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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.009 闘技の祭典
115/122

P.115 ドッペルアビリティ(1)

 ゴングの鳴り響くリング上。鼻血で宙を舞うカヌイめがけ、リーシェが地を蹴り飛び上がる。


ゴングと共に両者を包むマザー保護と、ポイントマザーボール。保護があるとはいえ、無防備なカヌイに容赦なし。リーシェの槍先がカヌイをロックオン。口元に笑みを浮かべ、捻りを加えた突きを撃ち放つ――…瞬間、空中のカヌイの目がハっとしたように見開いた。



「…――ん?マザー保護…始まったんか、試合が…」



っと呟き、瞬間的に空中でその身をクルりと回転させる。




 ガギィィィンッ!!




空中で激突する両者と響く金属音。この金属音と共に手元にかかる衝撃。開戦の手応えをその身に受け、狂気の笑みを浮かべるリーシェ。


しかしその顔は一瞬にして驚きの表情へと変わる。視界に映るのは、自分の槍と競り合う…自分と同じ槍。開戦の瞬間(とき)カヌイは丸腰。ブレイバー型として作り出したにしても……いや、マザーを見透かすカナフィーリンの目から見ても、カヌイの持つ槍はマザーで作られたものではない…実在している、自分と同じ素材を使った黒槍。



「ワタシの…槍…!?」



突然の事に動揺するリーシェ。瞬間、カヌイがリーシェの槍を弾き上げ、胸のマザーボールごとリーシェを蹴り飛ばす。


カヌイの蹴りをまともに受け、リングに転がり落ちるリーシェと共に、空中の炎のカウンターがカヌイの3ポイントを表記する。



「決まったァァ!!カヌイ選手!先手でいきなりの3ポイント!!しかしこれはどういう事だ!?カヌイ選手がその手に作り上げたのは、リシェリーア選手と同じ槍!なぜ!?しかもどこから出したんだぁ!?」



レフェリーの言葉通りの疑問。アヤメはユーネに視線を向けた。



「ユーネさん、あれって…?」

「あれが莢木(さやき)カヌイの特殊能力、『ドッペルアビリティ』」

「どっ…ぺる?」

「相手の体液や血液などに触れるか、相手の攻撃を受ける事で、マザー属性に能力。装備した武具。腕力に脚力、その戦闘能力を読み取ります。そしてその全てをコピーする」

「ぜ、全部…ですか?」

「相手がどの種族で、どの属性。ファイター型だろうがブレイバー型だろうが、もちろんウィザード型だろうが関係はありません。それが『擬態泥棒(カメレオンシーフ)』とも呼ばれる莢木(さやき)カヌイの能力(ちから)…あの女にコピー出来ない能力は無い、っとも言われています」



小さく舌を打ち、リング上のカヌイを見据えるユーネ。



「キスによる体液。そしてそのキスの挑発で、マザー保護を受ける前にリーシェさんの打撃まで受けています…既にリーシェさんの戦闘能力は、100%相手にバレていますね…」

「…でも、それってモノマネって事ですよね?モノマネだけなら、本物の方が強いに決まってるんじゃ…?」

「その"本物"になるのが莢木(さやき)カヌイの能力なんですよ」

「え…?まるっきり本物に、って事ですか?」

「そうです。意識以外は完全なる本人になる、それがコピー…しかも本人すら気づいていない潜在能力すら、カヌイが引き出してしまう場合もあります」

「そんな…無茶苦茶な能力ですね、それって…」

「はい…そして真似られた相手は動揺し、対処が遅れる…厄介な能力ですよ。私自身、見事にドツボにはめられましたがね…」



表情を引きつらせ、リングに視線を戻すアヤメとユーネ。


そのリング上では、倒れたリーシェがゆっくりと立ち上がっていた。



「…どういう事かしら?これは…」



カヌイの持つ自分と同じ槍を見つめるリーシェ。するとカヌイは鼻でクスっと笑い、その槍を肩に担ぐ。



「そない難しい事やありまへん。ただあんたの全部、うちに写させてもろただけや」

「…?」

「つ・ま・り・や。今うちは、あんたと同じになったんや」

「あなたとワタシが…同じ?」

「そぉーや。うちはあんたの鏡写しの存在や…あんたの能力(ちから)全て、うちの能力(ちから)に写し取ったんや」

「…要は、今ワタシが戦ってるあなたは…ワタシ、って事?」

「よぉやっと理解したようやな…どや?自分と戦えるなんて、おもろいやろ?」



そう言って「アハハハ」と笑い声を上げるカヌイ。その姿を見つめるリーシェもクスっと笑い、手にした槍を構えた。



「それがホントなら…最高ね」



そう言って口元に笑みを浮かべ、地を蹴り一気にカヌイに突っ込んでいく。



「何や折れてへんなぁ?逆にやる気満々や…ま、その方うちは好きやけどっ――…なっ!」



突進から突き出されるリーシェの槍を、身を横に反転させて躱すカヌイ。その反転の勢いそのままに、横殴りに振り抜くカヌイの槍。その槍を、瞬時にリーシェはボールの無い片腕でガードする。



「ええ反応やなぁ…っ!!」



突如カヌイが飛び上がり、リーシェがガードで止めた槍に両足をかけ、ドロップキックのように撃ち出してリーシェを弾き飛ばす。そしてカヌイはすぐさま滞空のまま己の槍を地面に刺し、その槍を軸に回転し、体勢の崩れたリーシェの顔面を蹴り飛ばした。


まるで蹴られたサッカーボールのよう、リーシェの体はリングの隅まで数メートル、勢いよく地面を転がっていく。



「おやおや…何や、頭のマザーボール狙ろうたんやけど…あんたの感覚に任せたら、外してしもたわ」



そう言うカヌイはリングに刺した槍の柄の先に立ち、クスクスと笑いながら倒れたリーシェを見下ろしていた。



「あんた、見た目に反してけったいな娘やなぁ?うちの身体、あんたの血を浴びたくて疼いてきとるわ…とんだ戦闘狂やな?お嬢ちゃん…」



するとカヌイは槍の柄の上で、犬の『おすわり』のように身を屈め、グレーに染まるオーラをまとい始めた。


それに反応するように、倒れたリーシェの体がピクっと波打ち、ゆっくりと起き上がる。



「わかっとるよぉ…リシェリーア=オルセイユ…」

「………」



無言のまま起き上がるリーシェは、脱力したようにだらりと頭と両腕を下げ、ゆらゆらと体を左右に揺らしている。



「今、あんたはうちや…あんたと、あんたの戦いなんや…」

「………」

「この疼く身体…欲望に遠慮は要らへん…お互い、血に濡れ合おうやないか…なぁ?」



カヌイがそう呟き、口元に笑みを浮かべた瞬間…パンッ!っと乾いた音が響き、両者をまとうマザーボールとマザー保護が消えた。加え、空中に浮かんだタイムとポイント表記も消えていた。



「さぁ始めよか?…今から、あんたとあんたで全力の……殺し合いやァァッ!!」



『おすわり』の体勢から、宙返りをするように槍を引き抜き、リーシェに向かい飛びかかるカヌイ。


応えるように頭を上げたリーシェ。その眼光は鋭く、赤い瞳が炎のように光りを帯びていた。



「殺して上げるわ…バラバラにしてねぇッ!!」



瞳に光る赤と同じ、殺気ともとれるオーラ体にまとわせ、リーシェは飛びかかるカヌイに向かい、獣の如く突進していく。

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