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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.009 闘技の祭典
114/122

P.114 狂気の百合(2)

 観客席に戻ったアヤメとユーネ。会場の近くで、レフェリーがリーシェの名をコールする声が聞こえた為、遠回りとなるVIP席直通の地下通路は進まず、すぐにリングを見られる一般席から会場に入っていた。


既にリーシェはリングに向かい歩いており、後ろにまわした両手に槍を握り、鼻歌混じり体を弾ませている。


すると客席からは雄々しい声が会場を揺らす程に上がってきた。



「うおぉぉぉっ!!いいぞネェちゃん!」

「可愛いじゃねぇか!つーか色っぽいなぁ~オイ!」

「頑張れよーっ!!負けてもオレが慰めてやっからなぁ!!」



四方八方から飛び交うリーシェへの野太い歓声に、リーシェは笑顔で手を振り返す。するとより一層の声が会場からリーシェに降り注ぐ。



「おぉ~っとリシェリーア選手!既にその妖艶な容姿で、会場の男達を味方につけたようだぞォ!!いやぁ~しかし!いいです!ヘソ出しナマ足最高です!!」



レフェリーですらこの始末……これには応援の声を出そうとしていたアヤメも苦笑い。



「アハハ~…これでリーシェの年齢知ったら、会場もビックリなんじゃないのかなぁ」

「へ?ビックリ?」

「あ~、ユーネさんは知らなかったですよね?リーシェってあれで15歳なんですよ」

「じゅ、じゅーごぉ~っ!?15歳って…あの容姿でぇ!?」

「そうなんです。あのボディで」

「あ~ん10歳差ぁ~ん…」



その場に崩れるようにガックリと肩を落とすユーネ。その背中を「わかるよ…わかるよ」っと擦るアヤメ。



「さぁ~続いては、この色っぽいリシェリーア選手の対戦相手の入場です!」



レフェリーの声が辺りに響くと、会場からは大ブーイング。まだ入場してきてもいないのに「いじめんなよー!」「泣かすなよー!」っという声が。



「さぁ~入場してきます対戦相手!こちらもなんと女性選手です!!」



このレフェリーの声には、会場の男性陣が「マジか!?」っと再び湧く――…のだが、入場してきたその女性選手を視界に捉えた一部の観客達が、突然ザワめき出す。


その姿はヒューマ族の若い女性。女性にしては高めの170センチ前後の身長に、肩を越さないくらいのボサボサな藍色の髪。衣服は山吹色の着物。サラシを巻いた胸元を大きく開き、二の腕辺りで破かれた袖に、指先までグルグル包帯が巻かれた腕。足元はぼっくりで、額に巻かれた紋章入りのハチマキを、片目の頭にかかるように斜めに巻いた姿。


挿絵(By みてみん)


着崩してはいるが『和』を感じさせる着物。日本で育ったアヤメからすれば馴染みはあるが、こちらの世界ではまず見ない格好。



「この辺りじゃ珍しい服装ですね?ユーネさ――…ひっ!」



アヤメは隣のユーネに視線を向けると、ユーネはこれでもかと言う程に口をあんぐりと開き、絵に描いたように目が点になっている状態。



「ユ、ユーネさん…?」

「ひィっ!!」



アヤメがユーネの肩に手を置いた瞬間、ユーネは飛び上がる程に体をビクつかせ、何かに脅えるようにその場に頭を抱えて蹲る。



「え!?えぇ!?ちょっ、ユーネさん!?どうしたんですか急に…」

「いやぁあぁぁぁぁ――…って姫…か…」



再びユーネの肩に手を置くと、悲鳴を上げて飛び退くユーネ。しかし自分に触れたのがアヤメだと気づき、ようやく我に返る。だが半べそで息を乱すユーネの様子は異常とも言える。



「ユーネさん…大丈夫ですか?」

「す、すみません、取り乱してしまい…だ、大丈夫ですので、どうかお気になさらず」



慌てて涙に潤んだ目を拭い、乱れた前髪を直しながら笑顔を作るユーネ。その笑みに多少の違和感はあるものの、何やら触れてほしくないオーラが漂っている気が……そうなるとアヤメは「そうですか…」っとしか返せない。


すると着物姿の女性がリングの上へと上り、リーシェと向き合う位置にいた。



「さぁさぁリング上に揃いました綺麗所の2人!しかしこのキャットファイト、ただの美人が揃っただけではない!皆様は知っているでしょうか?このリシェリーア選手の育ての親…それはラーグ族最強を誇る、あのブレゴ=オルセイユ!!そしてその対戦相手!彼女の事は皆様ぁ…?」



レフェリーは両耳に手を添え、会場を見渡す。すると観客達は「知ってるぞー」っと言わんばかりの歓声で答えた。



「そう!彼女は未だ里の位置が特定されていない幻の国…【"大和(やまと)(くに)"『ヒエン』】が生んだ天下無敵の大泥棒!【莢木(さやき) カヌイ】!!」



レフェリーのコールに、会場は異常なまでの盛り上がりをみせる。その盛り上がりは指笛や、彼女を讃えるようなもの。『泥棒』とは、社会的には悪事ととられるものなのだが……この盛り上がる歓声に圧倒され耳を塞ぐアヤメ。



「な、何なのコレ…ユーネさん、あの人本当に泥棒なんですか?」

「………」

「それにしてはすごい人気が――…ってユーネさん!?」



アヤメが隣のユーネに視線を向けると、ユーネは1点を見つめたまま、真っ青な顔でガタガタと震えていた。が、アヤメの呼びかけに再度体をビクつかせてから、ハっと我に返る。



「っ!…はっ、はい!?ど、どうかなさいましたか?姫」

「どうかって、それはユーネさんの方ですよ…さっきからどうしたんですか?本当に…」

「い、いえ…私は別に…」

「あのリーシェの対戦相手の人、ユーネさん知り合いとかなんですか?」

「へっ!?…さ、さぁ…あんな"変態女"の事なんぞ、私は知りません…」

「へ、変態女ぁ?…って、確実に知ってますよね?その言い方は」



そう言われたユーネは、「あっ…」っと一拍おいてから「は、はい…」っと頷いた。



「実は……5年前に私は、あの女を捕まえた事があるんです…」

「え?捕まえた、って…?」

「5年前、数千万の価値を持つと言われる絵画40点を、ある町の美術館に輸送する任務についていた時…あの女が、私が乗った輸送する帝国軍艦を襲ったんです」

「…その時、逮捕したんですか?」

「はい、捕らえました……ですがあの女は、世界最大の貿易商にして世界貴族。そして裏社会を金で牛耳る【ドルシャーノ】家のボディーガードとして雇われた身だったのです」

「え?じゃあ…」

「即釈放ですよ…何だかんだで帝国の裏とドルシャーノ家は繋がりがありましたから…」

「うわぁ…やっぱりそういう事は、どの世界にもあるんですね…」

「ヒエンの里の忍は、大金さえ積まれれば何でもします。例えそれが悪行であっても……その忍、噂では『忍は1人で帝国軍艦1隻分の戦闘力を持つ』と…おそらくあの女はその忍での中枢幹部クラスの1人。軍艦も沈められて、私も死にかけた上…"あんな思い"までしてようやく捕まえたのにぃ~…」



徐々に『怒り』の感情が込められていく言葉に比例して、そのユーネの身も怒りに震えはじめた。



「え?ユーネさんが死にかけたって…あの人、そんなに強いんですか?」

「強いってもんじゃないですよ。基本的な戦闘力も並外れてる上に、あんな厄介な能力使ってぇ~…!」

「厄介な能力?それってな――…」

「私の事あんなボっコボコにしたあげく、私の"初めて"奪いやがってぇ…!」

「はっ…初めて…?」

「そうです!!私のファーストキス!あの女が奪ったんですーっ!」

「はいぃぃーっ!!??」



驚愕のアヤメの声は、盛り上がる会場の歓声に掻き消されていく中…リング上のカヌイは、笑顔と両手に作ったVサインで応えていた。


その中でもレフェリーの声は続いていき、



「そしてそして、彼女がこのシュバーラッツで人気の理由はまさにコレ!泥棒で儲けたお金なのだろう大金を、今まで1度も勝てないのに、このシュバーラッツカジノにつぎ込む『カモねぎカヌイ』の愛称で――…」

「うっさいわボケぇぇッ!!」



笑顔のVサインが一変、怒声と飛び蹴りがレフェリーに炸裂。



「誰がいいカモやコラァ!!」



倒れたレフェリーの胸ぐらを馬乗りになって掴み、額がぶつかる程の距離で睨みを効かせる。



「うちをバカにした罰金、10万N(ニルト)…没取させてもらいますぅ~」

「カ、カツアゲっスか~…」

「盗んだ金は、娯楽のもんには使っとりませんわ…」



カヌイの口調は京都弁のようなゆったりとした独特の口調。しかし突然レフェリーに絡み出すカヌイの姿に、リング上のリーシェもキョトン。カヌイはそのリーシェと視線が合うとクスっと笑い、掴んだレフェリーの体を放る。



「しっかしまぁ、リシェリーア…言いはりましたな?噂以上の美人さんだこと…」

「あら。ワタシ、何か噂になっているのかしら?」

「それはもう…ラーグ族最強のブレゴ団長殿のご息女様はカナフィーリン族。ほんで、かなぁ~りの上玉やて」

「嬉しい噂だけど…ごめんなさいね。実際はこんな程度よ」

「そないな出来た容姿で何を言いてはるんやか…」



鼻で笑うカヌイはゆっくりとリーシェに歩み寄っていくと、顔と顔の間が指1本分程までグイっと近づき――…



「あんたみたいな女…ホンマたまらへんわ…」



そう呟き、突然カヌイはリーシェの唇にキスをした。



「んなァ…っ!?」



またまた驚愕の声を上げるアヤメと、ピタリと歓声が止まる会場の中、ゆっくりと唇と唇を離すリーシェとカヌイ。



「…()らかい唇しとるねぇ…それにええ匂いや…」



合わせた唇を指でなぞるカヌイに対し、リーシェは未だ「何が起きた?」っといったキョトーンとした表情。


もちろん会場もキョトーン。アヤメは引きつる表情をユーネに向ける。



「ユ…ユーネさん…あの人まさか…」

「…お察しの通り…百合女です…うぷっ…!」

「う、うおぉ…」



何かを思い出したのか、吐き気に襲われ口元を押さえるユーネに、悪寒のはしる背筋に震えるアヤメ。



「リシェリーア=オルセイユ、か…次は肌と肌…合わせてみたいもんや――…ねぇッ!!」



吐息混じりに呟くカヌイの顔面に、リーシェの左ストレートが突如炸裂。試合開始前ともあり、まだマザー保護はされていないカヌイの体は、顔面を跳ね上げられ宙を舞う。



「えっ、ちょっ…リシェリーア選手!まだ試合開始の合図前です!合図前の攻撃は反則行為で失格に――…ぐっ!」



慌てて駆け寄るレフェリーの喉元を片手で掴み上げ、レフェリーの足が地面から浮き上がる。


これにはアヤメとユーネも慌てたようにリングに向く。



「ちょっとリーシェさん!?何やってるのよ!?」

「まさか!?リーシェが…キレた!?」



そのアヤメの言葉通り…掴み上げたレフェリーを見るリーシェの顔つきは、普段の穏やかな表情ではない。殺意しか感じられぬ目でレフェリーを睨みつけ、リング上に倒れるカヌイを見た。



「こんな喧嘩の売られ方…初めてね…」



そう呟くと、レフェリーの喉元から手を離し、倒れるカヌイに歩み寄っていく。



「失格だろうが何だろうが…もう()りたくて疼いちゃう…」

「っ…!!」



リーシェの呟きに反応してか、倒れた体を勢いよく起き上がらせるカヌイ。その鼻からは、パンチを受けての鼻血が流れ出ているが、気にする様子もなく――…



「やっ…『ヤりたくたくて疼いちゃう』って…あんた…本気でうちとヤり合いたい、と…?」

「…?えぇ。その体、ぐちゃぐちゃにしてやりたいわ」

「ッ!!」



瞬間、ギャグ漫画の如くにカヌイの鼻から吹き出す鼻血。



「『ぐ○ゅぐ○ゅになるまでヤりたい』って!?興奮しはりますやろコンニャロォォォーっ♥♥♥」



再びギャグ漫画。吹き出す鼻血がロケットの如く、カヌイの体を宙に打ち上げる。



「やっ、『やり』違いぃっ!!」



アヤメのツッコみが響く中、リーシェは槍を手元でクルりと回し、宙を舞うカヌイに向かい駆け出した。



「えっ!?ちょっ…!!」



駆け出すリーシェに、レフェリーは慌てて両手を掲げ――…



「あ~もう!試合開始ぃッ!!」




 カアァァァンッ!!

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