んだ。



「ハーヤちゃん」

「ひっ…!?」



アヤメの努力虚しく、けっきょく体をビクつかせるハヤ。硬直させた体で恐る恐る振り返るハヤに、アヤメは笑顔で目線を合わせるようにしゃがみ込む。



「驚かせちゃってごめんね、ハヤちゃん。お姉ちゃんの事覚えてる?」



怖がらせぬように、優しい口調と笑顔をそのままに、自分を指差しハヤに問う。するとハヤは小さく「あっ」っと言って、体の緊張を解いてはくれた。だが今度は恥ずかしそうに俯いてしまい、モジモジしながら小さく頷いた。



「今1人なの?お兄ちゃんは?」

「…はぐれちゃった…」

「そっか」



アヤメはチラっとユーネを見る。すると少し離れた位置で、「聞こえてる」っとの意味で頷くユーネ。すぐにアヤメはハヤに視線を戻す。



「どこではぐれちゃったか覚えてる?」

「…港…」

「港からって、だいぶ遠くまで来たのね…じゃあ昨日みたいに、お姉ちゃんと一緒にお兄ちゃん捜しに行こうか?」



そう言ってアヤメが手を差し出すと、ハヤは手元をモジモジさせながら、上目遣いでチラチラと見てくる。



「ほら行こ、ハヤちゃん」



ハヤが手を上げるだけでアヤメの手を取れる位置まで近づくと、ハヤはアヤメの顔をジっと見てきた。その視線に、今一度「行こ」っと笑いかけると、ハヤは「うん」っと大きく頷いてアヤメの手を両手で握った。


片手にハヤの両手を繋ぎ、立ち上がろうとした瞬間…突然ハヤが抱きついてきた。



「わわっ!どうしたの?ハヤちゃん」

「………」



しかしハヤは無言のまま。アヤメの首に腕をまわして、ギュっとしがみつく。少しキョトンとしていたアヤメたったが、何かを察したようにクスっと笑いハヤの頭を撫でた。



「抱っこがいいの?」



そう問うと、ハヤは無言で大きく頷いた。



「ふふふっ、ハヤちゃんは甘えん坊さんだなぁ」



再びクスっと笑い、頭を撫でながらハヤの体を抱き寄せる。するとその言葉通り、甘えるように頬をすり寄せてくるハヤ。


ようやく自分になついてくれたハヤの姿に、「可愛いなもォ~っ」っと頭を撫でまくりたい衝動にかられつつも、心の中で押し留めるアヤメ。ハヤを抱っこしながら「よいしょ」っと立ち上がる。


するとアヤメの元へユーネが歩み寄ってきた。その姿に気づいたアヤメとハヤが振り向くと、ハヤは体をビクつかせ、アヤメの腕の中で隠れるように小さくなり震えはじめた。



「ど、どうしたのハヤちゃん?」

「い…いやだ、怖い…」

「怖い?大丈夫だよ、このお姉さんはお姉ちゃんのお友達だから、怖い人じゃないから大丈夫だよ」



泣いた子供をあやすように、アヤメは抱いたハヤの体を揺らす。だがハヤはアヤメの肩に額をつけ、苦しいと感じるくらいにしがみついてくる。


ただの人見知りにしては怯えすぎの様子に、アヤメはユーネを見る。すると表情を曇らせたユーネは小さくため息をつき、そっとハヤの頭に触れた。しかしハヤは顔を上げずに頭をブンブンと振り、ユーネの触れた手を振り払う。



「ハヤちゃんダメだよ、このお姉さんは――…」

「姫…いいんです。どうかそのまま彼女を抱いていて下さい…逃げないように…」

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