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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.009 闘技の祭典
112/122

P.112 開幕第一戦(3)

シャクルは「よっ!」っと跳ね起きると、土埃を払うように衣服を叩く。



「どうだ…今の一撃、これでもまぁまぁだと言うのか?」



矛先を向けつつヘンリーが問いかけてくるが、シャクルは何も答えずにスタスタとヘンリーに向かい足を進めていく。



「おや?美しい僕の声が聞こえないのかい?」

「………」

「…ふっ、別に答えが無くてもいいが、大丈夫なのかい?君は今丸腰なんだよ?」

「…別に…」



っと答えると共に、シャクルは地を蹴り走り出す。



「丸腰でいいとは、潔く散るつもりかい?でも散る事は全然美しく…ない!!」



迫るシャクルにヘンリーは矛を構え、リーチで勝る間合いに入るのを待ち、入る瞬間横殴りに振り払う。しかしその一撃はブンッ!っと音を発てて風を斬るだけ。


瞬間、ヘンリーが感じる足元の気配に視線を向けると、構えに開いた足の間をスライディングで抜けていくシャクルの姿が映り込む。


そして通過していく体――…の最後はシャクルの手に握られた鞘。横一文字に通過していく鞘は、ヘンリーの両膝のマザーボールを破壊し、スネを滑らせるようにしての足払い。両足を同時に払われ、不格好に顔面からリングに落ちるヘンリー。



「へぶォっ!!」



するとシャクルの鞘が倒れたヘンリーの肩のマザーボールを破壊する。



「いったァァッ!!シャクル選手、一気に3ポイント獲得!!これでヘンリー選手3ポイント!シャクル選手は4ポイント!互いにリーチと言える状況だぁーっ!!」



この展開に、観客達の歓声と悲鳴が会場を揺らす。もちろん親衛隊もアヤメに向かうどころではない。皆リングに伏したヘンリーの名前を呼び続けている。その横ではアヤメが「どーだ!」っと言わんばかりに歓声を上げている。


一方"壁"として奮闘していたアラーケとユーネは、ようやくの解放を受け、ボロボロの姿で地面に倒れ込む。


リング上のシャクルは、倒れたままのヘンリーを見下ろし、鞘を逆手に持ち小さく息をはく。



「…うっし。これで逆転だな」

「きっ…貴様ぁ~…」



ゆっくりと怒りに震える身を起こしていくヘンリー。その起き上がるヘンリーと、首を左右にコキコキと鳴らし、相手を待つように立つシャクル。そして空中のポイント表示を不思議そうに見渡すレフェリー。



「しかしシャクル選手、なぜ頭のマザーボールでは無く、肩のマザーボールを破壊したのでしょう?頭の2ポイントマザーボールを破壊すれば、その時点でシャクル選手は5ポイント先取となり、決着はついたはず!」

「そうだぞ貴様…この美しい僕に、不様な情けをかけるつもりか…」

「まさかシャクル選手!これは『いつでも勝てるぜ』の余裕のあらわ――…」

「…え?頭って2ポイントだったのか?」



 …―――えっ?っと会場中の皆がまず止まり、



「って説明聞いてなかったんかぁーいっ!!」



アヤメとアラーケの同時ツッコみがこだまする。



「うっ、うるせぇな!!んな細かい事覚えてられっかバカ!」



響いたアヤメらのツッコみに振り向くシャクル。これには「バカはどっちだ~」っと頭を抱えるアヤメ。その姿に高笑いの親衛隊。



「オ~ホっホっホォ~!簡単なルール…むしろ数も覚えられないなんて、本当におバカな犯罪者です事」

「っ…!シャクルはボケてるだけ!バカじゃない!!」

「アヤメちゃん!それフォローになってないって!」

「バカじゃなければオールOK!」

「何基準よそれ!?」

「ボケててもバカでも、あんなキモくてアラーケみたいなナルシストよりは全然マシよ!!」

「そう!おれみたいな――…ってオイ!!」

「貴女またっ…!ヘンリー様を悪く…いくら姫様といえどやはりっ!」



再び大激怒の親衛隊。先と同様、親衛隊の波がアヤメに向かい押し寄せる――…瞬間!



「いちいち…うるせぇんだよコラァァッ!!」



突如1歩前に出たユーネが怒声と共に、石造りの連なる机を殴り、爆破を思わせる轟音を響かせ破壊する。


これには親衛隊は固まり、腰を抜かす者らで……アヤメ達も、普段はニコやかなユーネとは、まるでかけ離れた怒声とパンチの威力にビビって黙り込む。



「…戦ってんのはあの2人…関係無い我々がピーピー喚いたところで、邪魔なだけなんですけどねぇ…」



言葉では言い表せない威圧感で親衛隊…そしてアヤメを殺気に満ちた目で見るユーネに、完全に萎縮したアヤメと親衛隊が涙目で何度も頷く。


この光景に、会場中…もちろんリング上のシャクル達もポカーン。するとユーネがシャクルに鋭い眼光を向けた。



「シャクル!!あんたがチンタラやってるから面倒な事になってんのよ!さっさとその変態ブっ飛ばせってぇーの!」

「お、おう…わかった…」



引きつる表情で頷くシャクル。だが一方、『変態』呼ばわりされたヘンリーは、



「ぼっ…僕を変態だって…?」



ドス黒いオーラを漂わせ、ゆらりと立ち上がる。この展開…「また面倒なキレ方くる…」っとため息をつくシャクル。



「もう周りの声とかいいから勝負しようぜ?色男さんよぉ」

「…ん?…色男?」

「あぁ。お前は十分な色男だから、早く白黒つけちまおうぜ」

「………」



すると突然黙り込むヘンリー。シャクルも『色男』とは言ったが、半分はバカにした皮肉だった事に気づかれ、また面倒なキレを生むのか?っとため息をついた瞬間、



「何だよ君~!わかっているじゃないかぁ~♪僕がハンサムイケメンスゥ~パぁ~色男だって事!」

「え?いや…そこまでは――…」

「そうだね!早く勝負をつけよう!勝負ならフェアにいかないとね」



っと満面の笑みを浮かべたヘンリーは、指をパチンっと鳴らし、なぜかシャクルに背を向け歩き出す。



「おっ、おい!」

「ヘンリー選手!?どうしたんですか!?ヘンリー選手!」

(フっフっフ~!丸腰相手に勝ったんじゃ、フェアとは言えない!美しくない!ここで何も言わずに相手(シャクル)の剣を取り、この僕が渡すだけでも、その光景はフェアだ!美しい!)



目を閉じ、鼻唄混じりに場外に刺さるシャクルの剣に向かうヘンリー。



「ヘンリー選手!ちょっ…ちょっと!ヘンリー選手!!」

(そう騒ぐなって……今に美しい光景(シーン)を見せて上げるよ…)



…っと、ヘンリーがリングを降りた瞬間――…




 カンカンカンカァ~ン!!




決着を思わせる鐘の音が会場に鳴り響き、同時にシャクルとヘンリーを覆ったマザーボールが全て消滅する。



「…へ?」



何事だ?っと、トボケた表情でレフェリーに振り返るヘンリー。するとレフェリーは唖然とした表情のままに告げる。



「場外アウト…よってマイナス1ポイント。結果、シャクル選手に1ポイント加算…合計5ポイント」

「場…外…?……ハっ!!」



ようやく諸々に気づいたヘンリー。



「よっ、よって勝者…シャクル=ファイント選手…」



レフェリーも驚きの勝者コール。これには会場も一同にポカーンっとするばかり。


シャクル至っては、もはや何の感情からかの喪失感に真っ白になっていた。



「こんな決着…ねぇだろオイ…」

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